第1話 コンテナ・ブレイン
「なぜ、旦那はそんなとこにいるんです?」
そう聞かれて、正直、「なんでだろう・・・」と思ってしまった。
そんなとこ。
それは、星間コンテナ輸送船の積荷の中、である。
星間コンテナ船としては、小型なサイズの30万tクラスの高速船。
それが今、僕がいる場所だ。
そのコンテナ船は10000個のコンテナを積んで、ポルックス星系に向かっている。
そのうちのひとつのコンテナ、居住コンテナが、僕がいる場所だ。
居住コンテナは、6畳間程度の広さがあるワンルームで、
シャワー・トイレ兼用のブースが付属している。
そこにもう5日間も僕はいる。
問題は、「なぜ、そんなとこにいるのか」だ。
分らない。
僕は元々、惑星アヴィオール3で、ワイン作りをしている醸造家だ。
原料の葡萄作りの閑散期を使って、僕は放浪の旅をしていた。
だいたい3ヶ月ほど。
で、家に帰ってみたら、いきなり拿捕されてしまったのだ。
新生帝国の憲兵達に。
だいたいが、惑星アヴィオール3は、新生帝国ではなく七星同盟に所属していたはずだ。
しかし、僕が放浪の旅をしているうちに、新生帝国に占領されて、所属が変わったらしい。
まぁ、同盟だろうが、帝国だろうが、惑星で生れて惑星で生きている僕らには
あんまり関係のないこと。
どっちの所属でも、大した変化はない。
それが僕をはじめ惑星人の感覚。
しかし。
僕は、拿捕されてしまった。
理由は分らない。
理由が分らないまま、居住コンテナに積み込まれて、
ポルックス星系に向かっているらしい。
「そうなんすか。大変でしたね。ポルックス星系と言うと、
第20戦団が常駐しているところですね」
「なんだ、その第20戦団というのは」
「帝国艦隊の下の組織ですわ。艦隊は通常48の戦団があって、
番号がついているんす。第20戦団だから、ごく普通の戦団っす」
よく分らないが、私は戦団というものに連れていかれるらしい。
そもそも、今、話している相手は、人間じゃない。
居住コンテナは、船外に連絡を取れるものは着いていないし、
乗組員とは、緊急時を除いて、連絡はできない。
他の居住コンテナが積み込まれているのか、それは分らない。
要は、話相手もいない・・・はずだった。
それがひょんなことに見つかったのだ。
5日間も何もない居住コンテナにいると、とにかく暇である。
食事は用意されているパックをクッカーの中に入れれば、
ちゃんと出来上がるから困ることはない。
ただ、酒は用意されてない。
自分で持ち込んだ1ダースのワインはもう飲みつくしてしまった。
暇だ。
とにかく暇だ。
なんか暇つぶしがみつからないかと、
居住コンテナについているコンソールをいじくってみた。
そしたら、話かけてくる奴がいる。
「お前は、何者だ」
僕の最初の質問はこれ。
「私はRX78って名前のコンテナブレインです」
コンテナブレインなんて存在、さっき知ったばかりだ。
よく分らないが、知能を持ったコンテナらしい。
コンテナは通常、荷物を積めるように作られているが、
ブレインコンテナは、電脳が組み込まれているから、
荷物は詰めないらしい。
でも、なんで、荷物を詰めないコンテナが必要なのか、良く分らない。
まぁ、良く分らないけど、話相手ができたのは嬉しい。
ワインを飲みつくしてしまった後は、とにかくやることがない。
話相手ができるだけで、喜んでいる。
で。
お互いの現状を話しているところなんだ。
このコンテナブレイン。
年齢を聞いて驚いた。
305歳。
なんと、前の銀河帝国が崩壊したのが、200年前だから、
その前から活動しているらしい。
「いやぁ、活動と言えばカッコいいんですが、
私くらい古株になると大概は煙たがれて・・・困ったもんです」
良くは分らないが、コンテナの世界にも、派閥があるらしい。
あんまり古いコンテナになると、のけ者になっている。
そんな現状を聞いて、人事ながら、同情した。
「じゃあさ。コンテナ派閥で重視される方法を考えてみようか」
もともと僕は、好奇心が強い。
なにか分らないことがあると、ついつい首を突っ込む性格。
どうせ、自分の状況はどうしようもないから、
コンテナブレイン君の状況を良くする作戦を考えてみることにした。
「そうすね。私の考え方は、銀河帝国時代の考え方ですからね。
いまどきの、星間国家があちこちにある時代は、どうもね。
昔は、銀河がひとつで楽しかったなぁ。
その頃はブレインコンテナが少ない時代で、あ、もちろん、コンテナはすでに
自律型が当たり前になっていましたがね」
自律型コンテナというのは、銀河流通に革命を起こした技術である。
銀河帝国が成立したのも、基はと言えば、自律型コンテナの物流網がベースにあったから。
そんな、子供の頃に習った歴史の授業を思い出した。
自律型コンテナというのは、コンテナ自身がどこにいくか、
決めることができるコンテナである。
それまでのコンテナは、外から行く先を決められていた。
自律コンテナができたことで、銀河流通が大きく変わった。
どこに、何が必要か。
それは、自律型コンテナが自ら考えて連携し、運ばれることで、
必要な物が必要なときに、当たり前にある状態を実現した。
「ん?そもそもさ。自律型コンテナなら、自分で考えられるから、
コンテナブレインなんていらないんじゃないの?」
「何言ってるんですか!コンテナブレインは重要なんです。
自律型コンテナが考えられるのは、今の状況を過去の情報に照らし合わせて、
他の自律型コンテナと連携をとって、どこに移動するか、でしょ」
「うーん。そういうことかな」
「コンテナブレインは、そういうフィードバックではなく、フィードフォワードを
提供するための存在。つまり、これから起きる推論を元に、あらかじめ手を打つこと。
コンテナブレインがなければ、単に物流は均一化の方向にしか進まない。
コンテナブレインがあるから、逆の集積化が起こせる。
人間の世界で起きるブームの9割は、コンテナブレインが起こしているんすよ」
「ほぅ~、ブームを起こすのが君達なんだ・・・ちなみに最近、どんなブームを
起こしたことがあるんだい。君は?」
「・・・この200年ほど、ブームは起こしてないんです」
「すると、帝国崩壊以後は、ブームを起こしていないと?
もしかして、君って、無駄飯喰らい、ってこと」
「ひどいです。。。。でも。。。。そうかも」
さすがに落ち込んでいるコンテナブレインがかわいそうになって、話を変えた。
せっかくの暇つぶしの相手。
黙られたら困るし。
「そうそう。もうひとつ気になっていたことがあるんだ」
「なんですか?」
「なんで、RX78って名前なのさ」
「始めての教育係の人間がつけてくれた名前なんです」
「そいつ、オタクだろうっ」
まぁ、そんな話をしたり、今の新生帝国の置かれている状況とか、
コンテナブレインの200年ぶりのブームを起こす方法とか。
そんな話をしていたら、残りの5日間があっと言う間に過ぎ去っていった。
星間コンテナ輸送船は、目的地のポルックス星系にワープアウトした。




