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Card Age  作者: Hakuren
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十二話 お得意の曲芸

ペシッ ペシッ ペシッ


「おーい?虎春ー?」


入鹿が倒れている虎春の頬を往復ビンタする。

そしてその横では一斗が困り顔で立っていた。

戦闘に勝利したは良いが、未だ虎春は倒れたままで動かない。


「まだ起きそうにないか?まさか俺のやつが虎春にまで当たったんじゃ…」


顔が青ざめていく一斗。


「そ、そんなわけ…」


ぎくりと固まった首を入鹿はその屈強な精神力でギギギと動かし、一斗の方へ向き直る。


ハ、ハハハハ


瓦礫が散らばる廃ビルの一階には二人の乾いた笑い声が反響していた。


「ま、まあともかく虎春も生きてるわけだし、問題はこいつが誰なのか、だな。」


入鹿は現実から逃避するため、話の方向転換を図る。

一斗もコクコクと首を振り同意してくれているようだ。


「って、おい入鹿!何やってんだよ!」


男のポケットから財布を取り出していたその手を一斗は見逃さない。


「?」


入鹿の頭の上には「?」マークが浮かんでいる。


「”?”じゃねえよ。なんで他人の財布勝手に漁ってるんだよ」


ここに書く必要もないと思うが、一斗の言い分はもちろん社会的に正しい。

だが入鹿にそんな正論通用するわけもなく。


「良いじゃねえかよ。俺たちが倒したんだから、そのドロップアイテムみたいな感じで。」


これもここに書く必要もないと思うが入鹿の言い分はもちろん社会的にアウトである。


「いやおかしいだろ。流石に窃盗はダメだって。」

「財布に身分証とかもあるんだから、それで名前もわかるだろ?一石二鳥じゃねえか」

「まあ見るだけなら…」

「おお!三枚も万札が入ってる!」

「おい入鹿てめえ!」


入鹿の喜びの声と一斗の怒声は廃ビル中に響き渡り、その声は一人の体をむくりと起こさせた。


「うるさいぞお前ら…」


コンクリートの上で眠っていた虎春は痛む体のあちこちをさすりながら二人の声の大きさに苦言を呈する。


「ようやく起きたか。遅いぞ虎春。」

「それが一人で戦ってたやつにいう言葉か!?」


入鹿は虎春がどのようにして一人で戦っていたか知らないので対応が素っ気ない。

まぁ、知っていた所で対応は変わらないだろうが。


「結局最後は俺と一斗で倒したんじゃねえかよ」

「それまで俺が戦ってたおかげでお前の来る時間稼ぎになってたんだろうが!」

「まあまあ二人とも落ち着いて。」


この場で一番まともな思考回路をしていそうな一斗が間に入る。


「あれ、そういえばお前、なんで生きてるんだ?」

「それは俺にもよくわからなくてな…」


未だまともな説明を受けていない一斗の頭の上にも仕組みを理解していない虎春と同じ”?”マークが浮かぶ。


「あー、俺が生き返らせたんだよ。」

「はあ!?」


虎春の驚く声が廃ビルの中を木霊する。


「お前いつの間にそんなカード手に入れたんだよ」


その虎春の驚いた顔を渇望していたかのように、入鹿の口角がぐにゃあっと不自然なまでに曲がる。


「いや、作ったんだよ」


買ってもらったおもちゃを自慢するかのように無邪気な笑顔で入鹿はそう答えた。


「はぁ!?そんなことできるわけッ…」


虎春の言葉はそこで止まった。


まさか…


その時、虎春の思考は入鹿のそれと同調(リンク)した。


「一斗がカードを使ってたってことは、お前が生き返ったときのカードを【水操】でコピーしたってわけだな?」

「さすが虎春。理解が早くて助かるよ。」


入鹿と虎春は長年のゲーム上の付き合いによってお互いの思考をトレースすることができるようになっている。

だが、当事者のうち残り一人の一斗はそうではない。


「おいおい、お前らだけで話進めるなよ。結局、何があったんだ?」


二人の顔が同時に一斗の方へくるりと向く。


「急に敵にハサミで襲われて、お前が一回殺されたんだよ。」

「で、俺が敵に単騎で凸って、食い止めてたってこと。」

「そして最後に俺のカードでとどめを刺したのか。」


一斗の理解速度も、また常軌を逸したものである。中学生とは思えないほど落ち着き払っている。


「まーそゆこと。」

「そういや虎春、またポイント入ってたぞ」


なぜか青い画面を自分の意思で出せる様になっている入鹿が自分の画面をいじっている。


「お、何かできるようになってるんかな?」

「この下の"?"でも押せばわかるんじゃねえの」

「お前ら昨日もこんな事してたのか…」

「まーな。お、何か通知来てるぞ、虎春。」

「何だ?」


一斗の呟きも完全に無視して自分たちのことを進める二人。


「…なになに?」


一斗も考えることをあきらめ、二人に便乗し始める。


〈ポイントが一定に達しましたので、次のガチャを提示いたします。〉


「またあのガチャが引けんの!?」

「落ち着け入鹿。早くよだれ拭け。」


入鹿の血を拭いた時と同じハンカチを手渡す虎春。前の出血よりも多いよだれがそれを汚す。

本当にきたない。


「・・・何かお前らだけずりいな」


一斗の額には不服そうに三本のしわが浮かび上がっている。


「じゃあお前にはこのカードやるよ。」


入鹿の投げたカードが綺麗な曲線を描いて一斗の手の平に着地した。

「やけにあっさりくれるな。これ何のカードだ?」

「蟹原のカードだよ。あ、蟹原はコイツな」


倒れている男の顔を指さしながら入鹿はまだ財布の小さいポケットを探っている。


「【紅殻シールド】?こんなの使えんのかよ。何か灰色になってるけど。」

「前倒したやつのカードは消滅してたから、それは多分使える。角に①って書いてあるから、あと一回限定とかじゃないか。」

「他にカードはないのか?あのデカいハサミのやつとかあるだろ。」


あのカードの脅威を友の身をもって知った虎春はあのカードへの興味が大きい。


「この【紅殻バサミ】ってやつかな。②だから、少しは使えるだろうな。」


またもや綺麗な曲線を描いて虎春の手の平の上にカードが乗る。


「”五メートル範囲を三回、赤いハサミで切る”か。結構強いな。あの赤い機械のやつは?」


男の持っていた水筒の中までチェックした入鹿が不満そうな顔をして虎春の方へ向き直った。


「それはなかったよ。あれは使ってクールダウンに入ってたってことで消えたんじゃないの?」

「ok了解」


業務連絡のような速度で行われる言葉の応酬に一斗は目を丸くしっぱなし。


「お前ら慣れてるな…」


これが正常な反応なのだが、正常な反応ができない人間が過半数いるここではそれは常識とはならない。


「まあ」

「そりゃあ」


二人同時に顔を合わせる。


「「ゲームで鍛えてるからな。」」

「・・・す、凄いな。」


別にゲームで鍛えてこうなるわけは無いのだが、非ゲーマーの一斗は知る由もない。


「まあ、今回もカードゲットできたし、帰るか!」


満面の笑みで入鹿はビルの出口へ歩き始める。


「おいおい、この蟹原とかいう奴はどうすんだよ。そのままにして帰れねえだろ」


その言葉で入鹿の歩みが止まる。


「…ったく」


呆れているかのように頭をぽりぽりと掻きながら入鹿は虎春に顔を向ける。


「お前は優しすぎなんだよ。俺たちの命狙ってる奴を介抱して、その間に刺されでもしたらどうすんだよ。」

「・・・そうだな。」


三人はそのまま廃ビルから出ていった。

その中には、男のこれからを思い、心にモヤを残した者もいた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「・・・にしても、今回はさすがにヒヤヒヤしたな。」

「だなー。一斗の腹がズパッてなってた時はびびったよ。」


赤みがかった日の光に背中を照らされた三人が、いつもの帰り道を歩いている。


「…ごめんな。俺の不注意で危ない目に遭わせちゃって…」


一斗は表情が暗い。あの時のことを思い出して責任を感じているのだろう。


「いいっていいって。今回はカードもゲットできたし。」

「そうだぞ一斗。良いことがあったんだから、それで結果オーライじゃねえか」


いつも通りのポジティブ精神の二人。


「・・・ありがとな。」


三人の影が、暗くなりゆく夕闇の中へと溶けていく。

まるで彼らのこれからの人生を暗示するかのように・・・


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