第七話 逃げるか?
「入鹿!逃げろ!」
「え?」
【丑角】
シュッ
湾曲した白い刃が、入鹿の頬をかすめ、後ろの壁に突き刺さる。
かすめた跡には、刃の白とは対照的に真っ赤な線が一筋出来ていた。
「ふむ、避けられるとは…まあ流石に一筋縄ではいきませんか。それでは改めて。」
その男は、投擲フォームからきっちりとした立ち姿に直り、会釈のような浅い一礼をしてこう言った。
「その命、頂戴致します。」
男は表情一つ変えない。
入鹿の体は生命の危険を感じ、背中にぞわりと鳥肌を立てていた。
生きていて初めて出会う、死ぬかもしれないという恐怖。あ、足が竦んで…
「入鹿!こっちだ!」
虎春がそう叫んだ。
虎春は路地の前で入鹿の方に手を振っている。
「お、おう!」
入鹿は頬から血を流しながらも地面を蹴って虎春の所まで飛び下がった。
「急げ!」
虎春と共にそのまま近くの路地へと逃げ込む。
「逃げても無駄ですよ」
男は入鹿たちの入っていった路地へじりじりと近づいてくる。
入鹿は路地の中で頬の傷に虎春が渡してくれたハンカチを当てている。
「おい虎春、あの男が持ってるカードを見て確信した。このカードは、本物だ。」
「まあ、そうだろうな。」
「虎春、このまま俺たちが逃げてもあいつが追ってくるだけだと思う。」
「だからってどうするんだよ。戦うのか?あんなガチ殺意持ち歩いてる帯刀おじさんと?正気じゃないだろ。」
流石に虎春は安全第一だな。でも、あいつの目は本気だった…
多分ここで何かしら対処しておかないと、このまま逃げ続けることになる。それは現実的じゃない…
うん、仕方ない。あの手で行こう。
「怖いのぉ?まあ、あいつ刃物持ってたし、ビビったってんなら逃げてもいいけど?」
「はぁ!?ビビってねえし!逃げるわけねえだろ!」
こいつなぁ、この煽り耐性の無ささえ除けば完璧超人なのになぁ…
つくづく残念な男よ。
でも、虎春にも火が付いたみたいだ。
「やってやるよ」
あー、やっぱちょろすぎるかもしれないな。心配になってくる。
「…まあよし!」
「「行くぞ!」」
二人が走り出したその時、
ウィン
キキッと二人は足の裏でブレーキをかける。
日頃から運動不足の入鹿は勢いあまって裏路地のコンクリにヘッドスライディング。
「何だよ、今からやってやろうって時に…」
ぶつくさ言いながら顔に切り傷や擦り傷がいくらか増えた入鹿が立ち上がった。なかなかに無残な見た目になっている。
二人の目の前にはついさっきの教室と同じように、一枚の画面が宙に浮かんでいる。
「お、これいいな!」
「このゲームにもあったんだな。チーム機能。」
その画面には ”プレイヤー「入鹿」と「虎春」でチームを組みますか?” と書かれていた。
「虎春、どうする?」
「まあやるだろ。」
ポチッ
今度は虎春がボタンを押す。
ブインと音を立てて〈チームを作成しました〉という画面に切り替わった。
「じゃあ今度こそ行くぞ虎春!」
「おう!」
入鹿と虎春が走り出した。狭い路地に足音が木霊する。
入鹿たちが路地から出たその時、
「ようやく見つけましたよ。あんな狭い路地を通らせて…服が汚れてしまったのですが。」
そこには投げた刃物と同じ色のレイピアを持ったあの男が居た。
「知ったこっちゃねえなぁ。場所に合わねえくらいに真っ白かったときよかは自然に見えるぜ。」
入鹿は強気。
「あんまり煽るな。行くぞ。」
自分が煽られたことはすっかり忘れた虎春も、同じく強気。
「いよっしゃ。」
入鹿が自分の胸ポケットから三枚のカードを取り出す。
虎春も、ズボンのポケットからカードを同じく三枚取り出した。
「おや、逃げるだけじゃ無かったたんですか?」
男は、こんな中学生二人が自分に立ち向かっていることに、気分が落ち込んでいた。
なんと勇ましい子たちなんだ…こんな子たちを殺さなくちゃいけないなんて…だが、私の願いのためだ。許せ少年たち。
「私も、本気を出させて頂きます。」
男は、服の内ポケットからカードを三枚取り出した。
途端に男の体が殺気で包まれる。確実に殺す気なのだろう。
「行きますよ!」
「望むところだ!」
三人が一斉に動き出した。
男は自分の願いのため、二人は自分たちの命を守るため、今、試合の火蓋が切って落とされた。
Game Start!




