↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王宮を追放された俺、万能薬を大量生産して貧民街から世界を救う  作者: レモンティー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
12/130

第十二話 雑草だと思われていた薬草の秘密


翌朝、レイヴンはリーナに案内され、城壁の外にある荒れ地へ向かった。

地面は硬く、風が吹くたび砂が舞う。

農民たちが

「痩せ地」

と呼んで避ける場所だった。

「これだよ」

リーナが指したのは、道端に群生する銀斑草だった。

踏まれても折れず、雨が降らなくても枯れない。

レイヴンは一本抜き、根についた土を指で払った。

万象解析が映し出したのは、青葉草の主成分とよく似た魔力配列。

ただし、治癒に働く部分は閉じた形をしている。

「効かない草じゃない。効く形になっていないだけだ」

銀斑草を煮る匂いは、青葉草より少し苦かった。

リーナは鼻をつまみ、

「これがお薬になるの?」

と不思議そうに尋ねる。

「まだ分からない。だから確かめるんだ」

レイヴンは試験管に日付を書き、温度を少しずつ変えた。

光が強くなる条件が見つかっても、すぐに喜ばない。

光の強さと安全性は別だからだ。

エルナは乾燥させた葉と生の葉を並べ、成分の違いを記録した。

乾燥時間を変えるだけで、抽出液の色が変わる。

安い雑草を使えるようにするには、誰が作っても同じ結果になる手順が必要だった。

「農家に任せきりにするのではなく、工房から育て方を伝えたいですね」

エルナの提案に、レイヴンは頷いた。

薬屋へ戻ると、マリシアが首を傾げた。

「これ、子供たちが花輪にする雑草ですよ」

「その雑草で試したい」

レイヴンは薬草を刻み、熱湯に浸した。

普通の抽出液は灰色に濁ったままだったが、微量の触媒を加えて温度を変えると、青白い光が液面に浮かんだ。

マリシアが息を呑む。

「青葉草と同じ反応……」

レイヴンは銀斑草の抽出液を、青葉草の抽出液と並べた。

光の強さは似ているが、香りも粘度も違う。

見た目だけで代用品と決めつければ、王宮で見てきた失敗を繰り返す。

エルナという名の女性が訪ねてきたのは、その試験中だった。

王宮の薬草研究所を辞めた元研究員で、薬屋の噂を聞いて足を運んだという。

彼女は銀斑草の根を見て、表情を変えた。

「この斑点、土の中の魔力塩が多いと出るんです。育てる場所で成分が変わるはず」

「王宮では研究されなかったんですか」

「安い雑草には予算がつきませんでした」

村の子供は道端の草を抜こうとして、祖母に止められた。

「それは冬の熱に使う」

レイヴンは葉の裏の細い筋を見て、希少種と同じ成分を疑った。

村人が守ってきた知識を、研究室の発見として奪うわけにはいかない。

三日目、銀斑草から作った試験液に異変が出た。

温めたときは澄んでいた液体が、井戸水で薄めると紫に変わる。

エルナが古い毒性表をめくり、指を止めた。

「この色は魔力塩の反応よ。採取地によっては、治癒成分と一緒に毒性成分まで濃縮される」

レイヴンは出荷予定の試作品をすべて隔離した。

代用品が見つかったという噂はもう広まっていた。


翌朝、薬を待つ母親が工房を訪れた。

「安くなると聞いたんです。子供の熱が下がらなくて」

レイヴンは未完成の薬を渡せなかった。

代わりにマリシアが子供を診察し、在庫の回復薬を優先して回した。

母親が去ると、エルナはうつむいた。

「私が安全だと言い切れれば、今夜から救えるのに」

レイヴンは首を振る。

「言い切れないことを言わないために、君が必要なんだ」

二度目の試験で、銀斑草の液は透明になった。

だがマリシアが保存瓶を陽に透かすと、底に針ほどの黒い沈殿がある。

「これを患者に渡すの?」

レイヴンは首を振った。

沈殿は荒れ地の魔力塩だった。

除去すれば薬効も落ちる。

エルナは研究所で捨てられた根の標本を思い出した。

「根を洗うんじゃなく、育つ土を変えるのは?」

収穫まで待てば、目の前の患者への薬は足りない。

リーナは小さな袋を抱えて戻ってきた。

市場の裏で拾った青葉草の切れ端だった。

「今日はこれでしのげる?」

レイヴンはその日の分を少量だけ調合し、銀斑草の本格使用は安全試験が終わるまで延期した。

安い薬を作るために、最も弱い患者を実験台にはしない。

二人は顔を見合わせ、思わず笑った。

価値がないと決めつけられたものの中に、まだ誰も知らない可能性が眠っている。

レイヴンは試験記録の一行目に、銀斑草の採取場所と土の色を記した。

「いや、まだ違う。治療効果を確かめるまでは同じとは言えない」

二人はまず毒性と保存時の変化を調べた。

夜が更けても、レイヴンは実験台から離れなかった。

効き目のある成分が見つかった喜びより、もし毒を見落とせば患者を傷つけるという恐れのほうが強かった。

マリシアは実験記録の余白に、小さな印をつけていた。

安全性が確認できた試験には丸、再試験が必要なものには三角、危険な反応が出たものには大きな斜線。

レイヴンはその記号を見て、研究が一人の頭の中だけにある危うさを感じた。

「僕がいなくても、同じ判断ができるようにしたい」

「そのための記録でしょう」

彼女は当たり前のように答えた。

レイヴンは頷く。

伝説の薬を作れる人が一人だけでは、その一人が倒れた日に奇跡は終わる。

三日目、低濃度の抽出液を用いた試験が基準を満たした。

治癒成分は希少薬草の約七割。

だが材料費は百分の一にも満たない。

「これなら薬草が買えなくても、回復薬を作れる」

マリシアが笑った。

レイヴンは窓の外を見た。

荒れ地に生えている雑草を、誰も価値がないと思っていた。

自分が王宮で言われた言葉と、妙に重なった。


その夜、レイヴンは銀斑草の根元の土を小瓶に入れた。

成分は土壌の魔力濃度に影響されている。

ならば育て方を変えれば、もっと良い薬草になるかもしれない。

翌朝、リーナはいつもより早く薬屋へ来た。

自分が見つけた草が誰かを助けるかもしれない。

その事実が嬉しくてたまらないのだ。

レイヴンは彼女に小さな採取袋を渡し、危険な場所へ一人で行かないよう約束させた。

研究は希望を生む。

しかし、その希望のために誰かを危険にさらしてはいけない。

試験の途中、銀斑草の抽出液が突然黒く変色した。

リーナが驚いて身を引く。

レイヴンはすぐに蓋を閉め、容器を隔離した。

原因は、洗浄用の水に混ざった微量の鉱粉だった。

青葉草なら影響しない量でも、銀斑草の成分は強く反応する。

エルナは水の採取場所を調べ、井戸ごとに成分が違うことを確かめた。

「安い材料を見つけたと思ったら、別の難しさが出てきましたね」

レイヴンは笑った。

「だから面白い、と言いたいところだけど、患者に使う薬だから慎重にいこう」

リーナは実験帳の横に小さな絵を描いた。

井戸の印と、黒くなった瓶の絵だ。

「これなら間違えないよ」

レイヴンはその絵を残した。

知識のない子供の工夫が、研究を安全にすることもある。


翌日、二人は水を精製する簡単な装置を作り始めた。

採取した草は、すべて同じではなかった。

日当たりのよい場所の葉は厚く、石陰の葉は薄い。

レイヴンはそれぞれを別の瓶に入れ、抽出条件を変えて試した。

手間はかかるが、違いを知らなければ安全な薬は作れない。

リーナは瓶の印を間違えないよう、色の違う糸を結んだ。

その小さな工夫のおかげで、試料を取り違える事故を防げた。

エルナは銀斑草の栽培記録を見せた。

王宮では薬草を等級で分け、下級のものは研究対象から外していたという。

「安い草ほど調べる価値があるのに、誰も見ようとしなかったんです」

レイヴンは自分が追放された日のことを思い出した。

製造数だけで判断され、品質を確かめてもらえなかった。

草も人も、最初につけられた値札で価値が決まるわけではない。

「この草の名前、誰がつけたんですか」

とリーナが聞いた。

「銀の斑点があるから、銀斑草」

とエルナ。

「じゃあ、きれいな名前だね」

リーナは嬉しそうに笑った。

レイヴンは草を一本、窓辺の瓶に挿した。

まだ治療に使える量は少ない。

それでも、この小さな草がいつか多くの患者を救うかもしれない。

エルナは実験台の端に置かれた銀斑草を見つめた。

かつて研究所では、役に立たない草として標本箱の奥へ押し込められていたものだ。

「こんなところで再会するとは思いませんでした」

彼女が呟くと、レイヴンは尋ねた。

「次は一緒に育ててみませんか」

エルナは驚き、それから力強く頷いた。

研究は、もう一人で諦めるものではなかった。

レイヴンは採取した草を乾燥棚へ並べた。

名前も知らなかった植物が、今は工房で一番大切な研究対象になっている。

価値を見つける仕事は、いつだって小さな疑問から始まる。

エルナは畑で摘んだ葉を握り締めた。

「雑草だと笑われたのに、毒まであるなんて」

レイヴンは葉を二枚に分け、抽出温度を書いた札を添えた。

「だからこそ見つけた意味がある。安全に使える条件まで、君の発見にしよう」

エルナは泣きそうな顔で記録帳を開いた。

エルナが持ち込んだ代替薬草の抽出液は、初めの試験で良好な反応を示した。

だが三時間後、試験皿の縁が黒く変色した。

微量の毒が時間を置いて現れるのだ。

「明日の患者に間に合う」

と喜んでいた職人の顔が青ざめる。

レイヴンは出荷予定の瓶に封印札を貼った。

治療を待つ家族から抗議が届く。

「使える薬があるのに、なぜ隠す」

彼は家族の前に立ち、遅れて現れた毒性と未解決の危険を説明した。

「今日の安心のために、明日の命を賭けられません」

怒っていた父親は、眠る娘の手を握り、しばらくして頷いた。

エルナは葉と根を別々に分析し、毒が特定の温度で抽出されることを見つけた。

低温で成分を分離した試料も、すぐには投与しない。

マリシアの監督で追加検査を重ねた。

「待つ時間も、治療の一部なのね」

リーナの言葉に、レイヴンは小さく頷いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。