間の話6「春燕の武道稽古」
楊家の道場には、威勢のいい掛け声が響き渡っていた。
整然と並んだ門下生たちが、組み手や型の稽古に励み、技を磨いている。
その光景を、春燕は目をキラキラと輝かせながら見つめていた。
「わあっ!すごい!」
雪麗が楊家の門下生となって、早一週間。
春燕はずっと稽古の様子が気になって、落ち着かない日々を過ごしていた。
今日は帳場の仕事が早く終わり、凌偉とともに道場へ見学に来ている。
「凌偉様も門下生なんですよね?」
「そうだ。稽古には5歳から参加している」
「5歳から!」
どうりで体術に優れているわけだわ……。
以前、琳家の倉庫で起きた乱闘を思い出し、春燕はそっと納得する。
そのとき――
「お嬢様!」
雪麗が気づいて、駆け寄ってきた。
稽古着に身を包んだ姿は、いつも以上に凛々しく見える。
「いらっしゃい。春燕」
愁飛も軽やかに声をかけた。
「愁飛様!今はどんな稽古を?」
「今日は弓の練習だよ」
愁飛が指差す先には、的がいくつも並べられている。
山間の街で育った春燕は狩りを見たことはあるが、
弓矢に触れるのは初めてだった。
愁飛の手にある弓に、思わず視線が吸い寄せられる。
「春燕もやってみる?」
「いいんですか!?やってみたいです!」
「まずはお手本。……こうやって」
愁飛は弓を構え、矢をつがえた。
無駄のない動きで放たれた矢は、まっすぐに飛び――
的の真ん中を、正確に射抜いた。
「わあっ!!すごい!!」
あまりに鮮やかな一瞬に、春燕は思わず声を上げる。
その様子を、凌偉と雪麗は穏やかに見つめていた。
「じゃあやってみようか。こう構えて」
愁飛はそう言うと、春燕の背後へ回る。
後ろから身体に手を添え、姿勢を支え――
「おい」
「あの」
凌偉と雪麗が、同時に声を上げた。
「近くないか?」
「近くないですか?」
「君たち」
愁飛は呆れたように振り返る。
「指導だから」
そう言って、そのまま春燕の腕と身体に手を添え直す。
「触りすぎだ」
「触りすぎです」
背後からの視線の圧が、明らかに強い。
「やれやれ。これだから拗らせ組は…」
愁飛は小さく呟いた。
しかし、当の春燕は完全に集中していて、
三人のやり取りは耳に入っていない。
弓を引き、狙いを定める。
呼吸を整え――
矢を放つ。
ゆるやかな弧を描いて飛んだ矢は――
的の、ちょうど真ん中を射抜いた。
一瞬、道場の空気が静まる。
そして――
小さなどよめきが、遅れて広がった。




