↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
44/49

第42話 想像したくないことへの手続き

 陽架琉(ひかる)が家族と遊園地に行った翌朝のこと。


 陽架琉は、「給食を食べたいから、学校に行くの」と言った。

 どうやら、今日の給食のメニューの中に陽架琉が好きなのがたくさんあるようだった。


 それを、遊園地に行った日のしかも寝る前に、陽架琉が決まったことのように言っていた。

 みんなは、明日も陽架琉が休んでも良いように考えたので、急いで新しい見通しを作った。


 みんなは遊園地の疲れがあるが、陽架琉のために朝ご飯を作ったり身支度を手伝ったりした。



「陽架琉。学校に行く時間も考えて、朝ご飯を落ち着いて食べなさい」


「うん。じいちゃん、分かったよ」


 陽架琉は、少し眠そうにしながら朝ご飯の目玉焼きを食べた。


「あっ、そう言えば。椿(つばき)さんって、いつまで日本にいるの? 」


 知永生(ちとせ)は、思い出したようにそう言って椿を見た。


「あと、二週間はいれるよ」


「えっ? 」


 魂蔵(ごんぞう)は、驚いて椿を見た。


「ダメだった? 」


 椿は、不安そうに魂蔵を観た。


「ダメじゃないが。そんなに、長いとは聞いてなくてな」  


「あっ、言ってなかった」


 椿は、やらかしたと表情をプラスして言った。


「俺の奥さんや子どもと向こうの友達に、日本に行くなら買ってきてって頼まれたのもあるからね。一日中、この家にいるわけじゃないから。安心して」


「そうか」


 魂蔵は、一瞬考え込むんだ。


「メシの心配もあったからな。たけしが、食べる分しか用意してないときもある。今日は、バタついててたけしのぶんの朝メシの用意が出来てなくてな。適当に冷蔵庫から食べれるのを出して温めると思うけど」


 朝はバタつくので、その時に一緒に食べる人のぶんしか用意が出来ない時もあった。


「俺、料理なら一通り作れるから。たりなかったら、スーパーで食材を買って作るよ」


「確かに、椿は子供の頃から料理を好きでしてたな」


 魂蔵は、「あぁ、そういえば」と思い出したように言った。


「うん。陽架琉くんのお母さんとよく料理をしてたよ」


 椿は、笑顔で陽架琉の方を見て言った。


「えっ!そうなの?! 」


 陽架琉は、目をキラキラさせて言った。


「今度、作っても良いかな? 」


「うん! 」


 陽架琉は、「やった〜 」と、喜んでいた。


2


 陽架琉が、ニコニコ笑顔で喜んでいるのに知永生と椿が癒させれていた。


 その一方で、魂蔵はあることを思い出して、泣きそうなのがバレないようにするのに必死だった。



 椿とすみれは、子供の頃から料理を好きでしていた。

 始めたきっかけは、二人の母のやえかのためであった。

 やえかは離婚をしてから、仕事や親のご介護と二人の子供の育児で毎日奮闘をしていた。

 すみれたちは、頑張ってる母親のために何か出来ないかなと悩んだ。


 そして、よく一緒にいた純(じゅん)の母親のちよこに相談をした。

 たくさん話し合った結果、料理を作ってお母さんを応援しようとなった。

 二人は、ちよこに弟子入りをして料理の腕を上げていった。

 

 魂蔵は、亡くなったちよことすみれたちのことを思い出して、朝から泣きそうになったのだ。


 知永生は、魂蔵の様子がおかしいのに気が付いていた。


「そういえば、たけしは上で寝てるな」


 知永生は、魂蔵のことを思って話を変えた。


「そうだね。昨日は、お仕事も頑張って、遊園地ではしゃいだから。さすがに、疲れちゃったのかな? 」


 椿は、知永生の意図に気がついて話を合わせた。


「陽架琉、俺のスマホでたけしに電話をしようか。留守電話になっても、「朝ご飯、食べる? 」って聞いたら良いから」


「は~い」


 知永生は、スマホを操作してから陽架琉に渡した。 


「出ないね」


 電話をかけたばっかりなのに、陽架琉はそう言った。この時点では、まだ呼び出し中になっている。


「陽架琉、もう少し待ってあげて」


 知永生は、笑いをこらえながら言った。


「は~い。僕の部屋で電話してくるね」


「待て。なんで、そうなるんだ?! 」


 知永生の慌てように、陽架琉はいたずらっ子の顔をした。


「階段の一段目に、座ってくるね」


「居間から出たいんだな。ご飯の途中だけど。まぁ、そこなら良いよ」


「は~い」


 知永生から許可をもらって、陽架琉は居間から出ていった。

 居間の戸は、半分ぐらい閉められていた。


「こういう時は、いつも電話をしてるの? 」


 椿は、い(・)ま(・)の倉西家の日常を知らないから、純粋に聞いた。


「昨日みたいに、ヤバメのたけしが朝ご飯を食べに来ることもあるけど。体力がないと、爆睡してるから。電話がかかっても気が付かないし、編集者対策で無意識にマナーモードしてるよ」


 知永生は、少し呆れながら言った。


「それって、電話する意味ないよね? 」


 椿は、たけしのことがよく分からなくなりかけている。


「……、全く無いって言えないけど。留守電に入った陽架琉の声で、たけしは体力が回復するから」


 知永生は、どこか遠い目をして言った。


「それに、何で陽架琉くんがここから出たの? 」


 椿の疑問は、尽きなかった。


「陽架琉が、居間から出たのは気を利かせてくれたのかもな。じっちゃんも、そう思うだろ」


「そうだな」


 二人の会話に、椿は「ハッ」とした。


「俺が、姉ちゃんのことを言ったせいだよね。魂蔵さんが、泣きそうになったの。朝から空気を悪くして、ごめん」


 椿は、陽架琉に聞こえないように小声で言って、二人に向けて頭を下げた。


「頭を上げろ」


 魂蔵が言っても、椿は頭を下げたままだった。


「椿が、謝ることじゃない。空気を悪くしたわけじゃない」


「でも、し(・)ん(・)み(・)り(・)は、させたよね」


「否定はしない。でも、椿が悪いわけじゃないから。頭を上げろ」


 椿は、やっと頭を上げた。彼らは、まだいつもよりも小声で話していた。


「どうしても、この家にいると姉ちゃんとちよこさんのことを思い出しちゃって。一緒に、料理を作って、「美味しいね」って笑ってた頃のこと。陽架琉くんに、あ(・)の(・)味(・)を伝えたいなって思ったんだよ」


 椿は、今回の帰国で人前で初めて涙を見せた。


「椿の気持ち、分かるよ。ワシも、ちよちゃんから料理を習ったこともある。でも、いつの間にか、自己流の味になってきたからな。それに、宮本家と秋原家の味も陽架琉に伝わってる」


 魂蔵は、深呼吸をした。


「陽架琉に、またあの味を知って欲しいな」


 魂蔵と椿の頬に、涙が流れる。


「俺、竜輝の家に行って、何度かご馳走してもらったことがあって。それで、竜輝たちのお母さんに作ってもらった料理がすごくおいしかったから。また、その味を食べたいな」


 ずっと、二人の話を黙って聞いていた知永生がそう言った。


「分かった。作るよ。向こうでも、あの味を忘れないように頑張って作ってるからね」


 椿は、涙を拭って言った。


「あっちでも、作ってるんだな」


 魂蔵の言葉に彼は、「日本の調味料を売ってるお店が家の近くにあるんだ。味には、自信があるよ」と言ったのだった。


3


「あれ? 」


 知永生は、時計と陽架琉が座っていた席を交互に見た。


 そして、居間の戸は陽架琉が出ていった時と変わらずに半分だけ開いた状態だった。


「知永生? 」


 魂蔵は、心配そうに言った。


「陽架琉が、戻ってこない。階段のとこ見てくる」

 

 知永生はそう言うと、居間を出ていった。そして、すぐに慌てて、居間に戻ってきた。


「じっちゃん、陽架琉が階段のとこのにいない」


「えっ? 」


 魂蔵の脳裏には、陽架琉が三才の頃に家から脱走をしたことが浮かんだ。


「じっちゃん、大丈夫。陽架琉、俺のスマホを階段のとこに置いてトイレに行ってる」


 知永生は、安心させるよな口調で言った。


「知永生、驚かすな」


「ごめんって。それで、まだ驚くことがあって」


「何? 」


 魂蔵は、また知永生がおかしなことを言わないかと思った。


「たけしと通話中になってるまま」


 知永生は、自分のスマホの画面を二人に見せた。

 確かに、画面にはたけしの名前と通話中の表示がされている。


「陽架琉、電話を切らずにトイレに行ってる。そしては、たけしは寝息をたててる」


「もう、それ切っていいよ」


 椿は、少し笑いをこらえるように言った。


「知永生、あとで陽架琉に電話のことは言っておくから。通話は、切ったらいい」


「そうだな」 


 知永生は、電話を切った。


 たぶん、たけしが無意識にアラームと勘違いをして通話のボタンを押したのだろう。


4


 少し経ってトイレから戻った陽架琉は、魂蔵に電話の使い方について怒られた。

 そして、陽架琉はちゃんと何が悪いかを理解して、知永生にも謝った。


「ほら、陽架琉。早く飯を食べないと遅刻するぞ」


 魂蔵は、マイペースな陽架琉に言った。


「は~い」


「じっちゃん、車で工務店に行く前に陽架琉を学校に送るよ。じっちゃんも一緒に乗ってけば良いから」

 

「知永生、助かるよ」


「良いって。じっちゃんと俺は目的地が同じ。その途中に、陽架琉の学校があるからね。それに、あの車にガソリンを入れて戻さないとだからね」


「そうだな」


 少し経ってから、陽架琉は魂蔵と知永生に連れられて家を出た。


5


 三人が家を出た後のこと。


 椿は、台所に言って冷蔵庫や冷凍庫を物色して、色々と取り出してから調理スペースの前に立った。


 魂蔵には、あらかじめ台所に何をどこに置いてるかを念入りに聞いていた。

 それと、冷蔵庫や冷凍庫の中に何が入ってるかの確認を一緒にして、何でも使っても良いと許可をもらっている。

 元々、この家に在庫がなかったら、買いに行くつもりだったからだ。


 料理を作った後の椿は、ある書類とにらめっこをしていた。


 その書類は、今年のあのひ(・)に魂蔵がたけしに言っていた陽架琉の今後のための手続きに必要なモノだ。


 これを役所に提出して受理がされると、ある意味良いことづくめだ。

 何かあった時に魂蔵の生(・)死(・)関(・)係(・)な(・)く(・)、陽架琉に対しての福祉と行政機関や病院関係で、身(・)内(・)以(・)外(・)の(・)人(・)間(・)が様々な手続きを血縁者と同様に出来るようになる。


 椿は、海外に住んでいることもあり日本在住の人よりも必要な項目が多かった。

 念のために、海外に住む椿の妻や成人済みの子供も陽架琉に対しての手続きが出来るようにする。


 陽架琉は自分で様々な手続きが難しいので、それを成人した大人たちが代わりにすることが目的である。


「身分証明書は、パスポートと住民票……。仕事関係のは……」


 椿は、居間の机に書類を並べてブツブツと独り言を言っていた。

 椿は、自分が住んでいる国にも同様の書類を提出する必要があった。行政の手続きは、とても難しい制約や記入箇所が複雑である。


「めんどくさ〜 」

 

 椿は、一旦書類を観るのを辞めて畳に倒れ込む。 


 この書類は、陽架琉のためになるのは分かっていた。

 今回の帰国は、陽架琉を堪能することやこの書類を書いて提出するのが目的だ。


 行政の手を借りながら、書類を作るにしても土台となるもの直筆が必要である。

 椿は帰国前に、在住先の役所で日本語と英語の二種類で書類を作成をしてもらった。その役所には、日本人がいるので、変な日本語に訳されてなかったら安心した。


 それでも、大量にある書類にうんざりとしてしまう。

 陽架琉が住んでる町の役所に提出する書類は、あらかじめ魂蔵が人数分と書きミスも考えた枚数を手配していた。


6

 

 この時は、陽架琉たちが家を出てから既に数時間過ぎてお昼前だった。


 二階の部屋のドアが開閉したり、廊下を歩いて階段を下りたりする音が家の中に響いた。


 そして、椿がいる居間を素通りして、台所に向かって行く。

 冷蔵庫のドアが開いて中を物色してから、レンジに入れる音たちが聞こえた。


 少し経ってから、「チンっ」と音がする。何度か、その音が聞こえる。


 これが、今(・)の倉西家の音なのかと、椿は居(・)間(・)で静かに耳を傾けた。


 台所から「あっ! 」という小さな声とお盆に乗せた食器がカチャカチャと足音と共に聞こえて、居間の戸の前で止まった。


「椿さん、おはようございます」


 たけしが、少し気だるそうに言った。それは昨日、遊園地前に椿と衝突したからだ。


 彼が台所で小さな声を出したのは、今この家には自分以外に椿がいるのを思い出したからだ。


「たけしくん、おはよう。もうすぐ、お昼だけど。こっちで、朝ご飯を食べる? 」


 椿は、クスっと笑ってから言った。


「はい。両手がふさがってるので、開けてください」


「は~い」


 椿は、素早く机の上に書類をまとめてから、居間の戸を開けた。


「お待たせ」


「ありがとうございます」


 二人は、机を挟んで向かい合うように座った。居間の戸は、半分だけ開いたままにしていた。


「いただきます」


「召し上がれ」


「……今日のは、いつもよりも洋食ですね」


 皿の上には、スクランブルエッグの中に切られたウインナーが入っている。

 そして、ハッシュドポテトとベーコンとブロッコリーと牛乳が入ったマグカップがあった。

 たけしは、パンもあったけど、白ご飯を選んでいた。


「俺が、たけしくん用に朝ご飯を作ったからね」


「えっ? 」


「なんで、この家の人たちは、俺が料理することに驚くのかな」


 椿は、不満を言いつつも顔は笑っていた。魂蔵の場合は、今も椿が料理をしてるとは思っていなかったから。


「スクランブルエッグは、俺が作ったよ。ハッシュドポテトとベーコンは、焼いただけ。ブロッコリーは茹でたよ。まぁ、他にも料理はできるけどね」


「そうなんですね」


 たけしは、じっと何かを確かめるように観てからスクランブルエッグを一口だけ食べた。


「……あれ? 」


 たけしは、何でか涙と懐かしさを感じた。


「たけしくん? 」


 椿は、たけしにティッシュを渡した。それを震える手で、たけしは受け取って涙を拭った。


「……おかしいですね」


「まずかった? 」


 たけしは、その言葉を否定するように首を横にブンブンと振る。


「スクランブルエッグに、懐かしさを感じるなんて」

 

 たけしは、最初にスクランブルエッグを観た時に何かを感じてはいたのだ。


「良かった」


 椿は、ホッとした。


「えっ? 」


「あ(・)の(・)味(・)がする、スクランブルエッグを再(・)現(・)することが出来て良かったよ」


 たけしは、椿の言葉がどういうことなのか分からなくてポカンとする。


 そして、たけしは牛乳を一口飲んでから深呼吸をした。


「僕の母に、頼んでスクランブルの中にウインナーを切って入れて作ってもらいました。でも、あ(・)の(・)味(・)じゃなくて、何にかが違ってて。もう、あれが食べれないんだと思ってました」


 たけしの声や表情は、言葉を一つで現せる事が出来ない複雑さがあった。


 たけしは、何度か竜輝たちが住んでいた倉西家に泊まったことがあった。

 その時に、すみれが作る料理の中に、このウインナーが入ったスクランブルエッグがあったのだ。


 それが、たけしの好物になった。ウインナーと伸びるチーズも入ってるスクランブルエッグが、なんだか特別な感じがした。そして、とてもおいしかった。


「俺の姉(・)ち(・)ゃ(・)ん(・)の(・)味(・)の料理が、出来て良かったよ」


 椿は、涙を流しながらでも笑顔だった。


7


 二人の涙が、少し落ち着いた頃。


「ちょっと、冷めちゃったね」


 椿は、そう言った。


「そうですね。でも、冷めてても、おいしいですから」


 たけしは、そう言った。


「僕、すみれさんにもすごくお世話になりました。今(・)の(・)僕(・)の(・)家(・)は(・)、仲(・)良(・)し(・)家族ですけど。あのひ(・)の前までは、そうじゃなかったので」


 たけしは、また牛乳を一口飲んだ。


「竜輝(りゅうき)くんのお家に遊びに行って、もう帰らなきゃいけない時間になって。すみれさんは、僕が帰りにくそうなのを分かって、代わりに家に電話をしてから何度も泊めてくれました。そのたびに、おいしい料理を作ってくれました。嫌な顔をせずに、いつも笑顔で接してくれたんです」


 たけしは、すみれとの思い出を話した。彼は口には出さないけど、これが理想の母親なんだと思っていた。


「本当にお世話になって、でも何も返せないままになって。すみれさんが作ったくれた料理の味が、時と共によく分からなくなってきてたので……」


 たけしは、言葉と共に涙をポツリポツリと零れ落とす。


「たけしくんが、姉のすみれのことをそう想ってくれて嬉しいよ」


 椿も、また涙を溜めていた。


「俺の姪のあおいちゃんは、たけしくんのお姉ちゃんのきよかさんのおかげで、救われたんだ。二人とも、それぞれの姉に心を支えてもらっていたんだね」


 きよかがあおいを助けた話は、その当時にすみれとの連絡のやりとりで少しだけ聞いたことがあった。

 あおいたちが亡くなった後に、ちよこと魂蔵から話を詳しく聞いていた。


 たけしは、椿の姉の料理や人柄が、心に開いた穴を埋めてもらっていた。


 椿は、たけしの姉が姪のあおいの傷付いて限界だった心を救って繋げてもらっていたのだ。



「たけしくんは、姉ちゃんに何も返せてなんかないよ」


「えっ? 」


「前(・)は竜輝くんの隣にいてくれて、今(・)は陽架琉くんの隣にいるじゃん。親としては、それだけでとても嬉しいんだよ。俺たちは、恩返しや見返りを求めて人を助けてるわけじゃないからね」


「それで(・)良いんですか? 」


 椿の言葉に、たけしは何かを確かめるように聞いた。


「うん。それが(・)いいんだよ。姉ちゃんだって、絶対にそう言うからね」


 椿の笑顔は、どこかすみれに似ていた。


8


 たけしが、また心が落ちつけてからのこと。


「さすがに、冷めすぎたかな。たけしくんが、やけどしない程度で温め直すね」


 この家の台所の冷蔵庫には、レンジ温める時にたけしにとっての適温になるようにワット数や時間を書いたメモ紙が貼られている。


「すみません」


「大丈夫。温かいものを食べてほしいだけだからね」


 椿は、朝ご飯が乗ったお盆を持って、半分だけ開けたまま戸を器用に軽く横にスライドをさせてから居間を出た。


 たけしは、一人だけ居間に残った。

 そして、たけしは椿が机の端にまとめて置いていた書類が目に入った。


「これって? 」


 たけしは悪いと思いつつも、その書類を手に取った。


「前に、じっちゃんが言ってた……」


 たけしはそういった後に黙って、その書類の束をペラペラとめくって内容を観た。

 最初の罪悪感を少しだけ残しながら、椿が居間に戻ってくるのも忘れて。



「たけしくん」


 椿の声は、少し低かった。たけしは驚いて、手に持っていた書類の一枚がヒラヒラと畳に落としてしまった。


「あっ…… 」


 たけしは声のする方を観ると、居間の中に既にいた椿と目が合った。


「すみません」


「俺、別に怒ってないよ。見えるところに、それを置いてたのが悪いからね」


「でも……」


「まぁ、怒るとしたら。俺の家族の個人情報のことかな。取扱いに気をつけて」  


「すみません」


 たけしは、落としてしまった一枚を拾って、他の書類にまとめなおして机の上に戻した。


「たけしくん。もう、謝るのは終わりにして。温め直したから、冷めないうちに食べて」


「分かりました」


 たけしは、自分にとっての適温で温め直しされた朝ご飯を食べ始めた。


「食べながらで、良いからね。今から言うのは、俺の大きな独り言にしようか」


 椿は、そう前置きをした。


「俺だって、この書類を書きたくないな。だって、魂(・)蔵(・)さ(・)ん(・)が(・)い(・)な(・)く(・)な(・)っ(・)た(・)ことも含めた内容だからね」


 椿の言葉に、たけしの心はドキッとした。


「いつかその時が来ると分かっていても、そんな未来を俺たちは想像したくない」


9


『 倉西 陽架琉が心身の事情により、福祉機関と行政などの手続きや管理が困難である。

 そのため、代理人として祖父の倉西 魂蔵が手続きを行(おこな)う。


 倉西 魂蔵が、病状また死亡により代理人として手続きが困難な時は、陽架琉の伯父の山ノ内(やまのうち) 椿が行う。


 伯父の山ノ内 椿は海外在住のため、日本での迅速な手続きが困難である。

 そのため、さらに下記の者たちを代理人として推薦する。 』


 というような感じの文章が書かれているのもある。


『 倉西 魂蔵が、勤める宮本工務店の社長の宮本 勘助(かんすけ)、妻のこはる、長男の知永生。

 近所に住む知人であり、長年交流のある秋原 正智(まさとし)、妻のちさこ、長男のすばる、長女のきよか、次男のたけし。

 以上の計九名が、倉西 魂蔵が代理人として困難である場合に、倉西 陽架琉の手続きへの代理人とする。


備考


 複数の代理人をたてる理由として、事件事故や病死と自然災害への予期せぬ場合を考慮したため。


 倉西 陽架琉の父方の祖母と母方の祖父母と両親ときょうだいは、既に死亡。

 倉西 陽架琉の両親ときょうだいが死亡時に、宮本家と秋原家には長きに渡り、生活面と精神面を支えられている。

 

 これにより、倉西 陽架琉の代理人として適性があり推薦した。 』


 という文章があり、別のページには『山ノ内 椿の妻と子も必要時には、代理人とする』と書かれている。


 例えば、椿が海外で病状または死亡によって代理人として困難だったり、日本と連絡が取れなかったりする場合がある。

 その時に、妻と子供が代理人としている方が福祉機関とや行政などの手続きや管理ができる。


 それは、日本にいる代理人の情報の変更をする場合にも、椿たちが在住してる国でも手続きが必要になるからだ。

 他のページには、代理人の個人情報がびっしりと書かれている。


10


 この書類と別に魂蔵を対象にしたモノも提出する予定になっている。


 陽架琉は、魂蔵のも(・)し(・)も(・)の(・)時(・)の手続きが困難である。

 そのため、陽架琉の代理人たちが魂蔵に対しても、代理を務めるという書類を提出するのだ。


 全ての書類には、何度も『倉西 魂蔵が、病状また死亡により手続きが困難な時』と書かれている。


 これは、生きている人たちにとって残酷なことである。

 今も、必死で元気に生きてる魂蔵に、何かあった時のことを考えないといけないから。


 みんなが、魂蔵がこの書類を提出する覚悟と想いを知っている。

 でも、やっぱりお世話になった人のもしものことを考えるのは、とても不安で恐ろしい。


「俺が、日本に戻ったのがこれを提出するため。日本と違って、あっちだといろんな国の情勢がすぐに左右されることもあるからね。日本に帰れる時に、書いて提出しようって」


 椿が在住してるところは、戦争をしない日本よりも離れた国。

 戦争が出来る国だけど、そこまで物騒ではないが、戦争以外にも物価高や銃社会で起こる問題がある。


 まだ、色々なことが安定してる時に、必要な手続きをするほうが何かと良い。



 生きている限り、想像したくもないことを想像して、もしもの手続きをしなければならない時がある。


 椿は、書類の束をペラペラとめくる。


「どっかのページに、たけしくんの直筆で色々と書いてもらう必要があったよ。後で、頼むね」


「分かりました。たぶん、僕のもあると思うのでお願いします」


 この時は、既に魂蔵からたけしに同じような書類を渡されている。

 でも、たけしはそれを封筒から出さずに、押し入れにしまっていた。


 それは、たけしも、魂蔵のも(・)し(・)も(・)を想像して書きたくなかった。

 視界にも入れたくなくて、真っ暗な闇に隠した。


「めんどくさくても、嫌でも、魂蔵さんと陽架琉くんのためになるからね。これがないと、も(・)し(・)も(・)の(・)時(・)に困るのは、彼(・)ら(・)だよ」


 椿の声は、鋭かった。その声に、たけしは肩がビクッとする。


 もう既に、たけしは遅めの朝食を食べ終わっていた。


「俺が日本に住んでいたら、良かったのにな」


 椿が、いろんな感情が混じった声でポツリと言った。


「俺が、日本にいたらさ。秋原家や宮本家をここまで、巻き込んで人生に影響を与えなかったのかな」


 椿は、声を震わせながら言った。


「俺が選んだ人生の分岐点で、姉ちゃんたちに会えなくなったのかな」


 椿は、居間の棚に飾っているすみれたちの写真を観た。


「会えなくなる前に、もっともっともっと、たくさんの思い出を作れば良かった」


 椿の頬には、涙(こうかい)が流れた。


「俺、自分が憎くて堪らないんだよ。こう見えてね」


 椿は視線の先をたけしに戻して、苦しそうに笑う。


「だから、もうこういう想いをしないために、この書類と向き合って提出してね。少しでも、気を楽にしたいんだ」


 たけしは、椿の感情に共感をしたいと思った。


「秋原たけしくん、これからも魂蔵さんと陽架琉くんのことをよろしくお願いいたします」


 椿は、固まっているたけしにむけて頭を下げた。


「椿さん、頭を上げてください」


 椿は、頭を上げた。


「椿さんは、じっちゃんと知永生くんから、僕のことで何か聞いているんですか? 」


「やっぱり、バレてたか」


 椿は、頭をかいた。


「そうだよ」


 椿は、真っすぐ応えた。


「なんて? 」

 

「陽架琉くんに対しては、ひくぐらい全力。でも、たけしくんは、こういうことに関しては怯えて出来ないって」


 たけしは、それを言ってる二人の姿が想像出来きた。


「たけしくん、他のみんなのように書けないなら。俺と一緒に書こうよ」


「えっ? 」


「たけしくんからしたら、俺は陽架琉が思う家族の中では一番の他人だ。俺とたけしくんは、まだみんなよりもつよい関係性じゃないから。俺が、陽架琉くんの伯父だとしてもね」


 椿は、少しだけ寂しそうに言った。


「たけしくんの身内や関係が強い人たちとは、一緒にすることは難しくても。案外、俺のような他人となら出来ると思うよ」


「考えておきます」 


「うん。それで良いよ」


 たけしは、頷いた。


「あっ! 」


 椿は、思いついたように手を叩いた。


「今度は、何ですか? 」


 たけしは、じっと椿の方を見た。


「学生の頃のように。知永生くんと一緒に課題で解けない問題を解いていったら良いんだよ」


「えっ、なんか軽い気がするんですけど……」


「書類の内(・)容(・)は、重い。でも、書類の材(・)質(・)は、ただの紙だから一枚一枚はペラペラで軽いんだ」


「そういう問題ですか? 」


「フッ、そういう問題」


「椿さん、笑ってるじゃないですか。それって、無理矢理のこじつけって、自覚してるってことですよね? 」


「たけしくんも(・)、笑(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)よ」


「えっ? 」


 たけしは、自分がその表情をしている自覚がなかった。


「ねっ、少しは気が楽になったんじゃない? 」


 たけしの眼の前にいる椿は、少し心配そうに様子をうかがっていた。


「そういうことに、しておきます」


「うん。それで良いよ」


 椿は、優しい表情をして言った。


11


 数時間後に、魂蔵だけが家に帰ってきた。知永生は、まだ工務店の仕事をしている。


「魂蔵さん、おかえり」


「椿、ただいま。それは、いったいなんだ? 」


 玄関に行って出迎えた椿は、身体をかがめて頭を魂蔵の方に向けていた。


「撫でてください」


「ハァ? 」


 椿の直球すぎる言葉に、魂蔵は思わず素が出た。


「俺は、魂蔵さんたちに頼まれたことを無事に解決が出来たので。ご褒美が欲しくて」


「椿、今年でいくつになったんだ。ガキじゃないだろ」


「俺は、ガキだよ」


「ハァ……」


 魂蔵は、ため息をついた。


「俺は、勝手かもしれないけど。魂蔵さんのもう一人の子供だよ」


 椿は、頭を上げてまっすぐと魂蔵を見つめた。


「そうだな。椿は、ワシの子だ」


「魂蔵さんがよく言ってたでしょ。親は、子供が大人になってもいつでも子供のままだって」


「年だから、忘れかけてたよ。ごめんな」


「謝らなくて良いから、撫でてよ」


 椿は、また頭を下げて撫でられ待ちをした。


「椿は、頑固だな。誰に似たんだが」


「魂蔵さんだよ」


 魂蔵はその言葉が嬉しくて、照れを隠すように椿の頭を思いっきり撫でた。


「魂蔵さん。ありがとう。おかげで、頭がすごくボサボサになったよ」


 椿はボサボサの髪で、満足そうな表情をして言った。


「おい。礼なのか、文句なのかどっちだ? 」


「魂蔵さん、俺たちにとっては温かくて明るい気持ちになれる魔(・)法(・)の(・)手(・)だからね。これぐらいが、ちょうど良いんだよ」


 魂蔵は、椿の思考も少し様子がおかしくて心配になった。

 でも、自分の手が椿にとって良(・)い(・)魔(・)法(・)が使えてるのなら、「良いのか」と思えて笑った。


12


 二人は、まだ玄関近くの廊下にいた。


「そういえば、たけしは? 」


 魂蔵は、少し声を小さくして聞いた。


「二階の部屋にいるよ」


 椿も、声を小さくして言った。


「そうか」


「魂蔵さんは、洗面所で手洗いとうがいをしてから居間に来て。俺は、おやつの準備して居間にいるよ」


「おう」


 少し経ってから、魂蔵が居間に入って来た。


「椿は、それ出来てるのか? 」


 魂蔵は、机にまとめられている「もしもの書類」を指さした。


「う〜ん。………、三分の一…………は、出来たかな? 」  


「すごく長い間(ま)を感じたけど。椿の分量なら、そうなるよな」


 魂蔵は、頷いた。椿の場合は、日本にいる関係者よりも量が多いからだ。


「たけしくんのことだけど」


 椿は、居間の戸が完全に閉まっているのを魂蔵越しに確認をした。


「おう」


 魂蔵は、たけしが遅めの朝食の時にいたところに座った。


 椿は、たけしと最初に会ったりご飯を温め直して戻ったりした後のことをかいつまんで話しをした。


「そうか」


 魂蔵は、うつむいていた。


「俺が台所から居間に戻った時に、これを机の上に置いてたのをたけしくんが見つけてね」


 椿は、一度深呼吸をした。そして、コップに入れたお茶を一口飲んだ。


「たけしくんが、なんていうか……。すごく思い詰めた顔をしてたんだ」


 椿の声が震えていて、魂蔵は頭を上げて心配そうに彼を見た。


「俺も、分かってはいるけど。この書類の重みとか残酷な気持ちとか色んな感情で苦しくなるから。たけしくんは、俺よりも身近に感じてる大切な人のことだからこそ、よりそう思うのかな」


 椿は、苦しそうに笑う。


「すまないな。ワシが、椿たちの重荷になって……」


「それは、違うから。これをしないと、後々困るのは俺たちだから。今(・)、しないといけないんだ」  



 魂蔵が落ち込みながら言ってるのを、椿の言葉が被せられた。

 椿の言葉に、魂蔵は苦しそうに頷いた。


「さっき、俺がたけしくんのことで解決したって言ったでしょ」


 椿は、少し空気を変えるように明るい口調で言った。


「うん、言ってたな」


 椿は、たけしに言った二つの提案を話した。


「なんか、椿らしいな」  


「それって、褒め言葉? 」

 

「そういうことにするが、頭はさっき撫でたからな」


 椿は、また頭を撫でてもらおうとしていた。


「え〜 」


 魂蔵に先手を打たれて、不満そうに言った。


「フッ」


 魂蔵は、それがが子供の頃の椿の面影が残っていて、嬉しかった。


「椿、一緒に陽架琉の迎えに行くか? 」


 それを隠すように、魂蔵は話題を変えた。


「行くよ」


「じゃあ、書類を部屋に閉まってこい」  


「は~い」


 椿は、書類を床に落としてないかを確認をした。


「ついでに、たけしの様子をみてきてくれ。行けそうなら、一緒に陽架琉の迎えも誘ってくれ」


「うん。分かったよ」


 椿は、書類の束を持って居間を出た。


13


 椿が、この家に滞在時に使っている部屋は二階の奥にある。


「たけしくん。今、大丈夫? 」


 椿は、書類を部屋に行って片付けた。その後に、たけしの部屋のドアをノックして声をかけていた。


「……はい。大丈夫です。どうぞ」


 たけしの声は、まだつらそうだった。


「入るね」


 椿が、そう言って部屋に入った。


「電気、つけないの? 」


 たけしの部屋は、カーテンを閉め切って照明をつけていなかった。カーテンから透けた光が部屋に広がっていた。


 たけしは、ベッドの上で掛け布団の中に包まれて寝ている。


「体調、悪い? 」


 椿は、心配そうに聞いた。

 彼は部屋の中に入っても、たけしとは程よい距離感の所で立っていた。


「…… 」


「魂蔵さんが、帰ってきたよ」


 たけしは、無言のままだった。


「今日の陽架琉くんのお迎えは、魂蔵さんと俺で行くことになってね。魂蔵さんに、たけしくんを誘ってこいって頼まれたんだ。一緒に行かない? 」


 掛け布団の塊は、モゾモゾと動いてたけしの顔を出した。

 彼の目は、涙を流し過ぎて腫れていた。


「そういうことか」


 椿は、納得するように頷いた。


「……はい」 


 たけしは、少し間をあけて言った。


「今日は、お留守番にしておく? 」


「陽架琉くんで、早く充電をしたい気持ちもあるのですが」


「無理しなくて良いよ。でも、外の空気を吸った方が良いかもね」


 たけしは、ゆっくりと身体を起こしてベッドから出た。


「とりあえず、下に行きます」


「そうしようか」


 二人は、部屋を出て階段を下りた。


 そして、二人で居間に戻った。


「魂蔵さん、たけしくんを連れてきたよ」


「ありがとう。少し遅かったから、心配したんだ」


 魂蔵は、ホッとして言った。


「たけし、ワシに顔を見せてくれ」


 魂蔵は、椿の後ろに隠れているたけしに向けて言った。


「はい」


「たくさん、泣いたんだな。スッキリしただろ」


 魂蔵は、優しい表情をして言った。


「はい」


「でも、それで外には行きにくいよな。良いものを貸してやる」


「えっ? 」


 魂蔵は、居間から出て自分の部屋に行った。そして、あるものを持ってまた居間に戻った。


「たけし、これでもかけてろ」


「サングラスですか? 」


「あぁ。ワシが若い頃に買って、よくかけてたんだ。古いが、まだ使えれるから」


「確かに、魂蔵さんがそれをかけてたの思い出した。それで、ヤクザと間違えられてたことをあったよね」


 椿は、思い出し笑いをしながら言った。


「椿、最後のは忘れろ」


 魂蔵は、恥ずかしそうに言った。


「ありがとうございます。でも、これをいきなりして、陽架琉くんにビビられたら………」


 たけしは、想像しただけでもこの世の終わりのように感じた。


「それは、大丈夫。ワシも時々目を腫らした時にかけてるのを見せてるからな」


 魂蔵は、なんでもないかのように言った。


「えっ? 」


 たけしは、当然驚いた。


「陽架琉には、人間はサングラスをかけたいときもあるから。「そういうもんだって思ってたら良い」って教えてる」


「魂蔵さん、陽架琉くんはそれで納得するの? 」 


 椿は、動揺と疑問に感じて聞いた。


「納得さ(・)せ(・)た(・)」


「そうなんだ」


 椿は、魂蔵の言葉と表情を観て、それ以上追求するのをやめた。


「これをかけて、たけしも中学校に行こう」   


 魂蔵は、気を取り直すかのように言った。


「はい」


 たけしは、やっとサングラスを受け取った。


「たけし、意外と似合ってる」


「インテリヤクザぽくて」 


 二人は、交互に感想を言った。


「二人とも、それって褒めてますか? 」


 たけしは、ムッとした顔で言った。


「「褒めてるよ」」


 二人は、声を揃って言った。


 そして、やっぱりヤクザなのかと、三人で笑った。


14

 

 三人は、陽架琉を迎えに行くために家を出た。


「陽架琉くんの反応が、怖いです」


 たけしは、不安そうに言った。彼は、時々眼鏡をかけることもあるが、グラサンはなかったからだ。


「大丈夫ですかね? 」


 たけしは、家を出て少し経っても、二人に何度も不安そうに言った。


「たけし、家に戻って目を冷やしに行くか? 」


「じっちゃん、今の僕に必要なのはただ一つだけです。それは、早く陽架琉くんで充電することです」


「ハハッ、そうか」


 魂蔵は、たけしがいつもの調子に戻ってきたのに安心した。


「魂蔵さん。そういえば、俺が陽架琉くんの中学校に行くことは先生たちに伝えてる? 」


「あぁ、伝えてるよ。二人が、まだ二階にいる時に電話がかかってた時にな」


「良かった。何も言わずに行ったら、先生たちを驚かすところだったから」


「確かに、そうなるよな」


 三人は、話しながら歩くと思ったよりも早く学校についた。


 そして、陽架琉は魂蔵と一緒に迎えに来た椿とグラサンをかけているたけしに驚いていた。


「たけしくんは、そういうもんなんだね」


 陽架琉は、じっとたけしを見た後に言った。


「はい、そういうもんです」


 二人の会話を、少し後ろに聞いていた魂蔵と椿はコソコソと話していた。


「魂蔵さん。陽架琉くん、本当にそういう覚え方してるじゃん」


「だから、納得させたって」


「なんか、実際にあの様子を観ると面白いよ」


「確かにそうだな」


 二人は、小さく笑った。


15


 四人で倉西家に帰ってから数時間後のこと。


「ただいま〜 」


「知永生くん、おかえり〜 」


 陽架琉が、仕事を終えて帰ってきた知永生を玄関でニコニコと出迎えた。


「陽架琉、機嫌が良さそうだな」


「うん〜!だって、たけしくんがインテリヤクザに、なったから?そういうもんだよ」


「えっ?ちょっと、待って。陽架琉。俺、帰ってきて早々によく分からないんだけど」


 知永生は、玄関に上がる前から陽架琉の唐突にごちゃ混ぜになった言葉で混乱をしていた。


「ふふっ 」


「あっ、椿さん」


 知永生は、椿が廊下で笑ってるのに気がついた。


「知永生くん、後でそのことを教えてあげるから。先に、手洗いうがいをしておいで」


「分かった」


 その後、手洗いうがいをして居間に来た知永生は、陽架琉が言った言葉の一部始終を正確な内容を聞いた。


 そして、知永生はたけしのグラサン姿を見て大笑いをしたのだった。

読んでいただき、ありがとうございます。


補足

作中に出てくる役所に提出する書類や仕組みについて。

実際の現実世界に、似たようなモノがあるかもしれませんが。

作中に出てくる書類は、全て僕が考えたフィクションです。


 今回の書類については、第36話「陽架琉の心の波」にも出てきます。

気になる方は、ぜひ探してみてください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。