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王宮を追放された俺、万能薬を大量生産して貧民街から世界を救う  作者: レモンティー


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第百十八話 帝国の食糧封鎖が完全に崩壊した

帝国の大使が港湾権の譲渡を迫った日、アルディアの市場では麦の値がようやく下がっていた。

国王は共同倉庫の公開帳簿を卓上に置いた。

「国民の食事を担保に港を売るつもりはない」

大使は次の不作を持ち出した。

リーナは前年の収穫量だけでなく、不作時の備蓄放出基準と複数国からの調達契約を示した。

「今年勝ったのではありません。来年も脅されない準備を始めたんです」

その夕方、パン屋に少年が来た。

昨日は半分しか買えなかったパンを、今日は家族の人数分注文した。

主人は値札を指し、共同倉庫の帳簿を見せた。

「今月はこの値段で売れる」

少年は一つを自分の分として取り、残りを抱えて走った。

王宮では祝宴の予算を追加の備蓄庫へ回す決定が下った。

封鎖が崩れたことを示したのは、外交文書だけではなかった。

国境の検問所では、帝国から戻る商人たちが封鎖解除の噂を聞いていた。

リーナは先に検査官へ連絡し、穀物の品質確認と通行手続きを公開した。

安い麦が届くことを歓迎する人もいれば、自分の収穫が売れなくなると恐れる農民もいた。

ダリオは双方の代表を同じ卓へ招き、買い取り価格と備蓄放出の条件を一つずつ確認した。

封鎖の終わりを、新しい不公平の始まりにはしなかった。

大使は笑った。

「次の不作が来たらどうする」

「備蓄を作り、農地を守り、複数の国と取引する」

国王は答えた。

「二度と一つの国に命綱を握らせない」

封鎖の失敗は、突然起きた奇跡ではなかった。

農業工場が土壌改良液を作り、農民が水路を掘り、倉庫が収穫を守り、船乗りが足りない物資を運んだ。

どれか一つでも欠けていれば、冬を越せなかった。

帝国の商人が密かにアルディアを訪れ、取引再開を願い出た。

リーナは拒まなかった。

ただし、独占権と不透明な手数料は認めない。

『取引する相手を増やすのは、あなた方にも良いはずです』

商人は苦い顔をしたが、翌週には正式な契約案を持ってきた。

リーナは市場の値札を見た。

十倍に跳ね上がった麦が、収穫前より少し高い程度に戻っている。

ただし価格が下がりすぎれば農家が来年の種を買えない。

農業組合と消費者代表は、最低買い取り価格と緊急時の放出基準を協議した。

黄金秤商会のエリックは最後の賭けに出た。

帝国から秘密裏に高値で麦を買い、アルディアの市場へ流せば再び支配できると考えた。

しかし彼の荷は売れなかった。

人々は共同倉庫で適正な価格の麦を買えたからだ。

村の祭りでは、子供たちが麦の束を飾った。

去年の祭りには食べ物がなく、歌う人も少なかったという。

ミリナは歌の途中で泣き出し、友達に笑われた。

『うれしいから泣いたの』と言い返すと、友達も泣いた。

リーナは遠くから見守った。

国境の政治が変わったことより、その涙が何より確かな変化に思えた。

「なぜだ。麦が必要だったはずだ!」

とエリックは叫んだ。

「必要だったのは麦です。あなたの支配ではありません」

フィオナはそう言って、契約書の束を監察官へ渡した。

商会の違法な貸付と横流しは、正式な裁判で裁かれることになった。

帝国の商人たちも禁輸に反発し始めた。

アルディアは以前、帝国から穀物を買う大きな市場だった。

禁輸で失われた取引先は、海の向こうの商人に移ってしまった。

帝国の港では売れ残った穀物が積み上がる。

封鎖が破れたのは、一夜にして食糧が無限に生まれたからではない。

備蓄の再配分、近隣国との交易、改良農地の段階的な収穫が重なり、帝国に依存する割合が下がった。

リーナは勝利を宣言する前に、まだ輸送が届かない山村の名を読み上げた。

テオは故郷へ手紙を書いた。

『こちらでは、帝国人でも食事をもらえる。

水路を直せば賃金が出る。

戦争をしなくても暮らせる』

手紙は国境を越え、帝国の村々へ届いた。

春の初め、皇帝は禁輸の一部解除を発表した。

しかしアルディア側の交渉団は、以前の独占契約を結ばなかった。

自由な取引は受け入れるが、港湾権や農地を差し出す条件は拒否した。


翌週、帝国の大使は再び王宮を訪れた。

禁輸を解除する代わりに港の独占使用権を要求するつもりだった。

だが会議室に入ると、机の上には帝国の穀物契約書だけでなく、隣国の塩、アルディアの小麦、海沿いの町から届く魚の取引証書が並んでいた。

「これは何の真似だ」

と大使は言った。

「今月、実際に港を通った品目です」

とアシュラン王は答えた。

「帝国からの穀物がなくても、取引は続いています」

大使は契約書の印を確かめた。

偽物ではない。

港湾権を差し出さなければ飢えるはずの国が、別の航路を持っていた。

リーナは数字を示した。

共同倉庫の備蓄、春の収穫見込み、まだ支援が必要な山村の数。

余裕があるわけではない。

次の不作が来れば、また厳しい冬になる。

それでも、一国の命令だけで全ての食卓が空になる状態からは抜け出していた。

「禁輸が無意味だと言うのか」

「まだ被害はあります」

とリーナは答えた。

「薬品や農具の輸入は遅れています。だからこそ、解除を求めます。ただし、港を差し出してまでではありません」

大使の顔から笑みが消えた。

強気の交渉を続ければ、帝国の商人自身が市場を失う。

港の向こうでは、帝国商人たちが入港許可を求めて列を作っていた。

そのとき、荷役人の代表が入室を求めた。

「禁輸が解けても、また一社に仕事を握られたら同じことです。港の契約を公開してください」

アシュラン王は議事録を開かせた。

入港手数料は全商人に共通とし、備蓄の最低量は住民代表と農業組合が監督する。

港湾権の独占条項は認めない。

大使にも同じ条件を渡した。

「皇帝に持ち帰れというのか」

「そうです。ここにいる者が決めた条件を」

数日後、帝国は禁輸の一部解除を布告した。

完全な撤回ではない。

それでも国境では兵士が食糧を積んだ荷車を通し、港には正式な注文書が戻り始めた。

かつて飢えた帝国兵だったテオは、荷車の御者に水を渡した。

「向こうの村にも届けてくれ」

と頼む。

御者は頷いた。

敵味方を分けていた道を、食糧が往復していく。

市場ではパン屋が値札を掛け替えた。

ミリナは一つ買って半分に割り、隣の子に渡した。

去年なら、自分の分を手放すことなどできなかった。

リーナはその光景を見ながら、国王に報告した。

「封鎖の命令はまだ残っています。でも、飢えを人質にする力は失われました」

王は港の方を見た。

そこには帝国の旗も、隣国の旗も、アルディアの旗もある。

誰か一人が鍵を握る港ではなくなった。

その変化こそが、封鎖の崩壊だった。

ダリオは倉庫の扉を開き、積み上がった袋を見せた。

「これが去年、俺たちが守った種だ。今度は収穫を守らなきゃならない」

彼は買い取り価格の下限と、凶作時の備蓄放出について、農業組合の代表として交渉することを提案した。

リーナは賛成した。

ただし価格を守るために、飢えた人の食事を奪ってはならない。

消費者代表も交えた会議が、その夜遅くまで続いた。

ミリナは会議室の外で、子供たちとパンを分けていた。

大人たちが難しい話をしている間にも、腹は減る。

「前は、半分にしたら自分が足りなくなったの」

とミリナは言った。

「今は、明日の分があるって知ってる」

リーナはその言葉を聞いて、初めて肩の力を抜いた。

封鎖が崩れたことを示すのは外交文書だけではない。

子供が明日の食事を信じられるようになったことだった。


翌朝、港の掲示板には帝国商人の新しい契約条件が張り出された。

港湾権の独占はなく、備蓄量と手数料は誰でも確認できる。

農民ダリオは値下がりを恐れていたが、公開された最低買い取り条件を見て、今年の種を買う決心をした。

パン屋では少年が昨日と同じ値段でパンを買った。

王宮の机の上で敗北を認めさせたのではない。

翌日も同じ食卓を囲めると信じられることが、封鎖に対する本当の勝利だった。

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