表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星帝物語  作者: 藤堂 貴之
第6巻 星屑の帰還と蒼刃の守護者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
59/70

第58章:別れゆく星屑と次なる旅路(エピローグ)

ヴィオラとの死闘が終わり、ブレーゼ西方高原王国の王都に静寂が戻っていた。

高原の風が、地に堕ちて黒い煙を上げるエトワール号の残骸を撫でていく。

歓喜も束の間、残骸に視線を向ける一行の間に重い沈黙が広がる中、広場の入り口から規則正しい足音が近づいてきた。

現れたのは、ブレーゼ西方高原王国の風の王ゼフィールだった。彼は武装した近衛騎士たちを従え、瓦礫の散乱する広場を歩いてくる。

王の表情には、激しい戦闘の跡への痛ましさと、それを乗り越えた者たちへの敬意が浮かんでいた。


「そなたたちが身を挺して戦わなければ、この王都は血の霧に飲まれていた」

ゼフィール王はゼノリスたちの前で立ち止まり、深く頭を下げた。

「多大な犠牲を払わせてしまったが、我が国はそなたたちを正式な盟友として迎える。そなたたちの行動に、感謝する」

王の言葉に、ゼノリスは静かに頭を下げて応えた。


その背後で、セトがガイルの袖を引いた。

記憶を取り戻したセトは、ゼフィール王の厚い庇護のもと、この国で暮らすことになっていた。ガイルは王の前に進み出ると、片膝をつき、頭を下げる。

「ゼフィール王。弟を安全な場所に置いていただける事、感謝いたします」

「気にするな。彼を守ることは、我が国の責任だ」


ガイルは立ち上がり、セトと向き合った。

「兄さん。僕、ここで待ってる。だから、帰ってきて」

セトがガイルの大きな手を両手で握りしめる。

「ああ、約束する。お前が安心して暮らせる世界を、取り戻す」

ガイルはセトの頭を撫でた。

燃え落ちる屋敷、煙が充満する廊下、そして暗い崖の縁で離れてしまった手。

弟を守れなかったという自責の念が、ガイルの心を縛り付けていた。だが、弟と再会し、安全な居場所を見届けたことで、その呪縛は消え去った。

ガイルはゼノリスの方へ振り返り、視線を向けた。

「ゼノリス。これで俺は、後ろを振り返らずに前だけを見て戦える。お前たちと一緒に、行くぞ」

ガイルの瞳には、次なる戦いへ向かう光が宿っていた。


ゼフィール王は、飛ぶ力を失った一行のために、複数台の馬車を提供した。

馬車には長旅に耐えられるよう、水や食料、旅に必要な物資が積み込まれた。

ゼノリスたちは馬車に乗り込み、西のルサルカ海洋公国を目指して出発する。

馬車の車輪が、石畳の街道を進む音を響かせる。

車内では、ゼノリス、フィリーネ、ガイル、そしてカシムたちが、窓の外を流れる景色を見つめていた。

「船は飛ぶ力を失った。でも、僕たちの旅が終わったわけじゃない」

ゼノリスが真っ直ぐな声で言うと、仲間たちが顔を上げる。

「ルシオンという脅威は健在だ。ここから先は、自分たちの足で歩くしかない。第二の楔がある次の目的地、サンクトゥス聖教国へ向かうため、まずはルサルカで体勢を立て直そう」

船を失った事実は彼らにのしかかっていたが、その決意に呼応するように、フィリーネが頷き、セレスティアたちも前を見据える。


数日の陸路の旅が続いた。

馬車は平野を抜け、風の匂いが変わった。

高原の冷気から、潮の香りへ。馬車が丘を越えると、眼下に青い海と、白亜の街並みが見えてきた。ルサルカ海洋公国だ。

かつて海が汚染され、危機に瀕していた国。ゼノリスたちがその元凶を断ち切ったことで、海は本来の青さを取り戻し、港には多くの船が行き交っていた。


一行は近衛兵の案内で、王宮へと通された。

海風が開け放たれた窓から吹き込み、瑠璃色の絨毯が敷かれた謁見の間を通り抜けていく。

玉座の前には、マリエーヌ大公妃と大星詠みエルセリオが待ち受けていた。

ゼノリスは仲間たちを代表して前に進み出ると、頭を下げた。

「マリエーヌ大公妃殿下。申し訳ありません」

ゼノリスの率直な謝罪が、広い部屋に響く。

「貴国から提供していただいた船、エトワール号を、敵の猛攻から守りきれず失ってしまいました」

ゼノリスは言い訳をせず、ルシオンの圧倒的な脅威と、船を失った責任を真っ直ぐに伝えた。カシムやテオ、リィンたちも、その後ろで頭を下げている。


マリエーヌ大公妃は玉座から立ち上がり、大理石の床を歩いてゼノリスの目の前まで歩み寄った。

彼女の表情に怒りはなく、深い慈しみが浮かんでいた。

「頭を上げなさい、ゼノリス」

大公妃は静かに告げた。

「船は失われました。しかし、あなたたちが身を挺して戦い、人々の命を守り抜いた事実は消えません。あなたたちが守り抜いた命に比べれば、船の一隻など安いものです」

その言葉に、ゼノリスは顔を上げた。

大公妃は微笑み、彼らの戦いを労った。

「ルサルカは、あなたたちとの同盟を誇りに思っています。船を失ったのなら、再び造ればよいのです」

大公妃は振り返り、エルセリオと視線を交わした。

「ルサルカの全技術を結集し、ルシオンの虚無にも耐えうる新たな船の建造を、ここに約束しましょう」

大公妃の誓いが、謁見の間に響き渡る。

その言葉を聞き、ナディアが顔をほころばせ、ルカスも眼鏡の奥で瞳を輝かせた。

エトワール号の喪失という現実の中で、大公妃の提案は彼らに希望を与えた。新たな船の建造。それは、彼らの旅が終わっていないことを示す、次なる戦いへの第一歩であった。



希望に満ちた空気の中、ゼノリスの後ろにいたルカスが前に進み出た。

彼の分厚い眼鏡の奥の瞳には、これまで見せたことのないほど強い知的好奇心と、機械技師としての熱い使命感が燃えている。高原の街でエトワール号がヴィオラの強襲により地に墜ちていくのを見た時の、自らの無力さへの悔恨。学園の地下で苦心して組み上げたシステムが破られた絶望感。それらが今、大公妃の「新たな船」という言葉によって、強烈な熱量を持つ職人魂へと変わっていた。

隣に立つナディアも、腰の黄金の羅針盤を両手で強く握りしめ、決意を込めて彼と並んだ。

「大公妃殿下。……そして、ゼノリス」

ルカスが、真っ直ぐな声で切り出す。

「僕を、このルサルカに残してほしい」

突然の申し出に、カシムやテオたちが驚いたようにルカスを見る。だが、ゼノリスは彼らの目を見ただけで、その奥にある覚悟の重さを悟り、静かに言葉の続きを待った。

「エトワール号を失ったのは、敵の猛攻に耐えうる防衛機構を組めなかった僕の技術不足だ。あの時、もっと出力の調整ができていれば……。いや、過去を悔やんでも仕方がない。今の僕には、学園の地下動力室で得た古代帝国の魔導技術の知識がある。大公妃殿下が仰った『ルサルカの全技術』に、僕の頭の中にある古代の設計図を融合させれば、必ずルシオンの虚無にも耐えうる、次元の違う装甲と機関を造り出せる。……だから、僕に新しい船の設計をやらせてほしい」

ルカスの言葉は早口でありながらも、揺るぎない確信に満ちていた。服についたすすや機械油の汚れを気にする様子もなく、ただ自分の技術ですべてを取り戻すという職人の顔になっていた。

それに続くように、ナディアも一歩前へ出た。かつて星詠みの一族を没落させた大公妃の前に立つのは、彼女にとって複雑な思いがあるはずだ。だが、今の彼女の顔に過去への遺恨はなく、ただルサルカの海を愛する航海士としての誇りだけがあった。

「私も残るわ。ルシオンの虚無の海を渡るには、ただ頑丈なだけの船じゃダメ。魔力や空間が完全に狂った闇の中でも、絶対に正しい航路を見失わない『目』が必要よ。私の星詠みの知識と、この黄金の羅針盤の力を、新しい船の心臓部コアに直接組み込む。……大公妃殿下、私がこのルサルカで、誰も見たことがない最高の船の『心臓』を造り上げます」

ナディアの青い瞳が、ゼノリス、そして大公妃を真っ直ぐに射抜く。

二人の申し出は、目前に迫るサンクトゥス聖教国への旅からの、一時的な離脱を意味していた。だが、それは戦いからの逃避ではない。彼ら自身が見つけた、ルシオンという圧倒的な脅威に打ち勝つための「もう一つの戦場」だった。

ゼノリスは、二人の迷いのない表情をじっと見つめ、深く頷いた。

「……わかった。新しい船のことは、君たち二人に託す」

ゼノリスの言葉に、ルカスは眼鏡を押し上げ、ナディアは力強く頷いた。


数日後。

ルサルカの西端に位置する王立造船ドックには、海風が強く吹き付けていた。そこは、ルサルカの持つすべての海洋技術が集結する場所だった。

見上げるほど高い足場が縦横無尽に組まれ、無数の技術者や職人たちが活気ある声を上げながら、すでに新たな船の巨大な竜骨りゅうこつの組み立てに取り掛かっていた。カン、カンと鉄を打つ高い音、魔力溶接の青白い火花が飛び散り、ルサルカ特有の濃密な潮の香りと鉄の匂いが入り混じって巨大な空間に満ちている。

ゼノリスたちは陸路での長旅の装備を整え、ドックの入り口でルカスとナディアに向き合っていた。

「サンクトゥス聖教国までは、過酷な旅になる。僕が新しく持たせた改良型の魔導通信機も、これだけルシオンの虚無の影響が広がっていると、距離が離れればどこまでノイズを防げるか分からない。……だから、無茶だけはするなよ、ゼノリス」

ルカスが、作業用の分厚い革手袋をはめた手で、通信機の予備部品が詰まった袋を渡す。

「ありがとう、ルカス。君も、寝食を忘れて倒れたりしないように」

ゼノリスが受け取ると、ガイルがルカスの肩を軽く小突いた。彼の右目の眼帯の下で、解析眼アナライズがチリッと音を立てる。

「お前の技術だけじゃ、どうせどこかで計算違いを起こす。俺がこれまでに蓄積してきたルシオンの魔力波長や、周囲の地脈の解析データも全部置いていくから、しっかり役立てろよ。……変なバグを起こしたら、後で俺が直々にぶっ叩いてやるからな」

「君の雑なデータなんてなくても、寸分の狂いもなく仕上げてみせるさ。でも……ありがたく使わせてもらうよ。気をつけてな、ガイル」

学園の地下で共に防衛システムを構築し、数々の危機を情報と技術で乗り越えてきた相棒同士。彼らは短い言葉の中に、互いへの強い信頼を込めて笑い合った。

ナディアは、フィリーネの手を両手で優しく握りしめた。

「フィリーネ。あんたのその純白の魔法で、ゼノリスやみんなをしっかり守ってあげてね。次に会う時は、私がもっとすごい船で迎えに行って、あんたたちを一番安全な航路で導いてあげるから」

「ええ、ナディア。ルカスと一緒に、どうか気をつけて。……新しい船の完成を、心から待っています」

フィリーネが静かに微笑むと、ナディアは満足そうに頷いた。

「僕の盾がない分、二人とも無理しないでね。……あんまり徹夜で作業してたら、僕が飛んできて特製の苦い薬草茶を飲ませるからね」

テオが優しく微笑んでルカスの肩を叩く。

「情報や素材が必要になったら、いつでも通信機を鳴らせ。俺の影が拾える範囲なら、裏ルートを使って必ず届けてやる」

カシムも、壁の影から短くエールを送った。

「あなたたちの手が造り出す船が、私たちを必ず導いてくれますように」

セレスティアとイリスが祈りを捧げ、リィンも無言のまま真っ直ぐに頷いた。

最後に、ナディアはゼノリスの方を向いた。

「ゼノリス。私たちはここで、誰も見たことがない最高の船を造り上げる。だから、あんたたちも絶対に立ち止まらないで。ルシオンの野望を止める手がかりを見つけて、必ず生き延びるのよ」

「ああ、約束する。必ず、また最高の船で合流しよう」

ゼノリスが右手を差し出すと、ナディアとルカスがその手を力強く握り返した。ゼノリスの右手の火傷の痕、ルカスの油まみれの手、ナディアの潮風を浴びた手。それぞれが異なる道を歩みながらも、見据える先は同じだという確かな誓いが、その掌の熱を通して交わされた。

言葉はそれ以上必要なかった。

ゼノリス、フィリーネ、カシム、テオ、リィン、ガイル、セレスティア、イリス。

八人の星屑の騎士たちは、ドックを背にして歩き出す。

彼らの背中を、ルサルカの潮風が強く押す。船という翼を失っても、彼らの足取りに迷いはなく、ただ真っ直ぐに前を見据えていた。

ルカスとナディアは、遠ざかっていく仲間たちの姿が見えなくなるまで、巨大な造船ドックの入り口に立ち尽くしていた。

やがて、八人の影が街の喧騒に溶けて見えなくなると、ルカスは眼鏡を一度押し上げ、大きく息を吸い込んだ。

「……さあ、行こうか、ナディア。僕たちの戦いを始めよう」

「ええ。最高の船を造って、あいつらを驚かせてやるわよ」

二人はきびすを返し、鉄を打つ音と青白い魔力が響き合うドックの中へと戻っていく。

別れの寂しさは微塵もない。彼らの胸にあるのは、それぞれの場所で全力を尽くし、再び一つに集う日への確かな希望だけだった。



ルサルカの白亜の街並みを抜け、潮の香りが少しずつ薄れていく街道を、八人の星屑の騎士たちは歩いていた。

海風は次第に乾いた土の匂いへと変わり、足元の石畳はゴツゴツとした土道へと姿を変えていく。西に傾き始めた太陽が、彼らの影を長く荒野に伸ばしていた。

船という翼を失い、自らの足で大地を踏みしめる旅。その足取りに迷いはないが、一行の間に流れる空気は、どこか重く張り詰めていた。

それは、船を失った悲壮感からくるものではない。これから続くルシオンとの果てしない戦いに向けて、それぞれが自身の内側にある力と向き合い、沈思黙考しているからだ。

荒野の景色がどこまでも広がり始めた頃、不意に、最後尾を歩いていたカシムが足を止めた。

「……リーダー。少し、いいか」

カシムの低い声に、全員が歩みを止めて振り返る。

彼だけではない。リィンも、テオも、それぞれが硬い表情でゼノリスを見据えていた。

「どうしたんだ、三人とも」

ゼノリスが問うと、テオが漆黒の重盾を地面に下ろし、申し訳なさそうに、けれど強い意志を持った目を向けた。

「僕たち三人、ここで少しの間、みんなと別行動を取りたいんだ」

突然の申し出に、フィリーネが驚いて一歩前に出る。

「別行動って……どういうことですか、テオ。サンクトゥス聖教国へは、これから過酷な旅になります。前衛の三人がいなければ……」

「だからこそだよ、フィリーネ」

テオが大きな手で自らの腕を強く握りしめた。そこには、ヴィオラとの戦いで受けた傷跡がまだ生々しく残っている。

「高原の街で、あの魔女ヴィオラと戦った時。僕の盾は、みんなを守りきれなかった。敵の放つ無数の血の鞭が盾の裏へ回り込んできた時、僕は自分の身を庇うことすらできず、ただ地面に縫い留められるしかなかったんだ。もしあの時、ゼノリスが前に出てくれなかったら、フィリーネが魔法で支えてくれなかったら……。僕の盾は、ただの重い鉄の塊に過ぎなかった。仲間を守れない盾に、何の意味があるっていうんだ」

テオの言葉に、リィンも静かに頷き、愛刀の柄に手を添えた。

「私の風の刃も、彼女の分厚い血の障壁を越えられなかった。あんなにも高い壁の前では、私の刃はあまりにも軽く、力不足だった。東方の剣士として、そして星屑の騎士として、このままではゼノリスの背中を任せてもらう資格がないわ。ルシオンの底知れない闇を切り裂くには、もっと鋭く、研ぎ澄まされた刃が必要なの」

カシムも自嘲気味に笑い、短剣を弄んだ。

「俺の影も同じだ。敵の魔力の密度に押し潰されて、ただ足元に這いつくばるしかなかった。影を操るなんて豪語しておきながら、いざって時に仲間の死角を補えねえんじゃ、情報屋のプライドが丸潰れだ。そんな無様な姿を、もう一度晒す気はねえ。次にあの化け物どもの前に立つ時は、俺の影で奴らの息の根を止めてやる」

三人の目には、己の無力さに対する深い悔恨と、それを乗り越えようとする燃えるような決意が宿っていた。ルシオンという圧倒的な虚無の王との長く過酷な戦いを見据え、彼らは自らの足手まといになることを良しとせず、さらなる高みを目指す道を選んだのだ。

ゼノリスは、彼らの言葉を静かに受け止めた。

彼らがどれほど己を責め、悔しさを噛み締めてきたか、痛いほどに伝わってくる。自らの無力さを乗り越え、仲間を確実に守るための力を手に入れようとする、痛切な覚悟だった。

「……どこへ行くつもりだ」

ゼノリスの問いに、カシムが答える。

「俺は北の荒野へ向かう。かつて『忘却の監獄』があった、あの命を削るような凍てつく闇の中で、影の密度を極限まで底上げしてくる。光の届かない場所でこそ、影は真の力を発揮するからな」

「私は、ドロモス中央山岳王国の連峰へ。吹き荒れる強風と険しい岩山の中で、荒れ狂う風を相手に刃を研ぎ澄まし、空間そのものを切り裂くような鋭い風の刃を身につけるわ。師匠の教えを、もう一度一から叩き直してくる」

リィンが真っ直ぐな目で宣言する。

「僕は、故郷の過酷な砂漠へ向かうよ。そこで魔獣たちを相手に実戦を重ねて、もっと自分を追い込むんだ。盾の硬さだけじゃなく、敵の魔力を見極めて受け流す身体の動きを叩き込む。獣としての本能と、守るための理性を、ちゃんと一つにするためにね。……必ず、強くなって戻るから」

テオが力強く頷いた。 ゼノリスは三人の顔をゆっくりと見渡し、その奥にある覚悟の重さを悟り、深く頷いた。

「……わかった。君たちの決意を尊重する。ルカスとナディアが新しい船を完成させて、僕たちを迎えに来てくれる日まで。それぞれの場所で、限界まで強くなってこい。そして、必ず生きて合流しよう」

「ああ。次に会う時は、俺の影でルシオンの足を縫い留めてやるよ」

カシムがニヤリと笑い、拳を突き出す。

ゼノリスも拳を突き出し、二人の拳が軽く触れ合った。互いの熱が伝わる、無言の誓いだった。

テオとリィンも、仲間たちとの短い別れの挨拶を交わす。

「テオ。……怪我だけは気をつけてね。薬草の予備、ちゃんと持っている?」

フィリーネが心配そうに声をかけると、テオは優しく微笑んだ。

「大丈夫だよ、フィリーネ。君の治癒魔法に頼らなくていいくらい、立派になって帰ってくるから。君も、ゼノリスのこと、しっかり支えてあげてね」

「……ええ。お気をつけて」

セレスティアとイリスも、リィンとカシムに静かなエールを送った。

「私たちの祈りが、あなたたちの道を照らしますように」

「あんまり無茶をして、帰る場所を忘れないようにね」

「……ありがとう。必ず戻る」

リィンが短く応え、カシムも背を向けて軽く手を振った。

ガイルは腕を組みながら、三人の背中を見送った。

「……俺の解析データなしで、勝手にくたばるなよ」

「心配すんな。俺たちがお前らより先に音を上げるわけがねえだろ」

カシムの言葉を最後に、前衛の三人は、それぞれの修練の地へと向かって、別々の道へと歩み出していった。

西日に照らされた荒野に、彼らの背中が少しずつ小さくなっていく。


残された五人は、その姿が見えなくなるまで、無言で立ち尽くしていた。

共に死線を越えてきた仲間との別れは、心にぽっかりと穴が空いたような寂しさを伴う。

だが、悲壮感はなかった。必ず再会し、巨大な敵を打ち倒すという確かな希望のために、一時的に道を分かっただけなのだ。

ゼノリスの右手の火傷の痕が、微かに熱を帯びた。それは、遠ざかっていく仲間たちの決意と共鳴しているかのようだった。

ゼノリス、フィリーネ、セレスティア、イリス、そしてガイル。

ルカスとナディアが船を造り、カシム、リィン、テオが自らを鍛え直す。

散り散りになった星屑たち。だが、彼らの見据える先は同じだ。

「……さあ、僕たちも行こう」

ゼノリスが振り返り、四人の仲間たちを見た。

「サンクトゥス聖教国。第二の楔が待つ、次なる戦場だ。……ここから先は、過酷な徒歩での旅になる。魔獣の棲む森や、険しい山道を越えなければならない。でも、ルシオンの野望を食い止める手がかりを見つけ出し、必ず生き延びるんだ」

「はい、お兄様。どのような険しい道でも、どこまでもお供します」

フィリーネが白銀の杖を胸に抱き、力強く頷く。

「教会の腐敗も、私たちが正してみせるわ。私たちが信じた光が、偽りではないと証明するために」

セレスティアが静かに決意を語り、イリスも灰色の修道服の裾を翻して同意した。

「……俺の解析眼で、最短で安全なルートを導き出してやる。行くぞ、リーダー」

ガイルが先頭に立ち、歩き出す。

夕闇が迫る荒野を、五人の星屑の騎士たちが真っ直ぐに進んでいく。

彼らの頭上には、やがて来る暗闇を払うように、一番星が静かに、けれど強く輝き始めていた。

彼らの足取りに迷いはなく、それぞれが新たな誓いを胸に、次なる旅路へと向かって歩み続けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ