第2話 猫の後ろ足
第2話 猫の後ろ足
とにかく、だだっ広い、部屋だ。
部屋の中に柱が6本。
太い円柱。
彫刻をいろいろと施してある大理石製かな。
だいたい、なんで宇宙戦艦の中に柱がいるんだ。
どうみても、いらんだろう。
まぁ、ローマ帝国調なのは分る。
パンテオン神殿みたいだから・・・行ったとこはないけどね。
柱の向こうにふたりの男。
ひとりは、これまた、どでかい机があって、その椅子に座っている。
ピカピカに磨きあげられた微妙な曲線が美しい木製の机。
その男は、びしっと軍服を着た50歳くらいの男。
やたらと勲章をつけている。
その隣に一人の男が経っている。
年齢は30前後。
僕と同じくらいかな。
やはり軍服。
「ベルナール・シャンパリオン、出頭いたしました」
敬礼をしてみた。
といっても、ビジョンでしか見たことがないから、ただの真似。
ぴしっ、とやりたいなと思ったけど、いまいち。
「遠路ご苦労だったな」
返礼をしてくれる・・・それがまぁ、板についているというか、
様になっているというか・・・さすがにプロ。
「さっそくですが・・・なぜ、私が呼び出されたんですかね」
重厚感がある部屋に、重厚感があるふたり。
しっかりとした敬語を使って、とちょっと思ったけど、
どうせ、ボロが出るから普段の話し方でしてみた。
「実は、お願いがあって来てもらったんだが。
本当は、この戦艦で向かえに行ったつもりだったがね」
「へっ?」
「放浪の旅に出ていていつ1ヶ月は帰らないだろうと言われて、
さすがに待てなくて、失礼した」
「あ、はい。えっ。1ヶ月前って、惑星アヴィオール3が帝国に占領された日ですよね」
「まぁ、それは行きがけの駄賃の様なもの。本来はあなたを迎えに行ったのだ」
「ええっ~」
ここは、新生銀河帝国ピーコック艦隊第20戦団の旗艦の司令官の執務室。
目の前の50歳の男が、戦団の司令官だ。
机の上のプレートに名前が刻印されている。
ベランジェ・コンドロワイエール
なんか、威厳がある名前だなぁ~。
「あの・・・なんで、私なんです?」
「実はな。近々、ひとつ星系を攻略しようと思っていてな」
「はい・・・」
「その攻略の作戦を考えて欲しいのだ」
「もう一度、いいですか?」
「なんだ?」
「なんで私なんですか?」
「それに答える前に、この男を紹介させて欲しい」
「はぁ」
「うちの戦団の参謀長をしているジャコブ・ド・フレールだ」
「はい」
「君を我が戦団に迎えたのは、彼がきっかけだ」
「全然分らないんですが」
「君は星攻エミュレータが好きだろう?」
「まぁ、暇つぶしくらいには・・・」
「暇つぶし!!!!」
急に、参謀長のフレールさんが厳しい顔になる。
「おい!」
あ、司令官のコンドロワイエールさんに怒られてやんの。
「スコア、良いそうじゃないの」
「それほどのものでもないんですが。勝率30%ですし」
星攻エミュレータというのは、自由参加のシミュレーションのひとつ。
ネットを介して、どこにいても対戦できるのが売りのゲーム。
実際に過去存在した戦いをベースに星系を攻める側と守る側に分かれて戦う。
もっとも、戦うといっても、作戦を立てて、指示を出すだけ。
後は、自動でシミュレーションされて結果が出る。
攻める側と、守る側が何百光年を離れたとこにいる可能性があるから、
情報伝達遅延が何日にもなる。
守る側が作戦指示を出して、後は攻めてくるのを待つ。
そんなゲームだ。
「物は言いようだな。勝率30%。それだけ聞くと大したことないが、
スコアは、3000を超えているだろう」
「あ、バレてますか。いやぁ。ここ1年、ガンガン上がってしまって」
「それはそうだろう。戦力差1:10みたいな不利なものばかり選んで、
勝率30%だからな」
「まぁ、使えない様な兵器をどう使うか考えるのが趣味でして。
噂なんでけどね。最近、星攻エミュにプロの軍人が参加しているって。
そういう人がいるなら、ちょっとたきつけるようなタイトルにして、
攻めてくるのを待ってたら、面白いくらい、掛かってくれる人がいて」
「ほう。それでスコアが倍になったと?」
「そんななんです。たしか、猫のしっぽってバトルネームだったかな」
「猫の後ろ足、だ」
いきなり、フレール参謀長が割り込んでくる。
「あ。そうそう。そんな名前。 あれ?バトル非公開なのに、何で知っているんですか?」
コンドロワイエール司令官は、にやにやしている。
フレール参謀長は、苦虫を噛み潰したような顔。
・・・・、あっ!
「改めて自己紹介をしよう。ジャコブ・ド・フレール、バトルネーム『猫のしっぽ』だ」
やっと、僕がここにいる理由が分った。
知らないうちに僕は、参謀の候補生になっていた。
本人の許可がなくても、艦隊戦時法で、できてしまうらしい。
特別徴集、と言うらしい。
僕には選択肢がふたつあるらしい。
参謀候補生として、星系攻略プランを立案すること。
もうひとつが、それを拒否して敵前逃亡をすること。
「敵前逃亡って、銃殺じゃないですか!」
「今はそんなひどいことはしない。まぁ、禁固10年程度さ」
他人事と思って、気軽にいいやがるなぁ、参謀長。
この人の部下にならざるを得ないのか。
やだな。
「君は特別待遇で、参謀長の指揮下には入らない。
参謀長と一緒で、私の直属となる」
うわっ、この司令官、読心術使えるのかな。
聞く前に思っただけで答えてきた。
結局、僕は、参謀候補生となってしまった。
同時に、新生銀河帝国のタレントギルドに所属することになった。
参謀というのは、軍人であると同時にタレントになるらしい。
タレントというのは、昔はビジョンに出る人みたいな意味があったらしいが、
今は、本来の意味、「才能」で使われている。
特殊な才能がある人をタレントと呼び、才能ごとにタレントギルドが複数ある。
参謀長の推薦で、同じタレントギルドに登録も終わった。
「ところで、君の個人株を公開することにしているが問題ないよな」
ギルドに登録すると個人株が公開できるらしい。
これは任意だが、公開することで自分の評価が数字で見ることができる。
会社の法人株と一緒で、業績や期待値などを元に、株主間の取引で、
株価は決まってくる。
タレントは、組織間でトレードをされるのがごく普通に起きる。
今、私は、ピーコック艦隊の星系攻略作戦に参加することになった。
だから、攻略中は、ピーコック艦隊に所属している。
もし、作戦が完了して、他の組織からトレード依頼があると移籍ができるらしい。
このあたりは、スポーツ選手の移籍と似た仕組みだ。
トレードをする時の評価基準が個人株の株価がベースになる。
いままで、惑星人をしていたから、星間人たちの法律は全然知らなかったが、
なかなかよくできた仕組な気がする。
なんだか知らないうちに、タレントになり、軍人になり、個人株を持つ身になった。
そして、いよいよ。
最初の仕事。
星系攻略作戦の立案コンペだ。
今回のコンペは、司令官のたっての希望で、僕と「猫の後ろ足」の一騎討ち。
なんだか、負ける気がしないんだけど・・・
でも、実戦の立案だから、もし採用されれば、何万人もの人の命に関わる話になる。
責任重大。
三日三晩、ほとんど寝ないで仕上げた、作戦案。
いよいよ、コンペが始まる。




