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王宮を追放された俺、万能薬を大量生産して貧民街から世界を救う  作者: レモンティー


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第五十七話 エリクサーの秘密を狙う暗殺者

工房の夜勤で、リーナは瓶の封印番号が一つ飛んでいることに気づいた。

誰かが検査室の記録を開いた形跡もあった。

彼女は騒がず、まずゴルバへ知らせた。

怖さより先に、教わった手順を思い出した。

リーナは見張りを増やすだけでは足りないと考えた。

狙われたのは薬の瓶ではなく、作り方を知る人々だ。

「秘密を抱えたままでは、私たちが倒れたら終わる」

レイヴンは彼女の言葉に答えず、公開できる工程と守るべき患者情報を分ける作業を始めた。

護衛が倒れたとき、レイヴンは刺客を追わなかった。

矢には細い管が仕込まれ、遅れて毒が流れる仕掛けだった。

負傷した護衛が

「追ってください」

と言う。

レイヴンはその腕を押さえた。

「君が生きて証言する方が大事だ」

治療後、現場の矢と割れた靴底を別々に封印し、目撃した職人の言葉をその場で書き留めた。

数時間後、捕らえられた男は

「一人でやった」

と繰り返した。

しかし靴底の刻印は王宮の物資倉庫に納入された品と一致する。

レイヴンは名を決めつけず、監査官へ記録を渡した。

「犯人を作るのではなく、命令した者まで辿ってください」

逃げた刺客より、証拠を消そうとする者の方が近くにいた。

裏門を担当する警備員が持ち場を離れていた。

巡回簿には本人の筆跡に似せた署名がある。

レイヴンは侵入者が内部の動線を知っていると判断し、作業員を安全区域へ移した。

黒衣の男が研究室に忍び込み、触媒の配合記録を探していた。

レイヴンが現れると、男は短剣を抜いた。

レイヴンは戦闘魔法を使えない。

だからこそ逃げ道と設備の位置を頭に入れていた。

警報が鳴ると、作業員は訓練どおりに装置の弁を閉じた。

誰も英雄になろうとはしなかった。

決められた手順を守ることが、工房全体を守る力になった。

リーナは壁の緊急レバーを引いた。

工場中に警報が鳴り、安全扉が一斉に閉じる。

ゴルバが作った仕組みは、人を閉じ込めるためではなく危険な工程を隔離するためのものだった。

暗殺者は窓を破って逃げ、追跡した警備員が腕を負傷した。

マリシアはすぐに処置し、薬の使用量を記録した。

レイヴンは自分を狙った犯人より、負傷した仲間の顔を見て胸が痛んだ。

確認すると、研究記録の一部が持ち去られていた。

そこには魔力周期の旧式計算表が含まれていた。

レイヴンは青ざめた。

古い表だけで製造すれば、不純物を取り除けず危険な薬になる。

リーナは自分がもっと早く気づいていればと悔やんだ。

レイヴンは彼女の肩に手を置いた。

「君が知らせてくれたから、皆が無事だった」

彼女は泣きながら頷いた。

救われた少女が、今度は工房を救ったのだ。

盗まれた資料の写しは残っていたが、悪用される恐れは消えなかった。

レイヴンは各国の病院に、模造薬の見分け方を急いで送るよう命じた。

襲撃者が逃げた後、マルクは窓の破片に触れず見張りを立てた。

床に残る靴跡、盗まれた箱の番号、侵入時刻を記録する。

怒りに任せて追えば証拠が消える。

レイヴンは

「誰かを罰するためではなく、次の襲撃を止めるために必要なんだ」

と言った。

捕らえた刺客の手首には、長く縄で縛られた痕があった。

尋問官が

「金で雇われたのだろう」

と決めつけると、リーナが小さく首を振った。

「この人も誰かに脅されているのかもしれません」

レイヴンは刺客の供述を急がず、負傷の治療と独立した立会人を求めた。


翌日、刺客は弟を人質に取られていたと明かした。

倉庫の刻印だけでは黒幕を断定できない。

だが納入記録と衛兵の勤務表を照合すると、同じ夜に不自然な搬出が重なっていた。

監査官は証拠を別々に封印し、弟の保護を優先した。

レイヴンが守りたかったのは自分の秘密ではなく、秘密を奪うために使い捨てられる命だった。

エレオノーラから、宰相の私設金庫が空になっていたとの知らせが届く。

逃亡資金と暗殺の手配に使われた疑いがあった。

ただし疑いだけで犯人を断定できない。

レイヴンは警備記録を保存した。

ゴルバは盗まれた旧資料を悪用されないよう、検査で見分けられる特徴を整理した。

マリシアは医師たちに模造薬への注意を呼びかける。

技術を守ることと、患者を守ることは同じではない。

必要な危険情報は公開すべきだった。

夜が明けると、工房の炉が再び動き出した。

警備は強化され、リーナの提案で封印番号の二重確認が始まった。

レイヴンは研究室の壊れた窓を見た。

追放された頃には守るものが少なかった。

今は、守りたい人がこんなにいる。

リーナは自分の手が震えていることに、すべて終わってから気づいた。

マリシアは何も言わず温かい飲み物を渡した。

勇気がある人でも怖いものは怖い。

捕らえた刺客の懐から、工房の出荷番号を写した紙が見つかった。

護衛は黒幕の名を吐かせようとしたが、レイヴンは紙を封じ、二人の立会人に署名を求めた。

「怒りで証拠を壊したら、次の刺客を止められない」

リーナは震える指で封印の時刻を書いた。

襲撃を生き延びた夜、彼女が初めて覚えたのは勇敢な言葉ではなく、誰も消せない記録の残し方だった。


その日の午後、襲撃された検査室で、リーナは毒矢で倒れた護衛と向き合った。

毒矢で倒れた護衛は刺客を逃がした自分を責めた。

その言葉に、周囲の者は答えを急いだ。

しかしリーナは、相手が言い終わるまで遮らなかった。

レイヴンは毒の種類を確かめ、解毒の順番を一緒に読み上げた。

誰かが

「それで十分ですか」

と尋ねた。

十分だと言える人はいなかった。

それでも、いま確かめられる事実を一つずつ積み上げるしかなかった。

会議が終わるころ、反対の声が上がった。

「そんな手間をかけていたら、間に合いません」

リーナは窓の外へ目を向けた。

襲撃された検査室には、結論を待つ人がいる。

急ぐ理由は確かにある。

だが、焦りを理由に危険を隠せば、次に失うものはもっと大きい。

「今日できることと、明日まで待つべきことを分けましょう」

反対した者も、しばらくして作業の順序を尋ねた。


夕刻、毒矢で倒れた護衛がもう一度戻ってきた。

昼間には言えなかったことがあるという。

リーナは手を止めた。

相手が恐れていたのは、失敗そのものではない。

失敗を告げたあと、誰にも信じてもらえなくなることだった。

話を聞いていた若い職員は、予定表の一行を消し、代わりに確認の時間を書き込んだ。

小さな変更だったが、現場の人々には意味があった。

逃亡した男が落とした金具には、神殿の地下倉庫で使われる刻印があった。

宰相と神殿の繋がりを示す新たな糸口だった。

レイヴンは一人で追わず、王女の調査班へ渡した。

暗殺未遂の翌朝、護衛の少年は手の傷を隠そうとした。

「任務を失敗しました」

レイヴンは首を振り、診療所へ付き添った。

「生きて帰ったことを失敗にするな」

証拠品の封印と護衛の治療は、別々の担当者へ託した。

リーナは護衛の血が付いた床を拭こうとして、手を止めた。

まだ証拠として残すべき跡だった。

彼女は布を置き、封印札を貼った。

負傷した護衛は目を開けると

「犯人は」

と尋ねた。

「逃げました。でも、あなたは生きています」

リーナが答えると、彼は悔しそうに笑った。

レイヴンは矢の仕掛けを調べ、工房の鍵の管理方法を変えた。

守るべきものは製法だけではない。

そこで働く人々の帰る場所だった。

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