第八話「門下生」3
第八話「門下生」は3分割で更新していきます。これはつ目です。
愁飛は少しだけ雪麗の方へ身体を寄せると、
無言で両手を差し出した。
以前にも行った、気を整える仕草だった。
「……今は、頭痛はしていませんが?」
「グラグラしてる。触れなくていい。手はかざすだけでいいから」
穏やかな声に導かれるように、雪麗の身体が自然と動く。
向かい合い、差し出された手へ、そっと自分の手をかざした。
掌の間に、ふわりと温もりが生まれる。
その温かさはゆっくりと身体の奥へ広がり、疲れた身体を
静かに包み込んでいった。
「(暖かい……)」
淡い光が、雪麗をやさしく満たしていく。
しばらくして、愁飛がぽつりと言った。
「雪麗を見てると……いいなぁって思うんだよね」
「……どういう事ですか?」
「普段は静かだけど、本当は感情が豊かで……。
自分の弱い所を必死に隠して、強くあろうとしてて……。
常に不安定で、グラグラしている。こんなにも人間らしい子……」
少し間を置いて、
「少し羨ましい」
そう囁いた。
「え?」
「オレは人間らしいところ、あまりないから」
愁飛は小さく呟いた。
「それは――」
「はい。おしまい」
雪麗の言葉を遮るように、愁飛は軽く言った。
「前にも言ったけど、ゆっくり慣れていけばいいんじゃないかな」
「何に……ですか?」
「春燕以外の人から、優しくされる事に」
不意の言葉が、雪麗の胸を揺らす。
「ここで、春燕以外の大切なものを、増やしていけばいいんだよ」
穏やかだが、確かな声だった。
「その中に、愁飛お兄さんも入れてくれると嬉しいんだけどなぁ〜!」
わざとらしく大袈裟に、愁飛は言った。
相変わらず掴みどころがなく、何を考えているのかわからない人だ。
「……考えておきます」
雪麗はすっといつもの表情に戻り、淡々と答えた。
「真面目だなぁ」
愁飛は微笑むと、そのまま地面に寝転んだ。
雪麗も同じように横になる。
風が吹き、雪麗の髪をそっと揺らす。
耳に響く門下生たちの掛け声。
遠くから聞こえる、琳家へ物資を運ぶ馬車の蹄の音。
商人たちの賑やかな声。
そのすべてが、雪麗に今いる場所を静かに教えてくれる。
「緩〜くやればいいんだって」
愁飛は満足そうに微笑むと、顔を逸らして空を見上げた。
この人は――
きっと、人とは違う感覚の中で生きているのだろう。
ふと、雪麗はそう思った。
隣で寝転ぶ愁飛を、そっと横目で見る。
愁飛は流れる雲をゆったり眺めているようで、
何も見ていないような目をしていた。
この人の目には、どう見えているのだろう。
景色や
人や
――私は。
自分でも、どうしてそんなことを思ったのか分からない。
答えを見つけられないまま、雪麗は小さく息を吐いた。
※作者より
「水月鏡花」の更新は【週3日/月・水・金 21時頃】です。
春燕と凌偉、それぞれの心の距離が、
少しずつ近づいていく時間を、
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