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王宮を追放された俺、万能薬を大量生産して貧民街から世界を救う  作者: レモンティー


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第七十六話 世界二十か国がエリクサー協定に署名した

イザベル女王の王都に二十か国の使節が集まった。

議題はエリクサーの共同生産と公平な供給だった。

小国の代表は、大国に原料を買い占められることを恐れた。

レイヴンは会議の冒頭で、患者の数と各国の供給量を公開した。

二十か国の代表が同じ紙に署名しても、患者の命が同じ重さになるわけではない。

帝国の代表が自国への優先配分を求めると、小国の医師は震える声で

「待てない子供がいる」

と答えた。

レイヴンは配分の根拠を公開するよう提案した。

署名より難しいのは、署名の翌日から約束を守ることだった。

協定の調印式で、小国の代表が最後まで筆を置いていた。

「署名しても薬が届かなければ意味がない」

リーナは監査と輸送支援の条項を読み上げ、代表が自国の言葉で確認するまで式を進めなかった。

署名式の直前、小国の使節が席を立った。

負担額が重すぎるという。

リーナは式典の開始を止め、条件を再協議するよう求めた。

二十か国の名を並べることより、二十か国が翌年も守れる約束を作ることを選んだ。

二十か国の代表が署名する直前、一国の大臣が席を立った。

「小国に同じ量を配れば、我が国の患者が待たされる」

レイヴンは配分表を示した。

「同じ量ではありません。必要な人数と重症度で決めます」

大国の代表は黙り、最も小さな国の医師が初めて顔を上げた。

協定の価値は署名の数ではなく、その一行にあった。

レイヴンは品質検査の独立性と緊急時の供給義務を提案した。

署名国が自国民を優先するのは当然だが、余剰在庫を隠して隣国の患者を見捨てることは許されない。

代表たちは長い時間をかけて条文を調整した。

最も小さな島国の代表が立ち上がった。

「我が国には工場を建てる資金がありません」

イザベルは技術者派遣と共同融資を提案する。

レイヴンは

「協定は強い国だけのものではない」

と答えた。

帝国の使節は会議を傍聴し、技術の共有は危険だと批判した。

マリシアは

「だからこそ検査と教育を同時に整えるのです」

と説明する。

帝国の使節は反論できず、記録を持ち帰った。

最後の条文が読み上げられた。

製造規格、検査、患者の権利、緊急備蓄、技術者育成。

二十人の代表が順に署名した。

レイヴンは拍手の中で、最初に救ったリーナの顔を思い浮かべた。

協定成立の知らせは各地の工房へ送られた。

ゴルバの弟子たちは共通規格の部品を作り、エルナの農園では種子の分配が始まる。

紙の上の約束を現実に変える仕事は、翌朝からだった。

会議場には一つだけ空席があった。

帝国のために用意された席だった。

イザベルはその席を片づけさせなかった。

「いつか、あの国の患者もこの協定に守られるように」

レイヴンは静かに頷いた。

帝国のために残した空席を見て、若い外交官が抗議した。

「署名しない国に席を残せば、協定を守る国が損をする」

レイヴンは空席と供給枠は別だと説明した。

席は対話のため、薬は患者のため。

二つを混同しないという一文が、最終条項に加えられた。

署名式の前、最も小さな加盟国の代表が立ち上がった。

「技術が公開されても、うちには炉を動かす技師がいません」

会場は静まり返る。

リーナは協定の付属書に、技術者の派遣と無償研修の条項を書き足した。

大国の代表が費用を問うと、レイヴンは答えた。

「紙の上で平等でも、病床で不平等なら意味がありません」

その一文が、最後の署名を動かした。

会議場を出たレイヴンの手には、金貨ではなく各国の連絡先が記された紙があった。

それが今夜、彼にとって何より価値のあるものだった。

署名式の前夜、小国の代表がリーナの宿を訪れた。

協定に入れば、従来の供給業者が契約を打ち切ると脅しているという。

「私たちには薬を保管する冷たい倉庫さえない」

リーナは机に地図を広げ、最寄りの協定加盟予定国から届くまでの日数を測った。

直送では間に合わない患者がいる。

彼女は国境の共同診療所を一時保管所にする案を出した。


翌朝、帝国代表はその案に反対した。

「国境施設に国際監査を入れるなど主権の侵害だ」

議場が騒然とする。

レイヴンは帝国の懸念を記録に残した上で、監査対象を患者の個人情報ではなく薬の製造番号と保管温度に限定した。

反対していた代表は、条文を読み直した。

国の秘密を守ることと、薬の品質を確かめることは両立できる。

最後の署名を終えたとき、リーナの手元に一通の急報が届いた。

小国の病院で在庫が尽きかけている。

彼女は式典の席を離れ、輸送担当者に連絡した。

新しい協定の最初の仕事は祝賀会ではなかった。

署名した二十か国のうち三か国が、その夜のうちに一本ずつ薬を融通した。

小さな箱が国境を越えるまで、リーナは席へ戻らなかった。

協定の実施委員会では、署名翌朝から新しい問題が持ち上がった。

島国へ向かう船が嵐で足止めされ、緊急備蓄の輸送日が読めなくなったのだ。

リーナは船を出すよう迫る使節に、海上で瓶が破損する危険を説明した。

代わりに沿岸の診療所から小型船で二度に分けて運ぶ案を示す。

使節は

「全部を一度に運べないのか」

と問うた。

「全部を失う危険を避けたいんです」

その言葉に、使節はしばらく考え、分割輸送に同意した。

会議では、薬の配分に不正があった場合の調査方法も争点になった。

大国は国内の倉庫を外国人に見せたくない。

小国は帳簿だけでは信用できない。

マリシアは監査人を加盟国から交代で選び、検査対象を製造番号・保管状態・出荷量に限定する方式を提案した。

患者の氏名は現地の医師が守る。

大国の代表はようやく頷いた。

秘密を守ることと、不正を隠すことは違う。

その区別を条文に刻むまで、会議は夜を越えた。

研修の申し込みは予想を超えた。

技師のいない国からは、文字を十分に読めない職人も派遣される。

ゴルバは厚い設計書を閉じ、実物の弁と結晶を机に並べた。

「まず、止め方から覚えよう」

最初の授業では薬を一本も作らなかった。

事故の兆候を見つけたとき、誰がどの栓を閉めるのか。

各国の言葉で手順を言い直し、実際に手を動かして確かめる。

レイヴンはその様子を見て、技術を渡すとは設計図を配るだけではないと改めて感じた。

協定成立から三日目、島国の病院へ最初の箱が届いた。

病院長は封印と検査票を確認し、待っていた患者へ投与した。

遠い王都では式典の花がまだ飾られている。

だがリーナが受け取った報告は、花束よりずっと短かった。

『到着。

検査適合。

患者一名、治療開始』

彼女はその一行を協定の最初の実績として記録した。

二十か国の約束は、ようやく一人の病床に届いた。

署名式が終わると、島国の代表は協定書よりも技術研修の申込書を大切に抱えた。

「船が止まっても、自分たちで薬を作れるようにしたい」

レイヴンはその場で講師の派遣日を決めた。

協定の成功は、調印の数ではなく、遠い病院の薬棚で測られる。

島国の代表は帰国前、研修に出す職人二人の名前を書き込んだ。

片方は炉の扱いに長け、もう片方は港の保管庫を管理している。

薬を作る技術と、薬を安全に届ける技術。

その両方が揃って初めて、協定は自分たちのものになる。

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