表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水月鏡花 ―冷たい当主と、静かに灯る恋とほどけていく心―  作者: 麻倉ロゼ
第二章「花心、光にほどく」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

122/140

第七話「香る薬舗、はじめの出会い」4

第七話「香る薬舗、はじめの出会い」は4分割で更新していきます。これは4つ目です。

 今日は初日ということで、基本的な薬の調合から始まった。

仁澄じんちょうが作る薬の種類を指示し、生薬を準備していく。

春燕しゅんえんは分量を計算し、粉薬を一包ずつ、

驚くほど手際よく包んでいった。


途中、令菘れいすう志晃しこうも様子を見に戻ってきたが、

二人の働きぶりを見た瞬間、こっそりと息をのむ。


(すごい…)


春燕の表情は真剣そのもの。教えられたことは一つも逃すまいと、

板の上に紙を広げて細かく書き留めていく。

その熱意に、令菘れいすう志晃しこうは顔を見合わせた。


(……この方、本気で学びに来られたのだ)


そう確信せざるを得なかった。


気づけば、あっという間に昼の刻になっていた。


景修けいしゅうが湯気の立つ茶を盆にのせて現れ、みんなで卓を囲む。

緊張していた春燕も、湯呑みに触れた瞬間ふっと肩の力が抜けていった。


「春燕様、いかがでしたか?」

景修けいしゅうが穏やかに尋ねる。


「大変勉強になりました。この薬局で働けて、本当に嬉しいです」


仁澄じんちょうはどうだった?」


景修が向けた問いに、仁澄は隠す必要もないとばかりに即答した。


「毎日来ていただきたいぐらいです。他の薬局には絶対取られたくありません」


「え…」

春燕が思わず目を瞬く。


「ほっほっほ。結構、結構」

景修は満足げにうなずいた。


「春燕様。お疲れ様でした。今日は早めに終わりましょう。

凌偉坊ちゃんに怒られてしまいますからな」


「春燕様!次は明後日だな。待ってるぞ」

仁澄のその言葉に、春燕の胸は期待でふわりと高鳴った。



 薬局から戻り、琳家の大門をくぐった瞬間、

使用人たちが次々に声をかけてくる。

まるで皆が帰りを待っていてくれたようだった。


「お帰りなさいませ、春燕様!」


「お疲れ様でした!」


「ただいま」

春燕は胸の奥がくすぐったく、自然と笑みがこぼれた。


「お嬢様!」

雪麗が駆け寄ってくる。


「ただいま、雪麗。雪麗は楊家の道場に?」


「はい。私も初日でした」

顔を見合わせると、二人は同時に「お疲れ様」と笑い合った。



帳場を覗くと、凌偉りょういが帳簿を整理していた。


「凌偉様!」


「帰ったか。どうだった?」

そう聞かれた瞬間、春燕はもう抑えられなかった。


「あっあの!今日は二階で調合の手伝いをしました!見た事もない生薬にも触れて!」


嬉しさが溢れすぎて、言葉が早口になる。

凌偉も思わず目を丸くした。


「凌偉様…本当にありがとうございます!」


「まだ初日だ。これからまだ働くんだぞ?」


「はっ、はい!そうです…!」

(また働きに行ける…! 信じられない!)


「昼は?食べたのか?」


「まっ…まだです」

自分でも忘れていたのか、春燕は慌てて答えた。


凌偉は静かに微笑むと、春燕の手を取った。


「それなら本邸で食事にしよう」


「はい!」


二人で庭園を歩きながら、本邸へ向かう。

春燕は薬局での出来事を次々と話していく。

その声は弾み、目はきらきらと輝いていた。


(楽しそうで良かった…)

凌偉はそっと横顔を見つめる。


薬局にもっと通いたいと思っているのだろうか。

屋敷の仕事を減らしてほしい――そう春燕に言われたら……。

一緒に過ごす時間が少なくなるかもしれない。


でも、春燕の望みなら叶えたい。

そんな思いが胸の奥でぐるぐると渦を巻いていた。


「凌偉様」


「なんだ?」


「明日は帳場で、ご一緒できますね」


春燕はふわりと微笑んだ。


「私……薬局で働くのも、帳場で凌偉様と一緒に働くのも……同じぐらい楽しいです」


その言葉に、凌偉は心の中でそっと安堵した。

――薬局を週三日にして、本当に良かった。

そう、こっそりと思ったのだった。

※作者より

「水月鏡花」の更新は【週3日/月・水・金 21時頃】です。


春燕と凌偉、それぞれの心の距離が、

少しずつ近づいていく時間を、

見守っていただけたら嬉しいです。


続きが気になりましたら、

ブックマークで見守っていただけますと励みになります。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ