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水月鏡花 ―冷たい当主と、静かに灯る恋とほどけていく心―  作者: 麻倉ロゼ
第二章「花心、光にほどく」

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間の話5「春燕の仕事着」

 春燕しゅんえんが薬局で働き始めて四日ほど経った頃。

本邸では少し遅い昼餉ひるげの時間を迎えていた。


薬局での出来事を、春燕は楽しそうに次々と話す。

対面に座る凌偉は、そんな彼女を穏やかに見つめながら、

時折そうか、と相槌を返していた。


「今日から仕事着まで用意していただいていて!嬉しかったです!」


「……仕事着?」


その瞬間、凌偉の表情がふ、と曇った。


(え……? わ、私…何か失礼なことを…?

やっぱり、外で働くのは良く思われていないのかしら……)


春燕の声が不安で弱まる。


「今、持っているのか?」


「は、はいっ! 持ち帰ってきています!」


「着ている姿が見たい。着てみてくれ」


「えっ?」


凌偉は淡々と、しかしどこか強く言葉を重ねる。


「琳家当主たる者、屋敷の人間のことは把握しておく必要がある。

外で働く者がどこで働き、どんな仕事をし、

どんな服装をしているのか──それも重要だ」


真面目な口調に、春燕は思わず納得し、目を輝かせた。


「さすがは琳家当主様……」


尊敬の眼差しを向けられ、凌偉はわずかに視線をそらす。


春燕は慌てて席を立ち、自室へ向かった。

そして薬局から支給された仕事着に着替え、再び食卓へ戻る。


「お待たせしました」


麻布で仕立てられた、風通しのいい清潔感ある仕事着。

白地に、襟と袖口だけ深い緑。

腰はよもぎ色の紐で緩やかに締められ、肩には

「琳安」の刺繍が美しく施されている。


薬家らしい、爽やかな装いだった。


「……くるっと回ってくれ」


「は、はいっ!」


春燕は少し照れながら一回転する。

ふわりと揺れる髪と袖に、凌偉は思わず息を飲んだ。


「……いい。似合っている。薬局でしか見れないなんて……」

凌偉は、あからさまに落ち込んでいた。


仁澄じんちょうも似合ってると言ってくれました」


「……仁澄?」


その名を出した瞬間、凌偉の瞳が鋭く揺れた。


「はい。兄弟子の方です。つきっきりで教えてくださって。

説明もとてもわかりやすくて──」


「ほう……つきっきりでて……。兄弟子、仁澄。……仁澄か」


凌偉は柔らかく笑っている。

しかし、目だけがまったく笑っていない。


「今度、直接挨拶に行かないとな」


春燕はその気配にまったく気づかないまま、嬉しそうに頷いた。


――その頃、薬局では。


「……!? な、なんだ……急に悪寒が……!」


作業中の仁澄が、理由のわからない震えに肩をすくめていた。

 

※作者より

「水月鏡花」の更新は【週3日/月・水・金 21時頃】です。


春燕と凌偉、それぞれの心の距離が、

少しずつ近づいていく時間を、

見守っていただけたら嬉しいです。


続きが気になりましたら、

ブックマークで見守っていただけますと励みになります。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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