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王宮を追放された俺、万能薬を大量生産して貧民街から世界を救う  作者: レモンティー


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第百十三話 エリクサー工場を農業工場に改造せよ

「倉庫を守っても、来年の収穫が増えなければ同じことの繰り返しです」

リーナの言葉に、技師たちは頷いた。

アルディアの荒れ地はまだ広い。

浄化液を手作業で作る速度では、農地の拡張に何十年もかかる。

医薬品の炉を農業用に改造する案に、ゴルバの弟子は首を振った。

薬を作るときの清浄な配管に、土壌由来の汚れを通せば取り返しがつかない。

リーナは同じ建物を使うことと、同じ製造ラインを使うことを分けて考えた。

まず隔壁と専用の排水設備を設ける。

その費用を削らないことが最初の条件だった。

工場を農業用に改造する案に、薬の担当者が反対した。

「次の流行が来たらどうする」

ゴルバは設備を全部壊さず、二日で元へ戻せる配管を設計した。

食べる命と治す命を競わせないためだった。

水路の分岐を巡って二つの村が争った。

上流の村が水を取れば、下流の麦は枯れる。

リーナは図面を破らず、両村の代表を現場へ呼んだ。

計算だけでは決められない順番を、当事者と一緒に決めるためだった。

そこへ届いたのが、旧式エリクサー工場の設備一覧だった。

世界の医療体制が整うにつれ、古い精製装置の一部が予備機になっていた。

ゴルバの弟子である技師ロアンは図面を広げた。

「混合槽、濾過器、温度制御盤。薬を作る装置でも、土壌改良液の製造に使えるものがあります」

「全部持ってきましょう」

と若い官吏が言った。

「全部はだめ」

リーナは首を振った。

「災害時の薬の増産に必要な予備機は残します。使えるものだけを選んで」

工場の床には、古い医療用配管の跡が残っていた。

かつてエリクサーが流れた場所を、今は土壌改良液が通る。

ロアンは古い刻印を削らず、その横に新しい用途を書き加えた。

『使い道が変わっても、積み重ねた技術まで消す必要はないでしょう』

リーナは、遠い昔にレイヴンが最初の工房を作った日の話を思い出した。

工場の改造には別の難しさがあった。

医療用の装置は少量の高純度品を作るためのものだ。

農業用の液は大量に必要だが、成分のばらつきも許されない。

濃すぎれば土壌の微生物を傷つけ、薄すぎれば汚染が残る。

旧エリクサー工場の炉を農業用に改造すると聞き、熟練工が反対した。

「薬の設備を壊せば、次の疫病で困る」

リーナは彼の言葉を退けなかった。

炉をすべて転用する案を撤回し、緊急医薬品の製造ラインを残す。

農業の未来を作るために、医療の備えを捨てることはできなかった。

ロアンは最初の試運転を止めた。

配管の内側に残った薬品が、農業液に混じる可能性を見つけたからだ。

納期を急ぐ役人は不満を漏らした。

「洗えば済む話では?」

新しく雇われた作業員の一人は、片腕が不自由だった。

重い樽を運ぶ仕事は難しいが、検査紙の色を見分けるのは誰より正確だった。

ロアンは作業台の高さを調整し、検査工程を任せた。

『人を機械に合わせるより、機械を人に合わせる方が早いこともある』

工場に残ったのは、その人の仕事だった。

「洗ったことを、どう証明するんですか」

ロアンは残留試験の結果を示した。

基準を超える成分が見つかり、装置は再洗浄された。

稼働は三日遅れたが、農地を傷める事故は防がれた。

リーナは作業場の隅で、使い古された工具箱を見つけた。

蓋には『ゴルバ工房』の刻印がある。

ロアンは言った。

「師匠は、壊れない機械より、壊れたとき人を殺さない機械を作れと言いました」

その言葉は、レイヴンが薬の品質を守った理由と同じだった。

初出荷の樽を前に、村の農民たちは不安げだった。

『薬の工場で作った液を畑に撒いて、本当に大丈夫か』

リーナは実験区画の記録を公開し、使う量を誤ったときの危険も説明した。

隠し事をしない説明は時間がかかったが、農民たちは自分の畑で試す区画を自分たちで選んだ。

試験液を使った畑では、作物の芽が揃い始めた。

ただしすべてが成功したわけではない。

地下に塩が溜まった区画では苗が枯れ、風が強い畑では土が流された。

エルナの後継者たちは浄化液の量を減らし、排水路と防風林を先に整備した。

魔法の液を撒くだけで農業が完成するわけではない。

農民の一人が、工場を見学して尋ねた。

「俺たちにも操作できますか」

旧エリクサー工場を農業用に転用するとき、ゴルバの弟子は配管をすべて洗い直した。

薬の設備と肥料の設備を同じまま使えば、残留物が混ざる危険がある。

リーナは改造費の増額を認めた。

「早く作ることより、畑を傷めないことを選びます」

ロアンは手袋を渡した。

「できます。ただし、最初は一緒に。温度が上がりすぎたら赤い弁を閉める。迷ったら止める」

操作盤には文字だけでなく色と形の印を付け、読み書きに慣れない人でも異常を見分けられるようにした。

工房の裏口で、リーナは麦の袋を持ったまま立ち止まった。

「誰が直せるか、ではなく、誰に教えられるかです」

村人が視線を上げる。

古参の職人は工具を置き、若者の手元を見守った。

リーナは明日の食事を待つ家族の顔を思い浮かべ、決定の理由を一つずつ伝えた。

反論も聞いた。

すぐに正解は出なかったが、責任を分け合う方法だけは決まった。

その技術は、一人だけの秘密ではなくなった。

広場に立つリーナへ、

「これは命令ではありません。選んでください」

と声が届いた。

集まった人々は互いの顔を見た。

反対の声もあったが、誰も追い出されなかった。

リーナは言葉だけで済ませず、その場の担当者と次の一歩を決めた。

最後に残ったのは、従う者ではなく、引き受ける者たちだった。

作業台に立つリーナへ、

「失敗した分も残してください」

と声が届いた。

書き直されかけた記録を戻すと、隠れていた原因が浮かび上がった。

誰も責められなかったことが、次の報告を早くした。

畑の端に立つリーナへ、

「今日の数字より、来月の食卓を見てください」

と声が届いた。

収穫を数える手を止め、農夫たちは来季に残す種の量を計算した。

その日の倉庫には、売らない麦の袋が一つ増えた。

工房の裏口に立つリーナへ、

「誰が直せるか、ではなく、誰に教えられるかです」

と声が届いた。

最初の生産日は、予定量の半分しか作れなかった。

だが検査を通った液だけが樽に詰められた。

リーナは数字を見て頷いた。

「半分でいい。明日も同じ品質で作れるなら、それが工場です」

工場の改造を急ぐ技術者に、ノエは土壌検査の試料を差し出した。

「装置が完成しても、汚染された水を流せば畑を壊す」

ゴルバの弟子ハルトは設計図を描き直し、排水の回収槽を増やした。

食料を作る工場には、薬を作る工場とは違う責任があった。

夕暮れ、工場の煙突から白い蒸気が上がった。

かつて病人を救う薬を作っていた装置が、今度は畑を救う液を作る。

リーナはその光景をレイヴンへの手紙に書いた。

ただし完成を報告する前に、工場の排水槽を点検した若い技師の名を記した。

薬を作るときに学んだのは、奇跡を起こす方法だけではない。

失敗を隠さない人が、次の失敗を防ぐということだった。

『先生、工房の仕事がまた一つ増えました』

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