第五話 元気ないな
「ふふんふ〜ん♪」
次の日、入鹿は目に見えて上機嫌に学校に登校していた。
黒尽くめに刺されたことも、そして何故か生き返ったことも、昨日起こったほとんどの悩み事は現実でなんかソシャゲっぽいガチャを引いたという喜びに上塗りされている。
なんとも楽観的な人間である。
「…」
だが隣にいる虎春は逆にテンションが低い。
朝、入鹿に会った時の「おはよう」から一言も発していないくらいだ。
自分に元気がなくても挨拶を欠かさないのはいいことだと思う。
「ん?どうしたんだ虎春。元気ないな」
「・・・ああ、ちょっとね。」
虎春の頭には昨日届いた封筒の事がずっと引っかかっていた。
(”初心者ボーナス”って何なんだ?というかなんで俺の所に…?)
複数の”謎”が頭の中に渦巻き、悶々としながらもそのまま虎春は入鹿と共に坦々と歩みを進める。
キーンコーンカーンコーン
朝の会開始5分前の鐘が鳴り響く。
「やべっ、急ぐぞ虎春!」
「・・・うし、走るか」
これから学校だ。こんなに憂鬱な気分だってのにまともに授業なんか受けられるのだろうか。
そんなことを考えながらも入鹿と一緒に小走りで駆けていく虎春であった。
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「はぁ〜、やっと授業終わった…」
六時間目を終わらせた入鹿はベッタリと机にへばり付く。
「疲れたなぁ」
虎春も同じ様に机にへばりついた。
寝そべっている二人は、どんよりとした空気を纏っている。
「今から放課後か」
六時間目が終わった学校に訪れるものといえば、放課後。入鹿たちのホームベースだ。
だが今日はいつもより一人少ない。
「あれ今日寺崎居ないね」
「ああ、珍しいな」
寺崎こと寺崎一斗。入鹿や虎春と同じく、放課後の教室を主戦場としている人間の一人だ。
実は居残りのし過ぎで塾長に怒られたため、説教を受ける為にも今日はちゃんと塾に行っている。
「・・・」
「どうしたんだよ虎春。朝から元気ないけど」
ノンデリカシー人間の入鹿ですら変に思う程、今日の虎春は異様にテンションが低い。
「なんでも無いよぉ~ん」
「いや、何も無い訳がない。今日のお前おかしいよ。」
入鹿は観察眼に長けており、人間の細かな変化もすぐに見つけられる。
それを知っている虎春はもう誤魔化すことは出来ないな、と昨日起こったことを一つずつ話し始めた。
「・・・んで、この封筒があったってわけ。」
虎春の手には「当選おめでとうございます」と書かれた封筒がある。
「ふーん。で、開けてみた?中身は?」
「ああ、中にはこれが入ってて、裏にはこの住所に来いって書かれてるんだけど…」
虎春は封筒からぺらりと軽く一枚の紙を取り出す。
その紙には文字が書かれている。血の様に赤い文字で”初心者ボーナス!”と。
入鹿の反応は速かった。
「虎春!離れろ!」
「えっ?何言ってんだ入鹿。こんな紙切れ危険でも何でも無いだろ。」
虎春は、のほほんとした顔を紙でひらひらと扇いでいる。
「貸せ!」
入鹿は虎春から奪い取ろうとその紙を掴んだ。が、
〈マスターカードとの接触を確認しました〉
無慈悲にも、未だ入鹿の耳にこびり付いた様に残っている声が、この教室にも鳴り響いた。




