第34話 卒業式
ある日の倉西家では、ある会議が行われた。
「陽架琉が、無事に修学旅行も楽しんだ。小学校で残る行事は、卒業式だ」
倉西家には、魂蔵と宮本家と秋原家が集合していた。
この日は、陽架琉は学校にいるのでその隙をついて集まった。
「それで、何のためにこの会議に呼んだの? 」
たけしの兄のすばるが、手を挙げて言った。
「陽架琉に、卒業式には誰が来てほしいかを聞いたんだ。それが問題でな。みんなに相談をしようと思ってな」
「なるほど」
すばるは、頷いた。
「問題って? 」
知永生が、言った。
『僕の家族のみんなに来てほしいの』
と、陽架琉はキラキラした目で言ったという。
「あ〜 」
集まったみんな、口々にそう言った。
「どうするか、悩みますね」
たけしが、言った。
「ワシは、元々家族写真を額にいれて持っていこうと思っててな」
魂蔵は、一番気に入ってる亡くなった純たちが笑顔で映っている写真を遺影として使いたくなかった。
今回は、一緒に卒業式に参列をしているということにしたかった。家族の記念日に、一緒に参加してるということにしたかったのだ。
「宮本家と秋原家の写真を同じように手に持つのも考えたがな」
「不思議なことになるね」
たけしの姉のきよかが、言った。それに、一同は頷いた。
「陽架琉に、俺たちは卒業式が終わったあとに会えるって説明しても難しそう? 」
「難しいかもな」
魂蔵は、少し遠くを見てから陽架琉が話していたことを伝えた。
『僕が、小学一年生の時に書いた作文の家族が来てほしいの。ばあちゃんは、いないけど…… 』
「ワシと宮本家と秋原家の全員が行ったら、席が大変なことになる。学校側にも、迷惑がかかるからな」
「そうだよな」
知永生が、言った。
「じゃあ、僕とじっちゃんで行きましょう」
その場は、一瞬静かになって一気にざわついだ。
「たけし、抜け駆けするな」
知永生が、たけしを叱った。
「このままでは、話が終わらないと思うので立候補をしました」
たけしは、ニッコリと微笑む。
「たけしは、小説の仕事次第。保留で」
「じっちゃん、ナイス! 」
知永生は、魂蔵の対応に感謝をした。それに対して、たけしは盛大にすねていた。
「じっちゃん、そもそも一人の生徒に対して、家族は何人まで許されてるんだ? 」
知永生の父親の勘助が言った。
「あっ、言ってなかったな。担任に聞いたら、例年通りで最大二人までらしい」
「じゃあ、じっちゃんとあと一人は、卒業式に行くことができるのか」
たけしの父親の 正智が、言った。
「こはるさんと秋原家は、卒業祝の料理と飾り付けをするからね」
たけしの母親のちさこが、言った。知永生の母親のこはるが、頷いた。
「俺は、工務店の状況によってだな。午後は、店を閉めるけど」
勘助がそう言った。
「そうなると……。ワシと誰かが、陽架琉の卒業式に一緒に行けるかだな」
みんなの視線の先には、ある人物がいた。
「えっ? 」
その視線に、知永生が気がついた。
「俺? 」
知永生は、驚きながら自分に指をさした。
「そうですね。よくよく考えると、知永生くんが適任だと思いますよ」
たけしの言葉に、みんなが同意するように頷いた。
「たけし、どうしてそう思うんだ? 」
知永生は、まだ信じられないようで心友に聞いた。
「前に、陽架琉くんのことで学校にじっちゃんと一緒に乗り込んだので。その二人が卒業式に行くのが良いのかと」
「そ、そういうことなのか? 」
知永生は、首を傾げた。
「と、いうのは半分冗談で」
「えっ? 」
「知永生くんが、陽架琉をすごく大切に支えてきたのをみんなが知ってます。だから、卒業式に参加してください」
「たけし、ありがとうな! 」
知永生は、ニカッと笑う。
「はい! 」
知永生は、たけしの返事を聞くお立ち上がった。
「じゃあ、行くぞ」
「へっ? 」
知永生は、たけしの前に行って彼を軽々と担いだ。そして、みんなには背中を向ける。
「知永生、どうした? 」
魂蔵は、その背中に驚きながらも聞いた。
「たけしが、俺をさっきの根に持ってからかってきたからな。二階で、説教をしてくる」
「知永生くん、僕は自分で歩けるので降ろしてください! 」
「暴れるな。とりあえず、階段前までこれで行く」
「えっ!? 」
たけしは、よくわからないまま知永生に連行されて居間から出ていった。
「すまない。うちの馬鹿がたけしくんを担いで行って…… 」
勘助は、秋原家の方に身体を向けて謝罪をした。
「謝らなくても、大丈夫です。たけしは慌てたけど、本気で嫌がってないから」
正智が、言った。
「確かにな」
魂蔵も、賛同した。
「知永生は、自分の感情には不器用だからね。たぶん、たけしくんを連れて話を聞いてもらってると思うわ」
こはるがそう言った。そして、あることを思い出した。
一年前に、知永生の名前が解禁してた時のこと。知永生は、こはるに感謝を伝えた。
その時も、感極まる表情をしてたけしの腕を軽く引っ張って部屋に行った。
「たけしも知永生には、気を許してるからな。まぁ、一件落着ということだな」
「じっちゃん、なんかめんどくさくなって、無理矢理終わらしただろ」
勘助が、そう言った。
「まぁな」
魂蔵の言葉に、一同は笑った。
この日は、みんなで晩ごはんを食べて陽架琉は大満足だった。
それから、時が経って陽架琉の卒業式が行われた。
卒業式の出席には、担任にある事情を伝えて同意してもらった。
魂蔵は、家族写真を手に持っている。もう、会えない家族が陽架琉の小学校の卒業式に一緒に来てくれたように感じた。
その隣で、涙目の強面の知永生が座っていた。会場の中では、若い人が保護者席にいると少しざわつかれていた。
知永生が、「一緒に来れないに宮本家と秋原家のみんなの写真」をカバンに忍ばせることで、家族が来たということにした。
陽架琉には、それでを渋々許しを得ることができた。
陽架琉も、全員がこれないのは分かってるけど。来てほしかったという想いが強かったんだ。
家族も、それを分かっているから、出来る限りの陽架琉の希望を叶えた。
みんなが集まった日には、宮本工務店は臨時休業をした。秋原家は、みんな有給を使った。たけしは、倉西家に住み着いている。
魂蔵の誘導もあって、陽架琉は『卒業式に家族のみんなが来てくれてるんだ』と喜んで、クラスメイトに自慢をしていたらしい。
事情をよく知らないクラスメイトは、ポカンとしていた。
でも、「どういうことかよく分からないけど。陽架琉くんが、喜んでいるなら良いのか」という結論に至った。
陽架琉の家庭の事情は、とても複雑でよく分からない。
でも、クラスメイトは、知っているんだ。魂蔵がただ優しいだけじゃなくて、怖く怒ることもあるというのを、陽架琉から教えてもらったから。
魂蔵や知永生たちが、陽架琉の登下校を一緒にした時の様子を見たことが何度もある。
そして、先生たちに陽架琉の様子やクラスメイトに迷惑をかけてないのかを聞いていた。
『平等に話を聞いて、陽架琉が悪かったら教えて欲しい。良いことも教えて欲しい。陽架琉の今後のためにも、特別扱いを望んでいないから。家で、出来る限りの指導をするから』
魂蔵や知永生たちの言葉を、クラスメイトたちは聞いていた。
だから、陽架琉は苦手なことが多くても、頑張り屋の男の子と思っているのだ。
特別扱いを望んでないのなら、卒業式に「家族がみんな来る」というのも、学校側と相談をしてルールを守っていると思った。
そして、クラスメイトたちは、卒業式の保護者席に写真を持っている魂蔵と涙を流してる知永生たちを観ていたから。
陽架琉は家に帰ると、宮本と秋原家が一緒に盛大に祝ってくれたことが宝物になった。
『僕ね。卒業式、うれしくて、さびしかったけどね。家族のみんなが来てくれて良かったよ〜 』
陽架琉は、ニコニコとしていた。それを見た一同は、心の底から嬉しくて良かったと思ったのだった。
読んでいただき、ありがとうございます。
補足
陽架琉の叔父の椿は、海外在住のために卒業式は欠席。
でも、卒業式から数日後に日本に帰国して陽架琉を祝います。
椿は、卒業祝い兼お土産をたくさん持ってやって来た。
魂蔵に、あとで怒られた。




