塗炭の苦しみ
「ハッ⁉︎」
あんまりな夢を見た私は飛び起きた。汗だくで、呼吸も荒い。
「やばい夢見たーー!! うぇ……」
本当に酷い夢を見てしまった。何て夢だ。
私が頭を抱えて「うわぁああ」っと声を上げながら転がっていると、突如として体に衝撃が来て吹き飛んだ。
「……⁉︎」
空中で体勢を立て直し、着地して私に攻撃して来た奴を見る。
「うわぁ……」
前方にいつぞやに倒した邪龍が佇んでいた。尻尾がこちらに伸びている事から、尻尾で攻撃して来たと思われる。しかし、初めの攻撃以降、邪龍は攻撃して来る気配はない。ただ、ジッと私を見ているだけ。
私はそんな邪龍を気にしつつ、辺りを見回して現状把握しようと試みる。辺りは真っ暗で邪龍と私以外何もない。これには覚えがあった。
「あぁ、これ夢か……」
そう、夢だ。邪龍を倒してからというもの時折こうして夢に邪龍が出てくる。恐らくだが、この邪龍は私が奪い取った邪龍の一部だと思う。だからいつも、私を見つめるだけで何もして来ない。私の一部と化したから。
しかしさっき、攻撃して来た様な……
私が困惑していると、邪龍の首が横を向いた。釣られて私も邪龍の向いた方向に視線を向ける。そこには先程は無かった白い木々が生い茂る森が広がっていた。
あそこに行けっと言う事か?
私はもう一度、邪龍に視線を向けたが、そこに邪龍は居なかった。あれ?
「あぁ、そういえば……」
前に邪龍について調べた時に邪龍は夢渡りの力が有った事を知った。邪龍は人々の夢に現れては悪夢を見せていたそうだ。その力が邪龍を取り込んだ私にも有るのかもしれない。そして、その力の具現化があの邪龍なのだろうか?
私は白い木々の森を眺める。ここは先程の夢とは違うのだろう。もしや邪龍の夢渡りで夢を渡ったのか? いや、そんな感じでは無さそうだ。此処は私の夢だ。自分の夢なのだから分かる。此処は私のだ。
ならば、夢を作り変えた感じか? 邪龍の力で? 凄いな、邪龍。取り込んでおいて良かったよ。
私はこの現象を何らかのヒューマンエラーと邪龍の何かだと思う事にした。だって、理由は分からないし!
「行くか」
取り敢えず進むか。私は白い森に入り彷徨う事に。彷徨いながら、先程の夢を思い返す。安息を打たれれば幸せな夢が見られるっと言われていたが……幸せな夢なんて見なかったんだけど。どうなってるの? そっちもヒューマンエラー起きてたよね。
暫く歩き続けたが、景色が変わらない! これ、一生このままじゃないよね? こんな寂しい場所で朽ちるなんて嫌なんだけど! 何とかして戻らねば! しかし、どうやって目覚めたら良いのか……。
悩んでいると泉が見えてきた。興味が湧き、近づいて泉を覗いてみると、ヴェールを被せられ、露出の多いドレスを着せられた私が映っていた。
「私、滅茶苦茶、労働を強いられてるじゃん」
泉に映る私は労働を強いられて居た。うわぁ……かわいそぉ。
自分の事なのだが何処か他人事の様に感じられた。そこに私の意思が無いからか?
「でも腹は立つから早く帰って一発殴ろーっと」
私は泉から離れて先に進む。
◆
それから、どれだけ歩き続けたか分からないくらい歩き続けた頃、また泉を発見した。覗いてみると今度は、沼に不気味な黒い塊が浮かんでいる場面が映った。何だアレは……。
そして、空は真っ暗で夜の様に見えるのだが、太陽が出ているので昼間であると推測する。日食か?
泉は私が現状把握出来る様にか、辺りを見渡す様に泉に映してくれた。祭壇の様な所に鎖で繋がれ拘束された師匠とハイド、久遠、ラミル、カミル、ベロニカが居た。なぜ、味方である筈の久遠やラミルカミル、ベロニカを繋ぐ必要があるのか?
『もう儀式は最終段階だ』
祭壇の中央に王様が立ち、儀式を行っている様だ。という事は師匠達が繋がれている理由は儀式の一部なのだろうか? 現状ではそこまで分からない。しかしこのまま続けさせるのも不味いだろう。早くなんとかしないと。
王様の奥にはコルネリア様とギース、メガ萌、ジィジ、兄様が居た。そしてアキラ、純菜と言った花弦勢も居る。アキラ、純菜はコルネリア様を庇う様に立って居る事から味方の様である。いつの間に仲間になって居たの? しかも花弦も辺りに居る黒い化け物を相手取っている事から味方の模様。一体、何が有った⁉︎
『残念だったねコルネリア。今までのお前達の努力は水の泡。今、ここに邪神は復活する!』
王様は沼に浮かぶ黒い物体を指差して、高らかに宣言する。どうやら沼に浮かぶ黒い物体の正体は邪神らしい。
『まだ、完全に復活してない! 今なら間に合う!』
そんな兄にコルネリア様は負けじと言い返す。そのコルネリア様の隣には第1王子の【フェルベルマイヤー=ベンジャミン=ショーバーレヒナー】と第2王子で敵であった筈の【スタニスラス=ナルシッシス=ショーバレヒナー】が居た。どうやら王族兄弟達は集結したらしい。
『無理だよコルネリア。君の大事な家臣達は私の手の中だ。ほら、ご覧。この子は既にお人形だしね』
そしてコルネリア様の前に立ちはだかる私が映った。うわぁああ⁉︎ 完璧に私、敵じゃないか!
『お姉様だけでなく、佳月まで! 何と言う事を!!』
『分かっていた事だろう? お前が手放した時から、こうなる事は』
『それは……』
コルネリア様とその他は悔しげな表情を浮かべる。その様子を見た王様は御満悦の様だ。ドSかっ
『この子は優秀だったよ、コルネリア。私に従えば安息は打たないと言ったのに……リンドヴァルの説得さへ無視して、君の為に……君に時間を与える為に【闇を生む】殊技と魔力を持って眠ってしまった』
王様が私の頬を撫でながら言う。何してんですか王様。それセクハラですよ
『佳月すまない』
コルネリア様は耐える様に言う。そんなお顔しなくても……
『大変だったよ? 彼女の殊技を宛にしていたのに、それに減った分の魔力を補充させるのも大変だった。この子、相当魔力があってね、六花の殆どの魔力を食っちゃったよ。それでも足りなかった』
魔力補充されとる⁉︎ 折角、待って逝ったのに! そうか、そういう手段も有ったのか。だが、それは一時的な筈である。使ったら終わりで、また補充が必要なのだ。自然回復するのは自らの魔力のみ。それは持って逝ったんだ。
補充されたくらいなんだ! 直ぐに無くなって、また私は使い物にならなくなるぞ! やっちゃってください、コルネリア様!
『さぁ、お喋りは終わりだ。始めよう』
王の号令と共に邪神は形を取り始め、本来の姿に近づいて行く。
コルネリア様達は王様を阻止したい様だが、王の前には私が立ちはだかっている為、無理な様だ。
『すまない、佳月!』
怪物を相手取っていない者達が私に向かって行く。しかし、闇の充満した世界では私の方が有利の様で来る者全て蹴散らしていた。私つよぃ……。
まさか、ギースまで吹き飛ばした私。あのギースまで相手取れるとは……自画自賛したいよ。
え、どうすんのコレ。魔力も殊技も持って逝った意味ないじゃん。こんな事なら普通に従って、ココで師匠達みたいに繋がれてた方が良かったのでは? だったら私は敵側に回る事も無かったのに。
私は頭を抱えた。どうして、こう……する事、なす事が裏目に出るの?
あと今更だが、いつの間に話が此処まで進んで居たのだろう。RPGとかならラスボス戦間近ではないか。私が幸せな夢 (笑)を観ている間に話進み過ぎ。置いてけぼりで付いて行けないではないか。此処までの経緯が全然分からないんだが。
『さぁ、邪神の可愛い子供達。世界を混沌に染めておいで』
王様が言った途端、地面から何時ぞやの神殿で見た黒くて歪な生き物が更に湧いて来た。
『ウフフ』
そう言えばこの生き物、喋るのだった。
その生き物は笑いながら構える兵達に向かって行く。そして
『うわぁあああああっ!!』
『助けてくれーー!!』
襲い始めた。恐ろしい牙で頭蓋を噛み砕いてみたり、爪の長い手で肉を引き裂いたり、中にはぐちゃぐちゃにして遊び出すモノも居た。流石に見てられない。地獄絵図だ
『コルネリア様! 撤退を!』
流石の数にパーティーは撤退を決意。だが、少し遅かったーー
『コルネリア様!!』
『あっ……』
『私』と応戦する為、純菜や他の面々はコルネリア様から少し離れていた。その所為でコルネリア様に迫る黒く歪な化け物の対応が遅れた。
大声でコルネリア様を呼ぶ純菜と恐怖で動けないコルネリア様、そして急いで守ろうと動いた兄様とアキラは間に合わない。
『あっ……』
ザシュっと肉を裂く音が辺りに響いた……。




