↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王宮を追放された俺、万能薬を大量生産して貧民街から世界を救う  作者: レモンティー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
59/130

第五十九話 王国宰相と最高司祭、同時失脚

王都の大広間で宰相と最高司祭の審理が始まった。

王女は証拠の保全状況を確認し、証人たちが脅されていないか確かめた。

レイヴンは傍聴席に座った。

自分の怒りだけで判決が決まることを望まなかった。

審理を終えた証人は、廊下で泣き崩れた。

正しいことを話しても、失った仕事は戻らない。

マリシアは

「勇敢でした」

と言いかけてやめ、次の勤め先を探す手伝いを申し出た。

悪人が裁かれるだけでは、傷ついた人の暮らしは戻らなかった。

ヴァルディスは国家のために薬の流通を管理したと弁明した。

だが薬草買い占め、偽王命、工房包囲の記録が順に示された。

国家という言葉の陰で、患者の名前は一度も語られなかった。

ルシアンは医療独占を守る必要があったと主張した。

しかし治療拒否の命令書と、隠された錬金薬の記録を前に沈黙した。

神殿の若い神官たちは、彼の沈黙を悲しそうに見つめた。

判決が下った広間の外には、救済を求める患者の家族が待っていた。

権力者が失脚しただけでは、失われた収入も、治療の遅れも取り戻せない。

失われていた帳簿は、神殿の地下倉庫で発見された。

研究所への資金提供と偽薬の流通が繋がった。

レイヴンはその頁に、リーナが苦しんだ井戸の地区名を見つけた。

かつて師団長だったシュミットも証人として呼ばれた。

追放の評価書が意図的に改ざんされた経緯を認める。

彼はレイヴンを見たが、レイヴンは視線を返さなかった。

過去を争うより、これからの制度を作りたかった。

裁判所は二人の職権濫用と不正な資金移動を認定し、役職からの解任と資産の保全を命じた。

刑罰の詳細は別途審理される。

民衆は歓声を上げたが、レイヴンは被害者への補償がまだ始まっていないことを知っていた。

大神殿の診療所は独占権を失い、公的な医療施設として再編される。

かつて門前で追い返された患者が、初めて診察室へ案内された。

マリシアはその手を握り、長い階段を一段ずつ上がった。

改革委員会は被害者への補償窓口を設けた。

金銭だけでなく、継続治療と生活支援を受けられるようにするためだった。

村からトーマの母親が訪れた。

判決を聞いても息子は戻らないと彼女は言った。

レイヴンは頷いた。

「だからこそ、同じことを繰り返さない制度を作ります」

治療を待つ列には、祈りの言葉を唱える者も、黙って拳を握る者もいた。

レイヴンは信仰を問わず、症状と投薬歴だけを尋ねた。

答えが違っても、痛みは同じだった。

公開審理の日、証言台に立ったのは王女だけではなかった。

診療を禁じられた村の医師、工場襲撃を目撃した職人、金の流れを追った監査官が順に証言した。

宰相は

「王国のためだった」

と叫んだが、裁判官は命令書の偽造と資金の流用について問い直した。

判決までの間、二人の職務権限は停止された。

神殿に残る神官たちも、治療拒否の規則を廃止する決議に参加した。

祈りの場を守りながら医療を開く道を選んだ。

ノルドは礼拝堂で静かに祈り、その後診療所へ向かった。

王女は改革委員会の設立を発表し、治癒師、患者、農民、職人を参加させた。

レイヴンは委員長の席を辞退した。

一人の天才が全てを決める仕組みは、別の独占を生む。

神殿の鐘はその日も鳴った。

ただし鐘の下では、献金の額ではなく症状の重さに応じて患者が診察室へ案内されていた。

審理の最終日、ディートは工房包囲命令の原本を証拠台に置いた。

封蝋の紋章が正式なものと異なり、発行時刻には王宮の門が閉じていた。

門衛記録を確認した監察官が、改ざんの痕跡を説明した。

続いて神官ノルドが地下倉庫の受領帳を示した。

宰相府からの送金命令と、神殿が買い占めた薬草の受領番号が一致する。

マリシアは、治療を拒否された患者の診療記録を提出した。

金の流れと命令の流れ、そしてその先で苦しんだ人々の姿が、ようやく一本につながった。

ヴァルディスは立ち上がった。

「国家を守るための措置だった!」

裁判官は静かに尋ねた。

「では、なぜ王命を偽造する必要があったのですか」

答えはなかった。

最高司祭ルシアンも、献金を払えない患者を追い返す命令に自分の署名があることを否定できなかった。

傍聴席のトーマの母は拍手しなかった。

息子が病床で何度も呼んだ名前を、彼女は今も覚えている。

判決が下り、二人の罷免と資産保全、刑事捜査の継続が告げられても、彼女は席を立てなかった。

「終わったんでしょうか」

とリーナが小さく尋ねた。

「裁く仕事の一部はね」

とレイヴンは答えた。

「治す仕事は、まだ終わらない」

裁判所の外で、被害者の申告窓口が開かれた。

トーマの母は長い列の最後尾に並んだ。

レイヴンが前へ案内しようとすると、彼女は首を振った。

「私だけじゃありませんから」

前にいた老人が道を譲ろうとしたが、彼女はその手を握った。

二人とも、失った家族の話を始めた。

王女エレオノーラは、補償を罰金の残額に任せないと宣言した。

押収資産の扱いを裁判所に委ね、当面の診療費は王国の緊急予算で負担する。

さらに患者と現場の治癒師を含む改革委員会を設置する。

「レイヴン、委員長を」

「私は薬を作ります。委員会は、私に反対できる人たちで構成してください」

王女は少し驚き、やがて頷いた。

かつて一人の権力者に治療を左右された王国で、同じ形の支配を繰り返してはならない。


その夜、閉ざされていた診療所の扉が開いた。

最初に入ったのは、トーマの母と並んでいた老人だった。

診察を終えた医師は

「明日も来てください」

と言った。

老人は泣きながら何度も頷いた。

レイヴンが工房に戻ると、隣国から届いた封書が待っていた。

未知の症状を示す患者の記録。

利権との戦いが一区切りついた夜に、別の病が静かに扉を叩いていた。

翌朝、神殿の診療所には、まだ扉が開くことを信じられない人々が集まっていた。

マリシアは治療の順番を決める紙を壁に貼った。

献金の額を書く欄はない。

病状と緊急度だけだった。

元神官の一人が受付を手伝いたいと申し出た。

かつて患者を追い返したことがあるという。

「私にその資格があるでしょうか」

「資格を決めるのは、これからの働き方です」

とマリシアは答えた。

「ただし、過去のことをなかったことにはできません」

彼は頷き、最初の患者の名前を慎重に書き取った。

診療所の外では、遺族が申告用紙を受け取っている。

許すかどうかを急がせる者はいなかった。

リーナはその様子を見て、レイヴンに言った。

「勝ったのに、喜んでいいのか分かりません」

「喜んでいいことはある。今日、薬を受け取れた人がいる。でも、その喜びを誰かの悲しみに押しつけないようにしよう」

リーナは診療所の扉を両手で押さえ、待っていた次の患者を静かに招き入れた。

判決後、王女のもとへ意外な申立書が届いた。

神殿の下級神官たちが、最高司祭の命令に従って患者を断った自分たちの責任も審理してほしいと求めたのだ。

誰か一人を悪人として追放すれば、残された組織は昨日と同じことを繰り返す。

王女は申立書を公表し、診療拒否の記録を患者側も閲覧できるようにした。

さらに、宰相の不正資金から補償金を出す案に、被害者の代表が反対した。

「奪われた金を返すだけで、私たちの時間が戻ったことになるのですか」

会場は静まり返った。

レイヴンは答えを急がなかった。

補償に加えて、治療を受けられなかった人の再診、失職者の再就職、遺族の申し立てを別々に扱う制度が必要だった。

権力者二人が失脚した日、彼らの名前を知らない事務員たちの長い仕事が始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。