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王宮を追放された俺、万能薬を大量生産して貧民街から世界を救う  作者: レモンティー


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第百十六話 世界最大の穀物倉庫を建設せよ

倉庫の工期を守るため、管理官は梁の点検を翌日に回そうとした。

技師ロアンは僅かな歪みを見つけ、作業停止札に自分の名前を書いた。

「止めれば収穫した麦の置き場がなくなるぞ」

と責任者が迫る。

ロアンは震える手で札を掲げた。

「ここが崩れれば、麦を運ぶ人もいなくなります」

その夜、仮支柱が音を立てて倒れた。

無人の現場に土煙が上がるのを見て、管理官は言葉を失った。


翌朝、ロアンは梁の補強より先に避難路を図面へ書き込んだ。

リーナは完成の遅れを隠さず町へ伝え、学校の乾燥室と集会所に穀物を分散保管する協力を求めた。

工期は延びたが、一袋も雨ざらしにしなかった。

少年が泥だらけの図面を差し出し、

「母さんが、この出口を描いてくれてありがとうって」

と言う。

ロアンは線を消さず、正式な設計図に写した。

技師ロアンは首を振った。

「城は人を飢えから守りません。倉庫なら守れます」

彼は図面を広げた。

床を高くし、空気を通し、温度と湿度を監視する。

穀物を種類と収穫年ごとに分け、古いものから使う。

害虫を防ぐため、薬剤だけに頼らず清掃と密閉を徹底する。

建設地には反対が出た。

そこは市場へ続く道で、荷車が行き交う場所だった。

住民は工事で商売が止まることを恐れた。

リーナは説明会を開き、倉庫を少し移動させて道を残す案を採用した。

建設費は増えたが、町の暮らしを止めずに済んだ。

倉庫の試験運転では、湿度計が突然高い数値を示した。

係員が慌てて扉を開けると、外の湿った空気が流れ込んだ。

ロアンは測定器の故障かどうかを確かめ、通風の時間を変えた。

倉庫は大きければいいのではない。

毎日の小さな判断で、初めて食糧を守れる。

工事中、地下から古い石組みが見つかった。

百年前の貯水槽だった。

壊して基礎にする予定を変え、考古学者と水利技師を呼んだ。

調べると、雨季の水を集める仕組みが残っていた。

倉庫の冷却に利用できる可能性がある。

倉庫の建設が半ばに達した夜、上流で豪雨が起きた。

乾燥地では珍しい濁流が、古い水路を逆走して建設現場へ迫る。

ハルトは床下の排水設計を見て顔色を変えた。

「このままでは基礎が洗われる。収穫した麦も運び込めない」

工期を守るなら作業を続けるしかない。

だが続ければ、人と穀物を失う。

「昔の人も、飢えないために工夫していたんですね」

とミリナが言った。

倉庫で働く女性たちは、夜勤の帰り道が暗いと訴えた。

管理官は『灯りは予算外だ』と答えたが、リーナは夜間照明と送迎を建設費に加えた。

働く人が安心して帰れない施設は、長く機能しない。

後日、女性たちは自分たちで当番表を作り、管理の会議にも参加するようになった。

「私たちは最初の人間じゃないのよ」

リーナは石壁に触れた。

「失われた知恵を拾うのも仕事ね」

倉庫が半分完成したころ、最初の大量搬入が始まった。

農家の荷車が列を作る。

検査官は水分の多い麦を受け入れなかった。

農民が怒る。

「せっかく運んだのに!」

リーナは作業を止め、村々へ避難と土嚢の協力を求めた。

商人たちは

「倉庫ができなければ食糧価格はまた上がる」

と脅した。

ミリナはパンを焼くために集めていた薪を差し出し、避難した作業員の食事を用意した。

ダリオは古い灌漑図を広げ、使われなくなった放水路を指した。

ハルトはそこに仮の堰を組み、濁流を空の調整池へ逃がす案を選んだ。

ミリナは学校で、麦を乾燥させる実験をした。

同じ量の麦を湿った箱と乾いた箱に入れ、日ごとに重さと匂いを比べる。


数日後、違いは誰の目にも明らかだった。

『大きな倉庫も、学校の箱と同じなんだ』

教師は頷いた。

学ぶことが、国の新しい技術を支えていた。

リーナは乾燥場を案内した。

「腐らせないためです。乾かしてからなら、同じ値段で買い取ります」

検査を理由に買い叩かないことを、契約書に明記した。

一方、商会の手先が倉庫の記録係に金を渡そうとした。

入荷量を少なく記録すれば、差額を横流しできる。

記録係は賄賂を断り、監査人へ報告した。

リーナは彼を表彰しなかった。

代わりに、誰が担当しても不正が難しい二重計量の仕組みを整えた。

英雄一人に頼る倉庫では長続きしない。

冬の初め、巨大な倉庫の扉が閉じられた。

中には麦だけでなく、豆や雑穀も並ぶ。

入口には誰でも読める大きな数字で、在庫と供給可能日数が掲示された。

巨大倉庫の完成式より先に、現場では小さな倉庫の換気を調べていた。

湿った麦は腐り、豊作のはずが飢餓に戻る。

ミリナは袋を積む間隔を測り、村の女性たちと虫害の点検表を作った。

食糧を増やすだけでは、冬を越せない。

国王は扉を見上げた。

「この建物には宝石も金貨もない」

夜明け、倉庫の土台は残っていた。

予定より工事は遅れたが、住民の誰も失わなかった。

ハルトは基礎を高くし、排水路を二重に設計し直した。

倉庫が完成した日、最初に入ったのは麦袋ではなく、村人たちの手で運ばれた洪水の記録だった。

「次に水が来ても守れる倉庫にしよう」

リーナの言葉に、職人たちは静かにうなずいた。

試験倉庫の扉を開けると、湿った麦の匂いがした。

係員は乾燥設備を止めれば建設費を節約できると言ったが、リーナは黒く変色した袋を持ち上げた。

「倉庫は建てるためじゃなく、次の冬に食べるために作るの」

少年が一粒を指で潰すと、粉は固まって落ちた。


翌日、技師たちは換気路の設計をやり直した。

「ありますよ」

リーナは答えた。

「明日の朝食が、ここにあります」

その夜、帝国の使者が国境から戻った。

封鎖でアルディアが降伏するという予測は、外れ始めていた。

倉庫が完成したあと、ロアンは入口に避難経路を刻んだ板を取り付けた。

点検のたびに作業員がその道を実際に歩くことも決めた。

最初の訓練で少年は、図面にはない荷車の停車場所を指さした。

「ここが塞がると、おばあちゃんは通れない」

ロアンはその場で配置を変えた。

工事を止めた日の判断は、完成した建物の中でも生き続けていた。

少年が帰り道に振り返ると、倉庫の扉には麦袋より大きな字で『人を先に出す』と書かれていた。

工事を止めたロアンの判断には、予想外の反発があった。

収穫した麦を屋外で守る農民たちには、工期の延期がそのまま損失になる。

リーナは彼らを集め、仮倉庫への運搬を手伝う代わりに、建設現場の安全確認にも立ち会ってほしいと頼んだ。

ある農民は

「専門家の仕事だろう」

と断ったが、避難路に積まれた木材を最初に見つけたのは、その農民だった。


翌朝、ロアンは彼に点検表の一枚目を渡した。

完成式の日、町長は世界最大という文字を掲げようとした。

ロアンは倉庫の扉に貼る紙を別に用意していた。

『点検で危険が見つかれば、誰でも作業を止められる』

式典に来た少年がその文を読み上げると、農民たちが静かにうなずいた。

大きさを誇る倉庫ではなく、弱い立場の人でも危険を告げられる倉庫になった。

それが彼らの達成だった。

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