偽りの弱者
「また侍女長がお前を解雇しろっと言って来たぞ? 何かしたのか?」
「何もしてませんよ。強いて言うならハイドに絡まれただけです」
「あぁ、なるほどな」
私は只今、コルネリア様の私室にてお世話の真っ最中である。侍女長は私が気に入らないのか、いつもコルネリア様に解雇を要求しているらしい。
「せめて、オルディナリオ欲しいんですけど……」
贅沢言わないから、普通の人と同じ階級が欲しい。ウィークトゥスは何かと辛すぎる。自分で取ったんだけどさ
「そう言われてもな……。リンドヴァルがな」
そう、私の階級をウィークトゥスのままにする事にしたのは師匠である。なんでも刺客が来た時にウィークトゥスなら対処しやすいかららしい。
要はウィークトゥスが相手だと油断している敵を、捕まえるか殺すかしろっという事だろう。実に師匠らしい考えだ。だがオルディナリオでも良くないか? オルディナリオは一般人の階級だ。一般人が相手でも刺客は油断するだろ。
「話は変わるが……お前もそろそろ、良い人の1人は出来たか?」
コルネリア様が問うて来た。コルネリア様は最近、年頃の少女らしく恋愛話に興味がある模様。男女のロマンス物の小説をよく読む様になり、身近な女性陣に良い人は居ないのか? っと良く問う様になった。
実に微笑ましいのだが、生憎と私には彼女の希望に沿った答えはない。
「まだ、ですね」
「……そうか。うーん、リンドヴァルなんてどうだ?」
「弟子が師匠に恋してどうするですか」
こんな感じで良く聞いてくる。ハイドはどうだ? とか、久遠はどうだ? とか基本、六花のみで聞いてくるので答えに困る。六花の奴らは皆、総じて性格が悪く、あんなのと付き合うのは御免被るのだが……コルネリア様に問われると否とは言えず、曖昧に濁す他ないのだ。
「じゃあ……」
まだまだ、恋愛話は続く様だ。彼女の気が済むまで付き合うとしようか。
◆
1日の仕事を終えて六花の住まう区側に行く。そこの中庭に師匠がいるので、1日の終わりに報告がてら組手をしてもらいに行くのだ。最近、実戦から遠のいたので腕が鈍っていないか心配だ。
師匠と組手しながら今日一日有った事を愚痴る。仕事を押し付けられたとか、その仕事をしなかったから怒られたとか、ハイドに絡まれた所為で侍女長に怒れたとか……etc
優しい師匠はそれをキチンと聞いてくれる。聞き流しているだけかもしれないが……。
「侍女長には事情を説明しておくか?」
「え? いざとなったら困るから、極力伏せるんじゃなかったんですか?」
私の事情は殆どの人間に知らさせていない。知っているのは王族の人間と六花と、生き残った花弦だけ。新しく入った花弦には私の事情を知らさせていない。
「だが、大変だろう?」
「そうですね。でも、それって私がウィークトゥスだからでは? せめてオルディナリオくださいよ」
愚痴って今日の組手は終わり。帰り掛けに城の廊下で純菜とアキラに出会った。この2人は最近仲が良いのか行動を共にしている事が多い。お? ラブな予感ですか?
「侍女業には慣れたか?」
「まぁね」
「程々にな」
こうして城で偶に会うが、あまり話す事はない。まぁ、お互い忙しいしな。しかし、いつかユックリと話したいものだ。そういえば、純菜とは旅をしている時も、あまり話せていなかった。女子トークしたいな。
「また貴女は! 」
「あっ……」
話している所を侍女長に見つかった……。そして説教へ
侍女長から説教を受けたその帰りに私はアスターの医務室に寄った。理由は愚痴を言う為だ。アスターと師匠は私の愚痴窓口なのだ。
「まぁ、兄さんは、あぁゆう人だから」
お互い愚痴を言う。対象は勿論、ハイドだ。
そして、その愚痴大会が終わると、ジィジに逢いに行く。ジィジの部屋の前まで行くと中からイチャつく男女の声が聞こえて来たので、会うのは諦めて帰る事に……。部品とか貰いたかったんだけどなぁ。
そして一日の活動をギースに報告して全て終了。その日は終わりだ。
こんな毎日が続いている。
◆
ある日、侍女長と他の侍女と共にコルネリア様のお世話をしている時に刺客が来た。
来たと行ってもコルネリア様の私室で待ち伏せしていただけだが。コルネリア様と侍女長達は気付いて居ない様で呑気に洋服を選んで居た。
最近、コルネリア様達の従兄弟が王位を狙っているらしく刺客が多い。それを阻止するのが私の役目である。刺客は昼に来る事が多い。夜は部屋の入り口という入り口を防御魔法で塞いでしまう為、出入り出来ないので仕方なしに昼に来るのだ。
「コルネリア様……鼠が入りこんでいる様ですよ?」
「……⁉︎ そうか、では駆除を頼まねばな」
コルネリア様は侍女達を外に追いやり人払いを済ませる。しかし何故か侍女長だけは残った。理由は侍女長が私とコルネリア様を2人にしたくないから。ウィークトゥスだけでは、どんな酷いお世話をされるか心配だったから無理矢理残ったのだ。
コルネリア様は侍女長に出る様に言ってのだが、侍女長は断固拒否。絶対出なかった。王族の言う事聞きなよ……
「貴女は信用ならないのです!」
コルネリア様の決定には家臣は従うものだが、彼女は勤めて長いので、わりと融通は利くらしい。
「別に居ても良いですけど……」
私はコルネリア様をチラリと見る。コルネリア様はやれやれといった感じに肩を竦めてみせた。
コルネリア様の姿を確認した後、私はベット下に潜んで居た刺客を確保。良い感じに縛り上げた。それを師匠に引き渡した。
これから師匠式の拷問が始まるわけだ。可哀想になぁ。同情の視線を送った
「師匠直々とは……ラミル・カミルあたりなら、まだ良かったのにね」
カミルとラミルは拷問が下手な方らしい。私もかつてラミルに受けたが、彼だったから耐えられた様なものだ。拷問に下手も上手いも存在するのか……久遠は凄かったけどね。
「いや、久遠がするそうだ。最近、溜まっているらしくてな。発散したいそうだ」
「うわぁ……」
刺客、可哀想……。久遠の発散に使われるなんて。最近、久遠の拷問を見たが、私に施したアレが如何に可愛いものだったか分かるね。私は使い物にならなくなったら困るから手加減されていたらしい。本気はもっと凄かったです。絶対に受けたくない!
「生きてられますかね?」
「生きてはいられるだろうな」
「生きてはね」
久遠、こわぁ。師匠も若干、目が死んでた。師匠も前に受けたもんね。
「お前はコルネリア様の側で待機だ。部屋には居ないが……コイツだけとは限らんからな」
「はい」
師匠は私の返事を聞くと、刺客を引きずり退室していった。あの刺客、私が良い感じに恥ずかしい縛り方にしたんだが……そのまま引き摺られていったな。あの縛り方のまま行くとは思わなかった。
あれ、師匠にも刺客にもダメージいかないかな? 師匠は『そんな縛り方したの⁉︎』って驚かれて引かれて、刺客は公開処刑みたいな感じで。
私を知る人からしたら『あー、あれ佳月だな』って分かると思うけど知らない人からしたら師匠がしたと思うよ? やったの私だけど、それで本当に良いの?
「すまない、メィズ。彼女は私の護衛役なんだ」
そんな事を考えている間にコルネリア様が侍女長に私の説明をしていた。侍女長は大層驚いている
「ウィークトゥスが?」
「周りを油断させる為だ。本来の階級はドクトゥス。僕の周りに彼女しか居ない時に襲撃でもしてくれれば楽だろう? 因みに花弦のNo.2だぞ」
「花弦No.2⁉︎」
侍女長は驚き過ぎて腰を抜かしていた。え? そんなに?
「後、リンドヴァルの弟子だ」
「弟子⁉︎ あのリンドヴァル様の⁉︎」
「ああ。だから、かなり優秀だぞ」
めちゃくちゃ驚くな侍女長。
「申し訳ございません、佳月様。今までの無礼をお許しください」
「急に⁉︎」
侍女長は深々と頭を下げて来た。そんな急に態度かえるのか。師匠の名前、効き過ぎだろ。
「お前は知らないかもしれないが、花弦は六花までは行かないが城では権力が有る。そのNo.2なのだ。この態度は当然だな」
「おぉう」
こんなヘコヘコされるのか。なんだか落ち着かないな。
取り敢えず、侍女長は一件落着だ。しかし他の侍女の方には話は行っていないので、これからも侍女からのイビりは続くだろう。
はぁ、憂鬱だ……




