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王宮を追放された俺、万能薬を大量生産して貧民街から世界を救う  作者: レモンティー


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第十九話 王宮錬金術師団長、公開実験で敗北する

「偽物に王女の命を預けるわけにはいかん」

シュミットの声が王宮の会議室に響いた。

彼はレイヴンの治療記録を机に投げつけた。

「貧民街の薬屋が伝説のエリクサーを作ったなど、信じられるか」

国王は医師長を見た。

オルフェンは静かに答えた。

「ならば、同じ条件で比較すればよろしいでしょう」

公開実験は翌日、王宮の錬金工房で行われた。

双方に同じ薬草、同じ水、同じ魔石が渡される。

製造時間は六時間。

エリクサーそのものを作るには短すぎるため、比較対象は高品質回復薬と決まった。

シュミットは豪華な錬金釜を使い、魔力を一気に注ぎ込んだ。

青い光が工房を満たし、見物の貴族たちから歓声が上がる。

検査結果が出た後、王宮の若い錬金術師がレイヴンを追いかけてきた。

「なぜ、あのとき自分の研究をもっと強く主張しなかったんですか」

「主張はしたよ。でも、聞いてもらえなかった」

「僕も聞かなかった」

青年は深く頭を下げた。

レイヴンは少しだけ困った顔をした。

「次からは、薬を飲む人のことを考えてくれればいい」

青年は頷いた。

レイヴンが去った後も、彼は工房に残り、古い検査表を一枚ずつ見直し始めた。

変わるべきなのは師団長一人ではない。

仕事のやり方そのものだった。

レイヴンは古い釜を選び、材料を少しずつ加えた。

派手な光はない。

代わりに、薬液の濁りが一層ずつ消えていった。

「時間が足りなくなるぞ」

とシュミットが嘲る。

「必要な工程は終わります」

六時間後、二本の薬瓶が検査台へ運ばれた。

オルフェンは製造者名を伏せ、三人の検査官に分析を依頼する。

結果が出たとき、工房は静まり返った。

シュミットの薬は初期効力こそ高いが、不純物が多く、保存すると急速に劣化する。

レイヴンの薬は効力が安定し、有害反応も基準以下だった。

「こんなはずはない!」

公開実験の前夜、レイヴンは眠れなかった。

シュミットに勝つことが目的なら、最も派手な薬を作ればよい。

だが明日の結果は、王女が治療を受けられるかどうかを左右する。

マリシアが湯気の立つ茶を持ってきた。

「怖いんですか」

「失敗することより、失敗を認めずに患者を傷つけることが怖い」

公開実験の前、監査官がレイヴンの薬瓶だけを別の棚へ移そうとした。

マリシアが止める。

「封印番号と立会人の署名が必要です」

ざわめきの中で両者の瓶を同じ条件で保管し、検査官を交代させた。

レイヴンはシュミットを見た。

「勝負するなら、結果が誰にも覆せないようにしましょう」

「それなら、あなたは大丈夫です。危険なら止めるでしょう」

レイヴンは苦笑した。

励ましとしては妙な言葉だが、彼女らしい。


翌日の実験では、王宮の若い錬金術師たちがレイヴンの手元を注視していた。

彼は隠すことなく工程を説明し、どの段階で不純物を除くかを示した。

技術を奪われる不安はあった。

それでも、薬の安全性を理解する人が増えることのほうが大切だと思った。

シュミットが叫ぶ。

レイヴンは勝ち誇らなかった。

「師団長。患者は薬を飲んだ直後だけ生きていればいいわけではありません」

その言葉に、見物していた若い錬金術師が顔を上げた。

かつてレイヴンの助手だった男だ。

シュミットの派手な魔力光を見た観衆は、最初から勝敗が決まったと思っていた。

レイヴンの釜は静かで、何も起きていないように見える。

しかしマリシアには分かった。

液面の小さな泡が消えるたび、不要な成分が取り除かれている。

「勝ったのはどちらですか」

見習いの質問に、オルフェンは試験台の二つの瓶を示した。

「検査記録を読め。人ではなく結果を見ろ」

シュミットの瓶には規格を超える不純物が残っていた。

見習いは震える手で数値を写した。

レイヴンは勝利を宣言せず、

「この薬が患者に渡る前に止められてよかった」

と言った。

その言葉を聞いた国王は、追放の査定で何を見落としたのかを初めて理解した。

「見えない仕事ほど、大事なことがあります」

彼女の言葉を聞いた若い錬金術師が、初めてレイヴンの手元へ視線を移した。

大きな光ではなく、温度計のわずかな動きへ。

そこに、彼らが見落としていた技術があった。

「僕は……この人の検査工程を、無駄だと思っていました」

彼は国王の前で頭を下げた。

「でも、無駄だったのは僕たちの思い込みです」

国王は判定書を受け取り、シュミットではなくレイヴンへ視線を向けた。

王宮の鐘が鳴ると、見物人たちは散っていった。

シュミットは一人、検査台の前に立ち尽くしている。

レイヴンは自分の薬瓶を片づけた。

勝ったという実感より、王女を診察する道が開けた安堵のほうが大きかった。

公開実験は終わった。

しかし、本当の治療はこれからだ。

公開実験の途中、シュミットは何度も観客席を見た。

貴族たちの反応を確かめるためだ。

レイヴンは一度も顔を上げず、温度計と薬液の表面だけを見ていた。

違いに気づいた医師長は、隣の若い錬金術師へ尋ねた。

「どちらが患者のために作っていると思う」

青年は答えられなかった。

彼自身、王宮では評価されるために薬を作ってきたからだ。

試験終了後、青年は自分のノートに新しい項目を加えた。

「保存後の効力」

「副作用」

「再現性」

これまで査定表にないからと省いていた項目だ。

レイヴンが示したのは一度の勝利だけではなかった。

薬を作る者が何を見なければならないか、その基準そのものだった。

実験で使われた二本の薬は、封印されて王宮医師団の保管庫へ運ばれた。

後日、保存状態を比較するためだ。

レイヴンはその措置を歓迎した。

今日の検査だけで勝敗を決めるより、時間が経っても品質が保たれるか確かめたほうがいい。

シュミットは不満そうだったが、国王は医師長の提案を認めた。

結果を隠さず残すことが、次の患者を守る。

王宮の検査官たちは、結果を見てからも議論を続けた。

短時間の効力だけならシュミットの薬も悪くない。

しかし保存後の変化を測ると、危険な不純物が増えていた。

「これを兵士に配っていたのか」

と一人が呟く。

レイヴンは首を振った。

「すべてが危険だったわけではありません。

ただ、確かめずに安全だと決めていたことが問題です」

検査官たちは頷いた。

彼らは新しい検査基準を作るため、レイヴンの説明を書き取った。

シュミットは黙っていたが、若い錬金術師たちは真剣だった。

今日の敗北が、王宮の薬を変える始まりになるかもしれない。

王宮の廊下を歩くレイヴンを、かつての同僚たちが遠巻きに見ていた。

誰も声をかけない。

彼はそれを責めなかった。

自分も以前なら、権力者に逆らうことを恐れたかもしれない。

けれど、工房で働く仲間たちの顔を思い浮かべると、足取りは自然と落ち着いた。

もう自分の価値を、あの人々の査定に委ねる必要はなかった。

試験結果を読み上げた書記官が、国王の命令を待って筆を止めた。

「その記録を公文書として残せ」

と国王は言った。

シュミットが顔を上げる。

だが国王は彼を見ず、レイヴンに向き直った。

「明日、そなたに公の場で話さねばならぬことがある」

レイヴンは答えなかった。

謝罪より先に、王女の病床へ届ける薬の検査結果が必要だった。

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