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王宮を追放された俺、万能薬を大量生産して貧民街から世界を救う  作者: レモンティー


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第百十二話 飢えた民から金貨を奪う貴族

国境の村へ向かった救援隊は、道端に捨てられた食糧袋を見つけた。

袋には国際医療支援機構の青い印がある。

中身は空だった。

「配給が届いたと記録されている村です」

とフィオナは言った。

村では子供たちが薄い草の汁をすすっていた。

徴税人は貴族の命令書を握り、パンを差し押さえる列へ近づいた。

子供が倒れると、彼は命令書を折りたたんだ。

「今日の徴収は記録に残す。だがこの袋は持っていかない」

小さな不服従が列の空気を変えた。

農夫は新しい肥料を受け取らず、枯れた畑を指さした。

「去年も偉い人は大丈夫と言った」

リーナは反論せず、村の一画だけで試すと約束した。

収穫の結果を見るまで、農夫に土地を賭けさせないためだった。

村長は帳簿を見せた。

救援麦二百袋、受領済み。

署名の横には領主グラント伯の印が押されている。

しかし村に届いたのは二十袋だけだった。

残りは領主の倉庫へ運ばれ、税の名目で住民に売られていた。

リーナは怒りを抑え、村の母親に尋ねた。

「何を受け取って、何を払いましたか」

「子供の食事をもらうのに、畑の権利書を渡しました」

母親は震える手で空の革袋を握った。

村の診療所では、栄養失調の患者を急に満腹にさせないよう、医師が食事量を調整していた。

母親は泣きながら『もっと食べさせて』と頼んだ。

ミレナは隣に座り、体が弱っているときの危険を丁寧に説明した。

助けたい気持ちと、安全に助ける方法が食い違うときこそ、言葉を尽くさなければならなかった。

領主館でグラント伯は、平然と言い放った。

「運搬費と警備費だ。貧民に無料で配れば怠け者になる」

「運搬したのは支援隊です。警備したのは村の自警団です」

リーナは配達記録を机に置いた。

「費用の明細を見せてください」

領主の兵士の中にも、給料を受け取っていない者がいた。

若い兵士がこっそり告げた。

『命令に背けば、家族の畑を奪われます』

リーナは証言を強要せず、保護先を確保した。


翌日、兵士は自分の意思で監察官の前に立った。

声は震えていたが、誰にも代わりに語らせなかった。

伯は兵士に合図した。

扉が閉まり、護衛が剣に手をかける。

リーナの隣にいたミレナは動かなかった。

「私は医師です。ここで誰かが傷つけば治療します。でも、誰が先に剣を抜いたかは全員が証言します」

館の外には、救援物資を運んだ御者たちが集まっていた。

彼らは積荷の重量を覚えていた。

井戸の番人は夜中に通った荷車の数を知っていた。

貴族の威圧に、記録を持つ人々が対抗した。

配給所の壁に、ミリナが麦の絵を描いた。

字を読めない子供にも、ここで食べ物を受け取れると分かるようにするためだ。

誰かが『貴族の紋章より役に立つ』と笑った。

リーナは絵の下に小さく記した。

『足りないときは職員へ。

追い返しません』

その約束を守れるよう、緊急用の袋を別に置いた。

国王へ訴えるだけでは、調査の間に村が飢える。

リーナは臨時の配給所を領主の税倉庫から離れた診療所に設けた。

受領者の名前を書けない人には、世帯ごとに木札を渡す。

木札は配給量の確認に使うが、なくしても食事を断らない。

誰もが見られる場所に入荷量と残量を掲示し、村人二人と外部監査人一人が毎夕照合する仕組みにした。

「また偉い人が管理するだけじゃないの?」

ミリナが尋ねた。

取り立ての日、貴族の執事は農民の家から最後の小麦袋を運び出そうとした。

幼い兄弟が袋にしがみつき、父親は地面に膝をついた。

リーナは執事を怒鳴らず、徴税台帳の欄を示した。

「この税率は飢饉時の減免令より古いものです」

執事は

「領主の命令だ」

と答えたが、同行した王国書記官が新しい布告の写しを読み上げた。

小麦は家へ戻された。

リーナは兄弟に

「明日の分も残して」

と言い、減免が全村に届くまで書記官を残した。

 取り立てを免れたのは一軒だけではなかった。

隣村の老婆が、古い徴税票を胸に抱えて訪ねてきた。

息子を亡くしたあとも同じ額を請求されていたという。

書記官は一件ずつ照合し、過徴収の返還申請を受け付けた。

領主の金庫から戻るまでには時間がかかる。

それでも老婆は初めて自分の名前が公文書に正しく記されたのを見て、何度も頭を下げた。

リーナは礼を止めた。

「頭を下げるのは、取り過ぎた側です」

 執事が去ったあと、父親は袋を開けようとしなかった。

リーナが理由を尋ねると、男は俯いた。

「返してもらっても、来月また取られると思うと食べられない」

彼女は徴税台帳を一枚だけ直すのでは足りないと悟った。

王国書記官を通じ、各村に減免令の写しを掲示し、取り立ての領収書を住民自身が照合できる仕組みを求めた。


翌日、村の広場に集まった人々は自分たちの税額を読み上げた。

字を読めない老人には、学校に通う少女が代わりに読んだ。

領主の代理人が抗議すると、書記官は王印のある布告を掲げた。

「命令を変えるなら、正式な手続きが必要です」

父親はようやく袋を開き、二人の子供に小麦を一握りずつ見せた。

「これは種にしよう。来年も食べられるように」

子供たちはうなずいた。

リーナはその家の食卓にすぐパンが増えるわけではないと知っていた。

それでも、誰かが明日の収穫を奪うことを当然と思わなくなる。

その小さな変化を、村の人々が自分で守れるようにしたかった。

「そうならないように、あなたのお母さんにも数えてもらうの」

リーナは笑った。

ミリナの母は字が苦手だったが、袋の数なら正確に数えられた。

翌日、伯の倉庫から横流しされた麦が見つかった。

王宮の監察官は帳簿と証言を照合し、伯の配給権限を停止した。

土地の権利書は一件ずつ調べられ、強制的に取り上げられたものは返還手続きに入った。

「飢えた民から金貨を奪う貴族」

という言葉を、リーナは会議の見出しだけで終わらせたくなかった。

彼女は現場に残った配給票を手に取り、担当者へ

「今夜、困るのは誰ですか」

と尋ねた。

答えに名前が挙がると、その家まで足を運んだ。

子供の食卓にはまだ空いた皿があり、家族は明日の収穫を信じたいと言った。

リーナは成功を宣言せず、翌朝までに確かめる仕事と責任者を決めた。

大きな改革の結果は、この家の朝食で試されるのだ。

処分を聞いた村人は歓声を上げなかった。

空腹が一日で消えるわけではないからだ。

リーナはまず鍋に火を入れた。

小麦と豆の粥が煮える匂いが広がると、子供たちが静かに列を作った。

徴税を告発した農民は、勝訴しても翌年の種を買えないと訴えた。

リーナは徴収記録を調べ、違法に集められた金貨を村ごとに返還する手続きを王に求めた。

ダリオは返還額を村の広場に掲示し、読み書きのできない人には一人ずつ説明した。

貴族の失脚だけで飢えは消えない。

返された金貨が種と農具に変わって、初めて土地は次の春を迎えられる。


その夜、グラント伯の屋敷から一通の密書が押収された。

宛先は黄金秤商会。

内容は、救援麦の横流しを継続する代わりに、国境の倉庫使用権を得るというものだった。

リーナは手紙を閉じた。

商人の買い占めと貴族の横流しは、別々の事件ではなかった。

徴税吏が差し押さえた袋には、種麦まで混じっていた。

ダリオは袋を開け、食べる麦と播く麦を分けた。

種を失えば来年の畑まで失う。

リーナは王国の農業保護規定を示し、差し押さえをいったん停止させた。

農民は礼を言うより先に、種袋の口を結び直した。

ダリオが

「これで冬は越せますか」

と尋ねると、農民は首を振る。

「冬はまだ長い。でも春を捨てずに済んだ」

リーナはその言葉を聞き、返還金の支給日を収穫期の後ではなく、種まきの前に改めさせた。

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