第八話 ミックスカクテル
「行きますよ!」
「望むところだ!」
三人が一斉に動き出す。男はこちら側に、入鹿と虎春はそれから離れる様に走り出す。
最初に攻撃したのは入鹿だった。
「【謎鉄砲】!」
入鹿がプラスチック製のエアガンの様な物を構える。
パン
乾いた音が男に向かって飛んでいく。
「む?」
男はとっさにナイフの刃でそれを受けた。
ナイフに当たった弾丸はグチャッと潰れ、受けたナイフにはべっとりと赤い液体がついている。
「ふむ…」
何を思ったのか、男はそれをぺろりと舐める。
「いいワインですね。ステーキに合いそうだ」
【謎鉄砲】:液体がランダムで入っている弾が6発入った銃を出せる。
「くっ…防がれたか…」
入鹿は何とか当てようと何度も何度も撃つ。
「オラッ!」
パァン
ビール。
「当たれ!」
パシュ
日本酒。
「今度こそッ!!!」
パパァン
焼酎&ほろよい。
今の所お酒しか出ていない。乱数がおかしくなってるんじゃないのか。
「面白いカードですねぇ。ふふ、私も酔ってしまいそうですよ。」
お酒を撃つ銃だったのだろうか。これは。
「これまさかポンコツか?」
泣きそうな顔を向ける入鹿。
「いや、お前の運が悪いだけだろ」
そんな入鹿にも容赦がない虎春のツッコミ。
キンキンに冷えたビールののどごし並みにキレッキレである。
「って入鹿!前!前!」
ビシュ
とっさにしゃがんだ入鹿の頭すれすれを男のレイピアが通過していた。
レイピアは後ろの壁に刺さっている。ガラガラと崩れるコンクリートの壁からは、穴の空いた鉄筋が顔をのぞかせていた。
「レイピアまで投げんのか…入鹿、気をつけろよ」
虎春は他人事のようにそう言いながらカードを取り出した。
「【低温】!」
カードから放たれた冷気が虎春の手を包む。
「何だっ!?」
男のレイピアが虎春の手に触れた瞬間に氷に覆われた。
【低温】:自分の触れた空間を絶対零度まで冷やすことが出来る。
「今だ!入鹿、今度こそ決めろ!」
「おう!」
入鹿は男の胸を狙い、引き金を引いた。
パァン
「甘いですねぇ。【赤布】!」
弾が急に方向を変え、曲線を描きながら男の足元に落下した。
【赤布】:次の相手の攻撃を逸らす。
その弾の中身は油。
「危ないですね。あやうく服が汚れるところでしたよ」
地面に広がった油を見ながら少し崩れた服を整える。
「ではそろそろ終わりにしましょうか」
男が胸ポケットからとっておきだと言うように金色のカードを取り出した。
「【十牛】!」
その時、カードは光り輝き、
小さなカードから何体も何体も牛が荒波のように飛び出てくる。
「どうなってんだよあのカード…」
牛の数、占めて10頭。
質量保存の法則だとかなんだとかを色々無視したカードに、入鹿は開いた口が塞がらない。
【十牛】:十頭の牛を直線上に突進させる。
だがそれだけでやられるような入鹿ではない。
「なら俺も!」
入鹿もさっき飲み終わった水筒から金色のカードを取り出す。
何でできてるかわからないカードをそんなところに入れるな。
「【ウォーターゴーレム】!」
カードから光が溢れ出て、水でできた巨体を形作る。
「これは…」
10mはありそうな液体の壁。それが不格好であるにせよ、人型を形作っている。
「ちょっとまずそうですね…」
その圧倒的な質量に、男も少し怯む。
「ゴーレム!やっちまえ!」
だが男の心配も入鹿の期待も空回り。巨体は牛に対して見向きもしない。
「アレェ?」
「なんだ、こけおどしですか。びっくりして損しましたよ。」
牛たちはなお入鹿に向かって進み続ける。
「お前たち!今度こそやってしまえ!」
あと数メートルで牛たちの角が入鹿に襲いかかる。そのとき、
ガシッ
その巨躯からは想像できない速さで滑るように移動したゴーレムは入鹿を守った。
「あの大きさであのスピード…あれで”金”ですか…」
男は驚きながらも注意深くゴーレムを観察する。
(動くタイミングを見るに、あのカードは防衛型…私単騎で押し通すのは不可能に近いですね。)
「それならば!こちらにもまだ牛たちがいる!こいつらで液体の壁程度、突き破ってしまえば…」
「本当にそうかな?」
【ウォーターゴーレム】:持ち主を守る水製のゴーレムを召喚する。
液体を吸収すると全体がその液体になる。
ゴーレムの足元にはついさっき男が地面に向かって逸らした油の弾が。
「まさかッ…!」
油の弾を踏んだゴーレムの体が足の方から段々と油に変質していく。
「あとは頼んだぞ。虎春」
「へいへい」
【高温】
虎春の前にある空間がどんどんと熱を帯びていく。
【高温】:自分の触れた空間を1000度まで加熱できる。
そしてその側にいたゴーレムは、完全に体が油に変化しきっている。
巨大な熱を受け取ったゴーレムの体は、必然的に全身に炎を纏った。
「行け!ファイヤーゴーレム!」
ウォーターゴーレム、いやすでにファイヤーゴーレムとなったそれは、牛に向かって走り出した。
ゴーレムは、牛たちに襲いかかり、その炎で十頭の体を包んだ。
ブモォォォォォォ!!!!
そしてひと鳴きも鳴き声を上げなくなった牛の体から細く黒煙が上がる。
「牛の丸焼き10体、出来上がり!」
目の前には入鹿の言った通り、十頭分の牛の丸焼きが山になっていた。
「なん…だと…」
男は目に映る光景は、絶望そのものだった。
「うっ、牛を倒したくらいで調子に乗るなぁぁぁぁ!!!」
【丑角】
白い塊が細長い日本刀に形を変えると、それを手にした男は叫びながら二人に突撃してくる。
「あいつは俺がやるか?」
「いや、一応温存しとけ」
数の利という物がある入鹿と虎春にはまだ温存できるほどの余裕があった。
「俺がやる」
【水操】発動
「クリエイト:✕✕✕弾」
入鹿の手の上に黄色い弾丸がころりと転がる。
【水操】:自分の想像したものを周りの液体を消費して作ることが出来る。ただ、耐久力は皆無。
入鹿は牛のような男の突進を見ながらも、冷静に弾丸を打ち尽くした【謎鉄砲】のマガジンに詰める。
「死ねェェェェェ!」
男は戦闘開始時とはうってかわって荒く、そして激しい殺気をまといながら入鹿に向かって突き進んだ。
「はいざんね~ん」
命をかけたその突進を残酷にもひらりと躱し、背中に銃口を突きつける。
「GGだったよ。おじさん。」
カチ
軽いプラスチックのトリガーが音を立て、黄色の弾丸が発射される。
バババチ!
「ギャアアアァァァァァ!!!!!!!!」
入鹿のカード【水操】は想像したものを何でも作れる能力。
今回の入鹿が作ったアイテムは「スタン弾」。
スタンガンの構造を謎鉄砲の銃弾の形に詰め込んだ、一発限りの制圧用銃弾。
「チェックメイトだね」
Game Set!
入鹿たちの勝利である。




