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第33話 せがれの異変 後編

前編よりは、短いけど。細かめに数字を振ってます。

 せがれは、いつものように仕事の合間をぬって倉西家に行った。


 せがれとたけしは、魂蔵(ごんぞう)から合鍵を貰っていて自由にはいることができる。

 それは、魂蔵にもしものことがあった時以外に、陽架琉(ひかる)の面倒が見れるようにと渡したのに、私物化をした結果だ。


2


 せがれは、一防犯のために閉まっている鍵を開けて、家のなかに入った。

 鍵を開ける前は、チャイムの存在を思い出してたら鳴らしている。


「ただいま〜 」


 せがれとたけしにとっては、ここはもうひとつの実家のような存在だ。

 

「おかえりなさい」


 たけしがトイレから出てきて、せがれに気づいて言った。


「たけしは、()()来てたのか? 」


「はい」


「いつから? 」


「せっちゃんの好きなお菓子がありますよ。みんなで、おやつで食べましょう」


「たけし、話をそらすな」


「なんのことでしょうか? 」


 たけしは笑顔だが、目はどんよりしている。


「はぁ〜 」


 せがれは、ため息を吐いた。


「担当さんから、たけしの原稿が遅れてるから様子を見てほしいって、連絡が来てたんだけど」


 たけしは、小説家の仕事が好きなのだが、よく修羅場になって現実逃避をするクセがあった。


 そして、担当編集者とたけしの関係者がこのままではいけないと話し合いをした。

 結果、担当編集者とせがれがたけしのスケジュールや対応をメインにすることになったのだ。


「まさか、一行も書いてないってことはないのか? 」


「陽架琉くんなら、じっちゃんとさっき散歩に行きましたよ」


「たけし、また話をそらすな。俺の家で缶詰めするか? 」


「途中で息詰まっていて、せっちゃんがまゆみさんを連れて来た日から泊まってます」


 たけしはため息をついて、諦めたように話し出した。


「あれから、三日は経ってるよな。俺に気が付かれないようにしてたのか」


 せがれは、たけしが時々する怖い目をした。


「陽架琉と過ごしたあとに、ちょっと読ませて」


「分かりました」


 せがれは、たけしの小説が好きなので誰よりも先に読むのが至福の時でもある。

 それがたとえ、途中で止まっていてもだ。



「じっちゃんが帰ってくる前に、部屋の片付けをするか」


 せがれは、そう言って二階に上がった。たけしは、トボトボと後ろについていく。


「今回も、すげぇな」


 せがれは二階の一室の悲惨さを見て、ため息をつく。


「いつも、すみません」


 ここは、魂蔵がたけしに貸している部屋だ。たけしが想像以上に居座るので、空き部屋を使わすことにした。

 たけしが居間で、小説の仕事をして資料関係を広げて片付けるのも面倒なのも理由の一つだ。

 それならもういっそのこと、たけし専用の部屋を作ればいいと思った。

 

 陽架琉は、二階には上げれるようになっている。でも、一人だとまだ怖がる。

 たけしの仕事の邪魔にはなりにくいだろうという考えで、二階の部屋にしている。


 この部屋にはクリアファイルが無数にあって、せがれがたけしが広げた紙たちを入れるのだ。


「俺がいつもなんとなく、ファイルに入れてるけど良いんだな」


「今さらですね。バラバラになったのを探して、まとめ直すのが息抜きになるので気にしなくて良いですよ」


「軽く、ディスってない? 」


「……今さらですね」


 せがれは、話ながらファイルに紙たちを入れる。たけしは、椅子に座っている。


「お前、疲れてるな」


「はい」


「何かあったら、言えよ。仕事がしんどいなら、休みの期間をもらえるだろ」


「何かあったら、言ってますよ。もらえますね」


 たけしは、深呼吸をした。


「僕が、駄々(だだ)をこねているんです」


「はぁ? 」


 たけしの言葉に、せがれは彼の方を見て言った。


「あの()が、終わらないから」


「何、言ってんだ?! 」


 せがれは、作業をしている手を完全に止めた。


「陽架琉くんが、僕の書いた小説をすごく気に入ってくれて。前に向くきっかけになってくれてる。じっちゃんが気に入ってくれる。せっちゃんが、こうして支えてくれる」


 たけしの頬には、涙がこぼれた。


「僕は、今も苦しんでいる人たちの小さな助けになるなら。苦しくても、現実逃避をしたくなっても、止まらずに、小説を書いていきたいんだ」


 たけしは、服の袖で雑に涙を拭いた。


「喜んで、助けになっているのは嬉しいんです。でも、あの()がふとした瞬間に、僕を襲ってくるんです」


 たけしの頭の中には、今でもこういうことが浮かんでくる。

 

『僕が、竜輝くんに自分の都合でお泊り会を断ったから。竜輝くんは、あの()に亡くなった』 


『お泊り会を断らずに、僕の家で竜輝くんがいたら今でも生きていたかもしれない』


『僕が、見えない人生の分岐点を選んだせいだ』


『僕が、陽架琉くんとじっちゃんから竜輝を奪ったんだ』


 たけしは、まだあの()の自分の言動で竜輝(りゅうき)を死なせたと後悔をしている。

 それと同時に、自分の周りの人たちが『違う』と否定をしてくれているのも分かっていた。


 たけしは、魂蔵からの願いで償いとしては過ごしていない。

 でも、竜輝の死に直接は関係してなくても、自分のせいだとずっと後悔をしているのだ。


 それが、ふとした瞬間にたけしにまとわりついてくる。


「陽架琉くんたちのために、出来ることなら小説をずっと書きたいんです。だけど、こんな僕が本当に書いても良いのか、世に出してもいいのか、分からなくなって」


 せがれは、黙ってたけしの言葉に耳を傾け続けている。


「書きたいのに、書けなくて、書きたくないって。書いてないと、呼吸が出来ない気がするのに。書きたいはずなのに、駄々をこねているんです」


「たけしって、本当に不器用だな」


「今さら、ですね」


「たけしの想いは、わかったけど。壊れるまでは、無理をするな。頼むから、生きてくれ」


 せがれは、心の底からの願いを伝えた。


「はい。分かりました」


 たけしは、心友からの想いを受け止めた。二人は、あの()から、人の死に敏感になっている。


 どんな死因でも、壊れるまでは無理をして欲しくないと思う。



 二人は、気軽にドラマや映画を前のようには見れなくて、流行りの作品になかなかついていけなくなった。


 たけしは、職業柄色々な生死がある物語を読むことがある。

 でも、途中で苦しくなると見れなくなる。そういう時は、担当編集者を巻き込んでいる。

 どういう話で結末が待っているのかを、刺激が少ない内容の感想を書いて送ってもらう。それを観て、感想の返信を送っていた。

 

 たけしの書く小説は、苦しくても前向きに進む物語が多い。


「せっちゃんも、無理をしないでください」


「その原因の一つが、言うなよ」


 せがれは、少し笑いながら言った。


「今さら、ですね」


「たけし、それが自分の中で流行ってんだな」


「そういうことに、しておきましょうか」


「だな」



 しばらくしてからのこと。


 玄関の鍵を開けて、ドアを開く音がした。


「ただいま〜 」


「ただいま、あっ! 」


「陽架琉、どうした? 」


「帰ってきてるよ」

 

 陽架琉は、せがれの靴を指さして言った。


「本当だな。陽架琉、一緒に手洗いうがいをするぞ」


「はーい」


 一階から、魂蔵たちのやりとりが聞こえてくる。


「たけし、一旦片付けはやめて。下に降りようか」


「賛成です! 」


 たけしは、ニコニコとしている。



 そして、二人で一階に行って居間に戻った。


「ただいま〜 」


「陽架琉くん、おかえりなさい。散歩は楽しかったですか? 」


「うん〜 」


「じっちゃん、ただいま」


「おかえり、知永生(ちとせ)


「おう〜? 」


 せがれの顔は、驚いて口が開いたままで固まってる。


「自分の名前を、忘れたのか? 」


 魂蔵は、少しからかうように言った。


「違う。なんか、こんなにあっさりでいいのかなって」


 彼は、まだ戸惑っている。


「良いんだ。ワシがお前を一人前と認めたんだから」


 魂蔵は、ニカッと笑う。


「知永生くん、いつも僕を助けてくれてありがとう〜 」


 陽架琉は、笑顔で言った。


「おう〜! 」


 知永生は笑顔でそういうと、くるり後ろを向いて座った。


「知永生くん? 」


 たけしも、さらっと本名で呼んで、知永生の様子を伺った。


「たけし、知永生は? 」


 魂蔵は、心配をしてる陽架琉を自分の横に座らせながら聞いた。


「知永生くんは、余韻に浸ってますね」


 たけしは、そう言いながら目を拭く仕草をした。


「そうか」


 魂蔵は、机に置いてる箱ティッシュを知永生に渡すように、たけしに身振り手振りで伝えた。


 たけしは頷いて、箱ティッシュを取り、知永生に渡した。

 知永生は、ノールックでたけしの頭を撫でる。


「ふっ」


 たけしは、嬉しそうに笑った。


「良かったですね」


 知永生は、その言葉に頷いた。



 魂蔵は、時計を見た。そして、陽架琉とたけしと知永生を順番に見ていた。


「たけし。陽架琉を連れて、向こうの部屋で本を読むなり宿題をするなりしてこい。その間に、ワシは休憩して晩ごはんの準備をするから」


「は〜い」


「分かりました。陽架琉くんを堪能してきますね」


 たけしは、陽架琉を連れて居間を出た。


「たけし、ブレねぇな」


 魂蔵は、たけしたちが居間を出たあとにそう言った。


「フッ 」


 知永生は、背中を向けたままツボっていた。



 たけしが、居間から離れた部屋に陽架琉と一緒にウキウキで行った後のこと。


「知永生」

 

 魂蔵は、背中を向けたままの知永生を呼んだ。知永生は、ティッシュに手を伸ばした。


「じっちゃん? 」


 知永生は、背中を向けたまま答えた。


「すまなかったな」


「えっ、何が? 」


「ワシが、()()に課した一人前になるまで名前を呼ばないってことだ」


「じっちゃんは、悪くないよ。だって、俺のことを思ってくれたんだろ。竜輝のために陽架琉の兄代わりをしようとする、俺の心を守ろうとしてくれたじゃん。俺の心が腐らないように、一人前になるっていう目標を作ってくれたんだろ」


 知永生は、混乱をしながらも己の想いを言った。


「そうだとしても、八年ぐらい経ってしまった」


「それは、俺がなかなか一人前にならなかったからだろ」


「違う」


 魂蔵は、キッパリと言った。


「本当は、数年前に言うつもりだった。それぐらい、お前もたけしも、陽架琉の兄代わりを立派にしてくれているから」


「えっ? 」


 知永生は、魂蔵の言葉に驚いた。


「ワシが、陽架琉やばあちゃんのことで心に余裕がなかった。だから、お前を一人前と認めたのに、言い訳をして名前で呼ばなかったんだ」


「それは、仕方がないって。俺だって、そういう時って余裕がないんだから」


「いや、本当は認めたくなかったのかもしれんな」


 魂蔵は、一人で納得をして頷いた。そして、また話だした。


「何でかな。()()()と認めると、みんなが遠くにいく気がするんだ」


 魂蔵は、窓の外に広がる空を見た。



 魂蔵は、長く生きている。それは、戦争の経験や体験があって、人の死を観てきたということだ。


 小さいことでも、()()()だと認められても、身近だったり知っている誰かが戦地に逝く。


 戦地に行ってなくても、戦争の影響で毎日ように誰かは被害を受けて逝った。


 戦争が終わっても、人は死んでいった。


 工務店で、一緒に仕事をして技術を高め合って、親方に()()()と認められたと喜んだ。

 でも、少し時が経って事故や病気で亡くなったと知った。


 大切な二人の幼なじみは、事故やあとを追ってこの世からいなくなった。


 自分の子供が、苦難にたいして必死にもがきながらも頼ってくれた。

 自分の子供が、親になった。自分たちだけで、何とかしようと、誰にも頼れずに無理をして潰れることだってある。

 

 誰かを頼るのが、大人になって親になったら難しいから。


 頼ることが恥と思わずに、同じ親の自分に助けを求めてくれた。


 それが人として、()()()()()()()と、心の底からそう思った。

 でも、その後に事件に巻き込まれて、この世からいなくなってしまった。


10


 魂蔵はたくさんの死を観る時代を生きると、どこか相手を認めるのが怖くなってしまった。


「ワシは、臆病だからよ。いろんなところが引っかかって怖いんだ」


 魂蔵の想いに触れて、知永生の方からティッシュを出す音がする。


「まだ、平和じゃないから。認めると、お前がいなくなってしまうのが怖くてよ。ワシたちは、お前がいなくなると生きていけねぇんだ」


 知永生は、背中の向こうで魂蔵が鼻をすする音が聞こえた。魂蔵の声は震えて、時々弱くなった。


「でもよ、陽架琉がお前たちと頑張って、乗り越えてんだ。ワシも、頑張らんとな」


 魂蔵は、少し気合をいれるかのように言った後に、深呼吸をした。


「この間、お前が井上まゆみさんを連れてきてくれただろ。ワシは、うれしかったんだ。前に、パートナーがいるか聞いたときには、上手くはぐらかしやがってたがな」


「バレてたか」


「おう。お前が、誤魔化す時の癖を知ってるからな。何かは、言わねぇけど」


 魂蔵は、少し笑う。


「お前が、あの()からのワシたち以外にも、自分の人生を生きてくれてるのが、何より嬉しいんだ」


 また、知永生はティッシュの方に手を伸ばした。


「それに、もう少しで、お前の誕生日だからな。早めの誕生日プレゼント。第一弾にしようか」


 魂蔵は、少し冗談ぽく言った。


「なんだよ、それ」


「ん? 」


 知永生は、立ち上がりぐるっと回転をして魂蔵の方を見た。


「お前、(ひで)え顔してるな」


 魂蔵は、「ハハッ」と笑う。


「じっちゃんもだろ」


「お前、使わねえなら。ティッシュを返せよ」


 知永生は、黙って何枚かティッシュを取ってから、魂蔵に渡した。


 魂蔵は、それを受け取ってから鼻をかんだり、涙を拭いたりした。


「じっちゃん」


「ん? 」


「臆病だからって、急に()()()()を呼ぶのをやめるなよ」


「だってよ、呼ぶたびに泣くだろ」


「仕方がないって」


 知永生も、「ハハッ」と笑う。それにつられて、魂蔵も笑った。


「知永生、良い名前だな」


「そうだろう! 」


 知永生は、ニカッと笑う。


11


 数時間後の話。


 たけしは知永生に引きづられながら、倉西家をあとにした。


「ただいま〜 」


「お邪魔します」


「おかえりなさい」


 知永生の母のこはるが、玄関で出迎える。


「たけしくん、お疲れだね」


 こはるは、彼の顔を見て言った。


「はい」


 たけしは、うつむいた。


 こはるは、何か言いたそうな息子の方を見た。


「母さん」


「どうしたの? 」


 こはるは、優しく微笑む。


「名前、解禁した」


「えっ? 」


「良い名前を、俺につけてくれてありがとうございます」


「えっ?! 」


 こはるが驚いているのに、知永生は心友のたけしを見た。


「たけし、行くぞ」

 

「えっ、ちょっと、待って〜 」


 知永生は、たけしの手首を軽く握って、自室まで早歩きで進んだ。

 たけしは、少し慌てついて行くしかなかった。


12


「えー!!? 」


 こはるは、ひとり玄関で今起きたことに驚いた。


「母さん、どうした?! 」


 近くの部屋にいた知永生の父の勘助(かんすけ)が、慌て玄関に行った。


 こはるは、今起きたことを話した。そして、二人で喜んだ。


13


 宮本(みやもと) 知永生(ちとせ)の名前の由来は、こうだ。


「たくさんの悪いことや良いことを()っても、人に寄り添える末()い人()を送って欲しい」という願いが込められている。

 読んでいただき、ありがとうございます。


 ついに、宮本工務店のせがれの本名が公開されました。

 『宮本 知永生』を改めてよろしくお願いいたします。


 魂蔵は、たくさんの死を観てきた。だから、誰かを一人前と認めるのが怖くなった。

 でも、孫の陽架琉が頑張ってるのならと、魂蔵も頑張ることにしたのだ。

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