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第35話 入学とあることへの想い

分かりにくいところがあるかもなので、後書きに補足を書きました。

 陽架琉(ひかる)が、無事に中学校に入学をした。


 その学校は、陽架琉の兄の竜輝(りゅうき)と姉のあおいが通っていたところと同じだ。

 

 二人を知る当時の生徒たちは、もう在学生にはいない。

 それでも、教師たちは確かに二人が在学していたことを忘れたはいけないと思った。


 もしかしたら、竜輝とあおいが被害に遭わずに他の受験生になった生徒や教師の子どもがターゲットになってたかもしれないから。


 誰がターゲットになるかも分からない事件を風化させてはいけない。

 犯人が逮捕されない限り、またこの学校の生徒が被害に遭うかもしれない。その恐怖は、終わらないから。



 ドラマや漫画であるような、恐ろしい『受験生連続放火殺傷事件』が、まさに今現実として起きているんだ。


2


 毎年やってくるあの()に、教師や生徒たちは学校で二人の冥福のために黙祷を捧げるのだ。

 当日が難しいなら、前日や後日に時間を作って黙祷をしている。

 

 この学校での『受験生連続放火殺傷事件』の被害者は、竜輝とあおいだけだった。



 その当時は、学校中でざわついだ。


 『受験生連続放火殺傷事件』が起こってるので、防犯対策をして過ごすようにと、学校から何度も呼びかけがあったり、報道がされたりしたから。


 竜輝は、教師や生徒からある意味目立つ存在だった。

 それは、入学早々に二学年上の知永生とたけしのよく隣にいたからだ。

 知永生(ちとせ)は強面でケンカをするのに、成績優秀のたけしとよくいる異色のコンビとして、既に有名だった。


 元々、竜輝は自分の気持ちの表現に不器用なところがあるけど。

 波多野(はたの)うみかをはじめに、色々な生徒を助けていた。

 助けられた生徒は、竜輝が気にしないように慕っていた。


 そして、竜輝が家族を大切にしていたり、知永生たちを慕っていたりと、彼の優しさと人とのコミュニケーションが不器用なりに好きなんだと知っている。


3


 あおいの最後の学生時代は、同級生からのイジメに苦しんだ。


 問題が解決に迎えようとした後も、あおいのことを影で気にかけていた同級生もいた。

 彼女に声をかけようと思ったが。それは、叶わずにいたのだ。


 あの()を、迎えてしまったから。


 声をかけようとした同級生も、自分の行いを反省して謝罪をしようとした加害者も、ひどく後悔をした。


 もう、あおいに自分の気持ちを直接伝えることが、一生叶わなくなったから。

 彼女に、受け入れられなくても聞いて欲しかったんだ。それはただの自己満足にしかならないかもしれない。

 でも、まだ謝って言動で反省を現すしか出来ないのは、未成年で彼女と同い年にはそれがせいっぱいだった。



 同じクラスの生徒たちも、後悔をした。


 あおいがほとんど悪くないのに、自分たちが彼女を苦しめる空気を作ってしまったからだ。


 それでも、あおいは問題を家族に打ち明けるまで、必死に学校に登校をした。

 そして、一人で学校側に助けを求めて登校を続けていた。

 あおいの言動は、とても勇気がいることで、本心は怖くてたまらなくて学校に行きたくなかったと思う。


 両親のおかげで、校長たちがすぐに動いた。それからのあおいは、比較的に平穏な学校生活を過ごせた。


 あおいは、学校と家族の協力もあって、自分のペースで登校をしていたのだ。

 たけしの姉のきよかにも、支えられていた。きよかに、学校を頑張っているご褒美に一緒に出かける約束をした。

 それは、どこにでもいるごく普通の中学生だった。

 


 あおいは、自分からクラスメイトたちに謝罪を求めてなかった。

 クラスメイトたちから謝罪をしても、彼女は返答をしなかった。

 それは、無視をしたのではなくて、事実を否定されたことを絶対に許したくなかったからだ。


 あおいは、本来なら楽しくて思い出を深めてもおかしくない学校生活だった。


 それをクラスメイトたちは、一人を標的にして苦しめてしまった。 

 直接本人に謝罪をして、自分の過ちを悔やむことが出来ないままになってしまった。


 あおいに、謝罪を受け入れてもらわなくても、()()()()()()()がなかったことにならないから。


 彼女に対して、クラスメイトたちは謝罪と反省してる姿を見て欲しかった。


 あの()がやってきて、あおいは『受験生連続放火殺傷事件』の()()()としてこの世からいなくなった。


 生徒たちは、恐ろしくてたまらなくなった。あおいの最期を被害者のままになってしまったからだ。

 だって、生徒たちにとっては謝罪を受け入れてもらえてないから。

 

「はい、これでこの問題は解決。仲良くしよう」


 と、謝罪を受け入れてもらった後に、こうはなってないのだから。

 

 そして、「次の被害者になるのは、自分かもしれない」と、自分たちが加害者になる理由と重なってしまった。

 

 クラスメイトたちは、自分たちがあおいと同じ状況になったらと想像をすると、恐ろしくてたまらなくなったんだ。


 本当に人の心は、時として自分都合で、勝手になって被害者なる。



 あの()の翌日から、報道機関が学校やその周辺に姿を見せるようになった。


 そして、教師や生徒だけじゃなくて、学校の近所にも突然取材をするようになっていった。


 その取材によって、波多野うみかをはじめとして、生徒が一人二人と学校に登校するのが難しくなっていた。


 特に、竜輝と同じクラスメイトたちは半数近く学校を欠席・遅刻・早退が目立つようになった。

 竜輝と()()()()()()()()()()が、このままでは今後の()()に支障をきたすことを意味していた。


 学校は、報道陣と保護者たちと倉西家の対応を朝から晩までしながら、教育委員会と相談してスクールカウンセラーを派遣した。


 学校は、いつだって被害者になって未来に行けない生徒より、生きていてその先に進む人を支援するんだ。


 あおいの学年は、竜輝の学年と比べるとそれほど影響を受けていなかった。

 竜輝の学年は、受験生でメンタルの波があるのと彼のことをよく知る生徒が多かったからだろう。 


 同じクラス以外であおいのことをよく知る人は、少なくて噂でしか認識をしてなかった。


『実は、イジメの被害者だった。親が乗り込んで解決した』


『アイツのせいで、あの教師が学校からいなくなった。授業が楽しかったのに』


『部活の顧問が変わった。アイツのせいで』


『イジメの被害者だったのに。解決する前からずっと登校してる。ヤバイやつ』


 あおいも、その噂を少なからず聞いている。傷つくこともあったが、ごく普通の中学生活をすることだけを考えるようにしていた。


 あおいのクラスは、竜輝のクラスより影響を受けてはいない。

 でも、クラスメイトの数人が立ち上がった。


『このままだと、倉西 あおいさんがかわいそうだ。今からでも、私たちにできることはないかな』


 その言葉に、うつむいていた生徒たちは頭をあげた。



 学校側は、保護者と()()()()の要望を受けて「命の授業」として二人を忘れないようにと考えた。

 事の発端は、あおいのクラスが教師に『彼女のために何かしたい』と言った言葉がきっかけだった。


 学校側は、あの()から約二ヶ月してから魂蔵(ごんぞう)の携帯にまた電話をかけた。


 学校側が電話をかけるまでにも、何度か魂蔵には手続きについてやりとりはしたことがあった。



 魂蔵からの返ってきた返答は、とても冷たかった。


『そういうことなら、お断りします』


『理由をお聞かせください』


 学校側は、怯みそうになりながらも言った。


『ワシは、家族を亡くしたんだ。亡くなった二人の弟のケアもある。それに、あなたたちがどう思うのか勝手だか。ワシの家族は、授業の題材のためにいなくなったんじゃないんだ。報道のネタのためでもない』


 魂蔵の言葉に、学校側は言葉が出なかった。


 なぜなら、魂蔵の言葉が図星だったからだ。


 学校側は彼に電話をかけるまでに、何度も職員会議をして準備を(おこな)ってきた。

 ()()()()、魂蔵に許可をもらえることを前提に資料や段取りを決めていた。


 あとは、魂蔵から許可をもらって、生徒たちに『倉西 竜輝と倉西 あおいの命の授業』として発表をするだけになっていた。


 そう、魂蔵がいう『ネタ』と『授業の題材』として、竜輝とあおいのことを()()()()()()()()()()()に発表をしようとしていたのだ。


 それを学校側は自信を持って、家族をあの()に突然亡くして、心の余裕がない魂蔵に対して、提案をしていた。

 そのことを、学校側は気が付いて落ち込んで沈黙をした。


『もう、何もないなら切るぞ』


 魂蔵の言葉に、学校側は「ハッ」とした。


『では、黙祷をさせてください。()()()()()()()()が卒業するまでの間だけでも、お願いいたします』


『なぜ? 』


 魂蔵の声は、最初よりも低くて冷たい。


『あおいさんの学年は……。特に同じクラスメイトたちは()()()()をしてます』


『そんなことは、知らない。その人たちが、あおいにしたことはワシ()許してない。黙祷って言ってるが、彼ら(加害者)懺悔(ざんげ)のためか?結局は、あおいに対してじゃなくて、あんたらは彼ら(加害者)のことしか考えてないんだな』


 魂蔵は、この時は本当に心に余裕がなかった。たくさんの見たくない現実と向き合わないといけなかったからだ。

 だから、学校側の失言に冷静を保てなくなった。


『全く違うとは、言いません。でも、あおいさんや竜輝さんの冥福を、彼らにも祈らせて欲しいんです』


 学校側は、否定をしなかった。いや、出来なかったのかもしれない。

 彼らにも、亡くなった人への冥福を祈る権利を平等に与えたかった。

 それは、彼らの()()のためになると考えていると言えるから。


 魂蔵は、ため息を吐いた。


『そこまで言うなら、分かった。でも、写真や名前を出さないでくれ。ワシの孫たちは、あの()がなかったら、今も生きてるから。あんたらのためになる黙祷に、よく知らない生徒たちに晒して欲しくない』


『承知致しました』


『学校内なら、「町名」と「事件で命を亡くした二人」という感じなら良い。何もないと困るだろ。これ以上は、許可はしない。生徒たちに配るプリントには、あんたらのためになる黙祷のことを、何もかも載せるな。学校外には、出さないでくれ』


 魂蔵は、一度深呼吸をした。


『ワシからの約束事は、あんたらのためじゃない。亡くなった竜輝とあおい、そして生き残ったワシらを守るためだ。約束事を守らなければ、ワシはあんたらに危害を加えるかもしれない』


 魂蔵の手は、小刻みに震えていた。彼は、余裕がないから学校側に本心を伝えた。


 学校側が、こちらが言う前にあおいをもっと早く気がついて対処をして欲しかった。

 そのせいで、あおいの(えが)いていた未来が暗くなったから。


 魂蔵は、加害者たちを今でも殴りたい気持ちがあった。

 それをあおいは、望まないからグッと堪えているんだを

 それなのに、あおいのクラスメイトのためにという学校側からの言葉が許せなかった。


 本当は、学校内でも、二人の情報を無闇に知らない人に漏らされたくない。 

 そして、あおいを苦しめた人たちのために利用をされたくなかった。


 でも、最低限の情報公開と約束事をしても、黙祷を許した理由があった。


 それは、竜輝とあおいが生きていたことを忘れて欲しく無かったからだ。

 どんなカタチでも良いから、やっぱり亡くなってしまった人を想ってこの先も覚えて冥福を祈って欲しかった。


 だって、竜輝とあおいたちのためになるからだ。


『ご忠告、ありがとうございます。先程、こちらの数々の無礼を申し訳けありません。私たちにとって、倉西竜輝くんと倉西あおいさんは、大切な生徒であることはこれからも変わりません』


『そう言ってくれると、助かります』


 魂蔵は、学校側といくつか話をして電話を終えた。


 当時の魂蔵は、見たくない現実と報道機関に疲れ果てていたところもあって、少々学校側に冷たい言い方をしていたのだ。



 陽架琉が入学する時も、学校側はどう対応するべきかと悩み、魂蔵と連絡のやり取りをした。

 あの()に対して、あおいの学年が卒業をしても黙祷を約束事を守って続けていていた。


 そして、陽架琉が入学した時も、黙祷を続けてもいいのだろうかという内容を伝えた。


『黙祷は、そちらが良ければ続けてください』


『良いのですか? 』


『はい。亡くなった二人のためになると思うからな』


『ありがとうございます』


『陽架琉は、当日とそのあと数日は学校を毎年休ませますので。その時は、休み連絡はします』


『理由をお聞かせください』


 学校側は、どういうことか分からなかった。小学校からの伝達があったのに。


『陽架琉にとって、あの()は家族の命日でとても苦しいんです。心身共に、体調を崩してしまうからです。毎年、学校がある時は、休ませてます』


『分かりました。教えてくださり、ありがとうございます』


『念のために言ってます。毎年断ってるが、命の授業はしなくていいから。黙祷だけで良いから。竜輝とあおいたちが亡くなって、今年で十年になった。もう、竜輝やあおいのことを、知らない生徒ばかりだから。陽架琉が入学して、たとえ登校をしなくても……。ワシは、二人を知らない人たちに、無理に知ってもらおうと思わないだ』


 魂蔵は、確かに竜輝とあおいのことを知って欲しいと思っている。

 でも、二人のことを知らない生徒たちに、無理にそれを押しつけるのは違う気がするのだ。


『お気持ちをお聞かせくださり、ありがとうございます。数日お休みをして陽架琉くんが登校した際に、こちらが出来る限りケアをします』


 魂蔵と学校側は、いくつか話をして電話を切った。



 陽架琉は、中学生になっても夜に泣いてしまうことがある。

 そして目が覚めると、不思議とそれが記憶から消えてしまうのだ。


 陽架琉は大きくなって、小四からの後遺症があっても、平均よりもさらに低いが力はある。

 荒れやすい時は知永生(ちとせ)が対応をしている。

 

「知永生、毎年悪いな」


 魂蔵は、毎年申し訳けなさそうに言った。


「じっちゃん。何、言ってんだ」


「ん? 」


 魂蔵は、知永生の言葉を不思議に思った。


「俺も、あの()は不安なんだ。じっちゃんと陽架琉だけが、この家にいることもな。俺がいないところで、大切な人たちがいなくるのが怖いんだ」


 知永生は、一瞬だけ魂蔵から視線を外す。魂蔵は、知永生の気持ちが分かっていた。



「じっちゃんは、年取ってきてるからな。ケガをしたら大変だろ。俺は、普段から鍛えてるから大丈夫だよ」


 知永生は、わざと明るく言った。


「それに、こういう時はたけしに任せられないからな。俺が、陽架琉を独り占めに出来るからそれで良いんだよ」


「知永生も、苦労してんだな」


 魂蔵は苦笑いをする。


「まぁな。あとで、たけしが愚痴を言ってくるけど……」


 知永生は、頭をかいた。



 毎年来るあの()は、知永生が倉西家に数日間泊まり込む。

 たけしは、寝るときだけ二階で過ごしている。


 居間の机や椅子などを別室に置いて、そこに川の字に布団を敷く。魂蔵と陽架琉と知永生の並んで寝る。


 陽架琉は夜になると、だんだん不穏になっていく。

 知永生は、そういうときには出来るだけ陽架琉の側にいる。


 陽架琉は、出来てたことが失敗をすると、いつも以上に落ち込んだり荒れたりすることもあった。

 普段の陽架琉とは、想像がつかない光景に魂蔵が心を痛めてしまうのだ。


 知永生は、率先して陽架琉の対応をする。そして、たけしが魂蔵の心のケアにまわる。



「陽架琉、大丈夫。服は、洗ったらきれいになる。陽架琉は、これから俺とお風呂タイムだ」


 陽架琉は、知永生とトイレに行く途中に間に合わなかった。そして、廊下に座り込んでしまった。


「陽架琉、じいちゃんが服をきれいに洗うからな。知永生と一緒にサッパリしておいで」


 魂蔵は、出来るだけ明るく陽架琉に言った。


「陽架琉くん。僕が陽架琉の服をコーディネートしますね。知永生くんのは、適当に棚からとってきます」


「おい、たけし。俺に対して適当すぎないか」


「そうですかね? 」


「とボケやがって」


 知永生は、ブツブツと言った。


「たけし、陽架琉たちの服を準備する前にバスタオルを取ってこい。知永生に、渡してからにしてくれ」


「はい、わかりました」


 たけしは、魂蔵に言われた通りにいつもの場所からバスタオルを取ってきた。それを知永生に渡した。


 そして、知永生はバスタオルにで陽架琉の腰から下を包んだ。

 それから軽々と陽架琉をお姫様抱っこして、風呂場に行った。


 魂蔵は、二人の後ろについて行って洗面所のドアを開けたり陽架琉の脱いだ服を洗ったりした。


 陽架琉は、誰にも視線を合わせずに黙っているままだった。


10


 この家には、たけしと知永生の服や雑貨などを保管する棚がある。

 この家に二人が何度も大荷物でくるので、魂蔵が私物を置けるように棚を用意したのだ。


 たけしは、ルンルンで陽架琉の服を用意した。そして、ついでに知永生の服も用意をしてやった。洗面所に、二人の服を持って行ったのだ。

 


 「じっちゃん。服、洗えましたか? 」


「まぁな。今、洗濯機に放り込んだところ」


「そうですか」


「たけし、服を準備してくれてありがとうな」


「はい。陽架琉くんの服をコーディネートをするのは大好きなので」


「ブレないな」


 たけしは、ただ笑っている。


 二人は、洗面所を出てからも話しをしていた。


「応急処置はしてるが、廊下の掃除をするか」


「そうですね」


 陽架琉は、知永生とトイレに向かう途中で失敗をしてしまった。そして、座り込んだ。

 これは、今までも何度かあって、そのたびに対処をしてきた。


 幸いトイレの近くだったので、応急処置のグッズは多数あって対応をしていた。今は、仕上げ作業だ。


「たけし、すまない」


「何がですか? 」


「こういうことを、一緒にしてもらって……」


「大丈夫です。気にしなくて良いんですよ」


「えっ? 」


「知永生くんも、実は僕も陽架琉のオムツを替えたこともあります。大きくなってからも、一緒にトイレに行ってお世話をしたこともあります。気にしなくていいんですよ」


 たけしは、オムツの替えたりトイレでお世話をしていた。

 知永生と魂蔵が手を離せなくて、陽架琉の心が調子が良い時に限ってになる。


「ありがとう」


「それに、僕は陽架琉くんのために出来ることは、極力したいので」


「ブレないな」


 魂蔵は、笑った。


11


 少し時が経って、廊下が綺麗になった頃。


「じっちゃん〜 」


 風呂場に台所横に設置した呼び出しボタンをから、知永生が魂蔵を呼ぶ声が聞こえた。


 魂蔵は、小走りで風呂場に向かった。


「知永生、どうした? 」


 魂蔵は、洗面所のドアを開けた。


「陽架琉が、寝た」


「はぁ〜? 」


「陽架琉が、湯船に浸かってぽかぽかして眠そうにしててな。慌てた。何とか、最低限のことをしてから呼び出しボタンを押したんだ」


 知永生は、なんとか陽架琉を抱えて風呂場から出た。  

 そして、急いで陽架琉の身体を拭いて、下着を高速で履かせた。その後、陽架琉は完全に寝てしまった。


 それから、自分も最低限着替えてから風呂場の呼び出しボタンを押したのだ。


「陽架琉の服を、着せるのを手伝って」


「何事かと思ったが。陽架琉が寝てるだけで安心した」


「そうですね。陽架琉くん、お風呂に入って緊急の糸が、ほぐれたのかもしれません」


「たけし、急に現れて語るな」


「無茶言わないでください。じっちゃんと、一緒にいたら、ヘルプがあったから駆けつけたんですよ」


 知永生は、魂蔵をみた。


「そういうことだ。このままだと、二人とも風邪をひくからさっさと着替えをするぞ。そのあと、髪を乾かせ」


 三人は、手慣れたように陽架琉を着替えさせた。

 それは、陽架琉があの()からこの時期になると不穏になる。 

 そして、トイレの失敗から風呂の流れになることが多いからだ。

 もう、手慣れてしまった。


「先に、陽架琉の髪を乾かしたらいいよ。俺は、その間にタオルを巻いてたらいいから」


「分かった。なんとか着替えさせたけど。ここは狭いから、陽架琉を居間まで運んでくれ」


「了解した」


「知永生くんは、力もちですね」


「仕事柄なのと筋トレをしてるからな」


「ワシも、知永生ぐらいの時は力持ちだったんだかな。年を取ったからな」


「じっちゃんは、腰を痛めたらいけないからな。力仕事は、俺や工務店の若造に任せたら良いよ」


「そうですよ。じっちゃんは、僕と一緒に楽してたら良いんですから」


「たけしとワシは、事情が違うだろ」


「……そうですね」


 たけしの場合は、力が知永生よりもないのとケガ防止が必要である。

 彼は、例えば打撲や骨折をしても痛みを感じないからだ。それは、生まれつき痛みに鈍感だから。

 

 陽架琉は不調の時に、無意識に力強く腕を握ったり、叩いたりすることがある。

 その時にケガをしても、たけしは分からない。それが、知永生と魂蔵はつらいのだ。

 極力、陽架琉が不調の時にはたけしをあまり近づけたくない。


「落ち込むな」


 魂蔵は、たけしの頭をなでる。それを、たけしは嬉しく思う。


12


 四人は、居間に戻った。畳のうえにはバスタオルが何枚か引かれていた。

 知永生がヘルプを呼んで、魂蔵がすぐに洗面所に行った。


 たけしは先に居間に行って、陽架琉が濡れたままでも横になれるように準備をしていた。


 それで、たけしが魂蔵から遅れて洗面所に現れたのだった。


「たけし、サンキュー 」


「はい! 」


 知永生は、バスタオルの上に陽架琉をゴロッんと横向きに寝かす。

 知永生は、魂蔵と連携をしながら陽架琉の髪を乾かした。


「知永生、助かった」


「俺は、()()()()()()()()()()


「そうか」 


 知永生は、ワザと竜輝の口癖を言った。それを魂蔵は、懐かしく思った。


「知永生、髪を乾かせ」


「その前に、陽架琉を布団に移さないとな。いつまでも、湿ったバスタオルの上にいると風邪をひくからな」


「そうだな」


 知永生のなかの優先順位は、ダントツで陽架琉が上位にいた。それはもう揺るがないだろう。


 婚約者の井上まゆみも、それについては理解をしている。


 知永生は、やっぱり手慣れたように陽架琉を抱き上げて布団のところに寝かした。

 陽架琉が不穏な日は、二人分の布団を広げたままにしていた。 知永生のは、寝る前に敷く。


「じっちゃんも、少しだけ寝たら良いよ」


「良いのか? 」


「おう! 」


「陽架琉くんたちの服が洗濯出来たら、乾燥もしますよ。さっきのバスタオルも洗濯しますから」


「晩飯は、温めるだけだからな」


 この家には、作り置きを冷凍庫の中に多数常備してある。

 たまに、知永生とたけしが家からタッパーに入ったおかずをもってくる。

 それを温めて、炊飯器のごはんを皿に盛り付けて、みんなで食べるのだ。


「助かるよ。陽架琉の横で、少しウトウトしてくるよ」


 魂蔵は、眠そうにあくびをした。


「おやすみ」


「おやすみなさい」


 魂蔵は、片手を振って横になった。


13


 知永生とたけしは、二人を起こさないように過ごすことにした。

知永生は、さっさとドライヤーを終わらせた。


「じっちゃんも、今日みたいな日は気が休まらないだろうな」


「そうですね。午前は、僕たちに陽架琉くんを預けて、父たちと一緒に警察や消防関係者と対面をしてますから」


「本当ならしたくないだろうな。でも、向き合わないといけない現実だからって無理をして欲しくない」


「僕もそう思います。じっちゃんや僕たちは、あの()を早く止めて欲しいだけですから」


 彼らは、あの()を作った犯人を一刻も早く捕まえて欲しいだけだ。

 犯人が捕まっても、失った人やモノは永遠に戻らないことも分かっている。

 

 でも、犯人を捕まえなければ失った人やモノが報われないからだ。

 そして、遺されたり傷をつけれたりした人にとっては、犯人逮捕があのひ()の一つの区切りになるから。


 犯人がいなければ、魂蔵や陽架琉たちが家族を失うことも、こんな苦しみが続くことはなかっただろう。


14


 たけしは、密かに思ってることがある。『受験生連続放火殺傷事件』の犯人が逮捕されるのは、魂蔵が生きてる間には難しいかもしれないと。


 この事件以外にも、未解決事件や新しい事件事故に災害が起こるからだ。


 もしも、魂蔵が生きてる間に犯人が逮捕されるとしたら。

 魂蔵は、肩の荷が下りて悲劇が起こらないと安心をしてしてしまう。


 ある日突然、寝ている間に魂蔵が思う死にかたで、亡くなるのではないだろうか。


 そうなってしまったら、遺された陽架琉や僕たちはどうすれば良いのか分からない。


 魂蔵の中では、犯人が逮捕されて悲劇が止まり、陽架琉が安心して自分がいなくても暮らせることを望んでるはずだ。


 だから、たけしは犯人が逮捕されて欲しいと逮捕されて欲しくない気持ちが心の中ではせめぎ合う。


 たけしは、周りにそれが気づくかれてないと思っている。


 しかし、たけしの心友である知永生と魂蔵にはなんとなく思い悩んでるだとは気づかれていたのだった。

読んでいただき、ありがとうございます。


【補足】

番号を振っている3について。

あおいのクラスについて、3の中で繰り返し書いています。

クラスメイトがあおいに向けている感情を詳しく書きたくなったから。

僕の経験した中で、『加害者は、どんなことをしても被害者に謝罪と反省を見せたら許される』という思い込みがあると思った。

それは、保育所ぐらいの年齢から「ごめんね」と言われたら「いいよ」という風に教育をされているから。


 被害者がどんなに苦しめられても、結局は『相手を許す』ことを無理やりさせられる。

 加害者は、謝罪と反省を少しの間でも見せたら『罪がなくなる』と思い込み、繰り返し同じことをする。


 あおいは、それを分かってると加害者がまた自分に何かをするのかが怖かった。

 でも、加害者たちは自分の愚かさを気づいて『自己満足に謝罪と反省』をする。

 結局、あおいからの『許し』はなく、彼女を被害者のままにした。そして、自分は一生『あおいに対しての加害者』になってしまった。


4について。

 竜輝とあおいは、在学歴は当然違う。それでも、その学年で影響を受けた度合いが違うのだ。

 あおいの冥福を心から祈るものは、同学年でいるのだろうか。

 まだ、善悪を知らない中学一年は噂と自分のことしか考えないで、相手を見ない。

 あおいのクラスメイトで、立ち上がったメンバーは「善」の行いで動いたわけじゃない。

 自分が、あおいに『死んでいても許されたい自己満足』のためだった。


5について。

 魂蔵は、中学校側の自己満足な話を聞いて幻滅をした。

 でも、亡くした孫たちの冥福を祈って欲しい気持ちが強かった。


6以降について。

 毎年やってくるあのひのことを、今まで以上に詳しく書いた。

 陽架琉の不安定な心と身体。それに、向き合うことに慣れてしまった魂蔵たちの心情。

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