↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王宮を追放された俺、万能薬を大量生産して貧民街から世界を救う  作者: レモンティー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
120/130

第百二十話 世界で最も貧しい国が、食糧輸出国になった

港に並んだ麦袋には、アルディアの紋章が押されていた。

百年前から食糧を輸入し続けた国が、初めて自分たちの収穫を他国へ送る。

岸壁には農民、技師、船乗り、子供たちが集まった。

輸出第一便の前で、港の労働者は

「去年は配給を待っていた」

と呟いた。

リーナは積み荷の一部を国内備蓄に戻し、輸出量を減らした。

豊かになった証明のために、再び飢える危険を作らなかった。

「本当に、外へ売っていいの?」

ミリナが尋ねた。

去年まで、彼女の村には明日のパンさえなかった。

「国内の備蓄と、来年の種を残したうえでね」

リーナは出荷許可書を見せた。

病院と学校の給食、災害用の倉庫、農家の生活に必要な分を確保してから、余剰分だけを輸出する。

それが最初の約束だった。

輸出先は、帝国ではなかった。

遠い島国で嵐が続き、漁ができなくなったという。

島国から届いた救援要請を読んだ国王は、即座に船を出すことを決めた。

「我々が助けられたときと同じように」

出港前の最終会議では、輸出量を増やしたい商人と、国内の備蓄を厚くしたい村長が議論した。

リーナは双方に必要な数字を示し、今年は控えめな量から始めることにした。

最初の輸出が成功しても、翌年の不作に耐えられなければ意味がない。

慎重な決定に不満も出たが、村長は最後に頷いた。

港の倉庫には、収穫量と備蓄量を示す大きな板が掲げられていた。

出荷する麦は、検査を通ったものだけだ。

湿った袋は乾燥場へ戻され、破れた袋は縫い直された。

式典を急ぐ大臣が不満を漏らすと、ロアンは言った。

「遠い国の子供が食べるんです。急いで傷んだ麦を送る方が失礼でしょう」

船の前で、フィオナが移民たちの名前を読み上げた。

最初の救援隊に通訳として加わった彼女は、今では農業協力局の責任者になっていた。

故郷を捨てたと思われていた人々が、故郷の復興を支えた。

その功績を、誰も忘れないようにするためだった。

配給所の板には、運び込まれた袋数と、今日渡せる食事の数が並んだ。

二つは同じではない。

倉庫が満ちても皿が空なら、救援は届いていないのだ。

島国から来た船員は、アルディアの麦袋を手にして驚いた。

『ここは昔、救援を受ける国だと聞いていた』

フィオナは答えた。

『今も助けてもらうことはあります。

でも、助けることもできるようになりました』

どちらか一方だけの国などない。

そう言う彼女の声には、故郷へ戻った日の震えはなかった。

国王は演説でリーナを英雄と呼んだ。

リーナは一歩前に出た。

「私は土を耕していません。水路を掘っていません。麦を刈ってもいません」

人々の間に静けさが広がる。

「この国を救ったのは、働いた皆さんです」

ミリナの父親が、泥の付いた手を見下ろした。

隣の農民も、船乗りも、同じように自分の手を見た。


やがて一人が拍手し、港全体に広がった。

夜、ミリナは自分の手帳に最初の輸出船の絵を描いた。

船の帆よりも大きく、麦の袋を描いている。

『どうしてそんなに大きいの?』とリーナが尋ねると、ミリナは答えた。

『これが一番大事だから』

リーナは笑った。

大人たちが国の名誉を語るとき、少女は誰かの食卓を思い浮かべていた。

リーナは懐から小さな土の瓶を取り出した。

レイヴンが出発前にくれた、古い工房の裏庭の土だった。

かつて瓦礫しかなかった場所に花が咲いたように、アルディアの荒れ地にも麦が実った。

彼女は瓶を開けず、そのまま胸に抱いた。

式典の後、ミリナが小さな包みを差し出した。

焼きたてのパンだった。

「先生に、食べてほしい」

リーナは一口かじった。

少し焦げていて、塩が足りない。

でも、今まで食べたどんな豪華な料理より温かかった。

「去年は、パンをもらう側だったのにね」

とリーナが言うと、ミリナは胸を張った。

「今年は、私が焼いたの」

食糧輸出の第一便は、国内の備蓄基準を満たした後に許可された。

船倉には穀物と一緒に栽培記録も積まれ、受け入れ国の農業技師が待っていた。

輸出できるようになったのは豊かさの証しだが、リーナが誇ったのは、アルディアの子供たちが先に夕食を食べられることだった。

夕暮れ、最初の輸出船が帆を上げた。

船倉にはアルディアの麦が積まれている。

岸壁で人々が手を振る。

リーナはその光景を見つめながら、レイヴンへの手紙を書いた。

『先生。

薬で命を救う方法を教えてくれて、ありがとう。

今度は、食べ物を作る人たちと一緒に、命を守れました』

だが、船が水平線へ消えたころ、農業評議会には新しい課題が届いていた。

豊かになった町へ人が集まり、学校も井戸も足りなくなっている。

国王は笑った。

「今度は、どうしたらいい」

リーナは答えた。

「今度は、子供たちが安心して育つ町を作りましょう」

その日の午後、初めての輸出船が出る港で、ミリナは備蓄倉庫の管理人と向き合った。

備蓄倉庫の管理人は輸出する袋を数えながら不作を恐れた。

その言葉に、周囲の者は答えを急いだ。

しかしミリナは、相手が言い終わるまで遮らなかった。

リーナは学校給食と翌年の種子を差し引いた出荷上限をもう一度示した。

誰かが

「それで十分ですか」

と尋ねた。

十分だと言える人はいなかった。

それでも、いま確かめられる事実を一つずつ積み上げるしかなかった。

会議が終わるころ、反対の声が上がった。

「そんな手間をかけていたら、間に合いません」

ミリナは窓の外へ目を向けた。

初めての輸出船が出る港には、結論を待つ人がいる。

急ぐ理由は確かにある。

だが、焦りを理由に危険を隠せば、次に失うものはもっと大きい。

「今日できることと、明日まで待つべきことを分けましょう」

反対した者も、しばらくして作業の順序を尋ねた。

出港する麦は、国内の備蓄と翌年の種子を確保した後に残った分だった。

ノエは倉庫の数字を何度も確かめ、ダリオは農民たちの同意を集めた。

船を見送るミリナは、かつて自分が最後のパンを受け取った日のことを思い出した。

「今度は、私たちが届けるんだね」

リーナはうなずいた。

輸出国という名前より、その言葉が胸に残った。


夕刻、備蓄倉庫の管理人がもう一度戻ってきた。

昼間には言えなかったことがあるという。

ミリナは手を止めた。

相手が恐れていたのは、失敗そのものではない。

失敗を告げたあと、誰にも信じてもらえなくなることだった。

話を聞いていた若い職員は、予定表の一行を消し、代わりに確認の時間を書き込んだ。

小さな変更だったが、現場の人々には意味があった。

船が離岸する直前、ミリナは積荷の一袋に小さな紙を結び付けた。

「前にパンをくれた人へ」

と書かれていた。

リーナは輸出先の名前を確かめ、あのとき助けてもらった町へ届く便だと知った。

船長は紙が濡れないよう油布で包んだ。

港では祝砲が鳴ったが、リーナは倉庫に残した備蓄量をもう一度確認した。

人を助ける余裕が生まれたことと、自分たちの明日を守ること。

その両方を満たして初めて、輸出は誇れる仕事になった。

船が出る前、港に一人の老人が現れた。

かつて飢饉の年に、国境で見知らぬ旅人から一切れのパンを受け取ったという。

老人は積荷を見つめ、

「返せる日が来るとは思わなかった」

と呟いた。

ミリナは老人に、最初の袋を船へ運ぶ役を頼んだ。

重い袋を持ち上げることはできなかったので、彼は袋に結ぶ縄の端を握った。

船員が一緒に引くと、袋はゆっくり船倉へ収まった。

出航の鐘が鳴る直前、リーナは港の人々に言った。

「今日、私たちは豊かになったと宣言するために送るのではありません。あの日、誰かが分けてくれた一切れを、次の誰かへ渡すために送ります」

ミリナは泣きながら笑った。

岸壁に並んだ農民たちも、かつて配給の列で肩を寄せ合った日を覚えていた。

船が水平線へ進んだあと、リーナは翌年の種子を保管する倉庫へ向かった。

奇跡の一日を、次の年にも続けるためだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。