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おやすみなさい

 

 注入し終えると、王様は私から離れた。その後、直ぐに他の3人も私から離れる。

 3人が離れて直ぐに体に変化が起きた。目は霞み、体は怠く重たくなり、ゆっくりと睡魔が来る。この睡魔に負けた時が私の最後だろう。


「最後に師と話すが良い。これで最後になるからね。遺言くらい残したらどうかな?」


 王様はそう言い去ろうとするので、必死に起き上がり霞む目で王様を見つめて、負け犬の遠吠えの様だが一言、言ってやる。


「王様、私の勝ちです」


 私がそう言うと王様は止まり、そして振り向く。そんな王様に向けて私は言葉を続ける


「ハァ……私を舐めてもらったら困ります。何の手も無しに私が大人しく打たれたとお思いですか?」


 実際、私の勝ちだ。私にしてはだが。邪龍便は出来なかったが、段ボール詰めは出来た。後はコレを持って逝くだけだ。


「へぇ……。それは是非聞きたいね」

「内緒ですよ」


 私がそう言うと、王様は肩を竦めて去ろうとする。その姿に私はもう一言だけ言葉をかける。


「私、【ウィークトゥス】ですから」


 ズル賢いんですよ。っという意味を込めて言ってみた。すると王様は、またこちらを振り返りフッと笑って


「サヨナラだ。〈偽りの弱者(ウィークトゥス)〉」


 それだけ言うと、王様は今度こそ去って行った。その後に六花の双子が続く。久遠は見張りの為なのか、見届けるつもりなのか、牢の入り口に背を預け私達を眺めている。

 さて、師匠にサヨナラでもしに行くかな。ん? ハイド? ハイドはまた今度。今度は無いけどね


「ししょー」


 拘束されて動けない師匠の元まで頑張って行った。そして先程の様に師匠の足に頭を乗せて甘えてみる。


「何故だ、佳月。何故、言うことを聞かなかった」


 悲しげな師匠の声が降って来た。私はそれに笑みを浮かべる


「時間稼ぎですよ。コルネリア様と約束したんです。出来る限り時間を稼ぐと」

「これは時間稼ぎにはならない」


 私はふふっと笑う。


「いいえ。時間稼ぎです。コレで王様は私を使えなくなった。これ以上の時間稼ぎが有りますか?」

「どういう意味だ?」


 久遠が聞いて来た。見張りが話に入ってくるなよ。だが、まぁ良い。どうせ、もう引き返せない。ネタバラししてやろう。


「久遠、私は優秀らしいんだ。君たちだって言ってたじゃん。だから、眠る時に殊技も魔力も持って行くくらい訳ないよ」


 久遠が驚いているのが気配で分かった。目が霞んでいて、その顔が見られないのが残念でならない


「このまま【闇を生む】殊技と魔力の大半は持って逝く。この体に残るのは黒い宝玉の都合上【闇を操る】殊技と、多少の魔力だけだ。魔力は宝玉の維持にしか使えないくらいしか残さないから、邪神に使えないぞ」


 牢の扉が開く音がした。久遠が王様に報告でもしに行く気なのだろう。


「体はくれてあげる。でも他は渡さない。精々、悔しがれば良いんだ。コレが私の時間稼ぎ、そして散々苦しめてくれたお前達への意趣返しだ」


 それだけ聞くと久遠は牢から出て行った。残ったのは私と師匠とハイドだけ


「お前は……そこまで」


 師匠が私の頬に手を置く。暖かい手だった。眠気が加速しそう!


「ねえ、師匠」


 師匠に時間の許す限り話てみよう。きっと師匠は最後まで付き合ってくれるだろう。


「私は役に立ちましたかね?」


 1人で旅をしている時に、お洒落な女の子達を見て自分は何をしているのだろうかと悲しくなった。私もこんな時間があった筈なのにと、何にかは分からないが恨んでしまった。他者は他者、自分は自分だと思い直し、自らの使命を全うしようと直走りしてきた。

 それに私は役に立ちたかった。コルネリア様や師匠の役に。だから、突き進んで来れたのだ。

 でも、こういう状態になると、また考えてしまう。普通の子なら、こんな辛い思いしなかったのではないか? っと……。私の悪い所だよなぁ。だから肯定が欲しかったのだ。『私はしっかりやった。役に立って来た』と言う肯定が。


「佳月、お前は良くやってきた。誇って良い」


 師匠が口を開き、私のしてきた事を肯定してくれた。

 師匠は言う。私に殊技が有ったから宝玉の力は収まり、国は活気を取り戻した。私に殊技が有ったから王の計画を遅れさせる事が出来たのだと。

 あぁ、嬉しい。涙が出てきた。それだけで私は報われたよ。


「お前の力が有ったから邪龍を倒せた。お前は、お前にしか成し遂げられない事をしてきた。胸を張れ」

「……はい、師匠」


 良かった。悪い事ばかりではなかったらしい。師匠に肯定してもらえれば自信もつく。沈んでた心が、浮上して晴れやかな気分なった。つくづく安い女だなぁ、私は。

 酷く眠くなってきたので目を閉じる。すると抗えない眠気が襲って来る。それに身を任せようとした時に、誰かに鼻を摘まれ遮られた。


「おい。何するんだ」


 これは師匠では無い。断じてない。師匠はこんな事しない。断言しよう、ハイドだ。


「……」


 ハイドは無言だった。そして今度は額をペチリと叩いて来た。これはハイドなりの別れの挨拶か? 分かりにくいわ!! なんか話せ!


「相変わらず……ムカつくやつだよ、お前」

「ふん」


 何も言わないので、私から一言言ってやったら鼻で笑われた。腹立つな!


「佳月……」


 辛そうな師匠の声が聞こえて来た。しかし私の目は霞み師匠の表情がちゃんと見えない。でもきっと悲しい顔をしている事だろう。師匠は無表情に見えるがちゃんと表情を出す人だ。長く共に居たお陰か、その変化が分かる様になった。

 ハイドは私が消えても何とも思わないだろうが、師匠は懐に入れた者には優しい人だから、きっと私が起きなくなる事を悲しんでくれるだろう。これは自惚れではなく確信だ。師匠はそう言う人だから。


「はぁい?」


 かなり舌ったらずな声が出た。相当眠いらしい。眠りに着くのも時間の問題だ。


「大丈夫……ですよ……。ちょっと……眠る……だけ、です……から」


 そう、眠って夢を見るだけ……。


「そうだな。夢の中で会おう」

「はい」


 そうだ。眠れば師匠に会えるなぁ。願わくば夢の中の師匠は悲しい顔をしていない事を祈ろう。そうだなぁ……ニッコリと笑って欲しいかも……やっぱりニッコリはいいや。想像付かないし、なんだか気持ち悪い。師匠は今のままが1番だ。





 私は幼い頃、夢を見るのが好きだった。夢の中では、現実とは違う恵まれたヒロインである事が出来たから。


 私が大人になった頃、夢を見るのが嫌いになった。だって夢の中は、こうあって欲しいと願う世界で、現実とは違うと思い知らされるから。現実が辛いモノだと再認識させられるから。


 私が旅を始めた頃、夢を見るのが怖くなった。この楽しい時間が夢で、起きたらまたあの苦しい日常が待っているのではないかっと思ったから。まぁ、夢と言うより眠るのが怖かった。


 でも、今は夢を見る事に感謝しよう。そうすれば師匠の辛そうな顔は見なくて済むから。長く共に居たお陰で師匠の表情が分かる様になったが、こう言う時に困るなぁ……なんて思ってみるのは贅沢だろうか?






 そう思いながら体の力を抜いて楽な姿勢を取る。そして……私は今度こそ深い眠りに落ちた。決して覚める事のない、夢の中に……

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