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水月鏡花 ―冷たい当主と、静かに灯る恋とほどけていく心―  作者: 麻倉ロゼ
第二章「花心、光にほどく」

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第九話「祭りの夜」4

第九話「祭りの夜」は4分割で更新していきます。これは4つ目です。

 人気の少ない川沿いの道を、二人はゆっくり歩いた。

夜風が心地よく吹き抜け、春燕しゅんえんの髪をふわりと揺らしていく。

静かな水音を聞きながら橋の上を渡っていたときだった。


「春燕」

急に名前を呼ばれ、春燕は驚いて瞬きをする。


「はい」


凌偉りょういは立ち止まり、橋の欄干越しに流れを見下ろしたあと、

春燕の方へ向き直った。


「今後の事を話したい」


「……!」

春燕は思わず息をのんで、姿勢を正す。


「春燕が琳家に来た日。半年過ごして決める、そう言ったな」

凌偉の視線は真っ直ぐで、揺れがなかった。


「はい」

胸がトクンと跳ねる。


「オレは、どうするかを、春燕に決めてほしいと思っている」


「え…?」

春燕は思わず目を見開いた。

婚約も婚姻も家同士が決めるもの——

自分に選ぶ権利なんて、ないはずだ。


「家のためでも、家族のためでもなく…

 春燕自身の気持ちで決めて欲しい」


凌偉の言葉が続く。


「春燕に、オレを選んで欲しい」


春燕は固まった。

何を言われているのか理解が追いつかず、ただ何度も

瞬きをするばかり。


私が……?

私の気持ちで、選ぶ…?

凌偉様を……?


「まだ時間はある。ゆっくり考えてほしい」

柔らかい声の中に、揺るぎない決意が混じっている。


そして——


「オレは…必ず、春燕にオレを選ばせてみせる」


射抜くような強い眼差しに、春燕は吸い込まれるように見返してしまう。

視線をそらせない。息まで止まりそうだった。


「……わかりました」

かろうじて、それだけ小さく囁いた。



少し離れた場所から見守っていた愁飛しゅうひは、満面の笑みで手を叩いた。


「いい感じじゃないか! もうちょっとなんだけどな〜!」


「何がもうちょっとなんですか?」

隣の雪麗せつれいが首を傾げる。


「ほんの少しだけ凌偉を受け入れようとしてる。

春燕は時間がかかりそうだ」

愁飛は楽しそうに言いながら、二人を眺め続けた。


愁飛には人にはない“不思議な力”がある。

彼が言うことは大抵当たる——雪麗もそれをよく知っていた。


雪麗は視線を春燕へ向ける。

月明かりの下で揺れる薄桃色の衣、うつむき加減の横顔。

その姿は綺麗で、どこか切ない。


「…お嬢様が凌偉様を受け入れられたら…お嬢様は

幸せになれるのでしょうか」

雪麗がぽつりと呟く。


「それは凌偉次第かなー! なんたって春燕が相手だから」

愁飛はひょうひょうと言いながら笑う。


「まだ時間はある。しばらくは様子見だな」


そして、雪麗に目を向けてにっこり。


「雪麗、似合ってるね」


今日の雪麗も、嬌によって無理やり着替えさせられた祭りの衣装を着ていた。

淡い藤色の薄紗に、霧のような文様がふわりと浮かび、

夜灯りに照らされて優しく揺れている。


「今日は帰したくないな」

愁飛が芝居がかったように微笑む。

それが冗談なのか本気なのか、いつも通り読めない。


けれど雪麗は、迷うことなく淡々と答えた。


「帰ります」

スン…と表情一つ変えず、春燕たちの方へ歩き出す。


「えー! 雪麗〜!!」

愁飛は慌ててその後を追っていった。

※作者より

「水月鏡花」の更新は【週2日/月・金 21時頃】です。


春燕と凌偉、それぞれの心の距離が、

少しずつ近づいていく時間を、

見守っていただけたら嬉しいです。


続きが気になりましたら、

ブックマークで見守っていただけますと励みになります。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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