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王宮を追放された俺、万能薬を大量生産して貧民街から世界を救う  作者: レモンティー


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第五十六話 国王が知らなかった王国の闇

国王は箱の中の証拠を見て、最初に宰相を罵ろうとした。

だが王女が遮った。

「陛下の印で動いた者もいます」

知らなかったことは、知らなくてよかった理由にならない。

国王は自分の名が記された決裁書を読み直し、調査を命じる文書に自ら署名した。

国王は娘の顔を見た。

七年前から病に伏せていた王女が、今は自分の足で立っている。

王宮の古い帳簿には、診療所へ届くはずの薬代が途中で消えた記録があった。

国王は財務官を叱る前に、自分の署名のある予算削減令を見つけた。

「知らなかった」

では済まないと、初めて声に出した。

王国の隠された診療記録を読んだ国王は、最初に責任者の名を尋ねた。

だが王女は患者数を示した。

「処罰は必要です。でも今夜、診療所を開ける人も必要です」

国王は命令書を二通に分け、調査と救済を同時に進めた。

エレオノーラは国王グランツの前に三つの箱を置いた。

偽造された逮捕命令、神殿への資金移動記録、王宮地下研究所の支出帳だった。

国王は命令書の署名を指でなぞった。

知らなかったと言えば済むはずの紙に、王家の印が残っていた。

被害を受けた村の名を一つずつ読み上げるたび、広間の空気が重くなる。

レイヴンは謝罪を求める前に、封鎖された井戸の代わりとなる水をいつ運べるかと尋ねた。

古い命令書を読んだ国王は、紙を握り潰しかけた。

だが、そこにあった署名は自分のものだった。

「知らなかった」

では済まない。

大臣が提出した報告の余白に、救済を求める村の名前が小さく書かれている。

国王は書記を呼び、処分の前にその村へ食料と医師を送るよう命じた。

責任を認めることは、謝罪の言葉だけでは終わらなかった。

神殿の商会を経由した金が、王宮地下の旧研究施設へ流れていた。

名目は慈善事業。

実際には魔力濃縮装置の維持費だった。

レイヴンは資料の写しを見て、王女の病とリーナの病を思い出した。

王宮の地下研究所はすでに封鎖されていたが、排水路は王都の古い井戸へ繋がっていた。

レイヴンは汚染が過去の問題ではないと訴え、周辺の水質調査を要請した。

研究所の実験記録には、近隣の住民の体調不良が

「偶発的」

と処理されていた。

調査を求めた医師は配置転換されている。

国王は一枚ずつ読み、何度も同じ欄で指を止めた。

ヴァルディスは国家の安全のために必要な研究だったと主張した。

だが王女は、被害を受けた住民への補償が一度も行われていないと示した。

安全を口にする者が、誰の安全を守ったのか。

玉座の間は沈黙した。

国王は

「私は知らなかった」

と言いかけ、言葉を飲み込んだ。

知らなかったことが、王として免責になるわけではない。

彼は宰相の権限を停止し、独立した調査委員会を設置すると宣言した。

王女は告発に協力した書記官と神官を保護するよう求めた。

報復を恐れて沈黙していた者たちが証言できるようにするためだ。

国王は近衛騎士団に命じ、証人の身柄を安全な場所へ移した。

王女は七年間の病床生活を思い出した。

窓から見える庭へ歩くことすらできなかった日々。

その苦しみが、父王に書類の重みを伝えるための言葉になった。

王女は王宮の金庫から出てきた支払記録を国王の前に置いた。

工場襲撃の前日に、宰相の秘書官を経由して多額の金が動いている。

国王は一枚ずつ印章を確かめ、最後に監査官へ命じた。

「私の名で出た命令も、すべて調べよ」

正式な命令取消書が工房へ届くと、作業員たちから拍手が起きた。

レイヴンは喜ぶより先に、差し止められていた薬の配送状況を確認した。

一日遅れた箱が三つあった。

彼はそれぞれの病院へ謝罪状と追加の検査報告を送った。

夜、国王は王女に尋ねた。

「私を恨んでいるか」

王女は長い沈黙の後、

「恨む暇があるなら、患者を助けてください」

と答えた。

国王は初めて、娘の強さが病を克服したことだけから生まれたのではないと知った。

調査委員会が宰相の執務室を封鎖すると、重要な帳簿の一冊が消えていた。

レイヴンは不安を覚えた。

追い詰められた者が最後に狙うのは、証拠か、それを持つ人間かもしれない。

独立調査委員会には王宮の者だけでなく、医師、住民代表、技術者が参加することになった。

調べられる側が調べる側を選んでは意味がないという、レイヴンの提案だった。

国王は国民に向けて声明を出した。

「私は王でありながら、民の苦しむ仕組みを見逃していた」

謝罪だけで病は治らない。

それでも王が責任を認めたことは、改革の最初の一歩になった。


その日の午後、王宮の調査委員会で、国王グランツは井戸の水を失った村の代表と向き合った。

井戸の水を失った村の代表は謝罪より先に飲み水が欲しいと言った。

その言葉に、周囲の者は答えを急いだ。

しかし国王グランツは、相手が言い終わるまで遮らなかった。

エレオノーラは給水車の到着予定を村ごとに示し、遅延時の連絡先を渡した。

誰かが

「それで十分ですか」

と尋ねた。

十分だと言える人はいなかった。

それでも、いま確かめられる事実を一つずつ積み上げるしかなかった。

会議が終わるころ、反対の声が上がった。

「そんな手間をかけていたら、間に合いません」

国王グランツは窓の外へ目を向けた。

王宮の調査委員会には、結論を待つ人がいる。

急ぐ理由は確かにある。

だが、焦りを理由に危険を隠せば、次に失うものはもっと大きい。

「今日できることと、明日まで待つべきことを分けましょう」

反対した者も、しばらくして作業の順序を尋ねた。


夕刻、井戸の水を失った村の代表がもう一度戻ってきた。

昼間には言えなかったことがあるという。

国王グランツは手を止めた。

相手が恐れていたのは、失敗そのものではない。

失敗を告げたあと、誰にも信じてもらえなくなることだった。

話を聞いていた若い職員は、予定表の一行を消し、代わりに確認の時間を書き込んだ。

小さな変更だったが、現場の人々には意味があった。

調査委員会の最初の会合で、住民代表の女性が国王に尋ねた。

「責任者の名前が分かっても、汚れた井戸の水は明日きれいになりますか」

国王は答えに詰まり、翌朝の水質検査と給水車の手配を命じた。

裁きの前に救える人がいる。

王宮の時計は、その日から別の速さで動き始めた。

国王は地下研究所の支出帳に記された村を訪ねた。

石段に座る老人は、王の顔を見ても立ち上がらなかった。

「陛下の謝罪で、孫の咳は止まりますか」

国王は答えられず、持参した勅令を折り畳んだ。

代わりに医師と水質技師をその場に呼び、結果を住民に直接伝えるよう命じた。

老人は礼を言わなかったが、孫を診察室へ連れて行った。

国王は、その背中が見えなくなるまで立っていた。

国王が村の井戸を覗くと、底には泥が沈んでいた。

老人は王に桶を差し出した。

「謝るなら、まずこの水を見てくれ」

国王は護衛に任せず、自分で水を汲んだ。

調査委員会の報告書には、初めて村人の名前と修繕期限が並んだ。

国王は支出帳の数字だけでは分からない村の現状を見に行くことにした。

護衛を減らすと村長は不安がったが、王は医師の案内を頼んだ。

診療所の入口には、神殿の命令で治療を断られた患者の名前が記されていた。

王はその場に膝をつき、老人の話を聞いた。

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