明日ありと思う心の仇桜
「やぁ、久遠」
背後に居る久遠に話しかける。どうにかして逃げねば!
「聞きたい事聞いていい?」
「俺で分かる事ならばな」
銃を頭に押し付けてくる久遠。どうしよう! こう、なんか意表の突ける質問はないか? 相手が驚いて一瞬隙ができる様な質問。いや、質問では無理だ。ここは私の魅力で久遠を誘惑してみるか? ……普通に無理だな。ジャージ来た女が何してるのか? って話になる。だったら何が良いんだよ!
「あー……久遠は師匠の好み知ってる?」
もっと良い質問が有っただろう! 何故、この質問をチョイスしたんだ私⁉︎ 確かに気になってたけど、今聞く内容じゃないだろう⁉︎
「……好みか。リンドヴァルは守ってやりたくなる、か弱い女が好みだ」
答えてくれた⁉︎ 親切だよコイツ! そしてコイツも好み把握してるんだね。本当に六花の連中は仲良しかよ。
「え? ラミルが言っていた事と違う! ラミルは髪の長い女性が好みだって言ってたのに!」
取り敢えず、話を続けて時間を稼いでみよう。何が悲しゅうて久遠と恋バナしてるんだよ。
「確かにリンドヴァルは髪が長い奴も好きだな。相手をして来た女は大概長かった」
「へぇー」
師匠、やっぱり髪が長い女性が好きなんだね。ラミル外れてなかったらしいよ。良かったね
「お前も長いなぁ」
久遠は空いてる手で私の髪を触る。留めていた髪留めを外され髪を解かれ遊ぶ様に触られる。なんだか擽ったいな
「リンドヴァルが好みそうだ」
「え? 師匠って、か弱い子が好きなんでしょ? 私、か弱くないんだけど!」
偶にネタにして自分か弱い! って言っているが、実際はそこまでか弱いつもりはない。師匠の好みとはかけ離れている。なので、対象ではないだろう。というか、何でこんな話になったんだっけ?
「リンドヴァルからすればお前は、か弱い分類だろう」
「師匠からすれば皆んな、か弱いね」
久遠は私の髪から手を離すと、私の手を取り縛り始めた。そして銃を突きつけて歩く様に促してくる。
「何処行くの?」
「良いところだ」
わーい。良いところだって (棒読み)
久遠の言う良いところが、私の思う良いところではないだろうな。絶対に真逆だ。
「じゃあ、ハイドの好み教えてよ」
私は歩きながら質問する。久遠の隙を作る為に出来るだけ話をしよう。意識を会話に反らせたら、もしかしたらワンチャン隙ができるかもしれない。
ついでに久遠から情報を聞き出せるだけ聞き出しておこう!
「ハイドか……アイツは女なら誰でも良かったな。泣かせるのが趣味の男だったしな」
「あー、なーる」
「来るもの拒まず、去る者追わずな奴だ」
「ヤバい奴だね」
「だが気に入った奴には、とことん纏わりつくぞ」
「あー、覚えあるわ」
アイツやっぱりヤバいな。滅ぼそうぜ
「じゃ、ギースは?」
「ギースは……女好きだからな。割と誰でも良い。色々とやらかして来た。同時に付き合って居た女も、両の指で数えられない程だったそうだ」
「師弟揃ってクズじゃん」
「寝取るのが好きだった様でな、既婚者と良く関係を持っていたそうだ」
「ハイドよりヤバいな!」
あの人、相当クズじゃん。ハイドがああなったの半分くらい師匠であるギースが悪いでしょ! 教育方針間違えたんだって! 認めてギース!
「城に居た頃は侍女に手を出していたな。60過ぎても、元気だった」
「わー」
「離婚歴は5回だ。いずれもギースの浮気」
「……ハイドもいずれ、そうなりそう」
ハイドの妻になる人は大変そうだな。
「ハイドはああ見えて一途だぞ。同時は無い。まぁ、付き合っても長くは続かんがな」
「へぇ……」
「ギースが何度も女に刺されているからな、反面教師にしているのだろう」
「ギース⁉︎」
あんた刺されてたのか⁉︎ そりゃ、刺されるわ! あの人の殊技は【痛覚遮断】と【超回復】だから刺されても問題無いから、懲りないんだろうな。いや、もしかしたら、彼の殊技は女に刺されたから、覚醒したのかもしれない。なんだか、そうとしか思えなくなってきた。
久遠が後ろでクツクツと笑いながら話す。
「あの時は衝撃だった。今でも夢に見るんだ。あの時、幼い俺はリンドヴァルと共に城の一角を借りてベロニカに指南を受けて居たんだ。そこにギースがハイドを連れて現れて、そこから一緒に指南を受けたんだ。その時に、城で手を出した何人もの女にギースが刺されてな。ベロニカは呆れ返っていたぞ」
「わー……」
「その女達はギースを取り囲んでな……髪を振り乱し、目は血走り、奇声を上げ、顔に返り血を浴びながら何度も何度もギースを刺す女達。それを見た俺とリンドヴァルとハイドは一時期は女が怖くなった」
「トラウマ植え付けてるじゃん」
幼少期にそんなの見たらトラウマにもなるわな。てか、あの人、何してるんだろ。あの人の見方が180度くらい変わったわ
「それを見てから、俺達は付き合う女は1人にしようと心に決めた」
「ワロタ」
いや、笑い事じゃないんだろうけども。
「いや、ハイドもいつか刺されると思う。アイツやる事なす事酷いし、泣かせてるし」
「まぁ……だが取り囲まれて刺される事はないだろう。精々、1人ずつだ」
「どんだけ取り囲まれて刺される構図が怖かったのさ」
刺されても良いけど、取り囲まれては嫌らしい。多分、ハイドもそんな感じみたい。だから複数同時に相手したりはしないんだって。そんなに怖かったのか
「カミルの好みは美しく大人し目な女だな」
聞いてもないのにカミルの好みを教えてくれた。
「深窓の令嬢みたいな女が好みだ」
「へえー」
「ラミルは童顔な女」
「ほぉー」
「ベロニカは美人な女だな」
「おぉー」
ギースが衝撃だったから、他はなにも感じないな。
「俺はお前の様な強い女が好きだなぁ」
「ひっ⁉︎ 耳元で話すなよ!」
お前の好みとか聞いてないから! どうでも良いから! 後、耳元で話さないで! ゾワッとするから!
「あぁ、どうしてやろうか。先ずはその服を剥いで……そして体中に印でも刻もうか?」
「結構です」
私の体に手を這わせながら恐ろしい事を言う久遠。コイツもセクハラして来る! 六花はセクハラして来るやつが多いな!
「話して居ると着いたな」
「着いちゃったかー」
結局、隙は作れなかったな。
先程の広場に戻って来てしまった。広場ではギースとベロニカが激しく剣を交えて交戦中であった。見るにベロニカの方が優勢の様でギースが押され気味だ。
兄様と純菜、アキラ、ハイドは地面に寝そべり気持ち良さそうに寝ている。
「あぁ、お前の師匠も回収しに行かないとな」
「師匠の位置、分かるの?」
「あぁ、黒い宝具で位置は分かる」
「あー、成程」
「奴は地下1階に居るぞ」
「師匠……上に登っちゃったのか」
ココは地下3階なので、師匠は上の階に登ってしまっていた様だ。通りで見つからない訳だ。階層が違うからな!
久遠は先程の煙幕を地下1階に投げて入れていたらしい。迷っているはずの師匠には一溜まりもないだろう。
「久遠様! リンドヴァル様の回収に成功しました」
「ご苦労」
向こうの方から花弦の数名に抱えられた師匠が来た。師匠も安らかにお眠り中らしい。起きているのは私とギースだけか……。
ギースとベロニカは薬に耐性があるので先程の煙幕は効かなかったらしい。すげぇ……
「佳月……。お前さん1人で逃げろ。儂が時間を稼いでやるから」
「んな殺生な……」
押され気味のギースが言って来た。
「佳月、目的を忘れるな。情は捨てなさい」
「……」
師匠にも何度も言われた言葉。俺が捕まれば見捨てて逃げろっと……
「佳月を逃そうとするとは……やはり宝玉はお前が関係しているんだな」
「久遠、その女を逃すなよ。絶対にだ」
「分かっている」
ギースが私を逃そうとした事により、より一層、私へ疑いが来ている。不味いよなぁ
「ギース……ご武運を」
仕方ない。置いて行こう。私が捕まる訳にはいかない!
背後にいる久遠は警戒を緩めない。だが、ここは明るく、物も少ない為、影が少ない私が逃げるのは無理だと判断している事だろう。
しかし、私には【闇を生み出す】殊技がある。実は雪山で出せた闇は私の新たな殊技だったのだ。元々有った【闇を操る】殊技と新しく使える様になった【闇を生み出す】殊技。これで夢の2つ持ちだ!
これで、腕が疼く! とか言いながら手から闇を放つ事が出来る。学生時代に欲しかった殊技だな! 今、そんな事をしてもパーティーメンバーからは冷たい目が来るだけだ。学生時代なら羨望の眼差しを送られた事だろう。
何故、2つ目の殊技が出来たのか……それは恐らく悪しき龍を打ち倒した際に、【闇を操る】殊技を使い無意識に龍の力を奪った為だ。なので魔力も大幅に増え、闇を生み出せていた龍と同じ様な殊技が手に入ったのだ。それから口から光線吐ける様にもなっていた! ヤバくない? これも学生時代に欲しかったよ!
これを何故、ベロニカ戦で使わなかったのかというと、ベロニカに殊技が効かないから。以上!
私は闇を作り久遠に向けて放つ。ついでに腕を結んでいたロープも切る。
久遠は飛びのき、私から離れた。私は自身の影に身を滑り込ませる。その際、少し手間だったがノーマークで敵が付いて居なかった純菜、兄様、アキラを闇に引きずり込む事に成功。しかし、ハイドと師匠はマークが酷かったので断念した。
◆
影を繋いで逃げ延びた先はキャンピン付近だった。前まで、こんなに長距離の影移動は魔力の限界が有り辛かったが、龍から力を奪ったお陰か割と平気だ。ありがとう、邪龍!
「申し訳ありません」
キャンピンの前でコルネリア様に深々と頭を下げる私。目を閉じて何かに耐える様なコルネリア様。
「いや……今回は無理を承知で行ってもらったんだ。白が揃っただけでもヨシとしよう」
コルネリア様はアキラから白の宝具を抜き取った。そんな事出来るんだ⁉︎
「佳月、リンドヴァルとの約束は守れ」
「……はい」
それは前に師匠と交わした一方的な約束。もしコルネリア様が捕まり師匠も捕まれば、1人で逃げろという、あの約束だ。
「で、この2人はどうするんじゃ?」
未だに眠るアキラと純菜を指差してジィジは問うた。
「捨てて行くか? 兄様も一緒に」
「酷い妹だのぅ」
取り敢えず、縛るか! 私はロープを取り出す。私の腕がなるな!




