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水月鏡花 ―冷たい当主と、静かに灯る恋とほどけていく心―  作者: 麻倉ロゼ
第二章「花心、光にほどく」

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間の話6「春燕の武道稽古」

 よう家の道場には、威勢のいい掛け声が響き渡っていた。

整然と並んだ門下生たちが、組み手や型の稽古に励み、技を磨いている。


その光景を、春燕しゅんえんは目をキラキラと輝かせながら見つめていた。


「わあっ!すごい!」


雪麗せつれいが楊家の門下生となって、早一週間。

春燕はずっと稽古の様子が気になって、落ち着かない日々を過ごしていた。


今日は帳場の仕事が早く終わり、凌偉りょういとともに道場へ見学に来ている。


「凌偉様も門下生なんですよね?」


「そうだ。稽古には5歳から参加している」


「5歳から!」

どうりで体術に優れているわけだわ……。

以前、琳家の倉庫で起きた乱闘を思い出し、春燕はそっと納得する。


そのとき――


「お嬢様!」

雪麗が気づいて、駆け寄ってきた。

稽古着に身を包んだ姿は、いつも以上に凛々しく見える。


「いらっしゃい。春燕」

愁飛しゅうひも軽やかに声をかけた。


「愁飛様!今はどんな稽古を?」


「今日は弓の練習だよ」


愁飛が指差す先には、的がいくつも並べられている。

山間の街で育った春燕は狩りを見たことはあるが、

弓矢に触れるのは初めてだった。


愁飛の手にある弓に、思わず視線が吸い寄せられる。


「春燕もやってみる?」


「いいんですか!?やってみたいです!」


「まずはお手本。……こうやって」


愁飛は弓を構え、矢をつがえた。

無駄のない動きで放たれた矢は、まっすぐに飛び――

的の真ん中を、正確に射抜いた。


「わあっ!!すごい!!」


あまりに鮮やかな一瞬に、春燕は思わず声を上げる。

その様子を、凌偉と雪麗は穏やかに見つめていた。


「じゃあやってみようか。こう構えて」


愁飛はそう言うと、春燕の背後へ回る。


後ろから身体に手を添え、姿勢を支え――


「おい」

「あの」

凌偉と雪麗が、同時に声を上げた。


「近くないか?」

「近くないですか?」


「君たち」

愁飛は呆れたように振り返る。


「指導だから」

そう言って、そのまま春燕の腕と身体に手を添え直す。


「触りすぎだ」

「触りすぎです」

背後からの視線の圧が、明らかに強い。


「やれやれ。これだから拗らせ組は…」

愁飛は小さく呟いた。


しかし、当の春燕は完全に集中していて、

三人のやり取りは耳に入っていない。


弓を引き、狙いを定める。


呼吸を整え――


矢を放つ。

ゆるやかな弧を描いて飛んだ矢は――

的の、ちょうど真ん中を射抜いた。


一瞬、道場の空気が静まる。

そして――

小さなどよめきが、遅れて広がった。

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