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星帝物語  作者: 藤堂 貴之
第9巻 東方の神木と蒼き旋律

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第86章:学園都市への帰還と、束の間の陽だまり

 交錯したふたつの刃が激しくぶつかり合い、凄まじい衝撃波が崩れかけた地下広間を揺らした。

ザガンの放つ澄んだ銀色の剣気と、ルシオンの全身から溢れ出す禍々しい黒い魔力。二つの強い思いが激しく軋み合い、暗闇の中に激しい火花を撒き散らす。

 しかし、互いの刃が激しく切り結んだ次の瞬間、ルシオンは突然胸を押さえ、大きく体勢を崩した。その顔に、あからさまな苦悶と不快の色が走る。


「くっ……! この肉体が、まだこの世界に馴染みきっていないというのか……。忌々しい……!」


 二つ目の『楔』を打ち砕かれた影響は、ルシオンの存在そのものを内側から深く蝕んでいた。足元から黒い影がゆらゆらと広がり、周囲の空間に歪みのような亀裂がいくつも走る。

ルシオンは激しい憤怒を込めてザガンを睨みつけたが、やがて冷酷な笑みを浮かべ直した。


「フハハ……だが、これとて一時の足止めに過ぎん。すべてを無へ還す刻は、そう遠くない……」


 渦巻く暗闇に包まれ、ルシオンの姿は深淵へと溶け込むようにして消え去っていった。

 

 残されたザガンは、静かに大剣を鞘へと納めた。静寂の戻った広間に暫し佇むと、やがて静かに歩き出した。



 同じ頃、果てしなく広がる青空を、一隻の飛空艇が爽快に駆け抜けていた。

ナディアとルカスが技術の粋を集めて造り上げた新造船『ステラ・アンカー号』だ。真っ白な船体と大きな銀色の翼が、陽の光を受けて眩しく輝いている。


「すごい風……! 砂漠の熱風とはまるで違いますね、お兄様!」


 甲板の柵に身を乗り出し、フィリーネが楽しそうに声を弾ませた。澄み渡る空を映した青い瞳を輝かせ、綺麗な銀髪を心地よい風になびかせている。


「ああ。本当に、生き返るようだな」


 となりに立つゼノリスは、柔らかく目を細めて微笑んだ。

熱砂の国での苛烈な戦い、照りつける灼熱の太陽、そして死地からの必死の脱出。身も心も擦り減るような激闘をくぐり抜けてきた身体に、空の清らかな風が優しく染み渡っていく。


「ふたりとも、風邪をひくなよ!」


操舵室の窓から、操縦桿を握るナディアの横で、ガイルが呆れたように顔を出した。


「無事に熱砂の国を抜けられたからって、油断は禁物だぞ。船のエンジンも絶好調だし、このまま一気に目的地まで飛ぶからな!」


「あはは、ガイルったら相変わらず堅いんだから! たまには空の旅を満喫しなよ!」


 甲板のベンチでは、テオが大盾を手入れしながら豪快に笑った。そのすぐ横の影から、カシムがひょっこりと顔を出して「ガイルの言う通りだ」と肩をすくめる。

甲板の奥では、ルカスが作業用の革手袋をはめたまま、新調した魔導インジケーターの数値を誇らしげに、かつミリ単位で精査していた。


「……ガイル、君がそうやって大声で騒ぐと、僕が極限まで同調させた魔導エンジンの滑らかな『鼓動』を耳で聞き取れなくなる。少しは静かにしてほしいね」


分厚い眼鏡のブリッジを中指で押し上げ、ルカスは相変わらずの皮肉を口にする。しかしその表情には、自らの最高傑作であるこの船への、隠しきれない愛着と自信が満ちていた。


その後ろ、甲板の一角では、リィンとエレナが並んで佇んでいた。

リィンの肩にかかった銀色の羽衣が、空の風を吸い込んで柔らかに波立っている。その隣で、エレナは腰の長剣に手を添え、雲の切れ間に見える景色を見つめていた。熱砂の国で互いの呼吸を調和させ、過酷な戦いをくぐり抜けてきた二人の間には、言葉はなくとも、信頼が通い合っている。

 長旅の疲労や傷痕は、全員の身体に確かに残っている。けれど、こうして仲間の笑い声を聞いているだけで、胸の奥から温かいものが溢れてきた。


「……見えてきましたね、お兄様。私たちの、あの場所が」


フィリーネが隣でそっと指をさした。

ゼノリスが甲板から眼下に広がる景色を見つめると、押し寄せる雲海の切れ間から、白亜の美しい建物群と、中央に高くそびえる時計塔の姿が現れた。


「学園都市エーテルガード……」


 ゼノリスの胸に、甘酸っぱくも愛おしい思い出がこみ上げてくる。

かつて「落第生」と呼ばれ、泥まみれになりながら剣を振るっていた日々。仲間たちと出会い、共に泣き、笑い、明日への希望を誓い合ったすべての原点が、あの街にはあった。


 雲を押し分けるようにして、『ステラ・アンカー号』は白い街並みが広がる学園都市へと向かって、ゆっくりと高度を下げていった。

ぽかぽかと降り注ぐ温かな秋の日差しが、過酷な旅を乗り越えてきた若い星屑たちを、優しく包み込んでいた。



懐かしいエーテルガードの隠しドック。タラップを降りた九人の星屑たちを、高原の晩秋のひんやりとした風が迎えた。


「さて、俺たちは一度、街の宿屋へ入る。ギルダーやアル・ザハブでの出来事を整理しつつ、今後の動きを相談しよう」


 ガイルが荷物を背負い直しながらそう提案すると、ルカスやカシム、テオ、リィン、ナディア、エレナたちはそれぞれ頷き、宿へと歩き出す。


「ゼノリス、フィリーネ。二人は久々の実家だろ? 両親に元気な顔を見せてきなよ」


 テオが優しく微笑み、耳をピクリと揺らした。


「ありがとう、テオ。みんな、また明日の朝、合流しよう」


 ゼノリスは頷き、フィリーネと共に、懐かしい貧民街の一角へと歩みを進めた。


 貧民街の喧騒から少し離れた、古びたアパートの前に立つ。

ゼノリスは少し緊張しながらも、優しいリズムで古い木製の扉をノックした。


「はい、どなたですか?」


 奥から聞こえてきたのは、母ミリアの、あの優しくて温かな、懐かしい声だった。

ギィ、と扉が開く。

そこに立っていたミリアは、二人を見た瞬間、手に持っていた籠を床に落とした。


「……ゼノリス? フィリーネ……!?」


「母さん、ただいま。戻ってきたよ」


 ゼノリスが微笑むと、ミリアの瞳から大粒の涙が溢れ出た。


「ああ……! 本当に、本当に二人なのね……!」


 ミリアは壊れ物に触れるようにそっと二人の頬に手を当て、それから、こらえきれずに強く抱きしめた。その温もりと、使い古されたエプロンから漂う、ほのかに甘い薬草の香りが、旅の過酷な戦闘で張り詰めていた二人の心を、一瞬で解きほぐしていく。


「ミリア、誰か来たのかい?」


 奥から、仕事で煤けたシャツを纏った父ロランが現れた。そのたくましい腕は以前と変わらず、しかし、二人を見た瞬間にその厳格な顔が、一人の父親としての優しさに満ちたものへと崩れた。


「……ロラン、見て、この子たちが戻ってきたわ……!」


 ロランは無言で歩み寄り、ゼノリスとフィリーネの肩に大きな手を置いた。その手のずっしりとした重みと温かさが、何よりも雄弁に彼らの帰還を歓迎していた。


「よくやった。本当によく、無事で戻ってきてくれた」


 ロランの低い声が、部屋の中に心地よく響いた。


 食卓には、ミリアがいれてくれた温かいスープが並べられた。暖炉の柔らかな火が、晩秋の寒さを優しく遮っている。


「お兄様、お母様のスープ、とても美味しいですね」


「ああ、やっぱりこの味が一番落ち着くよ。外の世界でどんな高価なものを食べるよりも、僕にとってはこれが一番の秘薬だ」


「ふふ、そんなに喜んでもらえるなんて、作り甲斐があるわ。……それにしても、二人とも本当に立派になって。ゼノリスは背が一段と伸びて、お父さんみたいに逞しい顔つきになったし、フィリーネはすっかり綺麗なお姉さんになって、お母さんびっくりしちゃった」


 ミリアが嬉しそうに目を細め、フィリーネの銀髪をそっと撫でる。

フィリーネは少し照れくさそうに微笑み、ゼノリスの隣で嬉しそうにスープを口に運んだ。


「お兄様が、いつも私を隣で守ってくださったからです。お兄様がいてくれたから、私はこうしてまた、お母様のスープをいただくことができました」


「フィリー……」


 ゼノリスは微笑みながらも、胸の中に宿る「変革の星(アルタ・ステラ)」と、自らの中に眠る二つの脈動を静かに感じていた。これまでの過酷な死闘、旅の途中で出会った多くの悲しみ。それらをすべて乗り越え、自分は今、大切な家族の前に立っている。


 穏やかなお茶の時間が訪れた頃、ゼノリスは表情を引き締め、旅で得た真実とこれまでの歩みを、両親に向けて語り始めた。

西のルサルカで海神の暴走を止めたこと。東のギルダーで、かつて世界を滅ぼしかけた魔王の弟『ルシオン』が復活し、フィリーネの命を狙っていること。そして――南のアル・ザハブの砂漠で、盲目の預言者ハキームから「最後の、第三の楔の真実を知る人物は、学園都市のエレアノールだ」と告げられたことを。

 ゼノリスとフィリーネの報告を静かに聞き終えたロランとミリアは、顔を見合わせ、深く重い沈黙に沈んだ。


「お父様、お母様……何か、あったのですね」


 フィリーネが青い瞳を細め、心配そうに尋ねる。

ロランは手元のカップを静かに置き、低く重い声で語り始めた。

「……魔王ルシオン。かつて私たちが『書架騎士』として守っていた、帝国の最奥の記録にのみ、その禍々しい名前が刻まれていた。よもや、その亡霊が真に現世へと這い出てこようとはな。それに、砂漠の盲目の預言者ハキームか。未来を覗くという彼の預言の通り、エレアノール様がその鍵を……」


 ロランは一度言葉を切り、暖炉の火を見つめた。


「実はね、ゼノリス。お前たちがこの街に戻ってくる少し前から、学園長であるエレアノール様の様子が、どうにもおかしいのだ」


「学園長先生が……?」


 ゼノリスの胸がドクリと跳ねた。砂漠の国で盲目の預言者ハキームから告げられた言葉が、脳裏を不吉に掠める。


『第三の楔の封印が解かれる……その真実を知る人物。それは、すべての始まりの地、学園都市のエレアノール』


「最近は、誰の面会も受け付けず、学園長室に閉じこもりがちだそうだ。それだけではない。学園の警備も以前に比べて不自然なほど厳重になっており、上の連中が何を企んでいるのか、我々街の者には一切明かされていない」


 ミリアが、そっとロランの手に自分の手を重ね、悲しげに付け加えた。


「学園の生徒たちの間でも、不穏な噂が流れ始めているわ。学園長先生が、夜な夜な時計塔を見上げて、何か恐ろしい祈りを捧げているだとか……まるで、別の何かに心を奪われてしまったようだ、って」


「恐ろしい祈り……」


 フィリーネの顔がわずかに青ざめ、白銀の杖を握る手に無意識に力がこもる。


「あの優しい学園長先生が、なぜ……」


「わからない。だが、かつて私たちが書架で目にした記録には、エレアノール様の一族と帝国との間に、逃れられぬ重い契約の呪いがあると記されていた。彼女の内に眠る『呪い』が、ルシオンの目覚めと共鳴して暴走し始めている可能性がある。……ゼノリス、いよいよ現実に立ち向かう時が来たようだな」


 ロランの鋭い視線が、ゼノリスへと向けられた。

ゼノリスは、自分の右手の包帯を強く握りしめた。


「……ええ。ルシオンがこの世界に完全に留まるのを防ぐためには、最後の『第三の楔』をどうにかしなきゃいけないんだ。その場所を、学園長先生が握っている。……明日、僕たちは学園長室へ行ってくるよ。どんな真実が待ち受けていても、この目で確かめたいんだ」


「そうだな。お前たちの選んだ仲間と共に、その目で見極めてくるがいい」


 ロランが、息子を一人の対等な戦士として信じる強い光をその瞳に宿して頷いた。

エーテルガードを包む晩秋の夜風が、不穏な唸りを上げて窓枠をがたがたと揺らしていた。



 ゼノリスとフィリーネが貧民街の実家で久々の再会を果たしていたその頃。

エーテルガードの市街地の一角に佇む、静かな宿屋の一室では、残された仲間たちによる緊迫した対策会議が開かれていた。


 暖炉の爆ぜる音が、静まり返った部屋に小さく響く。

テーブルの上に広げられたエーテルガード学園都市の精密な魔力配線図を囲み、ガイル、ルカス、ナディア、テオ、リィン、そしてエレナの六人が顔を突き合わせていた。

 そこへ、部屋の隅の暗がりから、まるで最初からそこに佇んでいたかのように、カシムが音もなく姿を現した。窓がわずかに揺れたことさえ、誰一人として気づかなかった。

カシムは漆黒の外套に身を包んだまま、冷徹な双眸でテーブルの図面を見下ろし、低く短い声で告げた。


「……噂以上の警戒網だ」


 カシムは漆黒の外套を肩から音もなく滑り落とすと、テーブルへ一歩近づき、冷徹な指先で地図の一点をトントンと叩いた。


「学園周辺の衛兵の数は、俺たちが在学していた頃の三倍以上だ。それだけじゃない。門や主要な通路には、八ヵ国連合が持ち込んだ新型の『魔導検知器』がびっしりと埋め込まれている。ネズミ一匹、魔力反応を隠して通り抜けるのは不可能に近い」


「フン、上の連中も必死だな。だが、胸クソ悪いのは警備じゃねえ。……これを見てみろ」


 ガイルが右目の眼帯を少しだけ持ち上げ、剥き出しになった『解析眼(アナライズ)』の青白い光を配線図の上に投射した。空中に対数グラフのような不規則な魔力波長が浮かび上がる。


「学園長塔を中心にして、街全体の結界の波長が黒く淀み始めてやがる。本来なら清らかな光の障壁であるはずの魔導エネルギーが、内側から何かに喰い破られるように、歪な不協和音を奏でているんだ。この魔力の逆流……明らかに異常だぜ」


「ガイルの言う通りだね」


 ルカスが作業用の革手袋をはめたまま、分厚い眼鏡のブリッジを中指で押し上げた。その手元には、『ステラ・アンカー号』の高性能センサーから直接引き込んだデータシートがある。


「学園長塔の最深部で、凄まじい熱源反応と精神干渉系の魔力負荷が記録されているんだ。それはあたかも、強力な呪いの楔が、彼女の魔力回路を焼き切ろうとしているかのような数値だよ。このまま放置すれば、彼女自身の精神回路が崩壊しかねない」


 ルカスの冷徹ながらも危惧をはらんだ分析に、テオが悲しげに長い耳を伏せた。


「あの優しい学園長先生が、そんな苦しみに耐えているなんて……。イリスやセレスティアがここにいてくれたら、すぐにその苦痛を和らげる祈りを捧げてくれたかもしれないのに」


 テオの呟きに、部屋の中に一瞬、切ない沈黙が広がった。

かつて同じ時計塔で過ごし、光の粒子となって消滅した灰色の聖女イリス。そして、彼女の遺志を継いで聖教国に残ったセレスティア。二人の不在は、彼らの心に今も消えない深い痛みを残していた。


「あいつらの不在を嘆いて立ち止まっている暇はない」


 カシムが短剣の刃を冷たく拭いながら、その沈黙を切り裂いた。


「これだけ警戒網が敷かれていても、奴らが唯一塞げていない場所がある。……俺たちの本当の『城』、地下動力室だ」


「ああ! あそこなら、僕が在学中から極秘にバイパスを繋ぎ、構造を完璧に把握している」


 ルカスが誇らしげに不敵な笑みを浮かべた。


「地下動力室から学園長塔の真下までは、八ヵ国連合の検知器の死角になっている。そこを通り抜けて塔の最下層へ侵入し、そこから学園長専用の隠し昇降機(エレベーター)を使えば、警備の衛兵に一度も遭遇することなく、学園長室の目の前まで一気に潜り込めるよ」


「……私の父……おそらく、あのザガンという魔騎士も、かつてルシオンの傍らにいた」


 それまで静かに剣の手入れをしていたエレナが、銀色の刃をゆっくりと鞘へと収め、静かに、しかし決然とした声で言った。


「父が空間を切り裂いて私たちを逃がし続けたのは、きっと、私たちがこのすべての因縁の原点へ辿り着くためだった。エレアノール学園長が、どんな呪いに囚われているとしても、私は私の剣で、その鎖を断ち切りたい。みんなと一緒に、ね」


 リィンもまた、肩に羽織った銀色の衣を引き締め、凪いだ湖のような澄んだ双眸をガイルに向けた。


「風は嵐の到来を告げています。けれど、その嵐を切り裂くための私たちの絆は、もう十分に研ぎ澄まされている」


「ああ。……よし、侵入ルートは地下動力室からに決定だ。明日の朝、ゼノリスたちが合流したらすぐに作戦を伝える。今夜はしっかり身体を休めておけよ」


 ガイルが低く告げ、一同はそれぞれ、明日の決戦を控えた静かな眠りへと就いた。



 翌朝、秋の澄み切った朝陽が、静かな宿屋の窓から差し込む頃。

 宿の扉が静かに開かれ、ゼノリスとフィリーネの二人が部屋へと入ってきた。


「みんな、おはよう。待たせてしまったね」


 ゼノリスが声をかけると、すでに武装を整えて待機していたガイルたちが一斉に顔を上げた。


「お二人とも、お帰りなさい! ご両親は元気だったかい?」


 テオが耳をピクリと揺らして出迎える。


「ええ、テオ。とても温かく迎えていただきました」


フィリーネはそう言って微笑みつつも、その青い瞳に宿る真剣な光は失われていなかった。


「みんな。……実は昨日、父さんと母さんから、学園長先生のことで気になる話を聞いたんだ」


 ゼノリスは表情を引き締め、仲間たちを円卓へと促した。

エレアノールが学園長室に閉じこもり、夜な夜な時計塔を見上げて不穏な祈りを捧げていること。そして、かつて両親が『書架騎士』として目にした帝国の最奥の記録――エレアノールの血脈に課された『帝国への殉従の契約(呪い)』が、ルシオンの現世定着の胎動と共鳴し、暴走を始めている可能性が高いことを伝えた。


「なるほどな。俺たちの昨夜の分析とも完全に一致する」


 ガイルが頷き、カシムが突き止めた地下動力室からの隠しルートと、ルカスが検出した魔力の異常負荷について説明を返した。


「つまり、エレアノール学園長はただ狂っているわけじゃない。その精神拘束の呪いによって、本人の意志とは無関係に、ルシオンの現世定着を果たすための『楔』として操られようとしているんだ」


「学園長先生は……ずっと一人で、その恐ろしい呪いと戦っていらしたのですね。私たちを危険なさだめから遠ざけるために、ただ血を吐くような思いで、耐えていらした……。お兄様、私は、学園長先生をこの理不尽な呪いから、今度こそお救いしたいです」


「ああ、フィリー。僕たちの目的は同じだ」


 ゼノリスは力強く頷き、右手の包帯をそっと握りしめた。その奥に眠る『変革の星(アルタ・ステラ)』の刻印が、彼らの覚悟に呼応するように、静かで熱い脈動を刻み始めている。


「学園長先生を呪いから救い出し、そしてルシオンを完全に阻止するための『第三の楔』のありかを確かめる。……みんな、準備はいいかい?」


 ゼノリスの問いかけに、ガイルは不敵に笑い、ルカスは眼鏡を押し上げ、カシムは静かに頷く。テオ、ナディア、リィン、エレナもまた、それぞれの武器に手を添えて、無言の、しかし確固たる同意を示した。


「よし。地下動力室から、学園長室へ向かおう!」


「はい、お兄様。どこまでも、お伴いたします」


 フィリーネがゼノリスの隣に並び、白銀の杖の先を強く地へと向けた。

朝陽を浴びて走り出した九人の若い星屑たちの背中を、エーテルガードの清らかな秋の風が、まるでその行く末を祝福するように、力強く押し出していた。

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