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王宮を追放された俺、万能薬を大量生産して貧民街から世界を救う  作者: レモンティー


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第百三話 飢えた子供に渡した最後のパン

最初の村に着いたとき、リーナは子供たちが遊んでいないことに気づいた。

広場にいるのに、誰も走らない。

みな石壁にもたれ、薄い日差しの中で目を閉じている。

村長は

「病気ではありません」

と言った。

「走る力を使わないよう、教えているのです」

最後のパンを渡された子供は半分を弟へ差し出した。

リーナはその手を止めなかった。

代わりに、明日の配給を約束できるか倉庫係へ確かめに走った。

今夜の善意を、明日の空腹で裏切りたくなかった。

配給所の前には、食事を受け取ることを恥じる人もいた。

かつて村で店を営んでいた男は、列の最後尾に立ったまま動かない。

「施しはいらない」

と言う。

リーナは彼に調理場の薪割りを頼んだ。

働ける人には賃金を支払い、働けない人には無条件で食事を届ける。

男は夕方、初めて粥を口にした。

「誰かの分を奪った気がしない」

と呟いた。

リーナは答えた。

「ここにいる人の分は、最初から全員あります」

診療所に運ばれた少女は、名をミリナといった。

八歳。

腕は細く、唇は乾いている。

リーナが脈を取ると、少女は目を開けた。

「お姉さん、お母さんにも薬をあげて」

母親は少女の隣で笑おうとしたが、立ち上がる力がなかった。

二人とも長く食べていない。

魔力回復薬を使えば一時的に動けるが、栄養そのものは増えない。

ミリナの母親は、娘のために食事を残す癖がついていた。

自分が食べたふりをして、器の底に麦を隠す。

医師がそれに気づき、母親の栄養状態も調べた。

二人とも治療が必要だった。

リーナは母親に言った。

「あなたが倒れたら、ミリナはまた一人になります。食べることも、この子を守る仕事です」

母親は器を見つめ、長い時間をかけて一口飲み込んだ。

リーナは携帯食の袋を開いた。

残っていたのは固いパン一つ。

隊員は自分の分を差し出そうとしたが、彼女は止めた。

「私たちの食糧は倉庫にある。この子には、今ここで食べられるものが必要」

パンを湯に浸して少しずつ与え、医師に状態を見守らせた。

急に大量の食事を与える危険があるため、量を慎重に決めた。

ミリナは一口ごとに目を閉じた。

「あったかい」

村の子供たちは食事のあと、眠るようになった。

それまで眠れなかったのではない。

空腹の痛みで何度も起きていたのだ。

夜間の見回りをしていた隊員は、静かな家々を見て涙を拭った。

リーナは彼に毛布を渡し、

「明日も見回りをお願い」

と言った。

泣く時間があってもいい。

しかし次の夜に同じ安心を届けるには、当番表を作り、食糧の残量を数え続けなければならない。


その夜、村の配給表を見てリーナは異変に気づく。

届けられたはずの麦袋が、実際の数より二十袋多く記載されていた。

村長は唇を噛んだ。

「途中の検問所で持っていかれました。逆らえば次の便を止められる」

リーナは護衛に命じ、検問所の記録を押さえた。

倉庫には麦が積まれ、商人の封印が押されていた。

「救援物資を売るのですか」

監督官は

「慣例だ」

と答えた。

リーナは封印を破らず、証拠として一袋ずつ数えさせた。

救援物資の横流しが発覚したあと、村長は

「あなたが帰ったら、また元に戻る」

と心配した。

リーナは村の女性三人と若者二人を集め、配給監査の方法を教えた。

封印の確認、袋の重さ、受領印、苦情の記録。

字が読めない人にも分かるよう絵の印を使う。

村長は最初、外部の人間に任せるべきだと言ったが、女性の一人が答えた。

「私たちが毎日ここにいるんです」

翌朝、国王の許可を得た監査官が到着した。

麦は村へ戻された。

リーナは村人の前で、配給表を掲げた。

「今日から誰でも数を確かめられるようにします」

拍手は起きなかった。

村人は信じる力まで使い果たしていた。

ただ、炊き出しの鍋から湯気が上がると、静かに列ができた。

配給が始まって三日目、列の途中で老人が倒れた。

食べ物を受け取るために長く立っていたのだ。

リーナは列を分け、歩けない人には家まで届ける仕組みを作った。

子供の人数を数えるだけでは足りない。

見えない場所で待つ人を探さなければならない。

村の若者が一軒ずつ戸を叩き、寝たきりの人の名前を書き出した。

ミリナの母は粥を食べ終え、初めて娘の髪を梳いた。

「この子、昔は走るのが速かったんです」

リーナは窓の外の空き地を見た。

「また走れるようにしましょう」

言ってから、軽々しく約束したことに気づく。

明日も来週も食べ物が必要なのだ。

彼女は約束を言い直した。

「走れるまで、食べ物が届く仕組みを作ります」

ミリナは少し元気になると、毎朝リーナの後をついて回った。

「お姉さんは、魔法でパンを作れないの?」

リーナは苦笑した。

「空っぽの場所から食べ物は作れないの。種と水と土がいる」

少女はしばらく考えた。

「じゃあ、私も種を集める」

リーナはその手に小さな布袋を渡した。

「でも、知らない草の種は食べちゃ駄目よ」

ミリナは真剣に頷いた。

夜更け、レイヴンへ手紙を書いた。

『先生、昔の私みたいな子がいました。

薬だけでは救えません』

返事は数日後に届くはずだ。

それまで待たず、リーナは畑の調査表を開いた。

ミリナが次に食べるパンは、遠い国から届くものではなく、この村で焼いたものにしたかった。

村の集会で、配給を受ける順番を巡って口論が起きた。

働き手の男たちは自分たちが先だと主張し、幼い子を抱く母親たちは反対した。

リーナは双方の話を聞き、重症者への優先配分と、働く人の必要量を別々に定めた。

全員が満足したわけではない。

それでも理由が説明され、異議を申し立てられるだけで、怒鳴り声は減った。

夜、ミリナの母親がリーナを呼び止めた。

「娘が、明日のことを聞くようになりました」

以前は明日が来ることさえ怖く、何も尋ねなかったのだという。

リーナは胸が詰まった。

食べ物を届けるとは、腹を満たすだけではない。

明日を考える力を返すことなのだ。

彼女は農地の地図を開き、最初の試験区を村から見える場所に置こうと決めた。


翌朝、ミリナは配給所の掃除を手伝おうとした。

リーナは無理をさせないよう、椅子に座って数を数える仕事を頼んだ。

器がいくつ返ってきたか、まだ食べていない人は何人いるか。

ミリナは指を折りながら真剣に数えた。

「あのおばあちゃん、まだだよ」

その一言で、家に戻れず広場の隅にいた老人へ食事が届いた。

リーナは少女の頭を撫でた。

「あなたのおかげで気づけた」

助けられた人が、すぐに誰かを助け始める。

昔、レイヴンが見た景色がここにもあった。

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