第十話「内緒の相談」3
第十話「内緒の相談」は5分割で更新していきます。これは3つ目です。
仁澄はコホン、とわざとらしく咳払いした。
さっきまでの衝撃をなんとか胸の奥に押し込み、話題を切り替える。
「まあ、なんだ。その期限までにさ――凌偉様のこと、
もっと知って考えてみたらいいんじゃないか?」
「凌偉様の事を…?」
春燕はつぶやき、ふと最近のやり取りを思い返した。
ここ最近、話しかけてくるのはいつも凌偉の方。
質問されるのも、春燕の体調や仕事、好きな物
――春燕のことばかりだった。
自分から凌偉に話しかけたり、凌偉自身のことを聞いてみたりは……
“身分不相応”な気がして、気後れしていたせいで、考えもしなかった。
「確かに…そうですね」
春燕はゆっくり頷く。
「言われてみれば、私…凌偉様のこと全然知りません」
机の上には、配合し終えたばかりの薬剤の包みがいくつも並んでいる。
その淡い薬草の匂いを吸い込みながら、春燕は視線を落とす。
――凌偉様が好きなもの。
――嫌いなもの。
――好きなこと、嫌いなこと。
何も知らない。
「今度、ゆっくり聞いてみたらどうだ? 春燕様から誘ってみたら?」
仁澄がさりげなく言う。
「私から!? でも…! 話を聞きたいだけで誘うなんて……。
凌偉様もお忙しい方ですし。ご迷惑では…」
春燕は反射的に遠慮しかけて――その直後、
背後から静かな声が割り込んだ。
「春燕様。期限が決まっているのでしたら、遠慮してはいけませんよ」
令菘が、真剣な表情で言った。
続いて志晃までが、勢いよくうなずく。
「そうですよ! 春燕様から誘ってくれるなんて! 凌偉様も喜ばれます!」
三人が声を揃えて前のめりになる。
「「「誘いましょう!」」」
「は…はい」
三人からの圧に押され、春燕はつい返事をしてしまった。
仁澄にとって凌偉は、薬局の出資者であり雇い主の一族の当主。
令菘と志晃にとっては直接の雇い主。
全員が凌偉に恩義があり、好意も尊敬もある。
そして――
なんとか春燕に、凌偉を“選んで”ほしいと、心から願っていた。
※作者より
「水月鏡花」の更新は【週3日/月・水・金 21時頃】です。
春燕と凌偉、それぞれの心の距離が、
少しずつ近づいていく時間を、
見守っていただけたら嬉しいです。
続きが気になりましたら、
ブックマークで見守っていただけますと励みになります。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。




