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第46話 想い重ね 【前編】

【お詫び】

 投稿する順番を間違いをしたことに気が付きました。

 本来予定していた順番にするために、割り込み投稿で対応をいたしました。


 9月13日以降に読んでくださった方には、第43話と繋がりが分かりにくく混乱させてしまいました。

申しわけありません。


 医療的な内容が出て来ます。事実や専門的なモノでないところがたくさんあります。


 僕は、医療的なことは詳しくないので、ご理解してくださると助かります。

 現実世界に似てる僕の世界の話です。

 椿(つばき)が、在住先の海外に戻って約一ヶ月が経った頃のこと。


 あと、一時間もすれば誰かが中学校まで陽架琉(ひかる)の迎えに行かないといけない。

 

 この家には、お決まりの三人がいた。


 お昼前まで仕事に行っていた家主の魂蔵(ごんぞう)。


 陽架琉のお迎えに合わせて早めに仕事をきり上げてきた知永生(ちとせ)。


 住み着いて二階の部屋でこもっている、小説家のたけし。


 少し前に、知永生がたけしの様子を見に二階に行った。


 突然、家の二階から大声ともに、すごく大きい音が聞こえ響いた。


「たけし!知永生! 」


 魂蔵が一階の居間から慌てて出てきて、階段下から二人を叫んだ。


「何があった?! 」


 魂蔵は大声で言いながら、急いで階段を上ってドアの前まで行った。


 「僕のせいで、知永生くんが…… 」


 たけしの声が、部屋の中から聞こえた。

 でも、たけしいつもとは違う感情が混ざった声だった


 魂蔵は息を切らせながら、勢い良くたけしたちがいる部屋のドアを開けた。


「じっちゃん、救急車! 」


 たけしは、泣きそうな顔をして言った。


「分かった」


 魂蔵は、眼の前の光景に動揺しそうになるのを堪える。

 そして、たけしに簡単に経緯を聞いて救急に電話をかけた。


「知永生くん、大丈夫ですから」


 たけしは、床に倒れて動けない知永生に声をかけていた。


 魂蔵は、たけしと一緒に指令員に電話で指示をもらって、知永生の応急処置をした。

 その後に、宮本工務店に連絡をしたり、動線を確保をしたりと忙しなくなく動くのだ。


 彼は、長年の経験で心を無理矢理冷静にして、今すべきことを必死にしていた。


 そして、知永生のカバンの中に財布とマイナンバーカードやお薬手帳があるかを確認をした。



 離れた所から救急車のサイレンの音が、聞こえてきた。


「たけし、知永生の容態は? 」


「……」


「たけし! 」


 魂蔵は、大声でたけしの名を呼ぶ。


「あっ」


 たけしは、冷静に対応をしてるようでも、眼の前で倒れてる心友に動揺をしていた。


「たけし、しんどいかも知れんが。知永生の様子を教えてくれ」


「はい。知永生くんは、呼吸は不安定で……。呼びかけに反応なくて」


 たけしは、慎重になって知永生を横向きをして軌道を確保する姿勢を、さっきの指令員との電話の時に魂蔵と一緒にしていた。


「分かった」

 

 魂蔵は、まだ意識の戻らない知永生を観た。


「たけし、知永生が倒れたのをさっきみたいに簡単に教えてくれ」 


「僕が踏み台を使って、本棚から本を取ろうとして」


「それで、たけしがふらついたんだな」


 たけしは、頷いた。


「知永生くんが、すぐに気が付いて受け止めてくれたけど」


「二人ともバランスを崩して、床に倒れたんだな」


「はい。僕が、知永生くんの静止を無視して、踏み台を使って本を取ろうとしたせいです」


「たけし、今は反省や後悔はしなくて良い」


「はい」


「知永生は、過保護な所もあるから。とっさに、たけしを守ったんだ」



 救急車の音が、だんだんと倉西家に近づいてきた。



「たけしは、怪我をしてないか? 」


「えっ? 」


 たけしは、生まれつき痛みに鈍感だ。

 自分で、怪我をしたのかはよく分からないから、いつも心配されると驚いてしまう。


「たけし、無意識だと思うが。ずっと座ってるのは、足のどこかをケガしてるからか? 」


「えっ? 」


 たけしは、知永生がこの部屋来る前にカーペットにつまづいて転んだのを思い出した。

 転んだ原因は、カーペットが波を打っているようになってるのに気がつかなかったからだ。


 おそらく、その時にたけしは足のどこかをケガしていた。

 知永生は、たけしを観て様子がおかしいのに気が付いた。


 たけしは、何も気にせずに踏み台を使おうとして、知永生に止めれていたのに無視をしてしまった。


 たけしは、もう自分は大人で踏み台を使って棚にある本を取れる。


 そして、たけしは転んだことも忘れてのは、痛みも感じてなかったからだ。

 たけしは、「そんなに心配されなくても、痛くないから平気だ」と思うクセがあった。


 たけしは、知永生が「いつものように、踏み台を使うのに心配をしてるだけだ」と思い込んでいた。

 

 その結果、たけしはふらついて踏み台から落ちた。知永生は、心友を庇って床に頭をぶつけて倒れた。


 そして、たけしは動揺していたのと無意識に足をかばった。

 だから、魂蔵を呼びに部屋を出ることもドアを開けることも出来なかった。


 たけしはポツリポツリと、魂蔵に知永生が部屋に来る前のことを伝えた。


 魂蔵は出来る限り冷静に話を聞きながら、たけしの父親の正智(まさとし)にメッセージを送っていた。


「救急に連絡した時に、たけしのことも伝えてるから。たけしは、病院までの知永生の付き添いと検査をしてもらえ」


 たけしは、言葉が出なくて頷くしかなかった。


「たけし。とにかく今は、深呼吸をしよう。救急車がもうすぐ来てくれる。知永生と一緒に、病院にいけば大丈夫だからな」


 たけしは頷いて、深呼吸をした。


「ワシは、救急隊の誘導をする。そのあとは、学校にいる陽架琉を迎えに行ったら、すぐに病院に駆けつけるから」


 たけしは、頷いた。


「知永生。救急車がくるから。すぐ、病院に連れてってくれるからな」


「……うっ」 


「知永生くん? 」


 知永生は、少し目元を歪ませて目をゆっくりと開く。


「……たけし? 」


「知永生、意識戻ったか! 」


「……じっちゃん? 」


 知永生は、小さな声でぼんやりしながら言った。


「知永生、そのまま動くな。じっちゃんが、救急隊を連れ来るから。そのあと、たけしと病院に行くから」


「……うん」


 知永生は、意思の疎通は出来るが反応はゆっくりだった。


「たけし、知永生を任せる」


 魂蔵は、そう言うと急いで部屋を出て玄関に向かった。その手には、知永生のカバンを持っていた。


 すぐに、魂蔵は到着した救急隊を二階の部屋に連れて行った。

 そして、彼はたけしの代わりに救急隊に出来る限りの現状を説明をした。


 知永生は、救急隊に固定具を身体につけられて担架に乗せられた。

 その間も、知永生は一応意思の疎通はできているようだった。


 そして、知永生は担架に乗せられたまま階段を下りていった。


「たけし、ワシらと一緒に階段を下りようか」


 魂蔵の片方の肩には、たけしのカバンの肩紐がかけられていた。


「はい」


 たけしは、一人残っていた救急隊に足を診てもらった。


 その後に救急隊に支えてもらいながら、一緒に階段を下りた。

 魂蔵は、二人の後ろをついていった。


 たけしは支えてもらいながら歩けているが、一人で立ち上がったり、歩いたりするのはやりにくそうにしている。


 知永生のカバンは、玄関の端に邪魔にならないように置かれていた。


 玄関に向かうと、外では既に知永生はストレッチャーに移しかえて救急車に乗っていた。


「遅くて、すみません」


 たけしが、苦しそうに言った。


「大丈夫ですよ」


 隣にいた救急隊は、優しくそう言った。


「たけし、病院に着いたら診てもらえるからな。大丈夫だ」


「はい」


 魂蔵は、たけしの頭を優しく撫でやる。


 その後、たけしも同じ救急車に乗った。


 魂蔵は、救急隊にカバンの持ち主のことを説明したり、急いで知永生の靴を袋に持って預けたりしていた。


「知永生、たけし。あとで、陽架琉と病院に行くからな! 」


 知永生は、意識がぼんやりとしていて返事はなかった。


「はい」


 たけしが返事をした後に、救急車のドアが閉まって出発をした。


 行き先は、あのひ(・)純たちが運ばれた病院だ。


2


 魂蔵は、救急車を見送ってから家に駆け込んで、電話をかけた。


「勘助(かんすけ)」


 魂蔵が電話をかけたのは、知永生の父親の勘助だった。


『じっちゃん、知永生たちは? 』


「今、救急車が出発したよ。知永生は、ボンヤリしてるが、意識は戻ってる」


『良かった』


 勘助は、心の底から言った。


「たけしは、自分のせいだって、すごく後悔と動揺をしてる。足の様子がおかしかったから、知永生と一緒に救急車に乗せた」


 勘助は、少し考え込んでいた。


 通話をスピーカーにしていたのか、車内ですすり泣く音と工務店の職人の道枝(みちえだ)が「意識が戻って良かったです」と勘助に言っている声が聞こえた。


『……じっちゃん。俺、よく分かってないんだ』


 勘助は、苦しそうに言った。


 そして、彼の脳裏には最初に魂蔵から電話がかかってきたことが浮かんでいた。



 魂蔵は、勘助と知永生の母親のこはるのどっちかは宮本工務店の事務所にいると思って、救急に電話をした後にかけた。


 でも、魂蔵の頭の中はひどくゴチャついていた。


 さっきまで会話をしていた知永生が、大きな音がした後に床に倒れて意識がなかったからだ。


 もしも、自分の亡くなった家族のように、「知永生がこの世からいなくなったら」と恐くてたまらなかった。

 

 魂蔵は、宮本工務店の事務所にかけると思ったよりも早く通話が繋がった。


『もしもし、ワシや! 』


 魂蔵は、すぐにそう言った。


「じっちゃん、どうしたの? 」


 電話の受話器を取ったのは、こはるだった。

 彼女は、長年の付き合いもあって、魂蔵の声から何か嫌な予感がして声が震えた。


 たまたま事務所にいた魂蔵の二番目に古株の職人が、電話をし始めたこはるの様子の変化を観ていた。


『奥さん、落ち着いて聞け。知永生が……』


「えっ? 」


 こはるは、魂蔵の言葉に思考が停止して、受話器を床に落とした。


 そして、「ガシャン」と受話器が床に落ちた後に、こはるの身体が崩れ落ちる。


「奥さん! 」


 二番目に古株の職人の荒木(あらき)が、大きな声を出しながら、こはるを受け止めた。


「奥さん、大丈夫ですか?! 」


 荒木が、こはるを何とか壁を背もたれにして、床の上に座らせた。


「……ごめんね。ありがとう」


 こはるは、涙を流しながら言った。


「どうした!? 」


 事務所の外から大きな音と声を聞いて、勘助が慌てて部屋に入って来た。


「お父さん、知永生がね」


 こはるは、何とかそれだけを言って涙を流して言えなくなった。


「知永生? 」


 勘助も、一瞬で固まってしまった。


「社長! 」


 荒木が、大声で言った。

 その言葉に、勘助は「ハッ」とした。


「社長、魂蔵さんから電話が……」


 勘助は彼の視線の先を観て、すぐに受話器を取った。


「もしもし、じっちゃん? 」


 電話は、通話のままだった。


 魂蔵が電話の向こうで、こはると知永生を交互に心配する声が聞こえたて落ち着くったのを待った。


 その間に、魂蔵は必死に落ち着こうと深呼吸を繰り返していた。


『勘助、奥さんは? 』


「うん。俺、何があったのかよく分からないけど。すごく、ショックを受けてるみたい」


 勘助は、少し他人ごとのように言った。

 自分の妻のこはる、が息子の知永生のことですごくショックを受けているのに動揺をしているからだ。


『勘助。ワシの家に救急車がもうすぐくるから。電話をゆっくりしてる時間がない。ワシが、今から簡単に言うことをとにかく聞いて、動け』


「分かった」


 魂蔵は、知永生がたけしを庇って床に倒れた。

 そして、知永生は頭をぶつけて意識がなかったから救急車を呼んだことを伝えた。


「分かった。あの病院だな。うん。俺のスマホにかけて。すぐに行くよ」


 勘助は、声を震わしながらでも、出来る限り冷静を保っていた。そして、魂蔵と通話を終えた。


「母さん。知永生たちが救急車で、病院に行くって。俺、今から向かうよ」


 勘助はしゃがんで、こはるに向かい合うように言った。


「お願いします」


 こはるは、頭を下げた。今の彼女の状態では、勘助と一緒に病院に向かえないのが自分でも分かっていた。


「母さん。俺が病院に行って、色々落ち着いたら。すぐに、連絡するから。その時に、必要なモノを伝えるから持ってきて欲しい」


「分かりました」


 荒木が、事務所のドアのところで固まっていた若い連中を呼んで、こはるを工務店の仮眠室に連れて行かせた。


「社長、ここは俺に任せてください」


「ありがとう」


 荒木は頷いた後に、手に持っていたスマホに視線を移した。


「社長、「車を事務所の前に止めて、待ってる」って」


 荒木は、スマホのメッセージアプリを勘助に見せた。

 彼は、すぐに勘助を病院に連れていけるように、外で小休憩をしていた同期の道枝(みちえだ)に連絡をしていたのだ。


「さすがだな。ありがとう。行ってくるよ」


「はい!お気をつけてください」



 勘助はカバンを持って、宮本工務店の前に止まってる車に乗り込んだ。

 

「社長、病院に向かいますね」


「……」


 車内では、エアコンの音だけがした。


「社長? 」


 道枝は、ルームミラーを通して勘助を観た。


「すまん。なんて言った? 」


「「病院に、向かいますね」って言いましたよ」


「そうか、また同じことを言わせて」


「僕は、気にしないんで。こういう時は、謝らんでください」


「分かった」


「それで、どうしますか? 」


「じっちゃんが救急車が出発したら、電話をかけるって」


「じゃあ、それまで待機ですか? 」


「そうだな。じっちゃんの家より、ここのほうが病院に近いからな……」


「そうですね」


「もう、電話が来るかもしれない」


 勘助は、手に握りしめていたスマホをじっと観た。


 その数分後に、魂蔵から勘助のスマホに電話がかかってきたのだ。


3


『じっちゃん。俺、よくわかってないんだ』


 二人は、沈黙だった。


「ワシも、よく分かってない。必死に、今(・)出来ることをま(・)た(・)後悔をしたくなくて必死にしてんだよ」


 魂蔵は、誰かをまた亡くしたくなくて、長年の経験で身体を無理矢理動かしていた。

 彼の思う理想の死があっても、やっぱり大切な誰かが眼の前でいなくなるのは恐怖だった。


『社長と魂蔵さん、話の途中ですみません』


 勘助のスマホはスピーカーにしていたからか、道枝が申しわけなさそう言ってる声が聞こえた。


「ワシらは、大丈夫だ」


『社長、そろそろ出発するんで。安全のためにシートベルトを』


『あぁ、そうだな』


 勘助は、急いでシートベルトをした。


『じゃあ、病院まで頼むよ』


『はい。安全運転で飛ばします』


 道枝はそう言って、車を走らせた。


『じっちゃん、話の途中でごめん』


「大丈夫だからな」


 魂蔵は、自分にも言い聞かせるように言った。


「勘助。知永生は、たけしの異変に気が付いて助けたんだ」


 魂蔵は、勘助にもう一度説明をした。


『うん。俺は、たけしくんを責めないよ。知永生は、必死に心友を守った。アイツらしいよ』


 勘助の心の中では、たけしくんを全く責めたくないわけじゃない。

 それよりも、心友想いの息子が無事なことを祈ることしか出来なかっただけだ。


『たけしくんにも、そう伝えるから』


「助かるよ」


『じっちゃん、知永生は大丈夫だよな? 』


「知永生は、大丈夫だ」


『うん』


「勘助が、前に自分でワシに言ってくれたことがあっただろ」


『えっ? 』




 魂蔵は、陽架琉のことで思い悩んで公園の前を通って家に帰った時のことだ。


 勘助が、魂蔵を待ち伏せして車に乗せた。


『大丈夫だよ。うちの息子は、心も身体も頑丈だから』


 と、勘助はそう魂蔵に言ったのだ。


『うん。そうだった。知永生は、頑丈だから、大丈夫だね』


 勘助も、また自分に言い聞かせるように言った。


「勘助。この後、ワシは中学校に連絡して陽架琉を迎えに行くよ」


『分かった。じっちゃんも、気をつけて』


「おう。正智が、病院に行く途中で学校に寄ってくれるから一緒に行く。今、正智からそんな感じのがメッセージで届いた」


『そうか。分かった』


 勘助は、深呼吸をした。


『じっちゃん、スマホ使いこなしてるね』


 勘助は、わざと違う話をした。


「フッ。そりゃあ、そうだろ」


 魂蔵は、勘助の気持ちが分かって、笑って話にノッた。


「ワシに、スマホを教えてくれる先生たちが周りいて、住み着いてる子らもいるからな」


『うん。そうだね』


 勘助の声は、少しいつもの調子に戻ってきた。


『じっちゃん、ありがとう』


「ん? 」


『知永生たちのために、じっちゃんは自分の気持ち押し殺して、今すべきことをしてくれただろ』


「ワシは、必死なだけだ」


『それでも、ありがとう。そうじゃないと……』


「まだ、礼を言うのは早い」


『えっ? 』


「病院で、知永生のことが落ち着いてからでいいから」


『分かった。また、あとで。気をつけて来て』


「おう、またあとでな」



4


 魂蔵は、念のために知永生が使ってる棚から一日分の服を入りそうなカバンに入れた。


 そして、魂蔵は居間に行って、亡くなった大切な人たちの写真に向かって、知永生たちの無事を祈った。



「あっ、電話をかけないと」


 魂蔵は、時計を見てポツリと言った。


『もしもし、倉西陽架琉の祖父ですが……』


 魂蔵は、内容をよく考えれなまま電話を後悔しながら、陽架琉の中学校の教頭に事情を話した。


 教頭は話の内容を何とか理解して、すぐに支援級の担任に伝えれるようにメモに書いた。

 それを近くにいた教師に身ぶり手ぶりを使って呼んで、メモを渡して支援級に届けられた。


「魂蔵さん、支援級の先生には、このことをすぐ報告ができるにしてます。陽架琉くんには、魂蔵さんの要望通りに伝えますので、ご安心ください」


『ありがとうございます』


「魂蔵さんは落ち着いて、靴箱まで来てください。支援級の担任が陽架琉くんをそちらまで連れて行きます」


『助かります。すぐに、行きます』


 二人は、少しだけ話して通話を終えた。



 魂蔵は、荷物の確認と鍵を持って玄関を出た。


 そして、鍵を閉めたところである人物に声をかけられた。


「倉西のじーさん、大丈夫か? 」


 彼は、近所に住むおっさんだ。何かあるたびに倉西家に駆けつけてくれる人である。


「えっ? 」


 魂蔵は、近所のおっさんが自分を心配そうに見ているのに驚いた。


「さっき、ここに救急車が来ただろ。もしかしたら、倉西のじーさんが運ばれたんじゃないかって心配でな」


「心配かけて悪いな」


「うん。何があったんだ? 」


「今、答える暇がないんだ」


「分かった。俺が車で目的地まで乗せていくから、そこで話してよ」


「ハァ? 」


「倉西のじーさん、顔色がすごいからな。そんな状態で、大荷物を持って外を出ない方が良いよ」

  

「助かる」


「うん。すぐそこに車を止めてるから」


 この近所のおっさんは、救急車が倉西家に来てから心配でたまらなかった。

 野次馬にならないように、ちょろっと車で倉西家の周りをうろついていた。


 その時に、魂蔵が家を出てのを見て車を道の端に停めて来たのだ。


 魂蔵は、近所のおっさんの車の後部座席に座った。知永生の入院用のカバンがあると、後部座席で一息をつきたかった。


「悪い。陽架琉の中学校まで頼む」


「うん。倉西のじーさん、シートベルトして」


「あっ、そうだな」


「じゃあ、出発するわ」


 近所のおっさんは、魂蔵がシートベルトをしたのを確認にして言った。



 近所のおっさんが走らせる車内で、魂蔵は今までの経緯を話した。


「倉西のじーさん、大変だったな」


「うん。お前には、いつも助けられてるな」


「そりゃあ、俺た(・)ち(・)は、倉西魂蔵に、助けられてるからな。恩を返してるだけ」


「そうか」


「倉西のじーさんがいないと、今のような生活を送れてないヤツらは多かったと思うよ。俺を含めて」


「みんな、ワシに恩を感じてるって言うが。別に感じてなくて良いんだよ」


「まぁ、倉西のじーさんはそう言うよな」


「ワシは、当(・)た(・)り(・)前(・)の(・)こ(・)と(・)を(・)し(・)た(・)だ(・)け(・)……」


 魂蔵は、自分の言葉であることに気が付いて声が弱々しくなった。


「倉西のじーさん? 」


 近所のおっさんは、ルームミラーでチラッと魂蔵を見た。


「竜輝(りゅうき)が、よく言ってたんだよ」


 魂蔵は、窓の外の空を観た。


「言葉に不器用なところがある竜輝は、褒められて恥ずかしかったり嬉しかったりするとな。『当たり前のことをしただけ』って」


「あぁ、そういえば竜輝くんも(・)言ってたな」


 近所のおっさんは、懐かしそうに言った。


「倉西のじーさんも、昔からよく言ってたよ」


「そうか? 」


「倉西のじーさんは無意識だったのかもしれないけど」


「……」


「倉西のじーさんと小さい頃の竜輝くんは、よく一緒にいたから。自分のおじいちゃんの背中や言動をよく見ていて、マネをしたのかもな」


「……」


「倉西のじーさん? 」


 車内には、魂蔵が泣いてる音が聞こえた。


「すまん」


 近所のおっさんは、信号が赤の時に助手席の方に置いてた箱ティッシュを後部座席にいる魂蔵に渡した。


「大丈夫」


 近所のおっさんは、安心させるように言った。


「今更、あの言葉のことに気がつくんだな」


 魂蔵は、ポツリと言った。


「何か、意味があるのかもな」


 近所のおっさんが言った。


「そうだと、良いな」


「うん」


「お前は、ワシらの救世主だな」


「そんな、たいそうなことをしてないって」


 近所のおっさんは、照れくさそうに言った。


「ワシは、お前には何度も助けられている」


「俺は、当(・)た(・)り(・)前(・)の(・)こ(・)と(・)を(・)し(・)た(・)だ(・)け(・)」


 近所のおっさんは、明るく言った。


 「そうか」


 魂蔵は、少し笑って言った。


 その後の二人は、陽架琉の中学校の来賓用の駐車場に着くまで黙っていた。


5


「助かったよ。ありがとうな」


「それなら、良かったよ。また、何かあったら頼って」


「おう」


 魂蔵は、荷物を持って車を下りた。


 近所のおっさんは、手を振ってから車を走らせて中学校を出ていった。


 魂蔵は、少し小走りで靴箱に行った。


「じいちゃん! 」


 靴箱には、既に涙を瞳にたくさんためている陽架琉と支援級の担任が待っていた。


 魂蔵は陽架琉の表情を観て、無意識に荷物をその場に落とした。


「陽架琉、待たせたな」


 陽架琉は、魂蔵を抱きしめて泣いていた。


「先生、対応してくれてありがとうございます」


「はい。こちらは、出来る……当(・)た(・)り(・)前(・)の(・)こ(・)と(・)を(・)し(・)た(・)だ(・)け(・)です」


 魂蔵は、その言葉に泣きそうになりながらも頷いた。


「陽架琉。一緒に病院に行こうな」


「ち知永生くんとたけしくん、だいじょうぶ? 」


「病院の先生たちが、頑張ってくれてるから」


 魂蔵は、それしか言えなかった。


 ちょうど、その時にまた来賓用の駐車場に1台の車が入って来た。

 その車が止まって、すぐにたけしの兄のすばるが出てきて、こちらに駆け寄った。


 「じっちゃん! 」


 その声に、陽架琉は魂蔵をビクッとして抱きつくのをやめた。


「すばる」


 魂蔵は、振り返った。


「じっちゃん、陽架琉くん、行くよ」


 すばるはそう言うと、魂蔵と陽架琉のカバンを強引に持って車の方に戻った。

 そして、すばるは車の後部座席に荷物を入れた。


「せ、先生、さようなら」


「陽架琉くん、さようなら」


 陽架琉は既に靴を履いていたから、そのまま魂蔵と一緒に車に行った。


「正智、寄ってくれて助かるよ」


「通り道だからね」


「そうか」


「二人ともシートベルトをして、早く行こうよ」


 すばるが、言った。


「そうだな」


 魂蔵はそう言って、すぐに自分のをしてから陽架琉のシートベルトを手伝った。

 二人の膝には、それぞれのカバンが置かれている。


「出発するよ」


「あぁ、頼むよ」


 魂蔵がそう言って、正智は駐車場から出て学校をあとにした。


6


「母さんときよかは、先に病院に行ってるよ」


 すばるは、シーンとした車内で言った。


「そうか」

 

「陽架琉くん、大丈夫だからね」


 正智は、ずっと泣いてる陽架琉に言った。


「……うん」


「陽架琉、一緒に深呼吸をしような」


「……うん」


 魂蔵と陽架琉とすばるは、深呼吸をした。


「そういえば、何で駐車場に来てくれたんだ? 」


「あぁ、それは……」


 すばるの説明によると、予定よりも早く学校の近くに正智の車が到着をしていた。

 そして、近所のおっさんの車が学校に入っていったのを見た。


 「もしかして、じっちゃんがいるかも」と思ったのと早く病院に行きたい気持ちがあって、当初の予定を変更したのだという。

 

「そうか」


「たけしの様子は? 」


 正智が、少し声を震わしながら言った。


「相変わらず、痛みは分かってないけど。足に違和感があるみたいだ。無意識に、庇ってたよ。支えてもらわないと、立ったり歩いたりがやりにくそうだった」


「分かった。たけしは、今のところ足を怪我してるみたいだね」


「うん、それ以外は気持ち的にしんどいと思う」


「そうだよね。俺たちで、ケアをしないと」


「そうだな」


 すばるは頷いて、二人の話しを聞いていた。


「あのね」


 泣いていたはずの陽架琉が、突然話し始めた。


「ん?陽架琉、どうした? 」


 魂蔵は、優しく聞いた。


「ち、知永生くんは? 」


「……知永生は、頭をぶつけてボンヤリしてたよ」


 魂蔵は、出来る限り冷静に言葉を選びながら言った。


「あ、頭、いたいね」


「痛いね。頭を怪我したから、病院で診てもらってるんだ」


「うん」


 陽架琉は、支援級の先生から分かりやすい言葉で今回のことを聞いていた。


 それでも、やっぱり大切なお(・)兄(・)ち(・)ゃ(・)ん(・)た(・)ち(・)が救急車で病院に運ばれたのはショックと不安だった。

 

 陽架琉も、魂蔵と同じように家族をまた亡くすのかと恐怖に感じていた。

 それを、うまく言葉にすることは出来ずにいた。

 だから、子供ぽい言葉づかいで陽架琉はしゃべっていたのだ。



「もう、病院に着くよ。陽架琉くん、すぐに降りれるようにしてね」


 正智が、言った。


「いいよ」

   

 陽架琉は、そう返事をした。


 車は、数分後に病院の駐車場に着いた。


「陽架琉、シートベルトを外しておりような」


「うん」


 後部座席で二人がシートベルトをガチャっと外してると、陽架琉側のドアが急に開いた。


「陽架琉くん、俺がカバンを持つから渡してくれるかな? 」


 すばるがそう言って、手を伸ばした。


「いいよ」


 陽架琉は、カバンをすばるに渡した。


「陽架琉くんは先に車を下りて、すばると一緒に病院の中に入ってくれるかな? 」


「じいちゃんたちは? 」


「すぐに、じいちゃんたちも行くから」


 魂蔵は、正智の何かを察してそう言った。


「分かった」


 陽架琉は返事をして車から下りて、すばるにサポートをしてもらいながら病院の中に入った。


 その様子を、二人は黙って見ていた。


「じっちゃん」


「正智? 」


「二人とも、大丈夫だよね? 」


 正智の声は、涙が混じって震えていた。

 子供たちの前では、出来る限り冷静な姿を必死に見せていたけど。


 魂蔵の前だからこそ、本性と本音が出る。


「じっちゃんが、すぐに対応をしてくれたから。大丈夫だよね? 」


 正智自身、「じっちゃんがすぐに対応をしたから

大丈夫」と思いたいのとその言葉が彼にとって酷なのも分かっていた。


「二人とも、意識があったから。大丈夫だよね? 」


 魂蔵は黙って、正智の言葉を聞いていた。

  

「二人とも、いなくならないよね? 」


 正智は、あのひ(・)にもしかしたら知永生たちもいなくなってたのかもしれないと恐怖を感じていた。

 

 その想いを、魂蔵にぶつけてはいけないのも分かっている。


 正智は、魂蔵が近くにいたのに家族を救えずに亡くしたことを後悔してるのも分かっているけど。


 でも、今(・)吐き出さないと、救急車で運ばれた二人に会えないと思った。


「正智、ワシは医者じゃないから。二人を専(・)門(・)的(・)な(・)要(・)素(・)をでは助けれてはないと思う」


 黙って話しを聞いていた魂蔵は、重い口調で言った。


「ワシは、長年の経験と救急隊の指示で、出来ることはした」


「うん」


「それに、「二人は強いから。大丈夫だ」と信じて、今は会いに行こう」


「うん。そうだね」


 正智は、ティッシュで涙を拭いたり鼻をかんだりした。


「じっちゃん、ごめん」


「大丈夫だからな」


 魂蔵は、正智に気にしてないように言った。そう言うしか、なかった。


 二人は陽架琉たちと少し遅れて、車から下りて病院の中に入ったのだった。

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