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王宮を追放された俺、万能薬を大量生産して貧民街から世界を救う  作者: レモンティー


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第二十九話 王宮錬金術師団長、すべてを失う

シュミットの裁判は、王宮の大広間で開かれた。

傍聴席には錬金術師、医師、商人、そして薬を使ったことのある市民が座っている。

レイヴンは証人として呼ばれたが、被告を見下ろす気持ちにはなれなかった。

「被告シュミット。査定記録の改ざん、研究資料の不正取得、資金の不正受領について、説明を求める」

裁判官の声が響く。

シュミットは背筋を伸ばしていた。

「私は王国の錬金術を守ろうとしただけです」

「記録の改ざんが、王国を守る行為なのですか」

「下級錬金術師が危険な技術を広めれば、混乱が起きる。管理が必要だった」

裁判官は静かに次の証拠を示した。

神殿関係商会からの送金記録。

研究資料を持ち出した記録。

品質検査表を削除するよう命じた文書。

「管理という言葉では、説明できません」

シュミットの表情が崩れた。

証人席に立った若い錬金術師が語る。

「私はレイヴンさんの方法を学びたかった。でも、師団長に禁止されました。従わなければ研究室を追われると言われたんです」

別の研究員は、保存中に劣化した薬の報告を握りつぶされたと証言した。

傍聴席から低いざわめきが起こる。

レイヴンが呼ばれたのは、その後だった。

「あなたは、被告の処罰を望みますか」

裁判官が尋ねる。

「不正には責任を取ってもらうべきです」

レイヴンは答えた。

「ですが、私が望むのは復讐ではありません。患者に安全な薬が届くことです」

「被告によって失ったものは?」

帰り道、ゴルバは

「お前はもっと怒ってもいい」

と言った。

レイヴンはしばらく考えた。

「怒っていないわけじゃない。

今でも、追放された日のことを思い出す」

ゴルバは黙って歩いた。

「でも、あの人を憎む時間を増やしても、薬は一本も増えない」

ゴルバは鼻を鳴らした。

「そりゃそうだが、少しは愚痴を言え」

レイヴンは思わず笑い、初めて追放の日に食べ損ねた夕食の話をした。

ゴルバは

「じゃあ今日は俺がおごる」

と言い、二人は小さな食堂へ寄った。

「研究室と仕事、それから、自分の仕事が誰かの役に立っているという確信です」

言葉にすると、思った以上に胸が痛んだ。

追放された日の夜、レイヴンは自分の能力を疑った。

貧民街でリーナに出会わなければ、錬金術をやめていたかもしれない。

「でも、失ったものを取り戻すために、ほかの人の研究まで止めたくありません」

シュミットが突然立ち上がった。

「偉そうに! お前さえいなければ、こんなことにはならなかった!」

衛兵が制止する。

レイヴンは被告席を見た。

「私を追放したのは、あなた自身です」

裁判のあと、王宮の若い研究員がレイヴンを追いかけてきた。

「あなたの精製方法を教えていただけますか」

レイヴンは立ち止まり、鞄から一枚の手順書を取り出した。

「まず、薬液の色ではなく保存後の効力を測ってください。すぐに結果が出なくても、記録を捨てないで」

研究員は何度も頷いた。

レイヴンが王宮で最も欲しかったのは、こうして仕事の話をできる相手だったのかもしれない。

静かな声だった。

「私が薬を作り続けたことまで、私の罪にしないでください」

シュミットは口を開き、閉じた。

裁判は数日にわたった。

最終的にシュミットは師団長を解任され、不正取得した資金の返還と刑罰を言い渡された。

研究資料は本来の権利者へ返され、改ざんされた査定は無効とされた。

判決後、王女はレイヴンに尋ねた。

「これで、終わりですか」

「一人の裁判は終わりました。でも、同じことが起きないようにする仕事が残っています」

レイヴンは王宮錬金術師団の再建案を提出した。

研究成果の評価基準を公開すること。

製造数だけでなく品質と安全性を測ること。

若手研究員が上司の許可なく危険を報告できる窓口を作ること。

王宮の研究室を訪ねたとき、レイヴンは一人の若い研究員が失敗した薬液を隠そうとしているのを見た。

「どうして捨てるんですか」

と尋ねると、研究員は青ざめた。

「失敗を知られたら、評価が下がります」

レイヴンは薬液を観察し、原因を一緒に探した。

温度がわずかに高かっただけだ。

「この記録を残せば、次の人が同じ失敗をしなくて済みます」

研究員は半信半疑のまま、失敗報告書を書いた。


数日後、同じ装置を使った別の研究員が、その報告のおかげで事故を避けたという知らせが届く。

レイヴンはその話をマリシアに伝えた。

「裁判より、少し嬉しいかもしれない」

マリシアは頷いた。

「人が変わるのは時間がかかるものね」

シュミットの処罰は必要だった。

しかし、誰かが失敗を隠さずに済むようになったことのほうが、長い目で見れば多くの命を守る。

レイヴンは次の技術指導の日程を手帳に書き込んだ。

国王は書類を読み、深く頷いた。

「かつて追放した者に、組織の立て直しを頼むことになるとはな」

「私が戻るわけではありません。王宮には、ここで働きたい人たちがいます」

レイヴンは若い研究員たちを見た。

彼らは不安そうにしながらも、互いに顔を見合わせている。

「必要なら、技術指導には来ます。でも、王宮の薬を良くするのは、皆さん自身です」

一人の研究員が頭を下げた。

「今度は、ちゃんと記録を残します」

「お願いします。失敗した記録も」

王宮を出ると、マリシアが待っていた。

「気分はどう?」

「思ったより、すっきりしない」

「当然よ。裁判で、昔の傷が全部消えるわけじゃない」

レイヴンは頷いた。

門の外には、工房の作業員が迎えに来ていた。

ゴルバが大きく手を振る。

「おい、裁判は終わったか! 新しい装置の図面ができたぞ!」

レイヴンは思わず笑った。

彼には、帰る場所があった。

そこには、これから作る薬と、救えるかもしれない人々が待っている。

「行こう」

過去に区切りをつけるのは、誰かが罰せられた瞬間ではない。

自分の足で、次の仕事へ向かえるようになったときなのだと、レイヴンは思った。

食堂の窓からは、王都の夜景が見えた。

レイヴンは温かい料理を口に運び、明日の製造計画を話し始めた。

ゴルバは

「飯の間くらい仕事を忘れろ」

と笑う。

二人の笑い声は、夜更けの小さな店に長く残った。

判決が告げられた後、若い錬金術師がレイヴンの前に立った。

「あなたがいなくなった後、検査を省くよう命じられました。僕は従いました」

謝罪を受けたレイヴンは、簡単に許すとは言えなかった。

「次に同じ命令が出たら、どうする」

青年はしばらく黙り、

「拒否します。自分の名前で記録を残します」

と答えた。

失脚した一人を罰するだけでは、同じ過ちを止められない。

レイヴンは青年に工房の公開講習の日時を伝えた。

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