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王宮を追放された俺、万能薬を大量生産して貧民街から世界を救う  作者: レモンティー


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第四十五話 王都の商人たちが価格を吊り上げた

王都の薬屋に、金貨千枚と書かれた札が下がった。

エリクサー一本の値段だった。

レイヴンの工場が設定した価格の何倍もの額だ。

店の前では、片腕を吊った男が立ち尽くしていた。

「先週は、こんな値段じゃなかった」

男は小さく言った。

店主は肩をすくめる。

「欲しい人が多いんだ。商売だから仕方ない」

マリシアは怒りで顔を赤くした。

レイヴンは値札より、瓶の封印を見た。

正規品だった。

偽物ではない。

正規の流通経路から買い占められた薬が、患者の手前で高く売られている。

工場へ戻ると、販売台帳に同じ商会名が何度も現れていた。

小さな取引先を装い、別々の店から仕入れている。

マリシアは配送伝票の封蝋を重ねた。

異なる店のはずなのに、印章の欠けた位置まで同じだった。

ベルグの店員は値札を貼り替えながら、病気の父親の薬代を思った。

商会が倒れれば自分も困る。

だが、目の前の母親が買えずに帰る姿も見ていた。

レイヴンは店員を責めず、適正な手数料で流通を続ける案を示した。

ベルグに選択を迫ったのは脅しではなく、店を残しながら患者を見捨てない道だった。

ベルグの運送人の一人が、工房の門で帽子を脱いだ。

「値を吊り上げたのは旦那だ。でも、俺たちの給金はあの荷車から出ている」

マリシアは直送計画を握りしめたまま黙った。

レイヴンは新しい配送契約を差し出す。

「患者から奪った利益は認めない。だが荷を運ぶ仕事は必要だ」

男は書面を読み、初めて顔を上げた。

商会を倒して終わりにすれば、別の家族が食べられなくなる。

その痛みを引き受けてこその改革だった。

商人ベルグは倉庫の鍵を卓上に置いた。

「値を下げれば従業員に払えない」

レイヴンは原価表を求め、偽りの手数料と実際の輸送費を分けて示した。

敵に見えた商会の中にも、給料を待つ人間がいた。

ベルグの部下が

「商会にも家族がいる」

と呟いた。

レイヴンは言い返しかけて口を閉じた。

相手の事情を認めることと、買い占めを許すことは違う。

彼は帳簿の公開と適正な運賃の支払いを同時に求めた。

工場では販売台帳の形式を改めた。

取引先の名だけでなく、最終的にどの病院へ届いたかを追えるようにした。

事務員は仕事が増えるとこぼしたが、レイヴンは人員を補充した。

帳簿の正しさも患者の命を守る。

相談員は治療の順番を決めるたび、患者へ理由を説明した。

怒る人もいたが、説明のない順番よりは納得してもらえた。

正規の窓口が開いた日、商人たちは値下げ競争を始めた。

しかしレイヴンは安ければよいとは考えなかった。

偽薬を混ぜれば、どれほど安くても患者には危険だ。

彼は品質証明のない瓶を買わないよう、町の掲示板に説明を出した。

「販売を禁止すればいい」

とゴルバが言った。

「契約違反の取引は止められる。でも、薬が足りないという現実は残る」

レイヴンは在庫と患者数を照らし合わせた。

国外への救援が始まり、噂が広がったため、需要は急に増えた。

転売をする商人は、その不安につけ込んでいる。

そこで病院と診療所への直接供給を増やし、患者の治療計画に基づく発注へ切り替えた。

個人販売には一時的な数量制限を設ける。

ただし緊急患者のための例外窓口を用意した。

「金持ちだけが買えなくなる制度では困る」

とマリシア。

「貧しい人が書類を書けずに買えなくなるのも困る」

二人は診療所に相談員を置くことにした。

文字が読めない患者でも、治療を受けられるように。

価格表を見に来た老人は、銅貨を何度も数えていた。

マリシアは老人に、無料相談の制度を説明した。

老人は初め、施しを受けるのを嫌がった。

そこで彼女は、皆が納めた税金で支える仕組みだと話した。

老人は少し考え、うなずいた。

市場の値札は朝と夕方で書き換えられていた。

安い数字が掲げられても、必要な人が買えなければ意味がない。

マリシアは販売数と一緒に、買えずに帰った人の数を確かめた。

商人ベルグの店の前には、売れ残った薬瓶が並んだ。

レイヴンはそれを買い戻さなかった。

市場の責任まで工房が負えば、また同じ買い占めが起こる。

片腕を治療した石工は、しばらく重いものを持たないよう医師に言われた。

焦る彼に、マリシアは回復の段階を説明した。

「治ったからといって、すぐ無理をすればまた傷めます」

男は不満そうだったが、最後にはうなずいた。


翌朝、レイヴンは市場の広場に簡素な机を出した。

机には正規価格表だけでなく、同じ印章を押した三社の伝票と、実際の販売価格を証言した患者の記録が並んでいた。

工場の紋章が入った価格表と、供給先の一覧を掲げる。

商人ベルグが笑いながら近づいた。

「安売りとは感心しませんな。市場の値段は需要が決めるものです」

「薬の値段は公開します。必要な人が、いくらで買えるか知らなければ困るからです」

ベルグは鼻で笑った。

「あなたが何本作ろうと、我々は全部買い取れますよ」

レイヴンは伝票を広げた。

「別会社を装って購入上限を逃れた記録です。ここにいる病院の代表と監査官に、同じものを渡しました」

ベルグの笑みが消えた。

レイヴンは首を振った。

「それはもうできません。病院へ直接届く仕組みに変えました」

広場の人々がざわめいた。

ベルグの笑みが消えた。

彼が持っていたのは薬ではなく、薬を手に入れられない人々の焦りだった。

ベルグの商会から若い店員が訪れた。

買い占めに関わったことを謝り、今度は正規の輸送を手伝いたいと言う。

レイヴンは条件を示し、検査と記録を守るなら働けると答えた。

間違えた人間にも、やり直す道は必要だった。

石工の男は治療後、診療所の壊れた階段を直した。

代金はいらないと言ったが、マリシアはきちんと払った。

善意を使い潰さないためだった。

夜、レイヴンは価格表を見直した。

工場の利益を削りすぎれば、次の設備も作業員の給金も払えない。

救いたいという気持ちだけでは続かない。

彼は利益の一部を無料診療へ回す仕組みを、もう一度計算した。

正規の供給窓口が開くと、片腕を吊った男が列に並んだ。

診療所で検査を受け、薬の適応を確かめたうえで治療を受ける。

男は料金表を見て、何度も数え直した。

「本当に、この値段なのか」

「はい。補助の対象にもなっています」

と相談員。

男は帽子を握りしめた。

彼は石工で、腕が治らなければ冬の仕事を失うところだった。

一方、転売用の在庫を抱えた商人たちは、値下げを迫られた。

レイヴンは彼らの損失を喜ぶ気にはならなかった。

商人も生活をしている。

しかし患者の絶望を利益に変える商売は、続けさせられない。

夕方、エルナが帳簿を持ってきた。

「薬草の注文が急に増えている。正規の工場以外からも」

レイヴンは数字を追った。

王都の複数の商会が、同じ日に大量の魔石と薬草を購入している。

単なる転売なら、製造原料は必要ない。

「誰かが別の工場を作ろうとしている?」

「それなら歓迎する。でも品質が心配だ」

レイヴンは調査を依頼した。

独占を嫌う自分が、他人の製造を頭から否定するわけにはいかない。

ただし、薬を名乗る以上、安全性は守られなければならない。

値上げした店の前で、片腕の男は金貨を数える手を止めた。

レイヴンは買い占めを責めるだけでなく、工場から診療所へ直接届く配送路を地図に描いた。

商人代表は

「我々の仕事を奪うのか」

と詰め寄った。

「いいえ。運ぶ仕事はお願いしたい。ただし、患者の名前で予約された薬は転売できません」

翌週、最初の直送便が店の前を通った。


その夜、ベルグは密室で一通の手紙を受け取った。

差出人は書かれていない。

封蝋には、かつて王宮で見た宰相の印章が押されていた。

夜更け、ベルグは帳場で、これまで自分が雇ってきた荷運び人の賃金表を見つめていた。

直送便が増えれば、店だけでなく彼らの仕事も減る。

「商売を守りたい」

という言葉の裏には、従業員の暮らしもあった。

一方、工房ではレイヴンがマリシアに尋ねた。

「直送に切り替えたら、運送人たちはどうなる?」

二人は翌朝、商会の運送人にも適正な報酬で病院への配送を担ってもらう提案を持っていくことにした。

ベルグがそれを受け入れるかは、まだ分からなかった。

町の掲示板には、患者が正規の薬を見分ける方法も描かれた。

封印の形、番号の位置、検査票の印。

文字が読めない人にも伝わるよう、リーナが絵を描いた。

老人が絵を指さして

「これならわかる」

と笑ったとき、レイヴンは高価な装置とは違う発明を見た気がした。

ベルグは最後まで自分の商売が悪いとは認めなかった。

それでも、町の人々が正規窓口へ向かう流れは止められなかった。

レイヴンは勝利を宣言しなかった。

彼が見たかったのは商人の敗北ではなく、患者が薬を手にできる光景だった。

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