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第32話 せがれの異変 前編

今回、かなり長いです。

番号を振ってます。

時間がある時に、お読みください。

 陽架琉(ひかる)の小学校での転落事件から約一年が経った。


 せがれは、この年二十六歳になる。たけしとは数カ月先に年をとる。


 大学に通いながらも、実家の宮本工務店で見習いをしていた。今は、大学を卒業してるので実家で修行をしている。


 性に合ってるのか、せがれはメキメキと仕事を覚えて周りからも評価をされていた。

 それに対してせがれは調子を乗らずに、ひたむきに努力をしているのだ。


 高校まで、ここらでも評判の『優しい不良』の影が薄れて、『目つきの悪いだけの優しく手際が良い職人になる』と期待をされている。


 

 せがれは、学業や仕事以外にも陽架琉の兄代わりとして、魂蔵(ごんぞう)の良き相談相手などの生活を両立をあの()からしてる。

 

2


 もう、あの()から八年が経つのだ。その年月をせがれは本来経験をすることのないことを、まだ十八歳の子どもが歩んできた。


 あの()の悲劇は、もう八年が経つのに犯人は捕まらずに止まらない。


 せがれの感覚としては、止めたくてたまらない振り子時計を止めれずいた。

 振り子が変わらずに、動いている。その金具に、映る自分の顔がよく分からなかった。


 「時が解決することもある」と、何度か耳にした。確かに、その通りなこともあった。


 でも、そうじゃないんだ。()()が時を止めることを許さずに、進めてくるから。


 せがれは、決して孤独ではなくて、心友のたけしと共に亡き竜輝(りゅうき)の分まで陽架琉の兄代わりをした。


 解放されたい言葉に出来ないモノを、()()がそれを許してくれない感覚ってあるだろう。


 最初、周りの大人たちは心配と無理だろうと、期待を持ちながらも二人を見守っていた。


 せがれは、自分の本名を一人前になるまでみんなに呼ばせずに『せがれ』と言わせる覚悟を見せた。


 周りの大人たちは、その覚悟を受け止めて、程よい距離感で支えて見守ることになるのだ。


3


 最近、せがれにパートナーが出来てるのかと周りの大人たちは噂をしていた。


 彼の心友であるたけしに、事情聴取をするをした。


 「守秘義務です」と何とも言えない回答が返ってきた。

 何度聞いても、その言葉しか言わずにいた。聞きすぎると、怖い笑顔を向けてくるようになった。




 せがれとたけしは、ファミレスでお昼ご飯を食べていた。


「せっちゃん。最近、色んな人にね。せっちゃんにパートナーが出来たんじゃないかって、しつこく聞かれるのですが」


「なんか、ごめん」


 せがれは、謝罪をした。


「何年か前に、パートナーの話は聞いてましたけど。あれからは、変化があるんですか」


「積極的に聞いてくるな」


「ふふふ。僕だって、気になりまして」


 せがれは、少し諦めたかのようにため息を吐いた。


「正式に、お付き合いすることになってな。そろそろ向こうの家族に会おうかって。それを電話でやりとりをしてたのを、親父たちに目撃をされてたんだな」


「えっ? 」


「ん? 」


「何年も()()として過ごしてると思ったので、ついに結婚するのかと思って驚きました」


「まぁ、普通はそうだよな」


 せがれは、頭をかいた。


「彼女は、まゆみっていうんだけど。俺とまゆみの中で、結婚とか籍を入れるとかの踏ん切りが、正直まだつかないんだ」


 たけしは、なんでそう思うのかがなんとなく分かった。


「あの()の悲劇が終わらない。俺らは身近に人が亡くなったり、傷ついたりした人がいるのに幸せのカタチを残したらいけない気がしてな」


 せがれのパートナーのまゆみは、友達が竜輝と同じ『受験生連続放火殺傷事件』で被害を受けた。

 その友達は、命には別状はないが、今も心に深い傷をつけている。


 二人は、被害者の交友関係という共通点があった。

 「まゆみは、たけしによく似ている」と、せがれがよく言っている。


「周りは、「気にしてなくて良いから、幸せになれ」っていうと思う。俺たちだって、そう思わないこともないんだ。難しいんだよな」


 せがれは、頭をかいた。


「それでも、進展があったんですよね。正式にお付き合いするから、彼女さんのお家に行くとのでしょ? 」


「うん。二人とも、()()っていう言葉に甘えてな。でも、周りには、自分たちの関係を別の言葉にしても良いかなと話したんだ。挨拶に行くのは、けじめだな」


「せっちゃんは、相変わらず真面目で優しいですね」


 たけしは、せがれが昔から変わらないのに安心した。


「まゆみには、今度会わせるから」


「えっ? 」

 

「今日は、写真で」


「えっ? 」


 せがれはそう言って、スマホの画面をたけしに見せた。

 たけしは、せがれの一方的な言動についていくしかなかった。



「優しそうな人ですね」


 たけしは、スマホを手に取ってよく見た。


「うん」


 せがれは、照れていた。


「まゆみの家に行ったあとに、俺から親父たちに会わすから。まだ、黙ってくれ」 


「しょうがないですね。また、守秘義務って言っておきます」


「今、警察か弁護士の話でも書いてんのか」


「書いてますね。それもありますが……」


 たけしは、一口だけ水を飲んだ。


「この間、京介(きょうすけ)さんと色々話してたので」


「あぁ」


 京介さんは、西原京介という警察官だ。彼とつながりが、なぜあるのかというとたけしの人脈の話になる。


 たけしの同業者で、交友関係のある小説家の星時 空(ほしとき そら)で(本名は西原 空)の兄が京介だ。


 たけしは、はじめは空の兄が警察官だということは知らなかった。

 空に会った時に、過去に彼女の身近で起こった事件の話を聞いた。


 そして、たけしは自分の身近にも起こった『受験生連続放火殺傷事件』のことを話したのだ。

 それを聞いて、空から兄が警察官で、その事件の捜査をしてるから協力をして欲しいと頼まれた。


 たけしは、思いもしなかったつながりに驚きつつも、逃してはならない人生の分岐点だと思って、了承をしたのだった。


 そして、何度か京介と話し合いをしていた。それを、せがれに報告をしている。

 せがれも、京介には数回会って話をしたことがある。それは、京介からの提案でせがれにも事件当時のことを聞きたいと言われたからだ。



「まだ、解決は難しいそうです。でも、犯人につながるモノで、いくつか気になることがあると言ってました」


「それは? 」


「守秘義務と、言われました。「これでも、ギリギリを見極めて言ってるから許せ」と謝ってましたね」


「まぁ、そうなるな。京介さんのことだから、少しは無茶をしながら調べてくれるよ」


「それもどうかと思いますが。京介さんの管轄でも、被害がありました。その関係で、過去の調査として竜輝くんたちの事件も洗い直してると言ってるので。僕らも協力をしないとですね」


「そうだな。今のところ、じっちゃんや親父たちにはバレてないみたいだからな」


「そうですね。まだ、命日に警察や消防関係者とじっちゃんと僕らの父親と話し合いをしてますね」


「うん。話し合いはしてるけど、内容は教えてくれない」


「だから、僕たちも彼らに京介さんのことは言わなくても良いです」


「だな」


「はい」


4


 せがれとたけしがファミレスで昼ごはんを食べて、約一ヶ月が経った。


「たけし、まゆみの家族が俺を認めてくれたよ」


 せがれから、たけしにメッセージが届いた。


「おめでとうございます」


 たけしは、すぐに返信をした。 


「明日、会える?」


 すぐに、せがれは既読をすると、メッセージを返した。


「仕事は、見なかったことにしたら」


 たけしは、メッセージと一緒に絶望をしてるスタンプを送った。


「まだ、そんなに修羅場じゃないと思うから。会えるな」


「もう、いい加減に僕の仕事のスケジュールの把握はしなくて良いですよ」


「明日、まゆみも来るから。たけしの写真はもう何年も前から見せてる」


「えっ? 」


「じゃあ、明日いつものファミレスと同じ時間に会おう」


「せっちゃん! 」


 せがれは、「またね」のスタンプをして言い逃げをした。



 翌日になった。


 たけしは、いつもよりも緊張した様子でいつものようにファミレスに行った。


 せがれとまゆみが先に、席に座っていた。


「たけし。彼女がまゆみ。まゆみ、コイツがたけし」


「せっちゃん、コイツって」


 たけしが、少しいじけた。


「ごめん」


「改めまして。初めまして、私は井上(いのうえ)まゆみです。よろしくお願いします」


 まゆみは、優しい笑顔でそう言った。


「僕は、秋原たけしです。こちらこそ、よろしくお願いします」


「はい! 」


 二人のやりとりをせがれは、嬉しそうに見ていた。


「私も、彼のことをせっちゃんって呼んでて。それで……」


「あっ、たけしで良いですよ。みんなに、たけしやたけしくんって呼ばれてるので」


「じゃあ、たけしくんで良いですか?あっ、私のことは、まゆみでお願いします」


「もちろん」


 三人は、本格的に話す前にメニュー表を見て、ドリンクバー付きの定食を頼んだ。


「二人とも、緊張してるな」


 せがれは、少し茶化すように言った。


「せっちゃん。緊張しますよ」


 たけしは、ムスッとして言った。


「私は、せっちゃんから。たけしくんがどんな人が聞いたら。「まゆみの男の子バージョン」と、あとは他に少しだけ教えてもらってたので。今日、ドキドキしたんです」


「僕も、まゆみさんのことは「たけしの女の子バージョン」って聞かされてました」


「私たち、同じようなことを聞かされてたんですね」


「そうなりますね。あと、他に少しだけとは何を聞かされたんですか? 」


「話が弾んでいるけど。俺とまゆみは、ドリンクバー行ってくるわ」


 せがれは強引に割り込んで、たけしの笑ってない目を見たくなくて、全力で逃げようとする。


「せっちゃん、僕に何か温かい飲み物をついできてくれますか」


「分かった。まゆみ、行こう」


「えっ? 」


「せっちゃんが飲み物を取りに行ってる間に、僕はまゆみさんから話しをお聞きしますので」 


「はい」


 せがれは、肩を落としてトボトボとドリンクバーに行った。



たけしがホットの飲み物を飲む時は、せがれが取りに行ってやけどにならないように徹底してる。


 たけしは、以前ドリンクバーからホットドリンクを持って歩いてる時に、近くに店員が通ってぶつかりそうになったのを避けようとしたことがあった。


 そして、たけしは店員にかからないように手を自分のほうに引いた。

 元々、たけしはカップを落とさないように包み込むように持つクセがあった。


 そのせいもあって、熱々の入れたてのドリンクが自分の身体にかかっても「やけどで痛い」感覚が分からずにいた。


「すみません」


「大丈夫ですよ。飲み物、かかってませんか? 」


 必死に謝る店員をよそに、たけしはさわやかな笑顔だった。


「誰か、来て。お客様がやけどしたかも」


 もう一人近くにいた店員が、状況をみて言った。


「えっ!すぐに行く! 」 


 その時にいた店員が慌てて、さらに他の店員を呼ぶこともあって、ちょいっとした騒ぎになった。


「たけし! 」


 せがれが騒ぎに気がついて、慌てて駆け寄った。


「あっ、せっちゃん」


 たけしは、淹れたてで熱々のドリンクが手にかかっても普通だった。

 彼は、生まれつき痛みが分からないからだ。


「すみません。コイツの連れです。俺がコイツの応急処置とか病院とか連れて行くので。凍りをもらえませんか? 」


 せがれは、内心は慌てても、出来る限り冷静に対応をした。


「たけし、トイレで服ごとぬらせ。俺も、すぐにそっちに行くから」


「分かりました」


 たけしは、全然焦らずに歩いてる。


「たけし、少しは急げ」


「僕は、痛くないのですが」


「良いから」


 たけしは、少し歩くスピードを上げてトイレに行った。


「えっ? 」


 集まってた店員たちはたけしの言葉に驚き、いつの間にか店長も駆けつける事態だった。


「片付けをお願いします。すぐに応急処置と病院に連れて行かないとなので。落ち着き次第、お会計に戻ります。あっ、これは俺の名刺です」


 せがれは内心焦りながらも、店長とやりとりをした。


「お会計は、いりません。今回は、こちらの落ち度もあります。申しわけありません」


「こちらこそ、騒ぎになってすみません。また来ますね」

 

 そして、たけしはせがれに応急処置をしてもらって病院に強制連行になった。


 そのおかげもあって、たけしの手には傷が残らなかった。

 それから、たけしはホットドリンクは持って歩くのは禁止になった。



 たけしは、せがれがドリンクバーに行ってる間にまゆみと話をしていた。



「まゆみさん」


「はい」


「せっちゃんのことだから、僕のことは「笑顔が怖いときは危険」みたいなのを言ってると思うので。他に少し聞いてるのは、別にいなくていいです」 


「えっ? 」


「こうでもしないと、まゆみさんに伝えれないから。手短に言いますね」


「はい」


 まゆみは首を傾げたが、たけしの意思を聞くことにした。


「せっちゃんからは、色々と聞いてると思うのですが。彼()、本来なら背負わなくてもいいモノまで、全部背負ってるんです。もう、幸せで良いのに」


 この時に、まゆみはたけしの優しさを実感したのだという。


 あの()がなかったら、背負わなくてもいいモノがたくさんあった。

 それがあるから自分の幸せを諦めてたのは、せがれ以外にたけしやまゆみも同じだった。


「僕らは、同じような境遇だと聞いてます。僕が言うのも変ですが、一緒にせっちゃんを幸せにするために支えて欲しいです」


「はい! 」 


「でも、やっぱりおかしいですね」


「そう、ですね」


 二人は、「ハハッ」と笑った。


「でも、良かったです」


「えっ? 」

 

「うまく言葉が見つからないけど。私、たけしくんに拒否られないかドキドキしてて。だって、たけしくんは子供のころから、ずっとせっちゃんを支えてたと聞いてたから」


「実は、僕も似た感じに思ってました。これからは、まゆみさんがせっちゃんの隣にいるからと、拒否られないかと」


「やっぱり、私たち似てますね」


「そうですね」


「あれ?せっちゃん、遅いですね」


「そうですね。あっ、戻って来たみたい」


 せがれが、ホットドリンクを手に持って戻って来た。


「悪い。遅くなった」


「そうですね」


「ドリンクバーに行ったら、なんか珍しく混んでたからさ。タイミングをずらそうと思ってトイレに行ったら、使用中だったんだ。で、トイレのあとに戻ったらドリンクバーが空いてたから注いできた」


「解説、ありがとうございます。その間に、せっちゃんの悪口を色々吹き込みました」


 たけしは、イタズラを楽しむ子どもの表情をした。


「おい。仕返しをしようとするな」


()()()とは、どういうことでしょうか? 」


「たけし。罠に、はめやがったな」


「なんのことでしょうか。せっちゃんは、僕に仕返しをされるようなことをしましたか? 」


 せがれは救いを求めるように、まゆみをみた。


「まゆみ、たけしが何を言ったんだ」


「う〜ん」


 まゆみはチラッと、たけしを見た。彼は、唇に人差し指を一瞬置いた。


「守秘義務だよ」


「そんなとこまで、似なくて良い」


 たけしとまゆみは、笑った。



 その日から二週間くらい経って、まゆみは宮本家に行って無事に挨拶を済ませた。


「じゃあ、じっちゃんとこに行ってくるわ」


「「えっ? 」」

 

 せがれの両親が、驚いた声を出した。


「まゆみと行くよ? 」


「そうじゃなくて、まゆみさんがこの家に来て二時間くらいしか経ってないのと、展開がはやくてね」


 せがれの母親のこはるが、言った。


「まぁ、まゆみさんもずっとここにいたら緊張するから。うちの挨拶はさっとして。じっちゃんのところもついでにしたら良いな。うちは、住み込みが何人もいるから落ち着きがないから。これでも、静かにさせてるんだけどな」


 せがれの父親の勘助(かんすけ)が、言った。


「このバカ息子で良ければ、一緒にいてくれるだけで。親である我々は、嬉しいんだ」


「二人が想う幸せのカタチで、生きたら良いからね」


「ありがとうございます! 」


「ありがとう」


 この空間は、すごく温かった。



 せがれとまゆみは、横に並んで魂蔵の家に向かって歩いてた。


「せっちゃんのご両親、聞いてた通り優しくて良い人たちだね」


「おう」


 せがれは、照れくさそうにしていた。


「まゆみ」


「どうしたの? 」


「じっちゃんのところまで、挨拶に行かせてごめん」


「何言ってるの? 」


「えっ? 」


「今のせっちゃんがいるのは、じっちゃんのおかげなんでしょ。大切な人に、私を紹介してくれるのは緊張するけど。嬉しいんだよ」


 まゆみは、キラキラとした笑顔で言った。


「ありがとう〜! 」


「あっ、いつもみたいに髪を撫でないでね。せっかく整えたんだから」


 まゆみは、せがれに髪を撫でられないように一歩後ろに下がった。


「お〜い! 」


 突然、二人に向かって後ろから男の人が呼びかけた。


「へっ? 」


 まゆみは、驚いていた。


「俺たち? 」


 せがれは、少し警戒をしながら振り返って言った。


「そうだ」


 せがれは、なんとなくこの人を知ってると思った。


「じ〜さん、どうした? 」


「宮本の勘助だったか。彼女を連れてデートしてんのか? 」


 せがれたちに声をかけた人は、前に竜輝が助けた徘徊をしていたじ〜さんだった。

 認知症があって、せがれと勘助を間違えたのだろう。


「おう。じ〜さん、今ひとりでいるのか? 」


 せがれは、じ〜さんの言葉を間違いを否定せずに話しを合わせた。

 それに、彼女を連れて散歩デートをしてる気分だったので完全に間違ってるわけじゃなかった。


「そうだ。恋人と会う約束をしててな」


 せがれは、瞬時にまた家を抜け出して徘徊してると思った。


「じ〜さんも、彼女と会うんだ。あっ、そういえば彼女さんにさっき会ったよ」


「えっ? 」


「じ〜さんに会ったら、すれ違いになると困るから。見かけたら、家まで連れてきてって頼まれてんだ。俺たちと行こう」


「おう、良いのか?デートの邪魔だろう? 」


「大丈夫ですよ。ちょっと、寄り道をしたいと思ってたんです」


「勘助。彼女、出来た人で良かったな」


「おう。じ〜さん、ここでちょっと待ってて」


「おう」

 

 じ〜さんは、手を挙げてそう言うと道の端っこに座った。

 せがれはまゆみと一緒に、じ〜さんから少し離れたところに行った。じ〜さんの様子すぐに分かる位置だ。


「まゆみ、ごめん」


「謝らなくていいよ。状況は、なんとなく分かったから」


「ありがとう。じ〜さんの家に電話をかけるわ」


「分かった。私は、じ〜さんとおしゃべりしてるね」


 せがれは、じ〜さんの家に電話をかけるとすぐにつながった。じ〜さんの娘さんが、慌てながらも状況を把握をした。


 せがれとまゆみは、じ〜さんを家に無事に送り届けた。

 魂蔵の家まで少し遠回りをすることになったが、じ〜さんの命が無事なら良かったと思った。



「ちょっと予定より、じっちゃんの家に行くのに遅くなった」


「うん。確か、たけしくんもいるんだよね」


「最近、じっちゃんの家に()()住み着き始めたからな」


「また、なんだ……」


「たけしは、仕事が好きだけど。現実逃避をしたいのと陽架琉に癒やされたいがあるとそうなる」


「なんか、すごいね」


「そうだろ」


「うん。そういえば、私が今日じっちゃんのお家におじゃまするのは言ってるの? 」


「言ってない。たけし以外は、誰も知らない。たけしもじっちゃんや陽架琉に言ってない」


「えっ?私、せっちゃんの家よりも緊張してきたよ」


「そうだよな。ごめん」


「謝らなくて良いよ。それよりも、さっきは大丈夫? 」


「……大丈夫」


「そうじゃないこと、私は分かるよ」


「だよな」

 

 せがれは、ため息を吐いた。


「失礼かもしれないけど、あの人が覚えてると思わなくて」


 せがれが言うあの人は、まゆみと一緒に家まで連れて行ったじ〜さんのことだ。


「じ〜さんが、竜輝のことを言うって思わなくて」


「うん」


「竜輝の名前は出なかったけど」


 せがれは、さっきの出来事を思い出していた。


10


『勘助』


『じ〜さん、どうした? 』


『前にも似たようなことがあったな。()()()()で、いたらな』


 また、せがれを「勘助」と呼んで話しだした。


『えっ? 』


 せがれは、じ〜さんがはぐれないように自分の腕を持たせていた。その肩が、ビクッと上に上がる。


 せがれは、あることを思い出していた。

 

『前にもこうやって、ワシを恋人のとこまで連れっててくれた子がいてな。名前は、なんだったかな』


『な、なんだろうな』


『勘助よりも若くてな』


『そ、そうなんだな』


『あっ! 』


『大きい声を出して、びっくりするだろ』


 せがれが、少し驚いて言った。


『倉西のとこの子だ』


『倉西さんのとこの子なんだ』


『勘助は、その子のことを知ってんのか? 』


『おう』


『あの子は、元気にしてんのか? 』


『元気にしてるよ』


『そうか。良かった。今度、会ったら礼を言わないとって思っててな』


『俺が、代わりに礼を言うよ』


『じゃあ、頼むわ〜 』


『おう』


 せがれの声は、どこか震えていた。じ〜さんから竜輝の話しを聞いて嬉しいはずなのに、どこか儚く感じる。


 そして残酷に思えて、じ〜さんに涙を見せないように必死だった。


11


 その当時の竜輝は、登校途中にじ〜さんの捜索をして行方が分からなくなった。

 そして、一か八かで純が宮本工務店にいる魂蔵に電話をかけていた。


『父さん、仕事中にごめん』


『純、こっちは大丈夫だから。落ち着いて話せ』


 魂蔵は、電話の向こうで焦ってる純に言った。純は一度深呼吸をして、また話しだした。


『実は、竜輝が行方不明になってて』


『ハァ? 』


『朝、いつもの時間にみんなで家でお見送りをしたんだけど。さっき、学校から登校してないかって連絡が来たんだ』


『そうか』


『それで、そっちに竜輝がいないかって』


『こっちには、来てないな。店の外にいるやつらに、見かけてたら連絡をするように言うよ』


『ありがとう』  


『純は、とにかく落ち着ちつけ。竜輝は、しっかりしてるから』


『うん』


 しばらくしてから、また純から魂蔵に連絡があった。


『父さん、竜輝が無事に見つかってね。ちゃんと学校で会って少し話しをしたから。ごめん、心配かけたね』


『謝らなくて良い。竜輝が無事ならそれで良いんだ』


 魂蔵は、ホッとため息をついた。


 そして、じ〜さんの家族が純の家に事情とお礼を言いに行ったのだ。

 純からその日のことを聞いて、魂蔵は自慢をするように宮本工務店で話していた。

 それをせがれは、勘助たちと聞いていたのだ。


12


 あの()が無かったら、本当は元気な竜輝にお礼を言えるのに。


 そうしたら、竜輝が照れながらあの言葉を言ってくれたのに。


『俺は、当たり前のことをしただけ』


 それで、俺は竜輝の頭をまたワシャワシャと撫でることが出来たのに。



 せがれは、それが出来なのが悔しくて堪らなかった。


 でも、竜輝が生きてる時にしていた優しさを、自分以外の誰かがおぼろげでも覚えてるのが嬉しかったとも想うのだ。


 今、せがれの隣にまゆみがいなかったら。せがれは、じ〜さんをなんとか家に送った後に、座り込んで動けずにいただろう。


 それだけ、大切な人を失ったせがれにとって、まゆみは寄り添って支えてくれる人であった。


 せがれは、これからも一緒に隣でいてくれるまゆみを、魂蔵たちに紹介をするのだ。



13


 せがれとまゆみは、予定よりも遅れて倉西家に着いた。


 「ピンポーン」と、せがれは珍しくチャイムを鳴らす。

 最近は、合鍵をもらってるので勝手に家に上がり込んでいる。


「はーい」


 魂蔵の声が、家の中から聞こえた。


「なんか、宅配を頼んでたっけ」


 魂蔵がそう言って廊下を歩いて、シャチハタを持って玄関の鍵を開けた。


「お待た……、ハァ? 」


 魂蔵が玄関の外にせがれが立ってるのを見て、驚いていた。


「せがれ、珍しくチャイム鳴らすから驚いた」


「じっちゃん、ごめん。今日は、なんとなくちゃんとしておこうかなと思ってな」


「お前、頭がおかしくなったのか」


「正常」


「ん?まぁ、入れ」


「ただいま〜 」


「お邪魔します」


「おかえり。おい、その人は誰だ? 」


 せがれの背後に隠れて、まゆみが現れた。


「俺の彼女のまゆみ」


「彼女? 」


「うん。急に緊張して、玄関の戸が開く時に、俺の背中に隠れた」


「そうか。まぁ、ここは玄関だから。上がって、居間で改めて話そう」


「分かった」


 三人は、廊下を歩いてた。魂蔵は途中で飲み物とお菓子を取りに台所に寄った。


「チャイムの音には、ギリ気づいてないが。あっちの部屋で陽架琉とたけしが昼寝してるから。小さめの声でな」

  

 魂蔵は、二人が寝てる部屋の方向を指差しで伝えた。


「たけしも、寝てんのか」


「あぁ、二人とも疲れてるみたいだから。寝かしつけた」


「じっちゃん、たけしも寝かしつけるのすごいな」



「まぁ、たけしは軽めな感じに寝る気だと思う。陽架琉を起こすためにな」


 三人で居間に行って、せがれが自分とまゆみの分の座布団を畳の上に置いた。


 魂蔵は、飲み物やお菓子を人数を机の上に並べて置いていた。


「それよりも、本題に入ろう」


「おう」


「ワシが仕切るのも変だが。改めて、ワシが倉西魂蔵だ。陽架琉は、ワシの孫。せがれのことだから、たけしのことは、先に会わせてると思うから説明は省く」


「じっちゃん、さすが」


 魂蔵は、ため息をついた。


「せがれは、あとで話しをしようか」


「はい」


 せがれは、やらかしたと落ち込んだ。


「お嬢さんの名前を教えてくれるかな? 」


「私は、井上まゆみです。彼とは大学の頃に出会いました」


「そうか。なんて、呼んだら良いかな? 」


「まゆみで、お願いします」


「まゆみさん。ワシが言わなくても知ってると思うが、せがれはある意味苦労人だ。あの()から、お互い助け合ってきてた。今、ワシが言うのおかしいが、今後もせがれにも世話をかけることになる」


 魂蔵は、まゆみをいきなり紹介されて驚いだが、伝えなければいけないことを話しを始めた。


「ワシも、年をとる。今までのように出来なくなる。でも、ワシには陽架琉がいるからな。そのぶん、たけしやせがれに、今よりも世話をかけることになる。そうしたら、せがれの心が沈んだり、二人の時間を奪うことになったりするかもしれない」


 魂蔵は、心の片隅に置いていた気持ちを打ち明ける。


「そうなったときに、まゆみさんにも迷惑をかけると思う。色んなことに、覚悟をしてもらうこともあるかもしれない」


 魂蔵は、申しわけなそうに言った。


「魂蔵さんのお気持ちを教えてくれたのが、私はとても嬉しいです」


「えっ? 」


「魂蔵がせっちゃんや初対面の私の心を心配してれたのが、私にとってはとても嬉しいことです」


 まゆみの性格さ、とても素直だった。


「私は、たくさんの覚悟と責任と優しさを持って、倉西さんのお家やたけしさんと過ごしたせっちゃんが大好きなんです」


 まゆみは、まっすぐと魂蔵を見ていた。その頬は、少し恥ずかしそうに赤くなっている。


「悲しい時があっても、今のせっちゃんがいるのは魂蔵さんのおかげもあります。ありがとうございます」


「まゆみさん、こちらこそありがとう。せがれ、まゆみさんと幸せにな」


「おう!ありがとうございます」


「年取ったから、ますます涙腺が緩くなった」


 魂蔵は、ティッシュで涙を拭った。


14


「じっちゃん、気にしすぎんなよ」 

 

 少し落ち着いた頃に、せがれが話しだした。


「俺は、好きでこの生活をしてるから。ちゃんと、息抜きをするのも忘れてないからさ」


「そうか」


「おう」


「せがれ、目元が赤いが大丈夫か」


「まぁな」


 せがれは、どうしようかとまゆみを見た。


「せっちゃんが、良いんなら」


「フー 」


 せがれは、少し覚悟を決めて魂蔵に話をした。


「そうか。あの家のじ〜さんが、竜輝のことを言っていたのか。そりゃあ、泣くよな。ワシだって、また泣きそうだからな」


 せがれは、倉西家に行く途中に涙が溢れ出した。


「だよな」


「せがれ、話してくれてありがとうな」


「おう」


「竜輝たちが、この世にいなくてもな。こうやって竜輝の話が聞けると、生きてるって思えるよ」


「そうだな」


 まゆみは、せがれの背中を擦った。


15


 せがれとまゆみが倉西家に来てから、約一時間が経った頃。


「じいちゃん〜 」


「は〜い」


 陽架琉がお昼寝から起きてきて、じいちゃんを呼ぶ。

 陽架琉は、時々横に誰かいても寂しくて不安で呼ぶのだ。

 じいちゃんは、出来る限りそれに応えている。 


「陽架琉のとこに行ってくるわ。今日は、グッスリ寝れてるみたいだな」


「うん。良かったよ。ついでに、たけしをたたき起こしたら」


「そうするわ」


 魂蔵は、少し冗談ぽく言うと居間を出た。


「魂蔵さん、良い人だね」


「そうだろう」


「うん」


 ちょっと時間が経ってから、ドタバタと走る音が聞こえた。


「陽架琉、走ったら転ぶぞ」


「は〜い」


「返事は、一丁前」


「そうですね」


 陽架琉は、魂蔵に止められても足音を立てて走った。短距離の小走り程度は、陽架琉の傷ついた身体でも出来た。


 それを後ろから、ゆっくりと二人が歩いた。そして、居間に入った。


「せっちゃん〜 」


「陽架琉、おはよう」


「おはよう〜 」


 陽架琉は、元気に挨拶をしたかと思うと、首をかしげた。


「せっちゃん、横に誰かいる? 」


「陽架琉。さっき、お客さんが来てるって話しただろ」


「あっ、そっか」


「陽架琉くん、せっちゃんがいるって聞いてテンションが上がりすぎて、お客さんのことをすっかりぬけてたんですね。かわいい。僕は、かわいい陽架琉くんと一緒にお昼寝をしてましたけど」


 たけしは、少し早口で言った。


「たけし、最後のほうに素が出てるぞ」


「事実なので」


「開き直りやがった」


「陽架琉、お客さんに挨拶をして」


 魂蔵は、せがれとたけしのいつものやりをスルーして、陽架琉を誘導した。


「こんにちは、ぼくは倉西陽架琉です。せっちゃんの弟分です」


「陽架琉、どこでそんな言葉を知ったんだ? 」


 魂蔵は、そう言いながらせがれとたけしを見たが、目を反らしている。陽架琉が変な知識を得るのは、自分以外なら大抵この二人からだ。

 


「こんにちは、私は井上まゆみです。せっちゃの彼女です」


「まゆみさん、堂々としてますね」


「緊張が、ほぐれてるな」


「だな」


 たけしと魂蔵とせがれが、小さな声で言った。


「彼女ってことは、ラブだね」


「おい、どんな知識を陽架琉につけたんだ。お前ら」


「たぶん、年相応」


「たぶん、そうです」


「ワシの目を見て言え」


 せがれとたけしは、魂蔵から視線を反らしていた。


「そうだよ」


 まゆみは、優しくて照れながら言った。

 

「まゆみさん、素直だね」


「たぶん、陽架琉の純粋さに癒されてるわ」


「せっちゃん、良かったね〜 」


 陽架琉は、せがれをニコニコと見ながら言った。


「陽架琉、ありがとう〜 」


 陽架琉は、せがれにひっつきに行った。陽架琉の言動は、小五になってもまだ幼いところが残っていた。


 それを堪能が出来るだけありがたいので、堪能をしようとたけしが提案をした。それをみんなが賛同をしている。でも時と場合があるのは、その都度教えている。


 陽架琉の身長体重は平均以下なので、膝のうえに座っても、おんぶをしても軽いとせがれは心配しながらも、どこか嬉しそうだ。


「まゆみさん。もし時間があるなら、この家で晩ごはんを食べるか? 」


「みなさんたちが、良いんでしたら」


「ワシのことは、遠慮せずにじいちゃんがじっちゃんって呼んだら良い」


 魂蔵は、まゆみが言いにくそうにしてるのに気が付いていた。


「ここに来る前に、じっちゃんって言ってただろ」


「それは、せっちゃんがじっちゃんしか言わなかったから」


「まぁな」


「もう! 」


「ラブだね」


 陽架琉が、またそう言った。


「「あっ…… 」」  


「陽架琉くん、目をキラキラさせてかわいい」


「陽架琉とたけしは、少し静かにしようか」

 

「そうなのか? 」


 陽架琉の口調は、誰かのマネッコなのでみんなは話す時に一応気をつけてはいる。今も、陽架琉はマネて言っていた。

 

 たけしは、陽架琉がかわいいと頭をなでている。どうやら、すごく疲れているようだ。


「晩飯って言っても、作り置きをしてるの温めて盛り付けするだけだ。陽架琉が散歩にハマっててな。隙があれば、外に出ようとするから。最近は、作り置きだな」


 最近の陽架琉のブームは、散歩になっている。運動とリハビリを兼ねて散歩に連れて行ったら、結果的にハマって勝手に行こうとする。


 陽架琉だけでも行けないことはないが、危険の判断力が弱かったり、転落事件の後に後遺症でとっさに身体を動かすのがやりにくかったりするのだ。


 そのため、転落事件のあとは登下校を魂蔵や宮本家と秋原家で交代に見守りをしていた。


 魂蔵は、陽架琉がまた昔のように勝手に外に出て怪我をして欲しくない。

 転落事件から少し過保護になってるのは、心配でたまらない証拠だった。


 「陽架琉には、出来るだけ一人だけで外を出るな」と、常に魂蔵たちが言っている。

 でも、陽架琉は急に散歩に行きたいとなれば、そのことが頭から抜け落ちてしまう。


 だから、魂蔵はせがれたちに陽架琉の面倒を見てもらってる間に、作り置きを多めに作って冷凍庫に入れている。

 時々、宮本家と秋原家から作り置きをもらうこともあった。


「じっちゃん、晩ごはんにお呼ばれして良いですか? 」


「もちろん」


「ありがとうございます」


 魂蔵は、まゆみの様子に嬉しそうだった。



16


 陽架琉が、唐突に散歩に行くと言い出した。 


「良し、誰と行くんだ? 」


 魂蔵は、そう言った。いつもは、「陽架琉と一緒に行く! 」とせがれとたけしがケンカをする。


 でも、今日はまゆみがいるからどうするんだと思った。

 

 

「陽架琉くん、僕と散歩に行きましょう」

 

「でも、たけしくんとお昼寝の前に、少しお庭を散歩したよ? 」


 陽架琉が、魂蔵のほうを見た。


「そうだな。二人でしてたな」


 魂蔵は、陽架琉に賛同をした。


「え〜 」


「たけし、もう成人してるのに子供のように駄々をこねるなよ」


 魂蔵は、少し笑って言った。


「じゃあ、陽架琉は俺()()と行くか」


 その場にいたみんなが驚いた。


「お前な、まゆみさんも我が家にきて緊張してるから。休んでもらったほうが良いだろ。たけしは、疲れてるから家で居さけるけど」


「じっちゃんは、晩飯の用意があるだろう。それに、明日は雨だからさ。散歩が中止になるから。今日は、たっぷりしたほうが良いだろ」


「私も、気分転換になります。まだ、この街をよく知らないので色々と知れるチャンスですから」


「たけしに似てるようで、似てなくて。良い意味で、活発な子だな」


「そうだろ」


 せがれは、あまり魂蔵たちに見せない表情をしていた。

 それを見て、魂蔵はあることを考えたのだった。

読んでくださりありがとうございます。

今回は、長すぎるので「せがれの異変 後編」があります。

 次回は、後編です。

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