百戦百勝は善の善なる者に非ず
電話を一方的に終え、コルネリア様の元に戻ると何故か修羅場になっていた。本当にどうして?
修羅場にしてるのはアーシャ様とビシャ様だった
「何事です?」
私はコルネリア様に聞いてみた。コルネリア様はため息を1つ吐き、事の経緯を教えてくれた。
何でも話し合いの途中でウィークトゥスは抜けっとビシャ様が言い出したらしい。ウィークトゥスは足手まといで使い物にならない、必要無い! っと言いだし周りを困らせた様だ。そして私の事情を知らない他のお姫様達もウィークトゥスはちょっと……っという雰囲気になってきた所にアーシャ様が国の救世主になんて事言うんだ! っとなって反論。ウィークトゥス嫌いのビシャ様vs私を救世主と崇めているアーシャ様の戦いが行われているらしい。
「コルネリア様! 何とか言って下さいませ! ウィークトゥスは必要無いと!」
「何を仰いますか! あの方は【神聖なる織天使】を撃った名のある戦士ですよ! 敬意を払いなさい!」
「ウィークトゥスが撃てるわけないでしょ⁉︎」
こんな感じで話は平行線を辿っている訳だ。前からビシャ様の事は面倒なお姫様だと思っていたが、もう2度と会う事はないだろうと思い関心を無くしていた。会ったとしても師匠とかが居るから大丈夫だ思って居たのだが……本当に厄介だ。
「では、ビシャ様」
「何ですか、コルネリア様?」
言い合いの最中でもコルネリア様の声に反応して返事を返すビシャ様。コルネリア様の事、好き過ぎるだろ……。
「決闘で決めませんか?」
「……良いですわよ」
という事で急遽、決闘する事に。相手は勿論、前に恥ずかしい縛り方をして吊り上げた男だった。
「コルネリア様はウィークトゥスを出すのですよね?」
「えぇ、ウチの今の主戦力なので」
場所を決闘場に移動する。興味があるのか私達だけの問題だったが他のお姫様も見に来ていた。見せ物じゃないよー。
「では、私が勝ちましたらウィークトゥスは抜いて下さい」
「良いですよ。僕……私が勝ったら佳月の参加を認めて下さいね」
「……えぇ」
という事で決闘開始!
開始直後、剣片手に走って来るビシャ様の従者の顔面に華麗な回し蹴りを披露しておいた。直ぐに伸びた従者。決着は付いた。
「そんな……嘘よ! ウィークトゥスが勝てる訳ない! 彼はプローウォカートルよ! インチキよ!」
なんだか次期当主様みたいな事言ってるな……。腹が立つので、伸びてる従者を恥ずかしい縛り方で縛ってあげよう!
「この程度ならギースに鍛えられた兄様でも勝てたのでは? 楽勝でしたよ。ちょっと蹴っただけで直ぐに伸びちゃって……めっちゃ弱いー」
「辞めてやれよ! 本人を前に言ってやるな! せめて聞こえない所で言ってやれ!」
縛りながら、従者のプライドとビシャ様のプライドを傷付ける為に本人に聞こえる様に煽ってやった。言われる苦痛を思い知るが良い。人は痛みを知って初めて優しくなれるのだ。これできっと彼女達も優しくなれる事だろう。
するとコルネリア様の後ろに居る兄様に止められた。
「何故です? 私は本当の事を言っただけですよ? あんなに自信満々だったのに、このザマって! 面白いですよね!」
「お前、本当に性格悪くなったよな。あんなに大人しい子だったのに……誰の所為で、こんな性悪になったんだ」
この言草にカチンと来た。間違いなく親族達と、ここに居る兄様が基盤だろう! あの家で真っ直ぐに育てる訳なくない? そこから師匠とハイドの影響で、ここまでになったと思われる
カチンと来たので兄様にも嫌味を言ってやる。
「……私、元々こんな感じでしたよ? 昔から心の中で兄様とか馬鹿にしてました」
「え?」
「後は師匠とハイドの影響でしょ。あの2人、めっちゃ煽ってくるもん」
「……」
「いやー、私も立派になりましたね」
「いや、そこを立派になられても。これ、どうするんだ! 母様になんて言えば良いんだ」
「母様なら喜んでくれますよ。きっと『立派になって……』って感動してくれる」
「する訳ないだろ⁉︎」
よし! ビシャ様の従者、縛れたぞ! 後は吊るしたいけど、吊るせる所はこの辺りにないな。木にでも吊るすか?
「すみません、ビシャ様。佳月には態とウィークトゥスを取らせたのです」
「え?」
「佳月の本来の階級はドクトゥス。しかし、今後ドクトゥスでは動き辛いと判断し、私がウィークトゥスを取る様に命令したのです」
「そんなの出来ない!」
「出来ますよ。弱者が強者を装う事は出来ませんが、強者が弱者を演じる事は出来ます」
私が従者を引きずり、木の下に連れて行っていると、コルネリア様が目を伏せて申し訳なさそうな顔をしながらビシャ様に嘘を言っていた。滅茶苦茶、嘘である。だって私がコルネリア様に出会ったのはウィークトゥスを取った後だ。なのでこれは完璧な嘘なのだが、ビシャ様には信じてしまったのか、震えながらコルネリア様に謝罪をし始めた。
「申し訳ございません! コルネリア様! 私、私……」
ヨヨヨっと泣き崩れるビシャ様。これで話を進められるようになった。一安心だ。
そんな彼女を尻目に、私は引き摺って来た従者を木に吊るしあげた。少し離れた所で兄様がドン引きしていた。
視線を上げると何故か得意げな様子のアーシャ様が目に入った。アーシャ様は私の視線に気付くと小さく手を振ってくれたので、何も返さないのは無礼だと思い会釈しておいた。
面倒なお姫様のビシャ様はそれっきり黙りになった。静かになったので良しとしよう。
会議場に戻り会議を再開。ビシャ様の従者は吊るしたままである。私の怒りを買いたくない面々が、そのままにしたのだ。ふっ、勝ったぜ
話し合った後、解散した。因みに主な作戦や方針は私の抜けている間に話していたらしく、私は聞いていない。後で兄様かコルネリア様に聞いておこう。
「……あのお姫様の気持ち俺は分かるなぁ」
キャンピンに帰る途中、兄様がポツリと言った。それを拾ったコルネリア様は笑って
「確かに僕も佳月に会うまで加減してウィークトゥスを取る奴がいるなんて考えた事もなかったなぁ」
まぁ、ビシャ様の反応は正しいので私は何も言わない。ややこしい事をした私が悪い訳だしな。
「あ、コルネリア様、報告があります」
「うん?」
話は逸れるが、私はコルネリア様に師匠が情報を吐いた事を話した。この話はもっと早くに話しておくべきだったと思うが、ビシャ様の所為で報告が遅れてしまった。
私が久遠からの電話の内容を告げると、コルネリア様は目を伏せて
「……随分持ったなぁ。もう少し早いと思っていたが……」
何かを耐える様に言った。コルネリア様……
コルネリア様は静かに目を開けると、端末を取り出して誰かに電話を掛け、短い会話をして電話を切る。そしてコルネリア様は急遽進路を変えてアーシャ様の宿泊先に移動した。急な訪問だったがアーシャ様は私達を快く迎え入れてくれた。
「アーシャ様と話をしてくる。悪いが席を外してくれないか?」
「はい」
アーシャ様とコルネリア様は一対一で話をする様だ。その間、私と兄様は部屋の外で待機。暇である。私はルービックキューブを取り出して遊び始めた。
「なぁ、佳月」
「なんです兄様」
兄様が話しかけて来たので、ルービックキューブをしながら話しを聞く。
「さっき言ってた、昔から俺の事を馬鹿にしてたって……」
「うん? あぁ、言いましたね。してましたよ、昔から」
「……いつからだ?」
「私が次期党首様を倒して一族の全員に責められる様になってから」
「かなり前じゃないか!」
兄様は頭を抱えていた。私は横で気にせずルービックキューブ中である。
「初めは何言ってるんだろうな、この人達って思って引いてたんだけど、どんどん加速してきたじゃん? で、いつも見当違いな事を言ってるなーって、笑ってた」
「……例えば、どんな所だ?」
「うーん、いっぱいあるからなぁ」
「いっぱい有るのか」
例えばか……色々有りすぎて思いつかないな。そういえば、旅に出る前に兄様と組み手したなぁ。あの時、私がその場から一切動かず兄様の攻撃を軽く住なしてるのを、動けないくらい必死だと思い込んでた時の事とか? でもコレを言っても良いのかなぁ。まぁ、いいか
それを兄様に言うと頭を抱えていた。
「あの時か……今思えば、確かにお前、余裕そうだったもんな」
「うん、超余裕だった。そんな感じのがいっぱい有ったよ」
「……すまなかった」
謝って来た。本当に進歩したなぁ。母様に言ったら喜んでくれそうだ。
私は少し笑うと、そのまま黙ってルービックキューブを続けた。ルービックキューブを続けながら思う。これで兄様は過去の過ちを振り返り後悔してくれたらなぁっと。そうすれば兄様はもう同じ過ちは繰り返さないだろう。今回、暴露したのは何も過去の事を謝って欲しいんじゃない。これ以上、誰かに同じ様な事をしてほしくはなかったからだ。
だって、私がずっと一緒に居られる訳じゃない。その度に私が注意できない。きっと直ぐに別れが来る事だろう。師匠が暴露した今、私の猶予は少ないのだ。
「私は良いから、これから別の人に同じ事はしないでね」
「佳月……」
私はそのまま黙ってルービックキューブを続けた。
◆
暫くすると話が終わったのかコルネリア様が出てきた。
「次の目的地は【エスタス】だ」
エスタスはアーシャ様の国。私が悪しき龍を討ち倒した国だ。そこに今更なんの用事が?
「アスターとクレマチスも共に行くぞ」
こうしてキャンピンに乗り、アーシャ様に着いてエスタスに向かった。何事?




