居たい!
「これは、これは。久しぶりだな佳月。逢いたかったぞ」
「やぁ! お久! 私は逢いたくなかったな!」
ピーンチ! かなりピンチだ。久遠が登場してしまった
「それに引っかかるとは、かなりの間抜けだな」
「ほっとけ! 只今、絶不調なの! 大怪我負ってるの!」
「ほぉう」
トラバサミをガシャガシャしている私の前までやって来た久遠は私の体を眺める
「確かに大怪我だな」
目の前まで来た久遠を見上げる。久遠はギースと戦っていたらしいので外的損傷が有るかと期待したが、流石と言うべきか外傷はなさそうだった。という事は無傷の久遠vs大怪我の私という構図か……無理ゲーだろう。
私はトラバサミを外すのは諦め、体中の痛みに耐えながら、魔法で応戦できる様に構える。
「外さないのか?」
「外れないんだよ」
バカにしたように言う久遠にカチンときたが我慢した。私って大人。
「ほう……」
久遠がニヤリと笑った次の瞬間! 踵落としを仕掛けて来た! 咄嗟だったため防御力の低い紙同然の防御魔法を展開し、一瞬だけ防いだ。直ぐに防御魔法は破れたが、その一瞬で負傷していない無事な右足で地を蹴り久遠から滑って少し離れた為、踵落としからは逃げ切った。しかし……踵落としをした足を軸にして、蹴りを繰り出して来た。それも防御力の低い紙同然の防御魔法を展開し、一瞬だけ防いだが直ぐに割れて、蹴りが左脇腹に入った。メキメキっと肋から音がした。そのまま吹っ飛んで、壁に激突。
「うぐっ!! ぐぅ……うぅ……」
床に横たわり、脇腹の痛みに苦しんだ。息をするだけで痛い。これ、折れてると思う! もう起き上がる気力がない。負傷者にも容赦が無いなんて、なんて酷い性格しているんだ!
流石にココまで負傷すれば動くのは困難だ。無駄な魔力は使いたくは無かったが、仕方ない。私はやむなく回復魔法を使った。回復魔法は扱いが難しく、魔力消費が激しい為、戦闘中は推奨されない。逃走の為に魔力をできるだけ温存しておきたかったので、あまり使いたくはなかったのだが、止むを得まい。
私は浅い息を繰り返しつつ、回復魔法を掛ける。
「ほう。お前、回復魔法が使えるのか。やるじゃないか」
久遠が側に来て、楽しそうに言って来た。回復魔法は難しいので使える人は少ない。その為、使えれば重宝されるのだ。これを使える様になる為に、私がどれだけ猛勉強と猛特訓をしたか!
「まぁ、今はいいか」
私の足元にしゃがみ込み、トラバサミを荒っぽく外して来た。めっちゃ痛い!! 流石に悲鳴が漏れた。すると久遠は楽しげな表情を浮かべた。あれだ、私が悲鳴を上げたのが楽しかったみたいだ。悲鳴を上げさせて喜ぶなんて、とんだ男だな!
それから私の背後に回り、手を縛り上げて動きを封じた。そして私を純菜の居る部屋に引き摺って連れて行き、台の上に放り投げる。純菜は台から蹴り落としていた。丁重ゥ……
「いたぁっ⁉︎ もっと丁重に扱えよ! か弱い乙女だぞ!」
「お前がか弱いなら、世の中の人間は全てか弱くなるな」
あ、ツッコミ入れてくれた。この前、これを師匠に言ってみたがスルーされて、とても悲しかった思い出がある。ちゃんと久遠は拾ってくれる辺り、いい奴なんだな
「乱暴する気ね! エロ同人誌みたいに! エロ同人誌みたいに!」
「さて……お前に聞きたい事が有る、素直に話す事をお勧めする」
「あ、無視ですか」
こっちは無視なのね……。悲し
「何でも聞いて! スリーサイズ? 好きなタイプ? 今の王様どう思うか? それとも……いでっ⁉︎ 痛い痛いって! 傷口抑えるの反則!」
相手に話す隙を与えない様に喋り倒してやろうと思っていたが、私に伸し掛かり、肩に有る銃痕を右手で押され、右脇腹の傷口を膝で押してきたので悲鳴を上げた。酷いぜ……
「少し黙れ」
「ひゅっ」
絶叫しそうになったが何とか耐える。涙が出てきた。久遠は私の涙をみて満足げに笑った。良い性格してるな!
久遠は眉をひそめる私を見た後、私の下半身辺りに移動。ズボンを脱がし始めた。ズボンだけではない。靴下や靴も脱がされた。 何故⁉︎ やっぱり、エロ同人みたいな事をする気なのか⁉︎ ダメだぞ! 悪役はヒーローが来るまで、ヒロインに手を出しちゃいけないんだぞ! お利口に待ってろよ! あれ、その理屈だと私がヒロインになってしまうな。私はヒロインになりたいんじゃないんだ! 配管工の様なヒーローになりたいんだ!
「うぅ……」
しかし、これからどうしようかなぁ? 悩んでいると視線を感じたので、其方を向いてみると純菜が床に座り込んで居た。純菜は前と同じく下着姿で縛られていた。あちこち怪我を負っており、相当辛そうだ
「ねぇ、久遠よ。君は服を脱がすの好きなのかい? 前も純菜は下着姿だった気がするけど……」
「あぁ、好きだぞ」
「わーお」
とんでもねぇ癖を聞いてしまったな! まぁ、どうでも良いや。いや、良くないな。脱がされたら胸元に有る宝玉の刺青がバレてしまうじゃないか! それは困る!
取り敢えず、脱出の機会を待つ。こうなった以上、死なば諸共。純菜も連れて逃げねば
「宝玉は何処だ?」
久遠はトラバサミに挟まれて怪我を負った方の足とは逆側の足首を掴み指先に太い針を刺してきた。
「何処だ?」
「あででで! 痛い! 痛い! 痛い!痛い! 居たい! あ、間違えた。痛い!」
容赦なく針を刺す久遠。マジで鬼畜だ。前にハイドも足先を重点的に攻撃していた事があった。あの時は確か廃遊園地で女の研修員に拷問したのだった。ハイドはズボンを脱がし足先を狙って痛め付けていた。
心臓が遠のけば痛みは強くなると言うし、足先を狙って痛めつけるのは拷問では初歩なのか? だから態々、ズボンを脱がすのか? そういえば師匠も拷問時、ズボンを脱がす事があったな……。流行ってるのかな?
しかし痛い。これは痛い。耐えられない。
こうなったら、師匠の教えを思い出すのだ! 師匠は拷問を受けた時どうすれば良いと言っていただろうか?
『拷問は相手のプライドをへし折ればいい』
『皮を剥ぐときは、この角度から入れると剥けやすい』
『拷問をする時は……』
『拷問をする時は……』
「やり方しか教わってない⁉︎ 」
まさかのパターン。やり方は教わっていたが、やられた時の事は教わってない!
「余裕だな……」
「痛いって! 意識飛ぶわ!」
もう、このまま眠ってしまおうかなー。
「痛っ⁉︎ 何か刺された」
首にブスっと注射器で何かを注入された。そして首に手をかけて……首を絞めて来た。く、苦しい……。直ぐに離されたが、殺されるかと思ったよ。恐らくだが、魔法を使って薬を何とか出来ないように、魔法の使用を停止させる為にやったのだろう。首を絞められれば魔法の使用なんて無理だからね。
「細い首だな。簡単に折れそうだ」
「ゲホゲホ! 何、入れた?」
「お前は素早いからな、動けなくする薬を少々な」
「マジで?」
え、ヤバくない? マジでヤバくない?
「お前を封じるのに、ここの施設では心許ない。だから薬剤を使う事にした。薬に頼るのは俺の主義に反するんだがな。お前は厄介だからな」
まだ大丈夫だと侮ってたー! 暫くドMになっておこうと思っていたら、体の自由を薬で奪われた。これでは逃げる所か立ち上がる事も出来ない。
さて、これにより私はコルネリア様の奪還は確実に無理になった。探し回る為の機動力がなくなったのだからね。やはり、ここは他の人にコルネリア様の奪還をお願いしよう。誰かがコルネリア様を救出した後に、久遠の隙を突き、純菜を連れて逃走しよう。魔力がまだ充分有る。師匠の様な反則級の殊技の持ち主さへ居なければ、隙を付き影の中を通って逃げられる
私は暫く六花の久遠を自由に行動させない為に、ここで戯れて留めておく事にしようかな! いや、そんな事は可能なのか? 情報を一瞬で漏らしそうだけど……。それより前に衣服を剥ぎ取られてバレる方が早いか? やっぱり直ぐに脱出しよう! 無理矢理にでも脱出しよう!
「あっ……」
体が痺れて来て、力が入らなくてなった。完全に力の抜けた私を確認した久遠は……
「いだっ⁉︎ ちょっ⁉︎ マジで! いでででで⁉︎」
あろう事か、太ももに噛み付いて来た。「ブツ」っと言う音がしたので皮膚は裂かれている事だろう。コイツ何? 噛み癖有るの?
「いたぃ……」
「良いなぁ、その顔。普段、気丈な女が目に涙を浮かべる様は」
「……」
久遠は血で汚れた口元を手で拭いながら言う。イケメンなので、そんな仕草もとても様になっていて腹が立った。
というかコイツ、ハイドと同じタイプだ。ハイドも女を泣かせるの好きだもの。何? 六花って同じ様な性格の人多いの? それと私、気丈じゃないよ。
「さて、時間はたっぷり有る。楽しもうか」
そう言うと久遠は……私の血で汚れた唇を私の唇に重ねて来た。え? ファーストなんだけど……。しかも血の味なんだけど……。ファーストキスって甘酸っぱいんじゃないの?
現実逃避したかったが出来そうにない。このまま気を失えればどれだけ幸せか……。私は横目で純菜を見る。気まずそうに顔を晒している。そりゃそうだろうな。仲間である私と敵である実兄が熱いベーゼを繰り広げているのを見せられてるんだもんな! 私もめちゃくちゃ気まずいよ!
私が遠い目をしていると、暫く口をモゴモゴしていた久遠が離れた。
「さて、質問しようか」
久遠は口がくっつきそうな至近距離で話し始める。めっちゃ良い匂いする! イケメンは匂いまで良いらしい。羨ま!
「宝玉の在処は、お前が関係しているのだろう? さもなくば、あのリンドヴァルが全く無関係のお前を連れて行きはしない」
だろうな。師匠とコルネリア様が私を連れて行っているのは、宝玉を私が持って居るからだ。それが無ければ、無関係の私を連れて来たりしてない。そんな事は敵も分かって居るのだ。
さて……どう答えるかなぁ。彼らは宝玉の在処に私が関係していると分かって居る。しかし、宝玉の特性上、私の体に内蔵されて居るとは思って居ないようだ。
さて……どうしようかなぁ
「まぁ、聞けば分かるか」
久遠は私から一旦離れて私を見下ろす。今から私の準備運動するんだって。ほら、プールに入る時に準備運動が必要でしょ? あんな感じで準備運動するんだって。プールと拷問を一緒にしないでほしいな!!
端末が震えた。ワンコールだ。これは誰かがコルネリア様の奪還に成功したという合図だ。後はどう私が逃げるかだが……丁度良く、久遠の部下と思わしき人物が部屋に駆け込んで来た。
「久遠様!! コルネリア様が!」
内容はコルネリア様が取り返されたという件だ。それの対応に当たる様にと、ベロニカからお達しが来たそうだ。
「チッ! 今から良い所だったのに。お前達、コイツ等を見ていろ」
「はい」
久遠は何処かに行ってしまう様だが、代わりに先程まで私とバトっていた花弦のNo.5とNo.9が私達を見張るそうだ。この2人ならば問題ない。
久遠が出て行く瞬間、そして花弦2人が入れ替わりで入って来る、その一瞬! 後ろに縛られた手を殊技で外し、肉体の自由が効かないので、魔法を部屋にある照明めがけて飛ばす。廊下が明るいので真っ暗にはならないが、一瞬だけ意識を照明に逸らす事は出来るだろう。その隙に純菜を影に引き摺り込み、私も影にダイブ! 直前で、久遠が動き何かを投げて来た。私は、それを避ける事は出来ず、肩の後ろに命中した。
「……っ!」
そして影の中を通り、師匠達と約束した集合場所まで一気に移動した。
「ぷはぁ!」
影から這い出た私と純菜。流石にかなりの距離を影で移動した為、魔力は空だ。
近くの岩場に座り込む。本当は純菜の手当とかしないといけないんだけど……すまん、疲れた。先程、久遠が投付けて来た刃物を抜いて、眺める。何か塗られていた様な痕跡がある。
「めっちゃ眠い」
急に眠気が襲って来た。この眠気……これが刃物に塗られていた物の正体か。私の意識を奪うつもりで、投げてきたのだろう。
もう、このまま寝ちゃおうかなー。私は岩の上に寝そべった。そのうち誰かが回収してくれるでしょう! あ、でもモンスターが来たら困るな
「何故、助けた」
純菜は私の横に座っている純菜は目を伏せて、私に問うてくる。
「何故か……。私は純菜の事、好きだよ。だからだ」
私は師匠達の様に純菜にキツく当たったりしない。私は純菜が好きだから。あ、別に恋愛的な意味合いでは無いよ? まぁ、1回、見捨てようとしたのは内緒だ
「……」
それ以上、純菜は何も言わなかった




