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Card Age  作者: Hakuren
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第十一話 いよっ。二枚目!

「さっきから変な音聞こえない?重機でコンクリート砕いてるみたいな…」


その一言で、急にその場の空気がすっと冷えた。


「「!」」


三人の中で虎春だけは反応できていた。


「入鹿!一斗!二人共伏せろ!」


【紅殻バサミ】


三人の頭上の空間を赤い大きなハサミが真っ二つに切り裂いた。

虎春の言葉が無ければ、三人ともこれでお陀仏だっただろう。


「何が起こってんだ!?お前ら何か知ってんだろ!」


一斗は二人に説明を求めた。が、


「一斗!説明は後だ。あの壁の後ろに隠れておいてくれ。」


今はプレイヤーでない一斗の安全が最優先。

さっきのゆったりとした雰囲気からうって変わって、空気がピンと弓の弦のように張り詰める。


「虎春、行くぞ。」

「もちろん」


2人の雰囲気も鋭く、そして緊張したものに変わる。


「一斗、ちょっと倒してくるから待っとけ。」

「お、おう…」


さっきは攻撃的だった一斗も二人の変わり様にひるんだのか、虎春が指したコンクリートの壁の後ろにおとなしく隠れる。

入鹿と虎春は、真横にあったビルに入っていった。


「どこに居んだ…?」


入鹿が照明の壊れた薄暗いビルの中を見回す。


「あれじゃない?」


虎春が指差す方向には入り口や崩れた壁の隙間から入ってくるわずかな光を反射している赤い物体が。


「あれっぽいな。」


その物体は光沢があり、所々にネジや機械的な関節が見える。


「一旦攻撃してみるか?」

「いや、待て」


虎春の静止と同時に、赤い物体の側面についた同じく赤い六本の足が動き出す。まるでカニのようだ。

そのカニの頭がウィーンと2つに開き、中から一人の男が出てきた。

入鹿たちは急に出てきた男に対し、警戒を完全にオンにする。


「あんた、誰?」


男は頭をポリポリと掻きながら二人を不思議そうな顔で見ている。


「あれ?生きてたんだ。殺したと思ってたんだけどな…」

「あんなぬるいハサミで死んでたまるかよ」


やはりあの大きなハサミを出したのはこの男だったらしい。

一斗を巻き込む原因になったこの男を、二人は許す気はない。


「言うねぇ。やっぱ若い子は違うなぁ」


ニヤニヤと悪意を感じさせるような笑顔を二人に向ける男。


「じゃあ遠慮なく。」


【紅殻(こうかく)バサミ】


男が手を動かしたその時。

ジャキンと赤く大きなハサミが、ジャンプした虎春としゃがんだ入鹿のちょうど真ん中の空間を切る。


「いきなりかよ…」


唐突な攻撃に動揺を隠せない入鹿。


「入鹿!あいつの手をよく見ろ!ハサミはあいつの手の動きに沿って動いてる!」

「見て反応できるのお前くらいだろ…」


動揺している入鹿と違い急に繰り出された攻撃なのにそれを一度目で理解する虎春。流石の目をしている。


「悪態をつく暇があるのかい?余裕ぶっちゃって…」


【紅殻バサミ】


容赦なく間髪入れずに攻撃する男。

二人の腹部を狙った一撃を放つ。


「あっぶね!」


とっさにもう一度伏せる入鹿と立ち高跳びの要領でジャンプして回避する虎春。


「お前これ伏せる高さでもないだろ」

「バケモノを基準にすんなよ…反応出来ねえって言ってんだろ」


こんなところでもバケモノのような身体能力を見せる虎春。

これには男も開いた口が塞がらない。


「これも避けるのか…バケモノだな…」


敵にまで言われている。


「次は俺たちのターンだ!行くぞ!」

「おう!」


【謎鉄砲】

【低温】


虎春が【謎鉄砲】の銃身を【低温】の冷気で包む。


「準備完了。入鹿!やれ!」

「了解!」


パパパァン

キン、カキキン


弾は男から大きく外れ、はるか後ろに当たって高い音を立てた。


「え?どこ撃ってんのそれ。」


ポカーンとした顔で弾の跳んでいった方向を見つめる男。


「よし…虎春!攻撃開始だ!」

「あれこれ牽制だったの?」


入鹿たちの弾の行った方向を見ていた男が、間の抜けた顔で入鹿たちに振り向く。

だが直ぐにニヤリとした嫌味っぽい笑顔に変わる。


「牽制?君たちは命を賭けて戦っている自覚が無いのかい?」

「はっ。命は奪う気も渡す気もないよ。」

「甘いねぇ。いいかい?戦いって言うのはね…」


男は手に持っていたカードの一枚を引き、二人とはぜんぜん違う方向へ手を振る。


【紅殻バサミ】


「もっと徹底的にやらないと。」

「おまえこそどこに向けてんだよ。舐めプが過ぎるんじゃねぇか?」


ニヤニヤした笑顔を崩さない男。

三秒ほどの短すぎる沈黙を先に破ったのは男の方だった。


「そういえば…」


男はビルの入口付近を向き、口角を更にニヤリと上げた。


「さっき君たちと居たあの男の子、今どうしてるんだろうね?」

「「!」」


二人は一斗がいるはずの隣のビルへ走っていく。

そしてその後ろ姿を見ていた男は、上がった口角を揉みほぐして下ろす。


「じゃあ僕は、今のうちに準備でもしときますか…」


男はそのまま、照明の消えたビルの暗闇の中に消えていった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


虎春は、急に暗闇から飛び出した時の眩しさに目が眩んでしまうが構わず一斗を探す。


「一斗!どこだ!」


出てすぐのところから周りを見回していた入鹿は、切り込みの入ったコンクリートの壁の裏にある腕に気付いた。


「あそこだ!」


二人が駆け寄った壁の裏には、腹部を切り裂かれた一斗が文字通り転がっていた。


「一斗!」


虎春は一斗を見て足を止めた。現実を受け入れることができなかった。

横たわる一斗の体に触れた入鹿は、表情を固まらせた。


「一斗…息してない…」

「…ッ!」


その時、虎春の中で何かが切れた。


「入鹿。一斗を頼んだ。」

「おまえは!?」


答えを返す虎春の顔に、いつもの余裕と楽しさは微塵もなかった。


「…あいつをぶっ殺してくる。お前らは待ってろ。」

「・・・わかった。」


入鹿はその時何も言えなかった。

虎春が走っていく背中を見ながら、入鹿は脳をフル回転させた。


「あれ?」


その時、入鹿の頭に電撃のように思いつくものがあった。


「そういえば俺一回生き返ってるな…」


読者の皆様は覚えているだろうか。実は入鹿は過去に一度生き返ったことがある。(第二話参照)

入鹿が急いでカードケースから【水操】を取り出す。


「このカードなら…もしかしたら…」


入鹿は一縷(いちる)の望みをかけて、頭に焼き付いている”あの”カードの名前を震える声で言った。


「クリエイト:【死からの逃避】」


そう言った入鹿の手元は眩しく輝き、あまりの眩しさに目をつぶった。


「ほんとに作れた…」


目を開いたときには、手の上には金属のような質感の黒いカード、【死からの逃避】があった。

入鹿はその震える手で、血まみれになった一斗の胸にカードを当てる。


「【死からの逃避】…」


そう呟く声でそう言ったその時、カードから真っ黒な光が飛び出し、またたく間に一斗の体を覆う。


〈実行の準備が完了しました〉


「頼む…治ってくれッ…」


〈EXカード「死からの逃避」を消費し、プレイヤーの身体を再生成します。〉


その声が響いて二秒もかからないうちに、一斗の体は元通りになっていた。


「一斗!」

「んだよ入鹿。ベタベタ触んな気持ち悪い。」


そこには腹部に血が大量にかかってはいるが、見たところ傷の一つも残っていない一斗がいた。


「その口の悪さ…正真正銘の一斗だ!」

「・・・お前、喧嘩売ってんのか?」


一斗が拳を固める。

起こしてすぐにキレるとは。一斗のバイタルが心配である。

だが、入鹿は直ぐにハッと気持ちを持ち直し、安心しきって緩んだ頬を真面目で精神的に張り詰めた顔に戻す。


「それどころじゃないんだ一斗。」


その急なテンションの代わり具合にギョッとしながらも、その大真面目な表情から一斗は何かまずいことが起こっていることを察知した。


「何があんのか早く説明し」


ウィン


ようやく自分の周りにある血に違和感を感じ始めた一斗の話を遮るようにガチャの画面が表示される。


「!」

「…おい入鹿。早く、説明してもらおうか。」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


一方その頃、虎春は廃ビルにするしか無い所までボロボロに壊れきったビルに駆け込んだ。


「あれ。君だけかい?もう一人はどこに行ったのかな?」


男は入鹿を探すように目の上に手を当ててキョロキョロしている。


「うるせぇ。あいつはどうでもいいだろ。」


俺はズボンのポケットからためらいなくカードを2枚取り出す。


「俺がお前を殺すんだから」


俺がその言葉を聞いて、男の口角が釣り上がる。


「いいねぇ、友情ってのは。友達をこれ以上失わないように…かな。」


男の目が過去を懐かしむような目に変わる。

過去に友達関係のことでなにかあったのだろうか。


「でも僕もやられるわけには行かないな。」


そう言って男は金色のカードを手に取り、突き出してこう大声で叫ぶ。


「こい!【重機(じゅうき)カニ】!」


男の後方六メートルほどの位置にあった金属の塊が、その六本の足を動かしながら歩いてくる。


【重機カニ】:3メートルほどのカニ型ロボ。手はどでかい土木用カッターになっている。


男はそれに乗り込み、操縦席らしいカニで言う頭部にある青い座席に座り込んだ。


「それじゃあ、行かせてもらおうか」


男がそう言い放った時、赤い機体がその大きさからは想像できないほどのスピードで動きだす。


「あっぶね」


男の【重機カニ】は俺の足元めがけて右のハサミを出す。

だが、この程度の攻撃ならば、俺ならジャンプで躱す事ができる。

俺はひらりと跳び、体制を整え、手に持っていたカードのうちの一枚を掲げて使用した。


「【乱尖風(らんせんぷう)】!」


体の周りを風が渦巻き、俺の後ろに即座に三本の空気の槍が作り出される。


「そんなもんで何するのさ。そんなちゃっちい槍みたいので僕の【重機カニ】は壊せないよ?」


あいつの【重機カニ】の装甲は金属。こんなちゃちな槍で貫けるような代物ではない事はわかっている。


「そうだな。」


俺は槍を構える。そしてその一点を狙い、とにかく集中を高めた。

緊張感で空気が氷のように重く冷たくなったように感じる。


「これだけだったらな。」


男は全く理解ができていないのか頭の上に?マークを浮かべている。


「行け!」


俺は槍たちに指令を出すように【重機カニ】に向かって手を振った。


キキン、ドスッ


その三つの音は、確かにただ弾かれただけの音ではなかった。


「何ッ!?」


急に操縦の効かなくなった【重機カニ】の腹部には、ポッカリと大きな穴が開いている。

読者の皆様には特別に解説するが、実はさっき入鹿が撃った【謎鉄砲】の弾は”濃硫酸”、”おしるこ”、”高温の鉄”の3つだった。

酸とあずきバーと鉄の弾の合体攻撃で【重機カニ】の装甲が弱り、虎春の【乱尖風】で突き破ることができたという訳だ。


「はあ、はあ…これで…あとはあいつを【高温】で…」


だがしかし、幸運の後には必ず不幸が訪れる。

俺は我が身に起こった幸運に油断しきっていた。


「うわっ!?」


注意力が散漫になった俺は、足元の瓦礫に足を取られ足をひねってしまった。

脱臼もしているかもしれない。


「ぐっ…」

「お、ラッキー。」


男は【重機カニ】を降り、胸ポケットから【紅殻バサミ】のカードを取り出す。

赤く腫れている足の激痛が俺の顔を歪まる。だが、これくらいであいつへの殺意は消えない。


「それなのに…」


こんな時に足をひねるなんて…一生の不覚だ。


「じゃあな。友達思いの少年。かっこよかったぜ。俺が嫌な気持ちになるくらいにな。」


足をやられてジャンプも走ることも、立ち上がることもできなくなっている。

こればっかりは助からない、そう死を覚悟した時だった。


「何だ!?」


目の前の男が急に狂ったように叫びだした。

男には、自分には聞こえない誰かの声が聞こえているようだ。


「いや…こいつは今殺すんだ。」


なにか物騒な話をしている。

あいつに聞こえている声の主も俺のことを殺そうとしているのだろうか。

そんな悲観的なことを考えていたその時、


「!?」


凄まじい殺気が自分の背後から発され始めた。

明らかに男のものでは無い。確かにここには俺とこいつしかいない。なのになぜ?


男の動きは止まり、ジリジリと後ずさり始める。


「・・・おいお前、何者なんだ?」


よく見ると、男の顔は大量に冷や汗をかき、真っ青になっていた。


「オース…か。わかった。こいつは殺さないようにする。」


男がそういったとき、ふっと殺気が消えた。

何があったかよくわからないが、なんとか命だけは助かったらしい。


「今のは何だったんだ…」


全くだ。俺はそう思ったが、こんなやつと同じことを考えたくないため、すぐに思考をブラウザバックした。


「まあいい。こいつを殺せないならさっきの別のガキをやれば…」


こいつ入鹿まで…!

俺が男を叫んででも止めてやろうとしたとき、


【不動(ふどう)の撃(げき)】


ヒュウ


崩れかけたビルの入口から一陣の風が吹いた。


「あがッ…」


その風が過ぎ去った頃には、男は白目をむいて倒れていた。

何が起こったかわからない。

風が吹いてきた方向へぐるんっと振り向いた。


「いよっしゃあ!」


風上からは聞き慣れた友、一斗と入鹿の声。


【不動の撃】:五秒静止することで相手を威圧する。精神的に弱っている相手なら気絶させることもできる。


「はぁ?」


俺は理解できなかったが、一斗も、入鹿も生きているとわかって心底ホッとした。

だが疲れが限界まで溜まっていたのか、俺の視界はブラックアウトした。


まあ、なにはともあれ。


Game Set!


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