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水月鏡花 ―冷たい当主と、静かに灯る恋とほどけていく心―  作者: 麻倉ロゼ
第二章「花心、光にほどく」

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第十話「内緒の相談」1

第十話「内緒の相談」は5分割で更新していきます。これは1つ目です。

 薬房の奥。窓から差し込む昼下がりの光が、机に並ぶ

生薬の影を静かに揺らしていた。


春燕しゅんえん様!」

「はっ……!」

 突然、仁澄じんちょうの声が響き、春燕はまばたきをして我に返った。


薬剤の配合の途中。

手には匙を持ったまま、ぼうっとしてしまっていたらしい。


「……すみません」

慌てて手元に視線を戻し、残りの生薬を丁寧に混ぜ合わせる。


紙包に包み終えてようやく気づく。

――幸い、分量は合っていた。

もし間違えていたら、一から作り直しだった。


(ちゃんとしなきゃ……)


胸に落ちた小さな影を振り払うように、春燕は息を整えた。


「仕事中に何、他ごと考えてるんだ?」

仁澄は特に怒った様子ではなく、むしろ珍しいものを見たように首を傾げる。


普段ならどれだけ忙しくても集中を切らさない春燕が、

今日はどこかおかしい。


「悩みでもあるのか? 話せれる内容なら、オレでよければ聞くぞ?」


ちょうど仕事もひと段落していた。

仁澄は春燕の正面に座り、腕を組んで待つ。


「えっと……その……」

包んだ薬包を整えながら、春燕はしばらく言いづらそうに唇を噛んだ。


そして、意を決したように口を開いた。


「仮の婚約者の方に……正式に婚約するか、しないか……。

期限がきたら、自分で決めて欲しいと言われたら……仁澄はどうしますか?」


「……は?」

予想の斜め上すぎて、仁澄は目を丸くした。


(よりによって、琳家の今後に直結する話!?)


じわりと背中に冷や汗がにじむ。


「え、えーと……それは……相手じゃなくて、自分に決定権があるってことか?」

つまり、春燕様本人に。


春燕はコクン、と小さく頷く。


「え? それって悩む必要あるのか? 相手はあの凌偉様だろ?」


「……はい」


「家同士で決まってて、迎え入れられた先でも大切にされてて……なにか不満でもあるのか?」


「不満なんて! ありません。ただ……」


春燕は視線を落とした。


「どうすればいいのか……わからないんです」


机の上の薬杯にそっと手を伸ばす。

冷たい縁を両手で包みながら、小さく続けた。


「そもそも選ぶ資格なんて……私にはないはずなのに。

なぜそんな事言われたのか……。

あんな立派な方……私の立場からすれば、断るなんて、

できるはずありません」


呟く声は震えていたが、真剣だった。


「でも……そんな理由では選んではいけない気がして」


薬杯を見つめる横顔は、胸が締め付けられるほど切実だった。

仁澄はそこで、ふと思いつく。


「そもそも、なんだけど」


「?」


「春燕様は、凌偉様のこと……どう思ってるんだ?」


その問いが落ちた瞬間、薬房の空気が静かに揺れた。

※作者より

「水月鏡花」の更新は【週3日/月・水・金 21時頃】です。


春燕と凌偉、それぞれの心の距離が、

少しずつ近づいていく時間を、

見守っていただけたら嬉しいです。


続きが気になりましたら、

ブックマークで見守っていただけますと励みになります。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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