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王宮を追放された俺、万能薬を大量生産して貧民街から世界を救う  作者: レモンティー


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第二十五話 王女は七年ぶりに自分の足で歩いた

王女が目を覚ました翌朝、王宮には祝宴の準備が始まっていた。

だがレイヴンは、料理人たちが大広間へ運ぶ銀皿を見て首を振った。

「祝うのは、もう少し先です」

国王は眉をひそめた。

「娘は助かったのではないのか」

「命の危機は脱しました。ですが、七年間ほとんど歩いていない体です。薬で傷を治しても、筋力や体の使い方までは一瞬で戻りません」

王女エレオノーラは寝台の上で聞いていた。

以前より頬に色が戻り、紫の筋も薄くなっている。

「では、私が歩ける日は……」

「練習を続ければ、きっと近づきます。ただし無理は禁物です」

王女は小さく頷いた。

「練習なら、得意です。七年間、待つ練習をしましたから」

その言葉に、誰もすぐには返事ができなかった。

マリシアは寝台の脇に椅子を置き、まず座る練習から始めた。

足を床へ下ろすだけで王女は息を切らした。

立ち上がろうとすると膝が震え、マリシアの腕に体重がかかった。

「こんなに、重かったのね。自分の体が」

「長い間休んでいた筋肉が、驚いているんです」

マリシアは微笑んだ。

「昨日より一呼吸長く座れました。

それが今日の成果です」

レイヴンは薬の投与量を減らし、体内の汚染粒子が再び増えないかを毎日調べた。

中和処置を続けた結果、観察結晶の黒い線は少しずつ消えていった。

三日目、王女は寝台の端に座って朝食を取った。

五日目、支えを借りて数秒立った。

七日目、窓辺まで車椅子で移動し、庭の白い花を見た。

「近いのに、遠いですね」

王女が庭へ出た日の夕方、国王は宮廷画家を呼ぼうとした。

しかし王女は首を振った。

「絵は、もう少し歩けるようになってからでいいです」

国王は残念そうに笑い、代わりに庭師へ白い花の手入れを頼んだ。

王女は庭師に尋ねた。

「来年も咲きますか」

庭師は胸を張った。

「きちんと手入れをすれば、何年でも」

王女はその言葉を噛みしめるように頷いた。

来年の話ができる。

それだけで、以前の自分とは違う世界に立っている気がした。

レイヴンは庭の端で、その会話を聞いていた。

王女は窓に手を当てた。

「でも、前より近い」

マリシアが答えた。

十日目、ゴルバが木製の歩行補助具を持ってきた。

王宮の家具職人と相談し、王女の身長に合わせて作ったものだ。

「錬金釜より簡単だと思ったが、こいつのほうが難しかった」

「なぜです?」

「使う人が、痛くないように作らなきゃならんからな」

王女は笑った。

「大切に使います」

最初の一歩は、わずかだった。

足を前に出した瞬間、膝が折れかける。

マリシアと医師長が左右から支えた。

「今日はここまでにしましょう」

王女は練習のない時間、庭へ続く廊下の長さを数えた。

侍女が

「無理をなさらず」

と言うと、

「数えるだけなら疲れません」

と笑った。

マリシアはその様子を見て、練習表に歩数だけでなく、痛みと疲労の程度を書き加えた。

数字が伸びない日もあった。

前日より歩けない日には王女が落ち込んだが、マリシアは

「回復は階段のように上がるものではありません」

と伝えた。

戻る日があっても、歩みが消えるわけではない。

王女は唇を噛んだ。

「もう一度だけ」

レイヴンは首を横に振った。

「明日のために、今日は休みましょう。急いで倒れたら、また遠回りです」

王女は悔しそうに目を伏せたが、やがて頷いた。


その夜、国王がレイヴンを呼んだ。

「私は娘に、もっと頑張れと言いそうになった。早く元気な姿を見たくてな」

「殿下は十分頑張っています」

「分かっている。だが、父親というのは愚かなものだ」

国王は窓の外を見た。

「七年も病室にいた娘が、一歩進んだ。それだけで、こんなに嬉しいとは」

二週間後、王女は補助具を使って廊下を十歩進めるようになった。

三週間後には、庭へ続く扉の前までたどり着いた。

庭へ出た翌日、王女は小さな紙に『今日できたこと』と書いた。

最初の行は『花に触れた』

次の行には『父上と外で話した』

歩数の記録だけでは、回復の喜びがこぼれ落ちてしまうと感じたからだ。

マリシアはその紙を見て微笑み、医療記録とは別に本人の目標を書く欄を作った。

患者が何を取り戻したいかを知らなければ、治療の終わりを医師だけで決めてしまう。

王女はレイヴンに尋ねた。

「私の病気は、また戻りますか」

レイヴンは簡単に大丈夫とは言わなかった。

「原因になった物質は大きく減っています。ただ、定期的な検査は続けましょう」

王女は真剣に頷いた。

「怖いけれど、知らないほうがもっと怖いです」

その言葉を聞き、レイヴンは地下研究施設の隠された記録を思い出した。

病気だけでなく、秘密もまた人を苦しめる。

王女が自分の体のことを知り、自分で選べるようにする。

それも治療の一部だった。

その日、王宮の者たちは誰も急かさなかった。

衛兵も侍女も、廊下の端で静かに見守っている。

王女は扉の前で息を整えた。

「開けてください」

庭の風が流れ込んだ。

白い花の匂いがした。

マリシアが右手を支え、国王が左手を差し出す。

王女は補助具から片手を離し、一歩を踏み出した。

足が石畳に触れる。

もう一歩。

そして、白い花の咲く木の下へ。

王女は花びらに指先を触れた。

七年間、窓越しに眺めていた花だった。

「本当に……ここにある」

国王が顔を覆った。

医師長は目を赤くし、マリシアは王女の肩を抱いた。

レイヴンは少し離れて見守っていた。

自分の薬だけで歩けたわけではない。

王女の努力と、支えた人々の時間が、この一歩を作った。

王女が振り向く。

「レイヴン様。ありがとうございました」

「私は薬を作っただけです」

「その薬がなければ、今日の一歩はありませんでした」

レイヴンは言葉を探した末、ただ頷いた。

風が吹き、白い花びらが王女の肩に落ちた。

庭の端では、次の季節の花が小さな蕾をつけていた。

エレオノーラは歩行訓練の終わりに、侍女の腕を離した。

三歩目で膝が折れ、床に手をつく。

医師が駆け寄ろうとしたが、王女は首を振った。

七年間、転ぶことさえ許されなかったのだ。

レイヴンは歩けた距離ではなく、痛みと疲労を記録した。

国王は拍手しかけた手を下ろし、娘が自分の速さで立ち上がるのを待った。

王女がもう一歩踏み出したとき、部屋で最初に泣いたのは侍女だった。


数日後、王女は庭師に頼んで小さな鉢を病室へ運んでもらった。

歩けない日にも花の成長を見られるようにするためだ。

レイヴンはその鉢を見て、回復とは毎日少しずつ積み重なるものだと改めて思った。

その日の午後、王女は自分で歩行補助具を片づけた。

侍女が手を伸ばすと、王女は笑って首を振る。

「ここまでは、私にやらせて」

七年ぶりに取り戻したのは、庭へ続く道だけではない。

自分の一日を、自分で選べるという小さな自由だった。

国王はその背中を見守り、祝宴の日取りを王女自身に決めてもらうことにした。

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