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第38話 僕のお兄ちゃんたち

 陽架琉(ひかる)は、学校から兄と姉のアルバムをもらってから毎日のように見た。 


 アルバムには、写真の他にも教師たちのメッセージも書かれていた。


「竜輝(りゅうき)くんは、周りに気づかれないようにたくさんの人を助けていました。周りに気づかれると、その人が困ることもあるから」


「竜輝くんは、困ってる人を見つけると、すぐに駆け寄って助けることもありました」


「竜輝くんがいると、みんながすごく団結をして行事に参加をしてました」


 竜輝は、中学三年の途中まで在籍をしていたので、たくさんのコメントと写真があった。



『竜輝くんは、一年生の運動会の時に自分のクラスのテントから抜け出してました。この写真は、知永生(ちとせ)くんとたけしくんと一緒にいるところを見つけて撮った写真です』

 

 知永生とたけしの隣いて、笑顔で写る竜輝の写真が何枚か貼られていた。


2


 ある一人の教師が、今回の陽架琉のために作ったアルバムの写真を集めたのを整理整頓をしてる時のことだ。


 その教師は、ある一枚の写真を見つけてし(・)ま(・)っ(・)た(・)。

 それを見つけて、手は震えて思わずに落としそうになった。


 その写真には、こういうタイトルがつけられていた。


『運動会を見に来ていたあおいさんと陽架琉くんと一緒に写ってる竜輝くん』


 一人の教師は、その写真を撮った当時のことを思い出した。


『先生、来て! 』


『倉西くん? 』 


 この一人の教師は、竜輝の副担だった。彼女は、竜輝に言われてテントを一緒に出た。


『先生、俺の妹と弟だよ! 』


 副担は、紹介された人たちをみた。一人の小学高学年の女の子が、赤ちゃんを向き合うように抱っこしていた。

 


 竜輝は、普段の学校生活ではあまり見せないニコニコの笑顔になって紹介をした。


『お兄ちゃんが、お世話になってます』


 あおいは、ペコリとお辞儀をした。


『竜輝くんには、いつも先生やクラスメイトの困りごとを見つけては助けてくれますよ』


『俺は、当たり前のことをしただけ』


『お兄ちゃん、照れてる』


 あおいと副担は、少し笑った。


『先生、妹のあおいは、再来年からここの一年生になるんだ』


『そうなんですね』


『……はい』


 あおいは、少し不安そうにしていた。それが、副担には印象的だった。


『先生が、まだこの学校にいたら。あおいのことを、よろしくお願いします。俺は、再来年は受験で忙しかもだから』


『私が、二年後もこの学校にいるかは分からないけれど。二年後も、あおいさんに会えることを楽しみにしてますね』


 副担は、言葉を選びながら言った。


『ありがとうございます。あっ、陽架琉。髪の毛を引っ張らないで』 

 

 陽架琉は、あおいの長い髪をつかんで引っ張った。


『弟の陽架琉。今、絶賛人見知り。それと、俺たちだけで話してるから相手をして欲しいみたい』


 竜輝は、陽架琉が認識しやすい位置に移動をした。


『陽架琉。お兄ちゃん、いるよ? 』


 あおいの声に、陽架琉は竜輝の方を見た。 


『にぃ〜 』


 陽架琉は、竜輝に手を伸ばす。さっきまで、背中側に竜輝がいたので認識が出来ていなかったのだ。


『ひーくん、ごめんね。俺、今は汗とか土でバッチィからさ。お家に帰ってから抱っこをするよ』


 陽架琉は、ムッとした顔をしていた。全然、納得をしてないようだ。


『あっ、先生。カメラを持ってるよね』


 竜輝は、いきなり副担の方をみて言った。


『持ってるけど。それが、どうしたの? 』


『せっかくだから、俺たちを撮って』


『『えっ? 』』


 副担とあおいが、驚いた声を出す。その声が良かっのか、陽架琉の機嫌は良くなった。


『ほら、早く撮って』

 

『お兄ちゃん、無理を言ったらダメだよ』


 あおいが、竜輝の無茶振りを止めようとしていた。


『一枚だけだよ』


『先生、すみません』


『大丈夫ですよ』


 副担は、明るく言った。


『陽架琉、一回降ろすよ』


『あおい、手伝うよ』


 あおいはしゃがんでから、陽架琉の向きを変えた。竜輝が少しサーポートをして、あおいは陽架琉を抱っこし直すことができた。


『は〜い、撮るよ!』


 副担は、明るく言った。


『ひーくん。ニコニコ〜 』


 竜輝がそう言ったら、陽架琉はニコニコと笑った。


 そして、副担にはカメラのシャッターを切った。三人きょうだいの写真が撮れた。


 この一枚だけは、副担はなぜか今(・)撮らないといけないと強く思った。 

 理由は、いくら考えても分からなかったけど。撮れて良かったと心の底から思った。


 しかし、副担はこの写真を撮って印刷をしても、今まで竜輝や魂蔵(ごんぞう)に渡せれずにいた。




 副担は、その当時の運動会が終わったあとのことだ。彼女は急遽家庭の事情で、しばらくの間休職を余儀なくされていたからだ。

 そして、彼女の頭から写真のことがスッカリ抜け落ちてしまった。


 あのひ(・)になった。


 副担は、運動会の二年後に『受験生連続放火殺傷事件』の被害者に遭った竜輝とあおいが訃報を聞いた。

 そして、陽架琉が無事だったことも知って、安心をした。


 でも、副担はすごくショックを受けて、その場で泣き崩れた。

 彼女の中でたくさんの色々が繋がっていく。その中で彼女は自分の子供と繋がって、すごく恐くなった。


 彼女が少し落ち着いた頃に、彼女の頭の中で写真のことがよぎった。


 彼女は、休職することになって渡せずにいた竜輝たちの写真を大切に自宅の棚に閉まっていたのだ。

 そして、二人の訃報を聞いてから、棚にしまい込んだ写真を何度も何度も取り出しては観ていた。

 彼女はそれを観て、あることを思い出して心が苦しくてたまらなくなった。


 竜輝に、妹のあおいのことを頼まれていたことだ。  

 初めて会った時のあおいの表情が、どこか不安そうにしていたのが気になっていた理由の一つだった。


 副担はあまりにも急することで、自分のクラスにも同僚にも、別れの挨拶が出来ずに、学校を出ていくことになった。


 だから、彼女は家庭の事情が落ち着けて、学校に少しの時間でも作って生徒たちに会って話をしたかった。

 その目標のために、彼女は毎日を必死に過ごしていたのだ。


 それを『受験生連続放火殺傷事件』が、あのひ(・)が突然の予告もなく止めてしまったんだ。


 彼女は、あまりのショックと今までの無理がたまって心身共に疲弊した。それで、入退院を繰り返すことも、あった。


 でも、彼女はあることを思った。あおいに抱かれていた陽架琉が、もう少しで中学校に入学をするかもしれない。


 陽架琉が望むなら、竜輝とあおいと一緒に写ってる写真を今度こそ渡したい。


 それが、彼女の心をまた動かす活力になり、しっかりと療養と勉強を並行して行った。 


 陽架琉が中学校に入学する二年前に、彼女は教師に復帰を果たした。


3


 陽架琉は、その写真を特に嬉しそうにみんなに見せた。


「見て! 」


「どうした? 」


「ん? 」


「どうしましたか? 」


「赤ちゃんの僕とね。お兄ちゃんとお姉ちゃんがいるの! 」


 みんなは、最初だけ驚いた。でも、次第に苦しくなって、嬉しくもなった。

 

 きょうだい三人で、写っているのが遺っているのは思ったよりも少なかったからだ。


「なんで、いるのかな? 」


 陽架琉は、不思議そうに言った。写真の中の陽架琉は0才だったので、当然運動会に行ったことを覚えてなかった。


「あっ、思い出した」


 知永生が、言った。


「竜輝が、中一の運動会の時に、あおいちゃんと陽架琉を連れて歩いてた」


「あっ、確かにそうでしたね」


 魂蔵は、当時の運動会は急遽仕事が入って見に行けなかった。


「あとで、竜輝が一人でいる時に聞いたんだ。たけしは、委員会の仕事でいなかったんだよな」


「確か、運動会の時に僕は委員会の仕事をしてました」


4


 知永生は、当時のことを思い出しながら話しだした。


『竜輝。さっき、あおいちゃんと陽架琉を連れて何してたんだ? 』


『挨拶周りだよ』


 竜輝は、平然と言った。


『挨拶周り? 』


『うん』


『それだけじゃ、分からないぞ』


 知永生は、「相変わらず言葉足らずたな」と思った。


『あおいが、再来年になったら、この学校に来るからね。まだ、今の先生たちがいるか分からないけど。先生たちに俺の妹を覚えてもらってたら、何かあっても助けてくれるかなって』


『優しいな』


『俺は、当たり前のことをしただけ。それに……』


『それに? 』


『あおいは、小学校でしんどそうだから』


『竜輝、心配してんだな』


『うん』


 竜輝なりに、あおいのことが心配でたまらなかった。そして、自分に出来ることを考えて行動をしていたのだ。

 


『竜輝、機嫌良さそうだけど。他にも、挨拶周りの理由があるだろ? 』


 竜輝は、少しうつ向いてから頷いた。図星だった。


『もしかして、あおいちゃんと赤ちゃんの陽架琉を自慢するのを含めた挨拶周りだったか? 』


『だって、二人ともかわいいから』


 竜輝は、真顔で言った。


『竜輝、俺たちには素直だな』


『だって、あおいは女の子だけど。年齢的に嫌がるかもだから』


『竜輝は、本当に優しいな』


『知永生くん、それ以上言わないでよ』


 竜輝は、顔を真っ赤にして言った。


『ちょっと、頭を撫でないでよ』


 知永生は、竜輝の頭をワシャワシャと撫でた。


『ご褒美。小さいときから、好きだっただろ』


『そうだけど』


『認めるんだな』


 竜輝は、コクっと頷いた。


『あっ、そろそろ戻んないと』


 竜輝が、運動場に流れるアナウンスを聞いて戻ろうとした。


『あっ、逃げた』


 竜輝は、知永生に背中を向けた。


『竜輝、自分にも優しくな! 』


 知永生の言葉に、竜輝は止まって振り返った。


『分かってるよ!俺(・)が(・)、(・)好(・)き(・)で(・)や(・)っ(・)て(・)る(・)か(・)ら(・)。大丈夫〜! 』 


 竜輝は、ニカッと笑って言ってテントに戻った。


5

 

 知永生は、この出来事を話してる途中で一瞬だけ涙声になった。

 竜輝の話をして、少し苦しくて懐かしくなったから。


 そして、自分たちがよく魂蔵に言ってる言葉が、竜輝もあの時に言っていたのを思い出した。


 「俺が、好きでやってるから」は、無意識で竜輝が言ったことも同じように自分も言っていた。 

 竜輝が無理をしてないかが、心配で聞いたらそう返された。

 これって、知永生自身も同じことが何度もあったから。それが、嬉しいようでつらかった。


 でも、陽架琉にこ(・)う(・)い(・)う(・)こ(・)と(・)は、なるべく気づかれたくなかった。


 それは、三才の時に陽架琉は一緒に暮らしてる家族を亡くて、記憶があまり残ってないから。


 「自分には、陽架琉のように悲しむ資格がない」と、知永生はそう思うことがい(・)ま(・)だ(・)にあった。


 陽架琉は、家族との思い出がおぼろげで、鮮明な記憶や思い出が、今後更新されることがない。


 知永生は、竜輝とは血の繋がりのある家族ではないけれど。陽架琉よりも長い時を共に過ごして、これ以上新しい思い出が更新されることはない。


 比べたり、言葉に現したりしたら、知永生の悩みはおかしいかもしれない。


 でも、誰だってニュースやドラマでも自分の家族じゃない人が亡くなったら、悲しくて落ち込んでしまう。


 陽架琉は、一緒に暮らしていた家族をあのひ(・)に全員を亡くしたんだ。

 家族を亡くした陽架琉は、今でも心が荒れることもある。彼が苦しんでいることも、ちゃんと知永生は分かってる。


 知永生は、自分が竜輝たちとは血の繋がりのある家族じゃないけど。

 本当に、あのひ(・)からとつもなく苦しくて悲しくてつらくてたまらない。


 それは、確かにそうだけど。知永生自身は、陽架琉に気が付かないようにしてることで、涙を見せたくない理由(わけ)があった。


 『陽架琉には、自分が頼れるかっこいい兄代わり』って、ずっと思ってもらいたかった。

 そう思ってくれると、知永生はなんだかその役(じふん)になって、立っていられるから。


 知永生は、たけし以外にも魂蔵や彼女のまゆみに弱(・)さ(・)を見せることができるようになってきた。


 でも、陽架琉にだけは弱さを見せたくないんだ。


 だって、竜(・)輝(・)は(・)、(・)陽(・)架(・)琉(・)に(・)弱(・)さ(・)を(・)見(・)せ(・)な(・)い(・)よ(・)う(・)に(・)していたから。


 竜輝が陽架琉に見せる姿は、「優しくて、かっこよくて、デレデレ」だった。時々、陽架琉が悪さをしたら、ちゃんと怒ることもあるけど。


 いつの間にか知永生は、どこか竜輝らしさを自分のなかに入れて陽架琉の兄代わりをしていた。

 だから、弱さをなるべく見せないようにしていたのだ。

 

 知永生の中には、何が何でも『陽架琉に、竜輝という兄を忘れてほしくない』があるんだ。


 知永生は、何かで聞いたことがあった。人には、二つの死があるんだと。


 一つ目は、この世から居なくなってしまうこと。


 二つ目は、この世から綺麗さっぱり忘れられてしまうこと。


 知永生は、陽架琉が思う今(・)の(・)家(・)族(・)の中で長く生きるのは、誰だと考えた。

 そうすると、必然的に一番若い陽架琉になった。


 陽架琉は、これからもたくさんの死を体験するだろう。


 それから知永生は、たくさんのことを考えて想ったんだ。

 陽架琉には、出会った全員のことは無理でも、一緒に過ごした人たちだけでも覚えて欲しくて。

 そして、竜輝のことを忘れて欲しくなくて、彼のようには自分はなれないかもしれないけど。


 だから知永生は、陽架琉前では出来る限り弱ってるところを見せたくないんだ。

 彼が勝手に無意識に作った、『兄代わり』の像が砕けて消えてしまったら怖いから。


6


 魂蔵とたけしは、全部じゃないけど。知永生が陽架琉に弱みを見せないようにしてるのは、なんとなく分かっていた。


 それに触れてもいいのか、まだ触れないほうがいいのかのタイミングを考えていた。


 大人たちが悩み込んでいる時だった。


「知永生くん、ティッシュときれいなタオル、どっちがいい? 」


 陽架琉は、知永生の隣に立って言った。


「えっ? 」


 知永生は少しうつ向いていたのに、陽架琉の声で顔を上げた。


 でも、またすぐにうつむいた。見られたくない自分を隠したかった。


「どっちが、良い? 」


 陽架琉は、知永生の心情に対してよく分かっていない。でも、自分が何かをしないといけないと思った。


「どうして、そう思うの? 」


 たけしが、陽架琉が言いたい何かに気がついて、そう聞いた。


「知永生くん、涙が流れそう」


「そう見えるの? 」


「うん。我慢してるの」


「陽架琉くんには、知永生くんが涙が流れそうなのを我慢してるように見えるの? 」


「うん。たけしくんは、そう見えないの? 」


 陽架琉は、不思議そうに聞いた。


「僕にも、そう見えるね」


 たけしの言葉に、陽架琉は安心したように頷いた。


「涙は、流したい時にね。流せば良いんだって」


「そうなの? 」


「うん。父ちゃんたちが言ってたの」


 陽架琉は、チラッと魂蔵を見た。それに、魂蔵は陽架琉の意図に気が付いた。


「ワシの夢に、純(じゅん)が……。陽架琉の父ちゃんが、出て来てな」


7


 魂蔵は、自分が夢を見たことをきっかけに、息子の純の言葉を思い出しながら話しだした。


 魂蔵は、何でもない日に夢を見た。


『お父さん、お昼寝をするの珍しいね』


『えっ? 』


 もう聞くことのできない声に、魂蔵は驚いた。


『ほら、お水飲んで。喉、渇いてるでしょ』


 魂蔵は、声のする方を見た。


『純? 』


 魂蔵は、あのひ(・)から夢に出てきて欲しかった息子が眼の前にいるのが信じられなかった。


『お父さん、寝ぼけてる? 』


 純は、クスクスと笑った。


『そうかもな。水、ありがとう』


 魂蔵は、純から渡された水が入ったペットボトルを受け取った。純は、魂蔵の目の前に座った。


『お父さん、頑張りすぎてるんじゃない? 』


 純は、心配そうに言った。


『えっ? 』


『最(・)近(・)は観てて、心配になるよ』


『そうか』


 魂蔵は、夢でも良いから。純に会えて嬉しくて頭を撫でた。


『もう、大人なんだから。恥ずかしいって』


 純は、恥ずかしそうに言っていても、表情はすごく嬉しそうだった。


『純が、大人になっても。ワシと母さんにとっては、まだまだ子供だよ』


『そうだね』


 二人で、笑った。


『父さん、たまにでいいからさ。たくさん涙を流してね』


『なんでた? 』


『泣いてると、苦しくなる時もあるけど。でも、心がスッキリして、楽になるからね』


『そうだな』


 魂蔵は、純が自分を心配して夢の中で会いに来てくれたんだと思って来ていた。

 そして、情けないようで、やっぱり会えて嬉しかった。


『ほら、陽架琉みたいに大泣きをしたら良いよ』


 少し遠くで、陽架琉が泣いてる声が聞こえた。


『あれは……。ワシがするには、ちと難しいわ』


 魂蔵は、少し苦笑いをしながら言った。


『確かに、そうだね』


『おう』


 二人は、「ハハッ」と笑った。



『泣くのを我慢せずに、涙を流せる時にたくさん流せば良いからね』


『おう。心配してくれて、ありがとう』


『うん。あっ、呼ばれてるから。そろそろ行くね』


 また、少し遠くで亡くなった家族が、純を呼んぶ声が聞こえた。


『またね』


『またな』


8


 魂蔵が目を覚ますと、陽架琉が大泣きをしていた。 


「陽架琉、どうした?怖い夢でも見たのか? 」


 魂蔵は起き上がって、泣きじゃくる陽架琉の頭をワシャワシャと撫でた。


「じ、じいちゃんがね」


 陽架琉は、少し呼吸を乱しながら話しだした。


「ゆっくりで、良いからな」


 魂蔵は、なぜか近くにあったティッシュとタオルを陽架琉の前に置いた。


「ティッシュときれいなタオルのどっちが良い? 」


 魂蔵の問いに、陽架琉はタオルを選んだ。涙を拭いたり、鼻をかんだりした。




「じいちゃんが、父ちゃんの名前を言ってたの」


 陽架琉は、心が落ち着いてきてからそう言った。


「えっ? 」


「それで、泣いてたから」


「あっ、これは陽架琉が持ってきてくれたのか? 」


 そこでようやく、ティッシュとタオルがすぐ近くに置かれていたのかが分かった。


「うん」


 陽架琉は、宿題を一人でしていた。じいちゃんは、その間に珍しく遅めのお昼寝でゴロンっと寝転がってた。


 少ししてから、じいちゃんが「純」と言った。それで、陽架琉はじいちゃんを見たら涙を流していた。


 陽架琉は、びっくりして大泣きをしながら、ある準備をした。

 それは、じいちゃんがいつも用意してくれるティッシュときれいなタオルを持ってきたのだという。


「陽架琉、びっくりさせたな」


「うん。怖かったの」


「そうだよな。陽架琉が、じいちゃんのために準備してくれてありがとうな」


「うん。いいよ」


「じいちゃんは、ティッシュを使うよ」


 魂蔵は、ティッシュで涙を拭いたり鼻をかんだりした。


「陽架琉の父ちゃんが、言ってくれたんだ」


「何を? 」


「じいちゃんも、陽架琉みたいに泣きたい時に泣いたら良いんだって」


「そうなの? 」


「心がスッキリして、楽になるからって」


「そうだね」

 

 陽架琉は泣き腫らしても、ニッコリと笑った。


9


 魂蔵は、夢の話を少しかいつまんで、知永生たちに聞かせた。


「陽架琉が、知永生に伝えたいことは、こういうとで合ってるか? 」


「うん。合ってるよ。じいちゃん、ありがとう」


「陽架琉、俺に」


「陽架琉くん、僕にきれいなタオルをください」


 たけしは、知永生の声に被せてタオルを要求した。


「えっ? 」


 知永生は自分が頼もう思ったタオルを、なぜか先にたけしに言われて驚いた。


「陽架琉、どうする? 」


 魂蔵は、少し面白がって言った。

 たけしも、知永生のように泣きたいと思ってるけど、素直に言えないのでわざとふざけていた。それに、魂蔵は気がついていた。



「早いものがち? 」


 陽架琉は、首を傾げた。そう言ったは良いものの、どうしたら良いのかと、魂蔵のほうを観た。


「たけし、今回は諦めろ。知永生に、タオルを譲れ。知永生は、タオルを使ったら洗濯して返せ」


 魂蔵の判断に、知永生と違ってたけしは少し不服そうにした。


「陽架琉は、知永生にタオルを渡す。たけしに、ティッシュを渡して」


「は〜い」


 陽架琉は、魂蔵の指示通りにした。


「陽架琉、ありがとうな」


「陽架琉くん、ありがとうございます」


 陽架琉は、二人にお礼を言われて喜んだ。


10

 

 あれから数時間が経った頃。

 

 知永生とたけしが、明日の朝の牛乳を買いにコンビニに行った。


 家のなかには、魂蔵と陽架琉だけになった。魂蔵は、陽架琉と自分だけでここにいるのが、珍しいと思って笑った。


 二人暮らしだから珍しくもおかしくもないのに、なんでか嬉しかった。


 たぶん、知永生とたけしたちが魂蔵と陽架琉のことが心配過ぎて、倉西家によくいるせいだ。


 魂蔵は、時々二人の言動がうっとうしく思うこともあるけど。

 自分たちのことを、心の底から心配して好きで隣にいると思った。



「じいちゃん? 」


「陽架琉、どうした? 」


 魂蔵は、陽架琉の方をみると、なぜかソワソワしていた。


「今だから、言うんだけどね」


「お、おう」


 魂蔵は、陽架琉がとんでもないことを言わないのかとドキッとした。


「僕のお(・)兄(・)ち(・)ゃ(・)ん(・)た(・)ち(・)って。みんな、不器用? 」


 魂蔵は、陽架琉の問いに思わず吹き出してしまった。

 まさか、陽架琉からその言葉がを聞くとは思わなかったからだ。

 陽架琉は、魂蔵の様子を観てキョトンとしている。


「そうだよ。陽(・)架(・)琉(・)の(・)お(・)兄(・)ち(・)ゃ(・)ん(・)た(・)ち(・)は、不器用だ」


 陽架琉は、なんとなく知永生とたけしがお(・)兄(・)ち(・)ゃ(・)ん(・)と言われるのが嫌なのを分かっていた。

 今よりも小さな子供の時に、知永生が怒っていたのをおぼろげに覚えていたから。


 だから、二人が家にいないとに、魂蔵に僕(・)の(・)お(・)兄(・)ち(・)ゃ(・)ん(・)た(・)ち(・)と言おうとして、ソワソワしていた。


「当たってたね」


 陽架琉は、ドヤ顔をして言った。


「当たってたな。すごいな」


 魂蔵は、陽架琉の頭を撫でた。


「えへへ」


 陽架琉は、喜んでいた。


「陽架琉」


 魂蔵は、手を下ろしてから言った。


「どうしたの? 」


「みんな、不器用なんだよ」


「そうなの? 」


「あぁ、そうだよ。じいちゃんも陽架琉も、お兄ちゃんたちも」


 陽架琉は、真剣に魂蔵の話を聞いた。


「不器用でも、良いんだ。一人にならずに、自分以外の誰かと一緒にいたら良いんだよ」


「そうなの? 」


「そうだよ。不器用同士でも、一緒に悩んで、一緒に話すことができる。そうしたら、一緒に前に進むことが出来るからな」


「ちょっと、むずかしいよ」


 陽架琉は、ムスッとして不服の顔をしていた。


「難しい話だからな」


 それを見た魂蔵は、口角が上がりそうなのを我慢した。


「陽架琉は、一人にならずにみんなの隣にいたら良いんだよ」


「そうなの? 」

 

「そうだよ」


「分かった! 」


 陽架琉は、ニコリと笑う。


 魂蔵は、自分が死んだ後のことが、不安でたまらない。


 みんな、不器用だ。

 

 陽架琉が魂蔵たちの心をよく分からないなりに、助けて救ったように、これからもそうやって隣にいたら良いんだと思った。


 それは、いつも助けられてる陽架琉が今度は誰かを助けていることになるから。

 そうすれば、たとえ魂蔵が亡くなっても、陽架琉と知永生たちは孤独にならなくて済むはずだ。



 魂蔵と陽架琉が、話し終えた頃。

 なぜか、知永生たちが牛乳とそれ以外の買ったものを持ってダッシュで帰ってきた。


 知永生曰く、「日々、身体を動かすことが健康の秘訣」らしい。


 たけしは走るのに付き合わされたのが不服で、知永生に文句を言っていた。


11


 この日から、知永生は陽架琉の目の前でも弱みを見せるようになった。


 そのたびに、陽架琉は知永生にティッシュとタオルのどっちかを渡したり、一緒に空を見て頑張れるパワーをもらったりしたのだった。

読んでいただき、ありがとうございます。


補足?

 僕は、特性的に数字の理解が難しいです。僕が、分かる範囲で登場人物たちに学年や年齢などを当てはめてます。

 変に思うところがこれからもあるかと思いますが、ご理解してくださると嬉しいです。

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