第45話 椿の苦悩 【後編】
陽架琉の叔父の山ノ内 椿 は、約二週間の滞在期間を過ごしていた。
久しぶりの日本への長めの滞在期間なのに、あまりのんびりとは出来なかった。
「倉西 陽架琉と倉西 魂蔵の今後のための書類」を日本に在住してる陽架琉の家族の中でダントツに多い書類の束と戦った。
倉西家に陽架琉と魂蔵が不在の時、知永生とたけしと一緒に書類と向き合っていた。
「二人とも、分からないところはお互いに協力しようか。俺でも分からなかったら、メモにまとめてあとで魂蔵さんに聞いておくから。あと、俺の直筆がいる所も言って」
椿は、知永生とたけしと一緒に書類を書く前に聞いた。
「分かりました」
「椿さん、助かる」
三人は、黙々と書類と向きなあいながら書き進めた。
時々、雑談も挟みながら。
「椿さん、この項目はどう書いたら良いですか? 」
「あぁ、ここはね。こう書いたら良いよ」
椿は書き方の例の紙を使いながら、たけしに説明をした。
「たけし、この言葉を漢字で書きたいんだけど。教えて」
「知永生くん、ちょっと待ってください。これを書いたら教えますね」
「助かる」
「知永生くん、自分で調べてみたら? 」
椿が、クスって笑いながら言った。
「そうなんだけど。スマホで文字を見るより、たけしが書いた字の方が分かりやすいんだ」
「へぇ〜、そうなんだ。確かに、たけしくんの字はきれいだね」
椿は、たけしが書いてる書類を覗き込んで言った。
「職業柄ですね」
たけしは、少し照れながら言った。
「お待たせしました」
たけしは、自前のメモ帳に知永生から聞かれたのを漢字で書いて教えてあげた。
「ありがとう。助かったよ」
「お役に立てれて、良かったです」
「そういえば、知永生くんってさ」
「ん? 」
「いつ、結婚するの? 」
知永生は水分補給をしていて、むせていた。
「知永生くん、驚きすぎですよ」
「だって、急に聞かれたからさ」
知永生は、口元をティッシュで拭いてから言った。
「それで、どうなの? 」
「まだ、結婚しないよ」
「えっ、そうなの? 」
「うん。まだ、今は現状維持かな」
「相棒で、婚約者ってことですか? 」
たけしも話に加わってきた。
「うん。事実婚でも良いのかって、話は出ないこともないんだけど」
「だけど? 」
椿が、言った。
「今は、出来ないって結論になる」
「そうか。これ以上の追求は、しないよ。今はね」
「うん」
「それで無意識でも、自分で何かを想って追い込まないことだよ」
「ありがとう」
椿は、知永生の返事にニコッとしていた。
「たけしくんは、恋愛してるの? 」
「椿さん、恋バナをしたいのですか? 」
「どうして、そう思うの? 」
「さっきから、恋愛について話しるようなので」
「さすが、小説家だね。物事を鋭く観てる」
「褒め言葉として、受け取りますね」
知永生は、たけしが話しをうまく反らしているのに感心しながら、書類とにらめっこをしていた。
「俺ね。家族と今は離れてるから寂しくてね」
「子供たちも大きくなって来てね」
椿は、少し遠い目をした。
「小さい頃は恋バナをしてくれたり、「パパと結婚するの! 」って言ってくれたりしてたんだ」
椿は、笑顔で幸せそうにしていた。
「最近は、それをしてくれなくて寂しい……」
椿は、また遠い目をした。
「子離れ出来ない親だな」
「知永生くん、直球ですね」
たけしは、そう言いながら「ふふっ」と 笑う。
「親ってのは、子離れが出来ないんだ」
「堂々と、真顔で言うことですか? 」
たけしは、まだ少し笑いが残しながら言った。
「うん。そうだよ。家族って、難しくてすごいんだ。妻と夫がいて、子供が生まれて、きょうだいが出来ていく」
椿の顔は、どこか何かを懐かしむように観てた。
「家族って、始まりは他人同士。愛し合って夫婦になっても、離婚をすることもある」
椿は、自分の両親のことを最初に頭を浮かべた。実の父親は、椿の母のやえかと結婚をしたのに浮気をして苦しめていたことを知っていた。
「シワシワのおじいちゃんとおばあちゃんになっても結婚生活を送る人たちもいるんだよ」
そして、次に魂蔵とちよこのことを想った。
二人には、もっと今よりもシワシワになっても結婚生活を続けて欲しかった。
「親は、子供のことがどんなことがあっても大好きで愛してるんだよ」
「一定数は、そうじゃないこともあるけどね」
「愛してるからこそ、不器用になって、すれ違ってしまう」
「それでも、子どものことは自分を犠牲にしてでも守ろうとするんだ」
たけしと知永生は、椿の言葉を聞いて頷いていた。
「子供も、親のことがどんなことがあっても大好きで愛してる」
「でも、誰もが通る思春期や反抗期と本人の性格で、親に酷く反発をしてしまうことだってある」
「それでも、親は自分を捨てることが難しいから。許されるて勘違いをすることだってあるね」
知永生は、あのひを知るまでどこか自暴自棄になっていた。
たけしと知永生にとって、『椿の言葉』は酷く重くのしかかるモノだった。
「きょうだいは、どこか不器用でも親よりも年齢が近いから。親よりも、気の許せる相手だと思うよ」
「たとえ、血が繋がってなくても、兄と姉のように慕う弟と妹がいる。それは、親と子に対しても言えるけど」
居間にいる三人は、たくさんの人を頭に浮かべた。
「まぁ、何が言いたいかと言うと。人はしょせん他人だからね」
「関係性のカタチは、手続きで紙に書くのに必要なだけ」
「俺は、関係性のカタチは何でも良いと思ってるよ」
椿は、知永生を観て笑顔で言った。
「でも、こういう手続きでは関係性が重要になるんだよね」
「誰かを守るためでもあるけど。それが、誰かを傷つけることになるんだよ」
椿たちは、何年も前から交流はあった。
でも、今回のような長期的に直接に過ごすことはなかった。
知永生とたけしは、この時に、椿の考えに共感してどこか親のような兄のように想うようになってきた。
「それでも、この手続きは、じっちゃんたちが今後困らないために書かないといけないんですよね? 」
「うん。たけしくん、そうだよ」
椿は、たけしを安心させるように観た。
「俺は、頻繁には日本に帰りたくても、帰れないからね。魂蔵さんや向こうにいる家族のためにね」
二人は、椿の顔を見てとても切なく感じた。
椿は、約二週間の日本に滞在をして、飛行機で飛びたった。
魂蔵たちは、空港で少しゆっくりとしていた。
「ワシは、椿を苦しめたのかな」
魂蔵は、椿を見送ったあとにポツリと言った。
「椿くん、楽しそうだったよ? 」
陽架琉は、見送りの時に大泣きした顔でニッコリと言った。
「うん。そうだったな。楽しそうに、陽架琉の母ちゃんの味で料理を作ったり、遊園地ではしゃいだりしてたな」
「うん! 」
陽架琉は、さっきよりも笑顔で言った。二人の後ろで、一緒に来ていた知永生とたけしはホッとため息をついていた。
魂蔵は、今回の椿の帰国は倉西家や彼の心にとっては試練の連続だった。
陽架琉の学校でトラブルがあったり書くのが苦しくなる書類の束をかきあげたりした。
魂蔵は、椿が倉西家の墓に通っているのも知っていた。
椿は、墓に通っていることを特に言ってないけど。なんとなく、魂蔵は仕事の合間に墓にお参りをしに来たときに椿を見かけた。
声をかけることなく、魂蔵はすぐにその場を去った。
魂蔵は、まだ自分が椿を止めたせいで彼が家族の死を受け止めることが出来なかったと思っている。
そして、椿がまた少しずつ家族の死と向き合っているから、邪魔をしたくなかった。
「椿くん、楽しそうだったよ? 」
陽架琉が言ったその言葉が、思い悩んでいた魂蔵の心を救った。
確かに、椿は日本での滞在期間はずっと苦しいモノでなかった。
陽架琉が、中学校でのトラブルで苦しめられたのが教師たちの素早く適切な対応で解決をしていった。
学校側は、約束通りにあらゆる専門機関等と協議をして加害者たちへの処罰を下してた。
処罰は、中学生にとってはとても重いものだ。
それでも、加害者たちが自らの愚かな言動に対して、心からの反省がいつ出来るか分からない。
陽架琉は良い子だと言っていた錦城くんとは、友達になった。
お互いが、少しずつ距離感を考えながら過ごしている。
錦城くんのおかげもあって、陽架琉は少しずつ普通級のクラスにとけ込めそうになっている。
陽架琉には、焦らずに、少しずつでいいから。
陽架琉が、安心して同年代の子供と過ごして欲しいと、家族や教師たちはそう想っている。
椿は、そのことですごく安心をしてるようだった。
自分がいる時に、陽架琉の身に起こったトラブルに向き合えたり解決をしていったりしてることが、良かったと思っていた。
それは、いつも椿は海外にいるから、事後報告を聞くだけになっていたのが苦しくて悔しかったのだ。
椿は、魂蔵が依頼した書類を書き上げた。
本当は、投げ出したかったはずなのに、知永生たちの面倒をみながら向き合ってくれた。
魂蔵は一緒に役所に、書類を無事に提出した時の椿の顔を忘れることは出来なかった。
椿は、ホッとしたよな覚悟を決めたような苦しそうな、一言では言えない表情をしていた。
確かに、今回の日本の滞在期間に椿はたくさんの苦悩があった。
でも、椿は楽しそうに笑って過ごしていることがたくさんあった。
そして、椿は搭乗口に行く前に最後に魂蔵に伝えた言葉があった。
「魂蔵さん。俺、今回日本にいる家族に会えって良かったよ。楽しかったよ。だから、また日本に帰りたいと思ってるよ」
その時の椿は、とても良い表情をしていたのだった。
読んでいただき、ありがとうございます。
補足
椿は、宮本家のは1泊したときに、秋原家のは別日にそれぞれ書類に直筆の箇所を書いていた。
【お詫び】
9月29日に 第45話 椿の苦悩 【後編】を投稿する予定でしたが、違うモノを投稿してしまいました。
そのため、割り込み投稿で対応をしました。
申しわけありません。




