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王宮を追放された俺、万能薬を大量生産して貧民街から世界を救う  作者: レモンティー


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第百二十一話 飢えた子供たちのために学校を建てた

アルディア初の食糧輸出船が港を離れた翌朝、リーナの机に届いたのは祝辞ではなかった。

製粉所で働く九歳の少年が、夜明けから日没まで袋を運んでいるという訴えだった。

「国が豊かになったのに、子供が働かなければ食べられないの?」

ミリナが聞いた。

かつてパン一切れを分けてもらった少女は、今では村の子供たちの相談相手になっていた。

リーナは製粉所へ向かった。

少年の名はトーマ。

父親は井戸工事で足を痛め、母親は幼い妹の世話をしている。

監督は言った。

「働かせなければ、この子の家族は飢える。

学校など贅沢だ」

「では、働かなくても食べられるようにするのが、大人の仕事です」

リーナはトーマの肩に付いた麦粉を払った。

少年は学校に行きたいとは言わなかった。

字を読めないことを、恥ずかしいと思っていたからだ。

農業評議会では反対が相次いだ。

灌漑水路の補修、倉庫の増築、港の荷役設備。

予算はすでに使い道が決まっている。

「学校を建てても、明日の収穫は増えません」

「十年後の収穫を決めるのは、今の子供たちです」

リーナは古い農場の収支表を掲げた。

読み書きのできる農家は、種子の量や水の使用記録を残せる。

病気の兆候を共有できる。

教育は慈善だけではない。

国を飢えに戻さないための備えだ。

フィオナは、廃止された徴税所を校舎に使う案を持ってきた。

新築より早く、費用も少ない。

ロアンは木材の調達を申し出た。

ただし大工の賃金を削ってはならないと条件を付けた。

ミリナは子供たちを集めた。

机が足りないので、最初の授業は麦袋を積んだ倉庫の軒下だった。

教師が『麦』の字を書くと、トーマは何度も地面になぞった。


数日後、父親の治療と生活補助が決まった。

トーマは製粉所の仕事を辞め、昼間の授業へ通えるようになった。

監督には、子供の労働を禁止するだけでなく、家計が崩れない移行期間が必要だと説明した。

開校までの道のりは、看板を掲げるほど簡単ではなかった。

学校へ通わせたい母親と、働き手を失いたくない祖父が口論する家もあった。

リーナは両者の前で、今年の麦の収穫量と家庭の支出を一緒に計算した。

学用品は学校で貸し出し、給食は農業組合から買い付ける。

授業は収穫期の忙しさも考慮して組み直した。

子供を守るために大人の生活を壊してはならない。

教師の採用でも問題が起きた。

王都から来た教師は難しい言葉を並べ、村の子供たちを叱った。

ミリナは授業を見学し、教師に麦の穂を渡した。

「この子たちは毎日これを見ています。これを使って数を教えたらどうですか」

教師は翌日、麦粒を並べて足し算を教えた。

教室で初めて笑い声が起こった。

トーマは文字を覚えるのが遅かった。

働き疲れた手は鉛筆を強く握りすぎ、紙を破った。

隣の席の少女が消しゴムを半分に切って渡すと、彼は小さく礼を言った。

昼食の時間、トーマは妹に持ち帰るためパンを隠そうとした。

教師は叱らず、家族への支援が足りていないと報告した。


翌週から、幼い兄弟にも食事が届くようになった。

学校の最初の授業で、子供は黒板より窓の外の畑を見ていた。

「収穫の日は休める?」

教師は農作業を手伝う子の事情を聞き、補習の時間を作った。

校舎を建てるだけでは、子供が通える学校にはならない。

学校の最初の朝、ミリナは教室の戸口で立ち止まった。

子供たちは机に座っているが、腹を空かせて鉛筆を持てない子もいる。

彼女は教師と相談し、授業の前に温かい麦粥を配った。

子供の一人が初めて自分の名前を書いたとき、ミリナはそっと顔を背けた。

学校の最初の授業で、少年は文字より先に畑の水路を描いた。

教師は間違いだと言わず、図の横に

「水」

と書いた。

学ぶ場所は、子供が既に知っている世界から始まった。

リーナは教育予算の支出を広場に掲示させた。

木材、教師の給与、給食用の麦、修繕費。

誰でも数字を見られるようにする。

ある日、帳面に記載された机の数と実物が合わないと、保護者が指摘した。

調べると、隣村の仮教室へ貸し出した分が記録されていなかった。

横領ではなかったが、記録の不足を放置しないことにした。

雨の日、校舎の屋根から水が漏れた。

トーマの父親が杖をついて現れ、修理の方法を教えた。

自分の足では屋根に上れない。

それでも、釘の打ち方を教えることはできた。

大工たちが作業を終えると、彼は照れくさそうに笑った。

「息子の学校を、少しは手伝えたな」

トーマは父親の手を握った。

最初の学期の終わり、子供たちは自分の家の食卓を絵に描いた。

麦粥、豆の煮込み、焼いた魚。

豪華な皿は一つもなかった。

リーナはその絵を王宮へ持っていった。

大臣たちが学校の成果を問うと、彼女は絵を並べた。

「この子たちは、来月も食べられると信じて描いています。それが、いちばん大きな変化です」

開校の日、ミリナは最初のパンを持ってきた。

子供たちはそれを十等分し、授業の前に食べた。

学校を作る話が広まると、隣村からも入学希望者が集まった。

ところが川を渡る橋は細く、雨の日には通れない。

大臣は馬車を増やす案を出したが、ミリナは子供たちと歩いて道を確かめた。

雨の日に橋を渡るのは危険だと分かり、近くの集会所にも分教室を設けることにした。

教育を受けるために命を危険にさらしてはならない。

新しい教師の一人は、農作業を手伝ってきた少女に『手が汚い』と言った。

少女は次の日から来なくなった。

リーナは教師と一緒に少女の畑を訪ねた。

土を耕す手があったから学校の給食ができる。

教師は少女に謝り、次の授業では土壌と作物の関係を教えた。

少女は最前列で手を挙げた。

学期末、トーマが書いた作文が選ばれた。

題名は『父さんの手』

彼は文字を覚える前、父親の手がどんな仕事をしてきたか知らなかった。

今は修理した屋根の下で勉強している。

作文を聞いた父親は、杖を握る手で顔を覆った。

教室の窓の外では麦が風に揺れていた。

「先生。学校で何を教えるの?」

ある日の授業で、トーマは麦の収穫量を計算していた。

去年の村の収穫は百袋。

今年は百二十袋。

先生が増えた分を尋ねると、彼は迷わず二十袋と答えた。

だが次の問いには首を傾げた。

「増えた二十袋は、誰のもの?」

教師は黒板に農家、学校、備蓄倉庫の名前を書いた。

トーマは考え込んだあと、言った。

「来年の種も残さなきゃ」

教師は嬉しそうに頷いた。

リーナは廊下でその声を聞いた。

数字を覚えるだけではない。

数字の向こうにいる人を考える。

学校を建てた意味が、ようやく形になって見えた。

放課後、トーマは妹を迎えに来た母親へ、覚えたばかりの文字で手紙を渡した。

『いつもありがとう』

母親は何度も読み返し、涙を拭いた。

少年は照れて逃げたが、その背中は製粉所で袋を運んでいたころより、ずっと軽やかだった。

「まずは、自分の名前を」

トーマは震える手で文字を書いた。

間違いだらけだった。

それでも彼は紙を胸に抱き、父親に見せるため走り出した。

リーナは校門の上に飾られた言葉を見上げた。

『明日の食卓は、今日の学びから』

レイヴンなら、きっと同じことを言っただろう。

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