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王宮を追放された俺、万能薬を大量生産して貧民街から世界を救う  作者: レモンティー


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第四十六話 貧民街に百人の医療従事者が誕生した

「薬があっても、使い方を知らなければ患者は救えない」

新しい医療従事者の一人は、かつて字を読めなかった。

患者の名を書き間違えるのが怖くて、最初の診察では筆を持つ手が震えた。

マリシアは彼女を責めず、患者本人に名前を読み上げてもらう方法を教えた。

百人が増えたという数字の裏には、百人分の失敗と学びがあった。

初めて患者の名を呼んだ研修生は、声が裏返った。

診療台の老人が笑う。

「ゆっくりでいい。わしも名前を間違えられるのは嫌だからな」

教室で何度も失敗した彼女は、今度は逃げずに言い直した。

百人の卒業とは、百人が完璧になったという意味ではなかった。

マリシアは黒板にそう書いた。

貧民街の古い倉庫を改修した教室には、百人の生徒が詰めかけていた。

元洗濯女、荷運び、若い母親、戦場で負傷兵を運んだ元兵士。

年齢も経験も違う。

リーナは一番前の席に座っていた。

かつてレイヴンに命を救われた少女は、今では文字をすらすら読める。

机の上には、擦り切れたノートがあった。

最初の授業は錬金術ではなかった。

手を洗うこと、患者の呼吸を数えること、熱の変化を記録すること。

派手な魔法を期待していた生徒の一人が、少し残念そうな顔をした。

マリシアは言った。

「今日覚えることだけで、救える命があります」

最初の実習で、治療師見習いは包帯を巻く手順を間違えた。

患者役の老人は痛みをこらえていた。

マリシアは試験を中断し、

「間違いを言える人を育てたい」

と告げた。

百人の合格より、一人の患者の安全を優先した。

出荷停止を決めた夜、ゴルバは空の棚を見た。

「患者は待ってくれない」

レイヴンも知っていた。

それでも検査を省けば、待っている患者を自分たちの手で傷つける。

二人は夜明けまで原因を調べ、出荷再開の条件を紙に書いた。

医療学校には、薬草を育てる農民も講師として招かれた。

薬の原料がどこから来るのかを知れば、無駄に使わなくなる。

生徒たちは畑へ出て、葉の傷みを見分ける練習をした。

新しく医療を学ぶ百人の中には、文字を読めない者もいた。

最初の試験で答案が白紙のままだった女性は、患者の包帯だけは誰より丁寧に巻けた。

マリシアは彼女を落第にせず、夜の読み書き教室を始めた。

「手が覚えていることを、言葉でも伝えられるようにしよう」

育てるのは百人の人数ではなく、百人それぞれの力だった。

リーナは帰宅して母親の手を洗う方法を教えた。

母親は笑いながら従い、昔はその小さな手が熱に震えていたことを思い出した。

学校の生徒には、失敗を申告する練習もさせた。

間違った瓶を手に取ったら、隠さず止める。

誰かが気づけば被害は防げる。

マリシアは言った。

「優秀な人は失敗しない人じゃない。失敗を隠さない人よ」

訓練では、わざと間違った薬瓶を混ぜた。

似た色の瓶が並ぶと、慣れた者でも取り違える。

生徒たちは二人一組になり、名前、量、使用期限を声に出して確認した。

「遅い!」

と元兵士が言った。

「戦場なら、こんなに確かめている暇はない」

「急いで間違えれば、患者を傷つけます」

マリシアは厳しく返した。

元兵士は黙り、もう一度手順を繰り返した。

リーナは薬瓶を持つ手が震えていた。

自分が飲んだ薬と同じ形の瓶だ。

命を救われた日の記憶が蘇る。

彼女は深く息を吸い、封印を確かめた。

「名前、確認。量、確認」

隣の生徒がうなずいた。

リーナは卒業式の前夜、かつて自分が寝ていた診療所のベッドを見に行った。

今は別の子供が眠っている。

母親が椅子に座り、手を握っていた。

リーナは声をかけず、そっと廊下へ戻った。

自分が救われた場所で、次の誰かが救われている。

学校の壁には、卒業生が働く診療所の地図が貼られた。

遠い村へ行く者もいる。

マリシアは不安そうな顔に、困ったら必ず相談するよう伝えた。

卒業式の準備で、リーナは古いノートを見つけた。

最初の頁には震える字で『人を助けたい』と書いてある。

今では何冊ものノートが棚に並んでいた。

彼女はその一冊を鞄に入れ、式へ向かった。

二週目、教室に一人の患者が運び込まれた。

工事現場で倒れた若者で、顔色が悪く、呼吸が速い。

生徒たちが凍りつく中、マリシアは静かに指示した。

「誰か、呼吸数を。誰か、水を。誰か、医師を呼んで」

リーナは若者のそばに膝をついた。

教科書の数字は覚えている。

けれど実際の胸の上下を数えるのは難しかった。

「先生、速すぎます」

「そうね。だから今は薬を勝手に飲ませない。まず診察が必要よ」

若者は脱水と過労だった。

適切な処置で回復し、翌日には礼を言いに来た。

生徒たちは、エリクサーを使わずに救えたことに驚いた。

百人の卒業生は、同じ場所に留まらなかった。

村へ戻る者、工場の衛生管理を担う者、隣国へ向かう者。

それぞれの行き先を地図に記すと、小さな教室から道が何本も伸びているように見えた。

卒業証書を渡すとき、レイヴンはリーナにだけ特別な言葉をかけなかった。

百人全員が同じだけ努力した。

その公平さをリーナは嬉しく思った。

レイヴンが卒業生に贈ったのは高価な道具ではなく、小さな記録帳だった。

患者の名前、症状、行った処置、次に気をつけることを書くためのものだ。

「あなたたちが見たことが、次の命を救います」

学校の運営費は簡単には集まらなかった。

授業を受ける間、働けない生徒もいる。

レイヴンは工房の利益から奨学金を出したが、全員分には足りない。

そこで町の診療所が実習生を受け入れ、仕事として給金を払う仕組みを作った。

最初は医師たちが反対した。

「素人に任せられる仕事はない」

と。

マリシアは洗濯、器具の洗浄、患者の案内、記録の補助を一つずつ示した。

「医師がこれを全部やっているから、患者を診る時間がなくなるんです」

実習が始まると、医師たちは少しずつ考えを変えた。

医療は一人の天才ではなく、多くの手で支えられる仕事だった。

卒業試験の日、リーナは最も難しい課題に当たった。

患者役の老人が、薬を拒否している。

理由を聞くと、昔、偽物の薬で家族が苦しんだという。

リーナは説得を急がなかった。

「怖いですよね」

と言って椅子を引いた。

薬の封印と検査記録を一緒に確認し、飲まない選択も尊重した。

老人は長い沈黙の後、

「もう少し話を聞かせてくれ」

と言った。

マリシアは試験表に丸をつけた。

知識だけではなく、患者の声を聞けること。

それが医療従事者に必要な力だった。

百人の卒業生が名前を呼ばれると、教室は拍手で満たされた。

リーナは証書を胸に抱き、レイヴンを探した。

夜になっても、リーナは医療学校について考えていた。

レイヴンは一緒に記録を見直した。

問題を解くには、誰か一人の知恵だけでは足りない。

現場で働く人の小さな気づきが、机上の計算を覆すこともある。

彼らは次の日の仕事を一つずつ決め、最後に灯りを落とした。

まだ終わらない仕事がある。

それでも、今日できたことを確かめれば、明日へ進む力が残る。

卒業生の一人は、かつて神殿で治療を断られた経験があった。

「私は患者に同じことをしたくない」

と言う彼女に、マリシアは答えた。

「断らなければならないこともある。でも、そのときこそ理由を伝え、別の道を探して」

医療の仕事は、何でも引き受けることではなく、できることとできないことを誠実に伝えることでもあった。

式が終わると、リーナは母親に証書を見せた。

母親は字を指でなぞり、しばらく何も言わなかった。

「あの夜、朝まで生きられるかもわからなかったのに」

リーナは母親を抱きしめた。

「だから、今度は私が誰かの朝を守りたいんだ」

百人目の研修生は、文字を読むのが苦手な元荷運びだった。

試験官が不合格を告げかけたとき、彼は薬瓶の色の違いを正確に見抜いた。

マリシアは筆記試験を免除せず、読み書きの補習と実技の再試験を用意した。

門戸を広げることと、安全基準を下げることは違う。

卒業式のあと、元荷運びの研修生がマリシアへ手紙を差し出した。

字はたどたどしかったが、薬瓶の異常を見抜いた理由が丁寧に記されていた。

「読めないことは学べる。でも、人を見捨てない目はもう持っている」

マリシアは手紙を研修室の壁に飾った。

診療所で、レイヴンは製造記録を持ったまま立ち止まった。

「治った人だけを数えてはいけません」

職人が視線を上げる。

寝台に残る患者を見て、助手は報告書の数字を書き換えた。

レイヴンは治療を待つ人の顔を思い浮かべ、決定の理由を一つずつ伝えた。

反論も聞いた。

すぐに正解は出なかったが、責任を分け合う方法だけは決まった。


翌日の巡回先には、その患者の家も加えられた。

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