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王宮を追放された俺、万能薬を大量生産して貧民街から世界を救う  作者: レモンティー


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第百二話 百年間、作物が育たなかった大地

荒れ地の村長は試験畑の計画書を突き返した。

「百年も失敗した。子供たちをもう期待させないでくれ」

リーナは豊作を約束しなかった。

老人が毎年植えていた枯れ草の根元だけ、わずかに湿っていることを示した。

村の古い地図には、今は埋まった水路が描かれていた。

だが掘り返せば、残った井戸まで汚染が広がる恐れがある。

リーナは村長に選択を委ねた。

安全な一畝だけで土の入れ替えを試し、失敗したときの食糧は別に確保する。

村長は長い沈黙のあと、孫が使っていた小さな鍬を差し出した。

「これ一本分から始めよう」

最初の種はまだ芽を出さなかった。

それでも、誰も飢えずに試験を続けられる日程が決まった。

奇跡を約束しないことが、初めて村の信頼を得た。

試験畑に最初の雨が降った夜、リーナは畝の端に溜まった水を瓶に採った。

数値はまだ危険域だった。

村長は失敗を覚悟していたが、リーナは作物を植える範囲を広げず、まず排水路の安全を確かめることを提案した。

孫は鍬を握ったまま

「今年も麦はできないの」

と尋ねた。

村長は

「今年は土を育てる年だ」

と答えた。

百年分の期待を、一度の奇跡に賭けないための返事だった。

案内役の農夫ダリオは、三代前の祖父が描いた麦畑の絵を持っていた。

「昔はここで、風が金色に見えたそうです」

ダリオは絵の端を折り返した。

そこには麦畑で笑う子供たちが描かれていた。

「うちの家族は、百年かけてこの絵の人を一人ずつ失ったんです」

絵の裏には収穫量が書かれている。

現在の記録は、その百分の一以下だった。

リーナは土を採取し、簡易分析器に入れた。

測定針が赤い領域へ振り切れる。

「水不足だけじゃない。土の中に魔力を妨げる成分がある」

鉱山の入口には、朽ちた木札が残っていた。

『立入禁止。

危険』

百年前の事故を知る者はもういない。

だが周辺の石は不自然な青色を帯び、雨が降った痕跡だけが白く残っている。

ノエは試料を密封し、検査に回した。

好奇心で洞窟へ入ろうとした隊員を、リーナは止めた。

「原因が分からない場所に人を入れない。命を救いに来て、調査隊を失うわけにはいかない」

王都へ向かう途中、井戸の底を覗いた。

石壁には水位の跡が幾重にも残り、最も新しい線ははるか下だった。

井戸番の老人が言った。

「水を汲むたび、子供の名前を一つ覚えます。次に来ると、もういないことがあるから」

老人は井戸の脇に吊るした木札を示した。

水を待つ列で亡くなった者の名前を、家族の代わりに刻んできたのだ。

札は風に触れるたび、乾いた音を立てた。

リーナは返事を探せなかった。

薬のない村で聞いた言葉よりも、重く感じた。

ダリオの家には、農具が丁寧に磨かれて並んでいた。

畑が死んでも、彼は鍬を捨てなかった。

「父は、もう売ってしまえと言いました。でも、これを手放したら、戻る場所までなくなる気がして」

リーナは柄のすり減った鍬を手にした。

自分が最初の診療所で使っていた古い聴診器を思い出す。

役に立つ日が来るか分からなくても、手入れを続ける人がいる。

その思いに応える方法を探したかった。

王宮では若い国王アシュランが迎えた。

王冠の宝石は外され、金属だけの輪になっている。

「宝石を売って麦を買いました。次は何を売ればよいのでしょう」

リーナは援助の条件を尋ねた。

「土地の調査を妨げないこと。村ごとの食糧配分を公開すること。王族も同じ記録に載せること」

大臣たちが顔色を変えたが、国王は即座に頷いた。

「国を救うためなら、私の食卓も調べてください」

村へ戻る道で砂嵐に遭い、調査隊は半日足止めされた。

布を重ねても砂が入り、記録用紙の端がざらつく。

リーナは風速と時間を記録した。

畑を作っても、収穫前に砂で埋もれては意味がない。

水路だけでなく防風林や土を覆う作物が必要になる。

帰着したとき、ダリオは

「厄介な風でしょう」

と笑った。

リーナも頷いた。

「でも、今日からは厄介さを数字で話せます」

夜、調査隊は荒野に小さな試験区を設けた。

汚染された土と、遠方から持参した正常な土に同じ種を植える。

水の量も温度も揃えた。


三日後、正常な土だけに芽が出た。

ダリオは膝をつき、芽を指で触れようとして止めた。

「本当に、種は生きていたのか」

リーナは小さく頷く。

「死んだのは種じゃない。土が、育てる力を失っている」

調査隊は村ごとの井戸の深さを測った。

水位が残る井戸も、汚染が強く飲めないものがある。

隊員は

「水があるなら使えばいい」

と言ったが、リーナは飲用を禁じた。

試験紙の色がわずかに変わっただけでも、長く飲み続ければ害が出るかもしれない。

村長は落胆したが、代わりに雨水を集める屋根と、輸送水を保管する密閉槽の設置が決まった。

危険を知らせるだけでは足りない。

代わりの方法を用意する必要があった。

原因を探るため、彼女は古い鉱山の記録を調べた。

百年前、大陸中央の魔晶石採掘場で爆発が起き、その後に雨が減った。

鉱山の封鎖命令には、王家の印がある。

「なぜ隠したのですか」

と問うと、国王は沈黙した。

「私の祖父も、詳しくは知らされなかった」

リーナは怒りを飲み込んだ。

まず必要なのは罪人ではなく、使える水と土だった。

砂漠の縁に、背の低い木が一本残っていた。

根元には古い石垣があり、わずかな湿り気を守っている。

ダリオは

「祖母がこの木だけは切るなと言いました」

と話した。

リーナは葉を採り、木の根の周囲の土を調べた。

汚染値は低い。

石垣が風で運ばれる粉を防ぎ、深い根が地下の水を拾っていた。

生き残ったものには理由がある。

彼女は木を地図に描き、周辺を最初の防風帯候補にした。


翌朝、リーナは地図の余白に三つの印をつけた。

汚染の濃い地域、まだ井戸が生きている地域、古い用水路の跡。

「全部を一度には救えない。まず一つの畑を、生き返らせる」

ダリオは祖父の絵を広げた。

「この麦畑から、始めませんか」

そこは彼の家族が百年守ってきた土地だった。

王都の記録庫では、百年前の事故の資料が一部欠けていた。

誰かが隠したのか、火事で失われたのかは分からない。

リーナは残る帳簿から鉱山へ運ばれた魔晶石の量を調べた。

事故の前だけ、搬入量が急増している。

「無理な採掘だったのかもしれない」

とノエが言った。

リーナは可能性として書き留め、断定を避けた。

過去の責任を調べる仕事と、今の畑を救う仕事は両方必要だった。

夕方、村の女たちが井戸の周りに集まり、昔の水汲み歌を歌った。

歌詞には

「水は山から来る」

とあった。

今は山からの流れが見えない。

リーナは歌に出てくる地名を聞き、古い用水路の地図と重ねた。

忘れられた水路の分岐が一つ見つかった。

数字だけでは見つけられない手掛かりを、暮らしの記憶が教えてくれた。

調査を終えた夜、リーナは持参した土の小瓶を開いた。

レイヴンの工房の裏庭の土は、アルディアの土より暗く、指で押すと柔らかく崩れた。

二つを並べると違いがよく分かる。

ノエは顕微鏡で土の粒を見せた。

「向こうには小さな生き物の痕跡があります。こちらは少ない」

リーナは瓶の蓋を閉めた。

魔力汚染を除くだけで終わりではない。

水と養分と生き物が戻り、土そのものが育つ時間が必要だ。

試験区画の排水溝に、夜の雨で青い泥が溜まった。

リーナは直ちに下流の取水を止め、村長に汚染の可能性を伝えた。

成功を急いでいた若い農夫は怒ったが、村長は孫の鍬を持って水路の見張りに立った。

検査の結果、汚れは古い鉱山の方向から流れ込んでいた。

リーナは畑の拡張を延期し、村人と一緒に安全な水路の迂回路を調べることにした。

まだ一粒の麦も収穫できない。

それでも村長は、初めて村の未来を誰かに任せきりにしないで済むと思った。

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