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王宮を追放された俺、万能薬を大量生産して貧民街から世界を救う  作者: レモンティー


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第九十五話 俺を追放した王宮から最後の手紙が届いた

工房に届いた封書には、見慣れた王家の紋章が押されていた。

差出人は退位した先王。

エレオノーラが即位してから、表舞台には出ていない。

レイヴンは封を切る前に、王宮を追い出された日のことを思い出した。

荷物は小さな鞄一つ。

門番の目を避けて歩いた道には、冷たい雨が降っていた。

王宮からの手紙を前に、レイヴンは封を切る手を止めた。

返事を求められると思ったのだ。

だが便箋には、かつて救えなかった患者の名が並んでいた。

彼はその名を一つずつ読み、ようやく筆を取った。

手紙には謝罪が記されていた。

追放の決定を十分に調べず承認したこと、宰相と師団長の言葉を鵜呑みにしたこと、王女が病むまで間違いを認められなかったこと。

「余は、お前の能力を見誤っただけではない。王として守るべき者を見なかった」

飾りのない文章だった。

最後の一行は意外だった。

「もし許されるなら、王宮ではなく、お前が最初に作った診療所を見せてほしい」

レイヴンは返事を書きかけて止まった。

許すとは何だろう。

失われた年月は戻らず、追放のせいで救えなかった命もある。

謝罪を受け取ることと、過去をなかったことにするのは違う。

先王を迎える前、診療所の職員は緊張していた。

王族用の特別室を作るべきかという意見も出た。

リーナは首を振った。

「いつもの診療所を見てもらいましょう」

清潔な床と整った薬棚は、飾り立てなくても十分に誇れるものだった。

マリシアは手紙を読まず、彼の表情だけを見た。

「会うかどうかは、あなたが決めていい」

リーナは

「私はあの診療所を見てほしいです」

と言った。

「でも、先生が嫌なら無理しないで」

ゴルバは黙って新しい椅子を修理していた。

誰も答えを押しつけなかった。


数日後、先王は護衛を少人数だけ連れて街へ来た。

豪華な馬車ではなく、普通の荷車に乗っていた。

診療所では子供たちが手を洗い、若い医師が診察をしている。

先王は長い間、その様子を見つめた。

「余が王だった頃、この場所を訪れたことはなかった」

レイヴンは答えた。

「ここには、ずっと人が住んでいました」

先王は薬の価格表の前で足を止めた。

王宮にいた頃、エリクサーは金貨一万枚と聞かされていた。

今は基本診療が保障され、必要な患者には補助がある。

数字の変化を見て、彼は自分が何を守ろうとしていたのかと呟いた。

先王は診療所の裏庭で、亡くなった住民の名を見た。

何人かは、王宮の政策によって治療を受けられなかった人だった。

彼は膝をつき、しばらく動かなかった。

レイヴンは慰めなかった。

悲しむべき場所で悲しむことを、誰にも奪いたくなかった。

別れ際、先王はもう一度頭を下げた。

「許してくれとは言わぬ。ただ、間違いを記録に残す」

彼は王宮の追放記録と不正の調査資料を公文書館へ移すことを約束した。

レイヴンは初めて手を差し出した。

「過去は変えられません。でも、次の王が同じことをしないためには使えます」

握った手は、老人の手だった。

別れた後、レイヴンは手紙を焼かずに保存した。

謝罪は勲章ではない。

過ちを忘れないための資料だ。

公文書館に写しを送ると、職員から受領通知が届いた。

彼はそれを確かめてから、いつもの工房日誌を開いた。

先王は診療所の待合室で、順番を待つ人々と同じ長椅子に座った。

隣の老人は彼が誰か知らず、孫の熱が下がった話をした。

先王は相槌を打ち、やがて

「昔はここに医者がいなかったのですか」

と尋ねた。

老人は不思議そうに笑った。

「医者はいたよ。金がなかったんだ」

先王は返す言葉を失った。

帰りの荷車で、先王は護衛に言った。

「王宮の報告書には、あの老人の声が一度も載らなかった」

護衛は答えられなかった。


翌日、王宮には新しい命令が届く。

地方の医療報告には、患者と現場の職員の意見を必ず添えること。

遅すぎる改革でも、何もしないよりはよい。

その晩、レイヴンは返事の最後に一行だけ書いた。

「診療所は、これからも誰にでも開かれています」

王族にも、貧しい人にも。

過去に傷ついた人を置き去りにしないための、彼なりの答えだった。

先王は古い工房の階段を一段ずつ降りた。

天井が低く、壁には湿気の跡が残っている。

「ここでエリクサーを作ったのか」

「はい。最初は道具も足りませんでした」

先王は狭い机を見て、王宮の豪華な研究室を思い出した。

設備が足りなかったのは、工房だけではなかった。

人を見抜く目も、守る意思も、王宮には足りなかった。

レイヴンは先王に、追放の直後に助けられなかった患者の話をした。

恨みをぶつけるためではない。

決定が誰に影響したのかを知ってほしかった。

先王は言い訳をしなかった。

「余は知らなかった」

と口にしかけ、言葉を飲んだ。

知らなかったことこそ、責任の一部だった。

訪問後、先王は地方の記録保管所へ資金を寄付した。

王宮の都合で資料が消されないよう、複数の場所に写しを置くためだ。

レイヴンはその知らせを聞き、少しだけ安堵した。

謝罪が言葉で終わらず、次の人が事実を確かめる道具になった。

リーナは先王が帰ったあと、レイヴンに尋ねた。

「許したのですか」

彼は手紙を畳み直した。

「まだ分からない。だが、あの人が明日も診療所へ来るなら、その姿は見ていたい」

リーナはしばらく考え、

「私なら、謝られるより、同じことを繰り返さないでほしい」

と言った。

レイヴンは頷いた。

若い頃の自分は、王の言葉一つで人生を変えられた。

今は一人の少女が、王の謝罪を自分の言葉で測っている。

その違いが、何より嬉しかった。


数日後、リーナが

「先生は先王を許したんですか」

と尋ねた。

レイヴンはしばらく考えた。

「許したかどうか、まだ分からない。でも、あの人が間違いを直そうとするなら、邪魔はしない」

リーナは頷いた。

傷が残っていても、未来のために協力できることはある。

先王の訪問は大きく報道されなかった。

レイヴンが望まなかったからだ。

謝罪を見世物にしても、傷ついた人の暮らしは変わらない。

大切なのは記録と、その後の行動だった。

先王は後日、王宮の若い役人たちに貧民街の歴史を学ぶ研修を命じた。

権力を持つ者ほど、報告書の外へ出なければならない。

レイヴンはその知らせを聞き、静かに頷いた。

リーナは先王が座った椅子を元の場所へ戻した。


翌朝、そこには普通の患者が腰掛けた。

診療所に特別な席はない。

その当たり前を守ることが、彼女たちの仕事だった。

訪問の後、先王は毎年、診療所の報告を読むようになった。

数字だけではなく、患者の言葉も読む。

初めて届いた手紙には

「待合室に椅子を増やしてほしい」

とあった。

先王は寄付を申し出たが、職員は

「まず必要な数を調べます」

と答えた。

彼は苦笑し、現場の判断を待つことを覚えた。

先王の手紙の最後には、謝罪ではなく診療所への質問が書かれていた。

『待合室の椅子は足りていますか』

レイヴンは返事に必要な椅子の数と修理費を書いた。

過去を許したわけではない。

それでも、今日の患者に役立つ行動なら受け取れる。

先王の手紙には、謝罪の言葉とともに、当時の査定記録を公開する許可が記されていた。

レイヴンは返事を出す前に、記録に名前のある職員たちへ通知するよう求めた。

罪を一人の王に集めれば、制度の欠陥は見えなくなる。

エレオノーラは公開を支持したが、王宮の古参官僚は反対した。

「今さら過去を掘り返せば、現在の医療行政まで疑われます」

レイヴンは静かに答えた。

「疑ってください。疑われても確かめられる制度に変えたはずです」

手紙は和解の証ではなく、二度と同じ追放を生まないための資料になった。

レイヴンはその話を聞き、権力を持つ者が学び直すのに遅すぎることはないと思った。

ただし、学んだことを次の行動に変えなければ意味はない。

彼は工房の若い職人にも、その話を伝えた。

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