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王宮を追放された俺、万能薬を大量生産して貧民街から世界を救う  作者: レモンティー


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第三十話 俺は王宮に戻らない。

世界を救う工房を作る

新しい工房の予定地は、王都の城壁から馬車で半日ほどの荒れ地だった。

春には雑草が生え、夏には乾いた風が吹く。

かつて農地として開かれたものの、水不足で放棄された土地だ。

レイヴンがそこを選んだと聞いて、ゴルバは最初に笑った。

「工房を建てるなら、もっと便利な場所があるだろう」

「ここなら薬草農園を隣に作れる。地下水脈も近いし、王都から患者を運ぶ道も整備できる」

エルナは土を手に取り、指でほぐした。

「表面は乾いていますが、深いところには水分が残っています。

土壌改良をすれば、薬草は育つと思います」

マリシアは周囲を見渡した。

「診療所も必要ね。工房だけあっても、薬を使える人がいなければ意味がない」

レイヴンは頷いた。

ここに作るのは、ただの製造所ではない。

薬草を育て、薬を作り、患者を診て、次の技術者を育てる場所だ。

「目標は一日百本」

ゴルバが目を丸くした。

「今の装置は一日一本だぞ」

「だから百倍にする」

「簡単に言うなあ」

「簡単じゃない。だから、みんなに頼みたい」

レイヴンは図面を広げた。

中央に精製工房、東に薬草農園、西に倉庫、南に診療所。

水路は敷地の外へも伸ばし、周辺の農家が利用できるようにする。

「工房の規模だけ大きくしても、原料が足りなくなる」

エルナが指摘する。

「その通り。農園の面積、収穫量、保存期間を先に計算しよう」

彼らは一日かけて数字を並べた。

標準エリクサー百本に必要な薬草。

触媒の回収率。

魔石の使用量。

瓶の数。

品質検査にかかる時間。

数字が増えるほど、問題も増えた。

「瓶だけで毎日百本か」

ゴルバが頭を掻く。

「ガラス職人を雇わないとな」

「薬草の乾燥施設も必要です」

エルナが言う。

「患者の記録を扱う人も」

マリシアが付け加えた。

レイヴンはすべて書き込んだ。

自分一人では到底できない仕事だった。


翌週、建設が始まった。

王都で仕事を失っていた石工が来た。

工場の事故で職を離れた鍛冶職人も来た。

貧民街からは、薬屋で助けられた家族が手伝いに来た。

最初の数日は、整地だけで終わった。

水路を掘ろうとすると岩盤に当たり、資材を運ぶ荷車がぬかるみにはまった。

「こんな場所で本当に薬が作れるのか」

若い作業員が呟いた。

レイヴンは土まみれの手で水路の図面を示した。

「この先の岩を避ければ、水が通る。今日は十歩しか進まなかった。でも、明日も十歩進めばいい」

ゴルバが笑った。

「あんた、薬のことになると妙に気が長いな」

「昔、急いで失敗したことがあるからね」

レイヴンは王宮での失敗を思い出した。

製造数を増やそうとして精製を急ぎ、薬の効力を落としたことがあった。

あのとき、患者に使われる前に気づけたのは幸運だった。

同じ過ちを繰り返したくない。

工房の柱が立った日、リーナが小さな苗を持ってきた。

「これ、植えてもいい?」

「何の苗?」

工房の建設費を計算していたマリシアは、医療改革基金からの支援金をすべて建物に使う案に反対した。

「診療所の運営費が残らなければ、立派な建物だけができます」

エルナも

「農園の最初の収穫までは、原料を買う必要があります」

と続けた。

レイヴンは図面の横に資金繰り表を置いた。

建設、原料、賃金、検査、患者補助。

どれか一つでも欠ければ、工房は続かない。

彼らは夜遅くまで数字を見直し、ようやく着工の順番を決めた。

「白い花。

王女様のお庭に咲いていたのと同じ種類だって」

レイヴンは少し驚いた。

王女が自分の足で歩いた日の花だ。

「いいよ。どこに植えようか」

「診療所の前。病気の人が、元気になったら見られるように」

二人で土を掘り、苗を植えた。


その日の夕方、王女エレオノーラから手紙が届いた。

工房建設への祝意と、医療改革基金の最初の支援金が正式に交付されたことが書かれている。

最後に短い一文があった。

『私もいつか、その工房を自分の足で訪ねます』

レイヴンは手紙をマリシアに見せた。

彼女は微笑んだ。

「それなら、段差を少なくしないとね」

ゴルバがすぐに図面を書き直した。

「入口は広くする。荷車も通れるようにしておこう」

建設が進むにつれ、レイヴンは工房の名前を尋ねられるようになった。

「王立エリクサー研究所でいいんじゃないか」

誰かが言った。

最初の工事で、近くの村の農民が訪ねてきた。

「水路を引くなら、うちの畑の水が減るんじゃないか」

エルナは測量図を広げ、取水量と雨季の流量を説明した。

レイヴンは

「工房だけが得をする水路にはしません」

と約束し、農民たちを計画会議に招いた。


翌週、村の古老が昔の地下水路の位置を教えてくれた。

図面にはなかった情報だ。

新しい技術を持ち込むだけでは、土地のことは分からない。

ここで暮らしてきた人々の知識が、工房の土台になる。

工事現場の昼休み、リーナは作業員に水を配った。

「私も大きくなったら薬を作る」

と言うと、ゴルバが笑った。

「まずは字を覚えろ。図面が読めると便利だぞ」

マリシアは

「医療の勉強も必要ね」

と付け加えた。

リーナは少し考えて、

「じゃあ、全部勉強する」

と答えた。

レイヴンはその顔を見て、学校の建設予定地を図面に書き加えた。

工房が百本の薬を作るだけで終わるなら、いつか誰かが止めれば終わってしまう。

次の人を育てる場所があってこそ、未来へ続く。

「いや、王立じゃない」

ゴルバが答える。

「こいつは王宮に戻らないって決めたんだ」

「じゃあ、何て呼ぶ?」

レイヴンは考えた。

自分の名前をつける気にはなれなかった。

薬を作るのは、自分一人ではないからだ。

「『黎明工房』はどうだろう」

「夜明け、か」

マリシアが呟く。

「薬が届かずに夜を越せない人が、少しでも減るように」

着工を祝う夕食の席で、レイヴンは新しい工房の門に掲げる文言を提案した。

「誰でも治せる、ではない。誰に届かなかったかを数え続ける工房だ」

リーナは首をかしげた。

「それ、少し悲しいよ」

レイヴンは頷く。

「だから忘れずにいられる」

ゴルバは図面の端に、将来の診療所へ続く道路を描き足した。

まだ工場もない荒れ地に、最初に必要なものは出荷口ではなく、人が戻ってこられる道だった。

ゴルバは頷いた。

「悪くない」

一か月後、まだ半分しか完成していない建物の前で、小さな開所式が行われた。

作業員たちは土のついた服のまま集まり、エルナが薬草の苗を並べた。

レイヴンは仮設の作業台に、一本のエリクサーを置いた。

かつて一本を作るのに二十日かかり、資金も尽きた薬。

それが今は、仲間たちの手で毎日作られている。

「ここから、もっと多くの人へ届けたい」

レイヴンは顔を上げた。

「王女一人を救うために、私たちは力を合わせた。次は千人、いつかは何万人も救える工房にしよう」

拍手が起こった。

ゴルバが大声で笑い、エルナが目を細め、マリシアは隣のリーナの肩に手を置いた。

レイヴンは空を見上げた。

追放された日、彼には仕事も研究室もなかった。

だが今、目の前にはまだ完成していない工房がある。

完成していないからこそ、これからできることがある。


その夜、エルナが原料の試算表を持ってきた。

「レイヴン。大変です」

「どうした?」

「百本作るための薬草が、今の農園では全然足りません」

レイヴンは表を受け取り、苦笑した。

「じゃあ、次の仕事は決まったね」

窓の外では、リーナが植えた白い花の苗が、風に小さく揺れていた。

工房の建設を決めた翌朝、レイヴンは王宮へ戻る道と荒れ地へ向かう道が分かれる場所に立った。

リーナは

「王宮なら、研究を続けるだけで済んだかもしれません」

と言った。

レイヴンは否定しなかった。

「ここでは、薬が届かなければ僕の失敗だ。王宮にいた頃は、その失敗を知らずに済んだ」

二人はまだ何も建っていない土地へ歩き出した。

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